本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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話し

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 私とテオバルト様は、ノアがいる屋敷の裏庭に出向いた。
ノアは、まさかテオバルト様も一緒だとは思わなかったようで、ギョッとしている。

「ノア、話って何?」

「……、ちょっと、こっち来い」

 ノアは私と二人っきりで話をしたいらしく、私の腕を引っ張り、テオバルト様から私を離そうとした。
しかし同時に、テオバルト様も私の腕を引っ張る。
このまま引っ張り合いされると私が裂けちゃう、そう思ったけれど一瞬の内にノアが手を離した。
そして痛みをやわらげるように手を摩っている。

「いってぇ~。静電気かよっ、くそっ。てか、おっさん何でついてきてんの」

 ノアはテオバルト様に向かって、おっさん呼ばわりした。
確かに18歳のノアにとっては、テオバルト様はおじさんかもしれないけど、酷い。
私が、ノアのことを殺してしまおうか。
けれど、テオバルト様は全く怒ってないし、気にも留めてない。
いつもの無表情で無言を貫いている。
まあ、テオバルト様からすればノアなんて、可愛らしい小僧って感じだよね。

「ノアっ、口悪すぎだよ。それで改めてノアに紹介するけど、この方はテオバルト・マーレンベルク様。公爵様で、宮廷魔導士様だよ。だから今後、おっさん呼ばわりしたら、私が怒るから」

「ふーん」

 ノアは腕を組んで偉そうに、テオバルト様のことを上から下までジロジロ見る。

「それで、テオバルト様。このバカっぽい、じゃなくこのバカなのが、私の幼馴染のノア・ベッカーです」

 私はノアをテオバルト様に紹介したけど、テオバルト様はノアに興味がないのか、私を見つめている。

「というか、バカなのはアメリアだろ。そんで、なんでお偉い公爵様がこんな田舎に来たんだよ?」

「それはね~。私とテオバルト様が結婚するからだよ。結婚の挨拶に実家に帰ってきたんだ」

「はぁ~~~~、うそだろ。冗談きついぜ」

「うそでは、ありません」

「ちっ、アメリア、俺は二人だけで話がしたいんだが、いいか?」

 知らない人がいると話しづらいノアの気持ちはわかる。
けどテオバルト様に変に疑われても困るし、ノアには悪いけど、ここで話してもらおう。

「う~~ん、二人だけはちょっと難しいかも」

「なんでだよ。公爵様、いいですよね?」

 ノアは私ではなく、テオバルト様に向かって問いかけた。

「二人っきりでは駄目だ」

 テオバルト様は、静かに答えた。

「どんだけ嫉妬深いんだよ。そうかよ、わかったよ。じゃあ今ここで話すよ、アメリア」

「うん、ごめんね。それで話って何かな?」

「俺はアメリアが帰って来たら、次に会ったら絶対に言おうと思っていたことがあるんだ。俺は……、俺は、アメリアが好きだ。だからそいつと、結婚なんてするな」

「えっ……」

 うそ……、うそでしょ……。
ノアって私のこと恋愛対象として見ていたの?
てっきりノアは、レーナお姉様みたいな人が好みだと思っていた。
だって、レーナお姉様のこと、いつも美人だ~、美人だ~って言ってたし。
今更そんなこと言われても、困るし、どうしたら……。
いやいや、考えるまでもない。

「ノア、申し訳ないけど…、私は」

 私が話しをしている最中に、ノアは大声をだし遮った。

「アメリアっ、俺は必ず騎士になる。お前が好きな騎士になる。ただ少し時間はかかるかもしれないけど、待っていてほしい」

 そうノアは言い切った。
なんで、ノアは私が騎士好きなのをバラしちゃうかな~。
困るんだけど。
テオバルト様は、その事に対して特に気にしてないのか、相変わらず無表情。

「騎士か……。これからどのようにして騎士になるつもりだ?」

 テオバルト様が疑問に思うのも無理もない。
騎士になるためには、幼い頃からどこかの領主に属し、勉強や武術を習う。
その後、見習い騎士になり、実戦経験を積みつつ、成人後に領主から叙任の儀式を経て正式な騎士になる。
だいたいが、そのコースを辿る。
まあ、ごくたまに傭兵から騎士になる人もいるが、よほどの実力がないと無理だ。
ノアはもう成人だし、傭兵でもない。
どう考えても騎士になるのは困難だ。
ちなみに、うちの領地には騎士がいない。
貧乏すぎて、騎士を賄えるだけの財力がないのだ。

「それは、隣の領主様が騎士を募集していて、今度試験があるんだ。それに合格すれば俺も、騎士になれる」

「そういうたぐいの試験は、逸材の戦士を探している場合が殆どだ。お前にはそれほどの実力があるのか?」

「俺なりに訓練してきた。絶対に合格してみせる」

「そうか……。ならばお前の実力を俺がみてやろう」

 テオバルト様は、魔法で2本の木の剣を出現させ、一本をノアに向かって投げた。
ノアはその剣を力強く握りしめる。

「ははっ。公爵様いいのか。怪我しても知らないぜ」

 やっぱり、ノアはバカだ。
テオバルト様のこと知らないのだろうか。
あの大戦で活躍したテオバルト様のことを……。
もしかしたら魔導士って言ったから武力では適うと思ったのだろうか。

 お互い剣を構えると、二人とも私を見る。
どうやら合図しろってことらしい。

「よーい。はじめ」

 私の合図と同時にノアは、テオバルト様に剣を振りかぶった。
右肩目掛けて一直線に。
しかし、テオバルト様は一歩下がり、ギリギリの間合いでよける。
ノアは、空を切ったその剣を、今度はテオバルト様のみぞおち目掛けて横向きに振った。
だが今度は、テオバルト様に剣で受け止められ、同時に押し返された。
押し返されたノアは、少し体勢を崩しながら、数歩下がる。

「くそっっ」

 ノアはそう悪態をつくと、体勢を立て直し、再度テオバルト様の頭上目掛けて剣を振り下ろした。
やはり今回もテオバルト様に受け流される。
そんな似たような攻防が何度も繰り返される。
さすがに途中で飽きてきた私は、一瞬よそ見をした。
その瞬間、ノアがビューンと吹っ飛び、地面にドスンと落ちた。
声にならない呻き声をノアはあげ、痛みで顔が歪んでいる。

「だっ、だいじょうぶ、ノア」

 思わず私はノアに駆け寄ろうとしたが、テオバルト様が私の腰に手を回し、行くのを制した。

「心配しなくても大丈夫だ、アメリア」

 テオバルト様はぶっきらぼうにそう述べた。

「ああ、大丈夫だ……、アメリア」

 ノアはヨロヨロと立ち上り、私に心配かけまいと、無理に笑った。

「そんな実力では話にならないな」

 テオバルト様は冷たくノアに言い放つ。

「どうせ、魔法を使ったんだろっ」

「魔法は使っていない。俺は騎士を叙勲する際、その者の実力を知るために、テストをする場合がある。そのテストをしてきた中で、お前は最下位だ」

「うるせぇ! 俺は絶対に騎士になってやる。だからアメリア、こんな奴と結婚なんてするな」

「そういうことは、騎士になってから言うべきだ。まあお前がたとえ騎士になったとしても、俺はアメリアを手放すつもりはない」

「ノア、私もね……、例えノアが騎士になったとしても……、例え騎士だったとしても、私はテオバルト様と結婚するよ」

「くそっ、なんでだよ、なんでだよっ」

 ノアは吐き捨てるように言い、剣を放り投げ、駆け足で去って行った。
はぁ~~~、ノアが可哀想過ぎる。
本当に、ごめんなさい、ノア。
私は心の中で何回もノアに謝罪した。

 その後、私とテオバルト様は、一緒に私の部屋に戻った。
せっかくの二人っきりなのに、どうしてもノアの事を考えてしまう。
テオバルト様と、いちゃいちゃ、ラブラブしたいのに、今はそんな気分になれない。
はぁ~~、まさかノアが……、はぁ~~~。
明日とか、謝った方がいいのかな。
でも、何て言って謝ればいいんだろう。
ノアを好きになれなくてごめんなさいっ、て謝るの?
いやいや、それも変だよね。
う~~ん……。
ひたすら悶々と考えていたら、テオバルト様にいきなりベッドに押し倒された。

「アメリア、今、何を考えている?」

「えっと……、今日の夕食のこととか」

「嘘だな。あいつのことを考えていたんだろう?」

「あの……、その……」

「考えるな」

「え?」

「あいつのことなんて、考えるな」

 突然テオバルト様は、私の首筋に唇を這わせ、洋服越しに胸を弄り、私の一番敏感な部分を指で擦る。
そう、私が一番好きな体勢で、一番感じてしまう触り方。
テオバルト様は私をどうすれば一番感じるかを、もう熟知しているようで、手慣れた手つきで私を攻め立てる。

「んっ、んん……、ぁっ」

「声は抑えろ、アメリア」

「っ……   んっ」

「そうだ」

 テオバルト様は、耳元で囁く。
その囁きさえも、ゾワゾワとくすぐったい快楽となって私の背筋を通り抜ける。
一瞬、喘ぎ声が出そうになったけど、手で口を抑えつけ音が漏れないようにした。
それからも必死に喘ぎ声が漏れないよう手で口を押さえつけているけど、シーツが擦れる音、テオバルト様の息遣いに、くちゅくちゅという淫らな音が部屋中に響く。
その音が、逆に私を興奮させ、深い快楽を与えた。

「んっ、  んんっ……、っ」

「俺だけに集中して、俺だけを感じるんだ、アメリア」

「ぅっつつ、   ん゛ん゛ん゛っ」

 私は、イってしまった。
頭からつま先まで、じ~~んっと、じゅわ~とした快楽が私の身体に響く。
その快楽の余韻に浸っている私に、テオバルト様は、これでもかってぐらい、ちゅっ、ちゅっとキスをする。
指先、腕、肩、頬、おでこ、至る所にキスの雨を降らせる。

 テオバルト様のせいで、いや、テオバルト様のおかげで、ノアのことは完全に頭から消えた。
消えたというより、今は何も考えたくない、ただこの快楽の余韻に浸っていたい。
なんて気持ち良くて、幸せなんだろう。
あぁ……、テオバルト様って最高。


 しばらくすると、メイドのミラがディナーの準備ができたと呼びに来た。
テオバルト様も私の部屋にいることがわかると、ミラは、「あらま、あらま」と言いつつ満面の笑みで戻って行く。
きっとお父様はディナーの場にいないんだろうなって思っていたけど、座って私達を待っていた。
ただ、ちょっと気恥ずかしそうにしている。
とりあえず、私達は結婚の話はせずに、乾杯し、食事を頂くことに。
お母様や私が、この土地の名産物や、私の小さい頃の話などをして、ディナーを盛り上げた。
ようやくディナーも終盤に差し掛かった時、テオバルト様がおもむろにお父様に話を振った。

「リヒター男爵、この領地を少し調べさせて頂きましたが、山賊がいますよね?」

「ええ、います。山賊にはずっと手を焼いてまして……」

「山賊から領地を守るために、多額の費用がかさみ、そのせいで経営を圧迫していると思います」

「ええ、よくご存じで。特に大戦後、酷くなる一方で……。傭兵を雇うのにかなり大金が掛かっています」

「ですので明日、山賊を退治しに行ってきます」

「えっ…、ええーー!」

 お父様がビックリしている。
私も、ビックリ。
そんな話知らなかったし、初めて聞いた。
少しくらいテオバルト様、私に相談してくれてもいいのに。
役に立たないだろうけど……。
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