本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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食堂

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どれくらい寝ていたかわからないけど、突然身体をユサユサと揺らされ、目が覚めた。

「うっ、うーーん」

「目的地に着いたよ。起きた方がいい」

 私は、寝惚け眼で辺りを見渡すと、グアン様が間近にいて、私の肩に手を置いている。

「ふわぁ~ぁ。もくてきち?」

 私は大あくびして、大きく伸びをする。
その時、荷馬車の外からテオバルト様の声がした。

「そうだ、アメリア。目的地のベレヌだ」

目をゴシゴシと擦り、声がする方を見ると、テオバルト様が腕を組み、私を見ている。
一見、すましていて怒っていないように見えるテオバルト様だが、私にはわかる、テオバルト様がめちゃくちゃ怒っていることに。

「テっ、テオバルト様。ええっと、あの、その」
 
「アメリア、早く来い」

「あっ。はい。すぐ行きます」

 私は少しテンパりながら荷馬車を降り、テオバルト様の近くに行った。
グアン様も私に続いて降りようとした時、テオバルト様はグアン様に声を掛けた。

「グアン、アメリアが面倒掛けたな。だが、これからはもう構わなくていい」

「承知しました」

 グアン様はニコリと軽く笑い、すぐにその場を立ち去った。
私はテオバルト様の行く方向に黙って付いていく。
ベレヌという町は、何度か、魔物に襲われたらしく、廃れていて、重く暗い雰囲気が漂っている。
私達が宿泊できるような建物もほぼなく、殆どの兵と騎士はテントで休むことになる。ただ、聖女イザベラ様達は教会に、皇太子殿下とテオバルト様は領主様の屋敷で今日は休む。
その領主様の屋敷に着くと、あのカッコイイ近衛兵達が多くいて、テントを設置したり、明日の準備に勤しんでいる。
おっと、近衛兵のことジロジロ見ちゃいけない。
見ていたら、またテオバルト様に怒られてしまう。
と、思っていたら、犬顔の近衛兵がテオバルト様に気付くと走って近づいてきた。

「テオバルト様、探していました。まもなく明日の作戦会議が始まります。お急ぎください」

「ああ、わかっている」

 と言いつつ、テオバルト様は特に急ぐ様子もなく、私の手を取り、領主の屋敷に堂々と入り、2階へ続く階段を上る。
一番端の角部屋に到着し、その部屋に入ると、私はいきなり、テオバルト様にベッドに押し倒された。

「テオバルト様っ、なっ、こんな時に何する気ですか」

「グアンに触られていないか確認するんだ」

「なっ……、起こしてもらう時、肩を触られましたが他は触られていません」

「寝ていたのに、良くわかるな」

「それは……、でもきっと触られていませんよ。触られたら気付くはずです」

「怪しいものだな。そもそも男と二人きりの時に寝るなんて、無防備だ」

「グアン様は、襲うとか、何かしようとか、ないと思いますけど」

「今日知り合ったばかりなのに、なぜわかる?」

「なんとなく……、でしょうか」

「全く当てにならないな。まあ、今から確認すればわかることだ」

 テオバルト様はそう言うと、何やら呪文を唱え始めた。
すると、私の身体が白い靄に包まれる。
ただ、グアン様に触られた肩の一か所だけ、黒いシミのように汚れている。
なんだ、魔法で、こんなこともできるんだ、ビックリ。
私はてっきり衣服を脱がされて、いかがわしく確認されるかと思ったけど、全く違った。
そんな想像してしまう私も、なんだかんだでエロいな~。

「テオバルト様、ね、ね、肩しか触られていませんよね」

「そのようだな」

 その時、誰かが扉を叩いた。

「テオバルト様、もう会議が始まります。どうかいらして下さい」

どうやら犬顔の近衛兵が、テオバルト様を呼びに来たようだ。

「ああ、わかっている」

 テオバルト様は相変わらず急ぐ気配はなく、ただじっと私を見つめている。
どうやら、まだグアン様に触られている所がないか、入念に確認しているようだ。

「テオバルト様、そろそろ本当に行かないと、まずいのでは……?」

 私はベッドから起き上がり、テオバルト様が部屋から出て行くのをそくすように、扉を開けようとした。
その寸前、テオバルト様が声を張り上げた。

「アメリア、これはなんだ、これを見て見ろ」

テオバルト様は私の髪を一房持ち上げ、それを私に見せる。
その髪の一房は、肩と同じく、黒くシミのように汚れている。

「あれ、なんででしょうか。誰かとすれ違ったときに、髪が触れたのかもしれませんね」

「そんなことで、黒くならない」

「なら、グアン様が肩を触ったときに、髪も一緒にたまたま触れたんじゃないですか。って、もう本当に行かないとまずいですって」

と言いながら私は扉を勢いよく開けた。
すると、犬顔の近衛兵が待ち構えていた。

「テオバルト様、早くお願いします。どうか、お願いします」

 犬顔の近衛兵は、必死に懇願するようにテオバルト様を見つめている。
その姿は、まさに可愛いワンコ。
茶色の髪の毛はクルクルとカールしていて、目は大きく潤んでいる。
なんて、可愛らしいんだろう。

「ちっ。いいか、アメリアはこの部屋にいろ。わかったな」

 テオバルト様は、しぶしぶ部屋から出て、ワンコ近衛兵と共に会議場所へと急いだ。
同時に私の全身にまとっていた白い靄も一瞬のうちに消え去った。
この部屋にいろとテオバルト様に言われたが、私にはやらなければいけないことがある。
それは、私自身のテントを設置すること。
そうしなければ私が寝る場所がない。
私は領主様の屋敷を出て、テントを設置している近衛兵に近づいた。

「あの、すみません。私はテオバルト様の助手のアメリア・リヒターですが、私のテントありますか」

「ええっと、アメリア・リヒターさんね、ああ、あるよ」

 近衛兵は私に折りたたまれた一人用のテントを手渡す。
持ってみると、かなり重い。

「ありがとうございます」

「もし、設置するのが難しいようなら言ってね。手伝うから」

「あ、ありがとうございます」

私は近衛兵達のテントの隣に、自分自身のテントを設置することにした。
もちろん、テントを組み立てるのは人生初。
やはりというか、うまく設置できない。
結構粘って設置を試みたけど、やはり私には無理そう。
仕方なく、手助けしてもらおうと、誰かを呼びに行こうとしたとき、あのワンコ近衛兵が近づいてきた。

「大丈夫ですか、アメリアさん。僕、手伝いますね」

「ありがとうございます。四苦八苦してたところなんです。とても助かります」

「うん。まかせておいて」

ワンコ近衛兵にお願いしてから5分も経たないうちに、設置が完了した。

「ありがとうございます。とても助かりました」

「うん。他にも何か困ったことがあったら言ってね。あ、今から夕食をとるけど一緒に行かない。食堂で食事が用意されているはずだから」

「はい。ご一緒させてください」

 ワンコ近衛兵と私は揃って、食堂に行った。
すると、なぜか私を取り囲んで他の近衛兵も座った。
ワンコ近衛兵も含めると、その数6、7人ほど。

「おい、お前らあっち行けよ。ゆっくり食べられないだろう」

「ジョン、いいじゃないか。俺らだってテオバルト様の助手様に興味津々なんだよ」

 どうやら、ワンコ近衛兵はジョンという名前らしい。
名前も、犬ぽい。

「アメリアちゃんだよね、テオバルト様って、血をすすりながら生きているって聞いたけど、本当? アメリアちゃんも、やっぱり吸われているの?」
「俺は、夜な夜な魔塔で人体実験してるって聞いたぞ」
「そうそう、賢者の石を作るために、人から血を吸いだしているらしいな」

 近衛兵達が、興味津々にわらわらと質問する。
 テオバルト様のことを血まみれ公爵って皆から呼ばれているのは知っていたけど、まさかそんな噂があったなんて。

「皆さん、テオバルト様のことを誤解してます。テオバルト様は血を飲んだりしませんし、人体実験なんてしてません」

「ふーーん。でもさ、アメリアちゃんは怖くないの? テオバルト様のこと。事実、テオバルト様の周りは死であふれているしさ」

「私は、テオバルト様のこと、怖いと感じたことありません。私にとってテオバルト様は、尊敬する最強の魔導士です」

 というか、なんでみんなそんなにテオバルト様のこと怖がっているんだろう。
その方が不思議。いや、私が変なのか……。私が何も考えていなすぎなのだろうか。
うーーん、でも実際怖い目にはあってないし。エッチなことは多々あったけど。
もっとテオバルト様のこと、怖がるべき? いや今更な気もするし、まあ、いっか。

「あれ、もしかしてアメリアちゃんは、テオバルト様のこと好きなの?」

「もしかしてじゃなく、アメリアさんと、テオバルト様は恋人同士だ」

 私が答える前より、ワンコ近衛兵のジョン様が回答した。
ジョン様は、レーナお姉様主催のチャリティーパーティーにも、いたのかもしれない。
だから、私とテオバルト様が付き合っていることを知っているのかも。

「本当に、あのテオバルト様と付き合ってるの?」
「あのテオバルト様が手を繋いだりするのか、想像できん」

恋の話題になった途端、近衛兵達はニンマリし、今度は如何わしい質問を浴びせてきた。やっぱりどこの世界でも、若い男子は下ネタが好きだよね。
まあ、そんな質問に、たじろぐ私じゃないけど、貴族令嬢なので少し恥じらいを見せつつ、適当に答えていく。
周りからみたら、わきゃわきゃして楽しそうに見える違いない。
そんな時、間の悪いことにテオバルト様と皇太子殿下、会議に出席していたと思われる領主や隊長らが食堂に現れた。
うん。この状況、私でもテオバルト様が怒るだろうってわかる。
でも、もう見られてしまったし、とりあえず愛想笑い……。
私の周りにいた近衛兵は、私とは違い、ピシッと立ち敬礼をした。
そして、その近衛兵の一人が殿下に話しかけた。
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