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魔塔
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皆、イザベラ様がいなくなったことに、動揺している。
しかし皇太子殿下は動じずに、イザベラ様を探すよう衛兵に命じている。
「テオバルト、私はこれから陛下にこの事を伝える」
「はい」
「テオバルトも、すぐにイザベラを探してくれ」
「皇太子殿下、イザベラの転移先ですが、おおよその見当はついています」
「それは、どこだ?」
「魔塔です」
「なっ、なに。魔塔だと……。なぜイザベラが魔塔に」
「先日捕らえた魔導士グアンも、同じ魔法道具を使用しておりました。その魔法道具を調べた結果、魔塔に転移できるとわかりました」
「わかった。ではテオバルトは先に転移して魔塔に向かってくれ。私も後程向かう」
「畏まりました」
テオバルト様は、私の手を取り、舞踏会会場を出る。
「テオバルト様っ、私も一緒に魔塔に行くんですか? 私も一緒で大丈夫でしょうか?」
「ここに一人残しておく方が心配だ」
子供じゃないんだから、私一人でも大丈夫なのに。
テオバルト様って、ほんと心配性だな。
心配といえば、私からしてみればテオバルト様の方こそ心配だ。
相当仲が悪くてもお継母様だし、少なからずショックを受けているはず。
それにイザベラ様も、聖女の力がなくなっているなんて、びっくりだ。
もう色々あり過ぎて頭がついていけない。
そんな私をよそに、テオバルト様は、もくもくと歩く。
数分で、城の離れにあるドーム型の建物に到着し、私達は中に入った。
中は、何もない空間。
その空間の中心に、私達が立つと、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がり、パーッと光輝いた。
そして一瞬にして、魔塔の正面に転移した。
魔塔に到着するや否や、テオバルト様は裏庭に足を進める。
すると、月明りの中、イザベラ様と誰かが言い争っている声が聞こえてきた。
「早く会わせなさいっ、早くっ、早くっ、時間がないわ」
イザベラ様は、まるでお継母様のような甲高い声で喚いている。
「そう言われましても、困りますっ。今はお帰り下さい」
イザベル様と言い争っている人は、そう言いながら、立ち去ろうとする。
あの言い争っている人、うーーん、どこかで見た気がする。
え~っと……、あっ、思い出した。
私が初めてここに来た時に会った、所長の秘書だ。
その秘書は、私達を目にした途端、まずいっていう表情をして駆け足で逃げ出した。
しかしテオバルト様が呪文を唱えると、突風が一直線に秘書の背中に当たり、秘書はそのまま倒れた。
倒れたが、そのまま這いつくばって、私達から逃げようとする。
テオバルト様は、逃げるのを防ぐように、その秘書の前に立ちはだかった。
「やはり、お前がスーレンを盗んだのか」
テオバルト様は秘書を見下ろしながら、言う。
秘書は怯えていて、テオバルト様と目を合わせようとしない。
また秘書の手は、イザベラ様の手と同じく、光っている。
「わっ、わたしは、何も知らない」
秘書は首を左右に振り、否定した。
「残念だが、その光っている手が証拠だ。俺のスーレンに触れた者は、そのように光るからな」
「くっ……。なんで私がこんな目に。聖女イザベラっ、お前のせいだ、全てお前のせいで」
秘書は、イザベラ様に向かって、激しい口調で怒鳴る。
イザベラ様は、私達を見た瞬間、ショックを受けたらしく、その場でぐったりと座り込んだ。
そして天を仰ぎながら、ぶつぶつと呟く。
「貴方が早く、所長に会わせないのが悪いのよ。所長に会えば……、所長にさえ会えれば、こんなことには……」
所長って、まさか魔塔の所長である、あのヨボヨボお爺さんのことだろうか。
今にも死んでしまいそうな、あのお爺さん。
あのお爺さんに、イザベラ様が会って何をするんだろう。
あのお爺さんじゃ、何もできないと思うのに。
そう思っていたら、あのヨボヨボお爺さんが、今にも倒れそうになりながら裏庭に姿を現した。
その瞬間、イザベラ様は勢いよく所長に駆け寄る。
時を同じくして、皇太子殿下や騎士も裏庭に現れた。
「もう一度。もう一度どうか、あれを、わたくしに下さい」
何度も、何度も、イザベラ様は所長に訴える。
「はて、なんのことかのぉ」
所長はボケているのか、全く話にならない。
「お願いです、所長。お金なら、お金なら、なんとかしますから」
イザベラ様は、泣きながら何度訴えるが、所長は素知らぬ顔。
それどころか、所長はイザベラ様を無視し、皇太子殿下に話しかけた。
「皇太子殿下、お久しゅうのぉ。一体、こんな夜更けに何の用かのぉ?」
「今開かれている舞踏会で毒殺があり、その犯人を追って魔塔に来た」
「ほうほう。で、その犯人は誰ですかな?」
テオバルト様は皇太子殿下に近寄り、今までの出来事を話した。
それを受け、皇太子殿下は、所長に答えた。
「そこにいるイザベラと、所長の秘書だ」
「それは誠に恐ろしいことですな」
「恐ろしいか。所長も何か知っているのではないか?」
「はははっ。こんな老いぼれに何ができますかな」
「そうだな、恐らく毒殺に所長は関わっていない。関わっていたらこんなミスなどしない」
テオバルト様が所長と皇太子殿下の話に割って入り、そう述べた。
「いやいや、この頃はミスだらけじゃ。歳は取りたくないのぉ」
「それもそうだな。所長は確かに大きなミスを犯した」
「はて、なんのことかのぉ?」
「聖獣の件だ。俺が現場にいるのを知りながら、魔導士グアンに指示し、再度、聖獣を捕らえようとしただろう」
テオバルト様はそう言うと、魔法を使い、捕らわれていたグアン様をここに転移させた。
グアン様は縄で身体を拘束され、口にも拘束具があり話すことができない。
表情は青ざめ、憔悴しきっている。
「聖獣とは、なんのことやら。それと、グアン……、一体だれじゃったかのぉ」
またまた、所長はボケ始めた。
本当にボケているのか、演技なのか、私には全く見当がつかない。
「なら思いださせてやる」
テオバルト様はグアン様を蹴り倒した。
グアン様は顔から倒れ、うつぶせになる。
また上半身の衣類が破かれていて、背中の肌が露出している。
その肌に魔法陣が描かれている。
「所長、この魔法陣、見覚えがあるだろう?」
「はて、全く見覚えがないのぉ~」
「であれば俺が説明しよう。この魔法陣は従属魔法で主人の名を明かせないようになっている」
「ほうほう。それはすごいのぉ」
「ああ、すごい魔法陣だ。だが俺はこの魔法陣を解き、グアンの主人の名を聞き出した」
「なっ、なんじゃと……」
所長はカッと目を見開き、ギロリとテオバルト様を睨んだ。
「俺は天才だからな」
テオバルト様は所長を挑発するように微笑んだ。
「まさか……、そんなことありえん。儂の魔法陣は完璧だ。完璧な魔法陣じゃ。それなのに、どっ、どうやってこの魔法陣を解いた? どんな魔法陣を使って儂の魔法陣を解いたのじゃっ、答えろっ、テオバルトっ」
「認めましたね、所長。この魔法陣は、所長が施した魔法陣だと言うことを」
「なっ、なんじゃとっ。まっ、まさか……、儂を謀ったのかっ? テオバルトっ、貴様っ」
「その通りだ。所長の魔法陣は完璧だったからな。それともう一つ、確認したい魔法陣がある」
テオバルト様は、魔法で転移させた一本の腕を所長の前に放り投げた。
その腕にも魔法陣が描かれている。
おそらくあの腕は、遠征の際、テオバルト様が切り落としたグアン様の腕だ。
「これも、所長が施した魔法陣だろう?」
所長はチラっとグアン様の腕の魔法陣を確認した。
やれやれ仕方がないな、という風な溜息を吐き、両手を腰に当て背中を伸ばした。
そして、私達を馬鹿にするような笑みを浮かべ、見下すような視線を送る。
その姿は、ヨボヨボお爺さんではなく、大悪党のボスのよう。
「そうじゃ。儂の完璧な魔法陣だ」
「確かに、完璧な魔法陣だ。聖女の力を奪い、その聖女の力を別人に授け、固定させつづける魔法陣」
テオバルト様がそう言うと、皇太子殿下はハッとした。
そして皇太子殿下は何か思い当たる節があるのか、テオバルト様に問う。
「まさか奪われた聖女の力とは……、聖女シャーロットのことか」
「そうです。皇太子殿下。4年前行方不明になったとされる聖女シャーロットは、実はここにいる所長に誘拐され、聖女の力を無理やり抜き取られたのです。その抜き取った聖女の力は、グアンの魔力、魔法陣を介して、イザベラに付与されたのです」
「所長、なぜだ、なぜそのようなことをした、答えろ」
皇太子殿下は怒りを露わにし、声を荒げた。
それに対し、所長はもう誤魔化す気がないらしく、ペラペラと話始める。
「老いがのう……、老いるのを止めたかったのじゃ。歳を取れば取るほど、頭がうまく働かなくなる。それがほとほと、嫌でのぉ。だから聖女の力を取り込めば若返ると思ったのじゃ。しかし老いは、やはり止められなかったでのぉ。それに儂の魔力と他人の聖女の力が一つの身体に収まるのは、どうにも具合が悪くてのぉ。だから無用となった聖女の力を、そこにいるイザベラにあげたのじゃ」
「そうか。聖獣の角を狙ったのも、同じ理由か? 老いを止めるために聖獣の角を奪おうとしたのか?」
今度は、テオバルト様が所長に問う。
「聖獣の角は、一番効果があったのでのぉ。あれは素晴らしいぞ」
「それで、聖女シャーロットは、今はどこにいるんだ、答えろ」
皇太子殿下は、所長に詰め寄り、襟ぐりを掴んだ。
その瞬間、騎士達も剣を抜き、攻撃態勢に入る。
「はははっ。その辺を掘り起こせば出てくるかもしれんのう」
「きっ、貴様っ」
皇太子殿下は、怒りに任せて所長に切りかかった。
しかし、所長の周りにはシールドがあるらしく、すんでの所で跳ね返される。
騎士も同じく切りかかったが、全て跳ね返された。
所長はその様子を見て、嘲笑う。
そして呪文を唱えた。
唱え終わると、グアン様を取り囲むように魔法陣が形成される。
グアン様は最期を悟ったらしく、目を瞑った。
その次の瞬間、魔法陣から無数の黒い手が出てきて、グアン様を捕らえ、呑み込んだ。
それも血しぶきをまき散らしながら。
全てを飲み込むと、今度はその魔法陣から大きな弓を携えた、上半身は人間、下半身は大蛇の魔物らしきものが、姿を現した。
それも5体も出現した。
しかし皇太子殿下は動じずに、イザベラ様を探すよう衛兵に命じている。
「テオバルト、私はこれから陛下にこの事を伝える」
「はい」
「テオバルトも、すぐにイザベラを探してくれ」
「皇太子殿下、イザベラの転移先ですが、おおよその見当はついています」
「それは、どこだ?」
「魔塔です」
「なっ、なに。魔塔だと……。なぜイザベラが魔塔に」
「先日捕らえた魔導士グアンも、同じ魔法道具を使用しておりました。その魔法道具を調べた結果、魔塔に転移できるとわかりました」
「わかった。ではテオバルトは先に転移して魔塔に向かってくれ。私も後程向かう」
「畏まりました」
テオバルト様は、私の手を取り、舞踏会会場を出る。
「テオバルト様っ、私も一緒に魔塔に行くんですか? 私も一緒で大丈夫でしょうか?」
「ここに一人残しておく方が心配だ」
子供じゃないんだから、私一人でも大丈夫なのに。
テオバルト様って、ほんと心配性だな。
心配といえば、私からしてみればテオバルト様の方こそ心配だ。
相当仲が悪くてもお継母様だし、少なからずショックを受けているはず。
それにイザベラ様も、聖女の力がなくなっているなんて、びっくりだ。
もう色々あり過ぎて頭がついていけない。
そんな私をよそに、テオバルト様は、もくもくと歩く。
数分で、城の離れにあるドーム型の建物に到着し、私達は中に入った。
中は、何もない空間。
その空間の中心に、私達が立つと、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がり、パーッと光輝いた。
そして一瞬にして、魔塔の正面に転移した。
魔塔に到着するや否や、テオバルト様は裏庭に足を進める。
すると、月明りの中、イザベラ様と誰かが言い争っている声が聞こえてきた。
「早く会わせなさいっ、早くっ、早くっ、時間がないわ」
イザベラ様は、まるでお継母様のような甲高い声で喚いている。
「そう言われましても、困りますっ。今はお帰り下さい」
イザベル様と言い争っている人は、そう言いながら、立ち去ろうとする。
あの言い争っている人、うーーん、どこかで見た気がする。
え~っと……、あっ、思い出した。
私が初めてここに来た時に会った、所長の秘書だ。
その秘書は、私達を目にした途端、まずいっていう表情をして駆け足で逃げ出した。
しかしテオバルト様が呪文を唱えると、突風が一直線に秘書の背中に当たり、秘書はそのまま倒れた。
倒れたが、そのまま這いつくばって、私達から逃げようとする。
テオバルト様は、逃げるのを防ぐように、その秘書の前に立ちはだかった。
「やはり、お前がスーレンを盗んだのか」
テオバルト様は秘書を見下ろしながら、言う。
秘書は怯えていて、テオバルト様と目を合わせようとしない。
また秘書の手は、イザベラ様の手と同じく、光っている。
「わっ、わたしは、何も知らない」
秘書は首を左右に振り、否定した。
「残念だが、その光っている手が証拠だ。俺のスーレンに触れた者は、そのように光るからな」
「くっ……。なんで私がこんな目に。聖女イザベラっ、お前のせいだ、全てお前のせいで」
秘書は、イザベラ様に向かって、激しい口調で怒鳴る。
イザベラ様は、私達を見た瞬間、ショックを受けたらしく、その場でぐったりと座り込んだ。
そして天を仰ぎながら、ぶつぶつと呟く。
「貴方が早く、所長に会わせないのが悪いのよ。所長に会えば……、所長にさえ会えれば、こんなことには……」
所長って、まさか魔塔の所長である、あのヨボヨボお爺さんのことだろうか。
今にも死んでしまいそうな、あのお爺さん。
あのお爺さんに、イザベラ様が会って何をするんだろう。
あのお爺さんじゃ、何もできないと思うのに。
そう思っていたら、あのヨボヨボお爺さんが、今にも倒れそうになりながら裏庭に姿を現した。
その瞬間、イザベラ様は勢いよく所長に駆け寄る。
時を同じくして、皇太子殿下や騎士も裏庭に現れた。
「もう一度。もう一度どうか、あれを、わたくしに下さい」
何度も、何度も、イザベラ様は所長に訴える。
「はて、なんのことかのぉ」
所長はボケているのか、全く話にならない。
「お願いです、所長。お金なら、お金なら、なんとかしますから」
イザベラ様は、泣きながら何度訴えるが、所長は素知らぬ顔。
それどころか、所長はイザベラ様を無視し、皇太子殿下に話しかけた。
「皇太子殿下、お久しゅうのぉ。一体、こんな夜更けに何の用かのぉ?」
「今開かれている舞踏会で毒殺があり、その犯人を追って魔塔に来た」
「ほうほう。で、その犯人は誰ですかな?」
テオバルト様は皇太子殿下に近寄り、今までの出来事を話した。
それを受け、皇太子殿下は、所長に答えた。
「そこにいるイザベラと、所長の秘書だ」
「それは誠に恐ろしいことですな」
「恐ろしいか。所長も何か知っているのではないか?」
「はははっ。こんな老いぼれに何ができますかな」
「そうだな、恐らく毒殺に所長は関わっていない。関わっていたらこんなミスなどしない」
テオバルト様が所長と皇太子殿下の話に割って入り、そう述べた。
「いやいや、この頃はミスだらけじゃ。歳は取りたくないのぉ」
「それもそうだな。所長は確かに大きなミスを犯した」
「はて、なんのことかのぉ?」
「聖獣の件だ。俺が現場にいるのを知りながら、魔導士グアンに指示し、再度、聖獣を捕らえようとしただろう」
テオバルト様はそう言うと、魔法を使い、捕らわれていたグアン様をここに転移させた。
グアン様は縄で身体を拘束され、口にも拘束具があり話すことができない。
表情は青ざめ、憔悴しきっている。
「聖獣とは、なんのことやら。それと、グアン……、一体だれじゃったかのぉ」
またまた、所長はボケ始めた。
本当にボケているのか、演技なのか、私には全く見当がつかない。
「なら思いださせてやる」
テオバルト様はグアン様を蹴り倒した。
グアン様は顔から倒れ、うつぶせになる。
また上半身の衣類が破かれていて、背中の肌が露出している。
その肌に魔法陣が描かれている。
「所長、この魔法陣、見覚えがあるだろう?」
「はて、全く見覚えがないのぉ~」
「であれば俺が説明しよう。この魔法陣は従属魔法で主人の名を明かせないようになっている」
「ほうほう。それはすごいのぉ」
「ああ、すごい魔法陣だ。だが俺はこの魔法陣を解き、グアンの主人の名を聞き出した」
「なっ、なんじゃと……」
所長はカッと目を見開き、ギロリとテオバルト様を睨んだ。
「俺は天才だからな」
テオバルト様は所長を挑発するように微笑んだ。
「まさか……、そんなことありえん。儂の魔法陣は完璧だ。完璧な魔法陣じゃ。それなのに、どっ、どうやってこの魔法陣を解いた? どんな魔法陣を使って儂の魔法陣を解いたのじゃっ、答えろっ、テオバルトっ」
「認めましたね、所長。この魔法陣は、所長が施した魔法陣だと言うことを」
「なっ、なんじゃとっ。まっ、まさか……、儂を謀ったのかっ? テオバルトっ、貴様っ」
「その通りだ。所長の魔法陣は完璧だったからな。それともう一つ、確認したい魔法陣がある」
テオバルト様は、魔法で転移させた一本の腕を所長の前に放り投げた。
その腕にも魔法陣が描かれている。
おそらくあの腕は、遠征の際、テオバルト様が切り落としたグアン様の腕だ。
「これも、所長が施した魔法陣だろう?」
所長はチラっとグアン様の腕の魔法陣を確認した。
やれやれ仕方がないな、という風な溜息を吐き、両手を腰に当て背中を伸ばした。
そして、私達を馬鹿にするような笑みを浮かべ、見下すような視線を送る。
その姿は、ヨボヨボお爺さんではなく、大悪党のボスのよう。
「そうじゃ。儂の完璧な魔法陣だ」
「確かに、完璧な魔法陣だ。聖女の力を奪い、その聖女の力を別人に授け、固定させつづける魔法陣」
テオバルト様がそう言うと、皇太子殿下はハッとした。
そして皇太子殿下は何か思い当たる節があるのか、テオバルト様に問う。
「まさか奪われた聖女の力とは……、聖女シャーロットのことか」
「そうです。皇太子殿下。4年前行方不明になったとされる聖女シャーロットは、実はここにいる所長に誘拐され、聖女の力を無理やり抜き取られたのです。その抜き取った聖女の力は、グアンの魔力、魔法陣を介して、イザベラに付与されたのです」
「所長、なぜだ、なぜそのようなことをした、答えろ」
皇太子殿下は怒りを露わにし、声を荒げた。
それに対し、所長はもう誤魔化す気がないらしく、ペラペラと話始める。
「老いがのう……、老いるのを止めたかったのじゃ。歳を取れば取るほど、頭がうまく働かなくなる。それがほとほと、嫌でのぉ。だから聖女の力を取り込めば若返ると思ったのじゃ。しかし老いは、やはり止められなかったでのぉ。それに儂の魔力と他人の聖女の力が一つの身体に収まるのは、どうにも具合が悪くてのぉ。だから無用となった聖女の力を、そこにいるイザベラにあげたのじゃ」
「そうか。聖獣の角を狙ったのも、同じ理由か? 老いを止めるために聖獣の角を奪おうとしたのか?」
今度は、テオバルト様が所長に問う。
「聖獣の角は、一番効果があったのでのぉ。あれは素晴らしいぞ」
「それで、聖女シャーロットは、今はどこにいるんだ、答えろ」
皇太子殿下は、所長に詰め寄り、襟ぐりを掴んだ。
その瞬間、騎士達も剣を抜き、攻撃態勢に入る。
「はははっ。その辺を掘り起こせば出てくるかもしれんのう」
「きっ、貴様っ」
皇太子殿下は、怒りに任せて所長に切りかかった。
しかし、所長の周りにはシールドがあるらしく、すんでの所で跳ね返される。
騎士も同じく切りかかったが、全て跳ね返された。
所長はその様子を見て、嘲笑う。
そして呪文を唱えた。
唱え終わると、グアン様を取り囲むように魔法陣が形成される。
グアン様は最期を悟ったらしく、目を瞑った。
その次の瞬間、魔法陣から無数の黒い手が出てきて、グアン様を捕らえ、呑み込んだ。
それも血しぶきをまき散らしながら。
全てを飲み込むと、今度はその魔法陣から大きな弓を携えた、上半身は人間、下半身は大蛇の魔物らしきものが、姿を現した。
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