本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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感謝祭

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 その翌日から、私はヒラヒラする服で出勤した。
私の服はヒラヒラしているだけでなく、ピンクとか赤とか、白とか、かなり色とりどり。
けれど魔塔で働いている人たちは、皆、地味な服装ばかりで、私ばかり悪目立ちしている。
きっと、ピンクの髪色のせいもあるけど、出塔する度に皆から冷ややかな視線を感じる。
例にもれず、テオバルト様も、私の服装を、毎日、毎日、下から上までチェックし、その度に顔をしかめ、ため息か舌打ちをする。
朝からそんな感じなので、さすがの私も愛想笑いが引きつるほどだ。
けれど、もう働きはじめて二か月。
さすがにテオバルト様と仲良く……、というか信頼を深めたいというか、職場環境をなんとか改善したい。
私が淹れた紅茶も、相変わらず飲み干してくれないし。
何か、いい方法がないだろうか……。
今現在唯一頼れるレーナお姉様の帰宅を待って、私はそのことを相談することにした。

「ねえねえ、レーナお姉様。相談があるんだけど」

「相談? 報告じゃなくて? まだイザベラの情報について何も掴めてないのかしら」

「うん、それはまだ時間がかかりそう」

 今は、調べる余裕もないし、テオバルト様と気楽に無駄話できる関係性も構築できていない。
それなのに妹さんの話を聞くなんて無謀すぎる。

「そう。それで相談って何かしら?」

「なんというか、テオバルト様ともう少し仲良くなって職場環境を良くしたいんだけど、いい方法が見つからなくて。テオバルト様と仲良くなれば情報も引き出しやすいと思うしさ。何かいい方法ないかな?」

「あら、それなら来週、感謝祭があるじゃない。その感謝祭の時に、テオバルトにお菓子をプレゼントするのはどうかしら」

 感謝祭とは、そもそもは女神アルテ様に感謝する日だったのだが、今は上司、親兄弟や、友人に感謝の贈り物をする日になっている。
また、女神アルテ様は愛の女神でもあるので、愛の告白や、プロポーズをする日としても慣例化している。

「そっか! 日頃の感謝を込めてテオバルト様にプレゼントするのはいいね。おすすめなお店あるかな?」

「手作りしてみれば?」

「ええーー。無理。テオバルト様、私が淹れた紅茶もまだ飲み干してくれたことないんだから。私が作ったお菓子なんて、絶対に食べてくれないよ」

「あらまぁ。それだったら、今都で一番有名な青い屋根のレストラン”シャンテーネ”が、感謝祭の日だけに特別に売りに出しているお菓子はどうかしら?」

「それはいいね。でも高いのかな」

「普通のお菓子よりは値段が高いでしょうけど、お菓子ですもの。そこまで大金ではないはずよ」

「それもそっか。給料も少しでたし買いに行ってみる」

 感謝祭当日、私は朝早く起きて都で一番人気のレストラン”シャンテーネ”に行った。
開店の一時間以上前に到着し、一番先頭を陣取ることができた。
開店時間になり店に入ると、そこら中に砂糖で作られた小人やお花、チョコレートで作られたお城、クッキーで作られた可愛らしい家などが、飾られていた。
甘い匂いも充満していて、心も体もとろけそうな感覚になる。
さすが都、田舎には、こんなお洒落なお店一つもなかった。
さてと、テオバルト様にあげるお菓子、どれにしようかな~。
赤やピンク色のチョコレートをコーティングしたハート型のクッキーの詰め合わせが、とってもかわいいけど、これはきっと愛を告白するためのお菓子だろな~。
うーーん、なんとなく魔導師ぽい星形のクッキーにしようかな。
沢山の星形のクッキーの中に、一つだけハート型のクッキーが混じっている詰め合わせのが量的にも、価格的にも丁度良さそう。
うん、これにしよう、決定。

私は購入後、そのまま魔塔へ赴いた。
そして、テオバルト様がいつものように魔法の転移で現れるのを、今か、今かと待ち構えた。

「あっ、テオバルト様。おはようございます。今日もいい天気ですね」

 意気込んで待っていたせいか、私は、またもや大声で明るく元気よく挨拶してしまった。
そんな私に対して、テオバルト様はいつものように、怪訝な表情をし、無言で私の服装のチェックをし、舌打ちし、椅子に腰かけた。

「テオバルト様、実は今日、お渡ししたい物があります」

「辞職願か?」

「ちっ、違いますよ。プレゼントです。日頃の感謝を込めてプレゼントです。はい、どうぞ」

「俺に……、なのか……。そうか今日は感謝祭だったな」

「はい。これを買うために、ものすごく早起きしたんですよ。お店に一番乗りしちゃいました」

「そうか。それはどうも」

 プレゼントを受け取った瞬間、テオバルト様の表情がほころんだように見えたが、椅子をくるりと回転し、後ろを向いてしまったためちゃんと確認することができなかった。

「あ、紅茶淹れますね」

 いつものように紅茶を淹れようと台所に行こうとしたら、テオバルト様に呼び止められた。

「おいっ」

「はい?」

「朝一で紅茶は淹れなくていい。淹れるならせめて、10時くらいにしろ」

「はい、わかりました」

「それと、お前が淹れる紅茶は、いつも茶葉の量が多すぎて苦みがある。今回は少し少な目にしろ」

 やはりプレゼント効果だろうか、テオバルト様が紅茶の淹れ方を教えてくれた。
これは、いい兆候かもしれない。
私は10時丁度に台所に行き、テオバルト様の指示通り、茶葉少な目で紅茶をいつもより丁寧に淹れた。

「テオバルト様、紅茶を淹れました。どうぞ」

 テオバルト様は、いつものように一口紅茶を飲む。
今まで通りだと無表情ですぐにカップを置き、それ以降一切口を付けない。
けれど、今回は違う。
テオバルト様の口角が微かに上がり、目を細め、二口目を飲んだ。
どうやら、満足いただける美味しさのよう。
なんだがテオバルト様に、少しだけ認めて貰えてもらったようで、とっても嬉しい。

 それから私は、紅茶を淹れた後も、本の整理をした。
もう本の整理を二か月以上しているのに、未だにその作業を終えることができていない。
なぜなら、いくら本棚に本を入れてもテオバルト様がまた本棚から本を出し、読んだら、その辺にポイッと放置してしまうのだ。
恐らく、テオバルト様の助手がすぐに辞めてしまう理由は、この無限ループさせられる本の整理にあると思う。
私だって、最初のころはムカついたけど、よくよく考えてみたら、こんな楽な仕事でお金が貰えるなんてラッキーだ。
ただ、その無限ループの作業をこなしていたら、テオバルト様が良く手に取る本を、だいぶ把握できるようになった。
だからその本を一か所にまとめつつ、他の本を整理し始めたら、だいぶ片付いてきた。
意外にも明日には、本の整理整頓が終わりそう。

 定時になり、私は居候しているレーナお姉様の部屋へと戻った。
今日は感謝祭なので、賑わっている都を仕事帰りにブラブラ見て回りたかったけど、なぜか、テオバルト様に大反対されてしまった。
貴族の令嬢が一人で、それも夜に出掛けるなんてありえないって言われてしまった。
ならばテオバルト様も一緒に行きましょうよと、誘ってみたが当然の如く玉砕。
だから一人寂しく夕食を食べ、今はレーナお姉様の帰りを待っている。
当然だが、感謝祭の日は、聖女であるレーナお姉様は忙しく、帰って来たのは深夜だった。

「レーナお姉様、お疲れ様―」

「ええ、今日はさすがに疲れたわ」

「それでね、プレゼント作戦、うまくいったよ。ありがとうね」

「それは良かったわ。それで、もちろん私の分も買ってきてくれたわよね」

「ええっ、あ、ごめん。買ってないや。意外に高くて……」

「気がきかないわね」

「ごめん。でも聖女様なんだから、欲しいって言えば誰かしら買ってきてくれそうなのに。プレゼント貰った中に、一つくらいシャンテーネのお菓子あったんじゃないの」

「残念ながら貰ったプレゼントは基本、教会の物よ。お菓子とかの食べ物ならば、孤児院にそのまま寄付されるわ」

「あらま。それは残念」

「それに聖女様だからこそ、自分の欲望を出すわけにはいかないのよ。特に高級な物をねだるのはご法度よ。聖女様は質素でなければならないの」

「高級品が大好きなレーナお姉様にとっては辛いね」

「ええ、本当にそう」

「そうそう、紅茶淹れようか? 今日初めてテオバルト様が私の淹れた紅茶を全部飲んでくれたの」

「まぁ。それは凄いわね。じゃあ淹れて貰おうかしら。ところでアメリア、テオバルトのことどう思っているの?」

「うん? テオバルト様? かっこいいよね」

「そうじゃなくて、好きか嫌いかってことよ」

「テオバルト様のこと? 嫌いじゃないよ。好きでもないけど」

「ふーん。何とも思ってないってことなのね」

「レーナお姉様こそ、テオバルト様のこと呼び捨てだよね。仲いいんじゃないの?」

「私とテオバルトが? 仲は良くないわね……」

 お互い疲れているにも関わらず、私とレーナお姉様は、くだらないおしゃべりを寝付くまで興じた。
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