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騎士
しおりを挟む「テオバルト様、山賊を退治するために騎士も今回の旅に同行したんですか?」
国都にいた時の馬車での移動は、騎士の同行はなかった。
おそらくテオバルト様が強いから、必要がなかったのだろう。
でも今回、同行している騎士は15名程いる。
私は、ただ単に実家までの距離が長いから、念のための同行だと思っていた。
「そうだ、そのために連れて来た」
「山賊を、本当に、本当に、退治して頂けるのですか」
お父様は口角が思わず緩むほど、嬉しいよう。
「はい。山賊を一人残らず退治します。今回、同行している騎士は皆、精鋭ですので難しくないでしょう」
「それは、願ってもないことです。長年、私達は、山賊に苦しめられていましたから」
山賊の話は聞いたことはあるけど、実際私は山賊を見たことないし、害も被っていない。
おそらくお父様は、私を守るため、山賊みたいな悪い物には関わらせなかったと思う。
「はい。それとできれば、この辺の地形を良く知っている者も同行させて欲しいのですが、ノア・ベッカーにお願いすることは可能ですか? 先ほどお会いして剣術が得意だと伺いましたので」
「それはいいですね。ノアなら適任です。ノアは自衛団の青年団長をしているんですよ」
「それは、頼もしいですね」
「はい。私の方から、明朝来るようにとノアに伝えて起きます」
「ええ、お願いします」
お父様はさっきとは打って変わり、意気揚々としている。
よほど山賊を退治してくれることが嬉しいんだ。
でもこれが上手くいけば、お父様にテオバルト様のことを認めて貰えるかも。
食事が終わり、私達はそれぞれの部屋に戻った。
戻ったはずなのに、なぜかテオバルト様が当然のように私の部屋にいる。
「転移で私の部屋まで来たんですか?」
「そうだ」
「山賊退治の件ですけど、山賊ってどれくらい人数いるんですか? 強いんでしょうか? なんか考えると不安になってきました」
「山賊は魔物に比べれば、大したことない。だが念のため、明日はこの屋敷から一歩も出るなよ」
「今度は部屋じゃなくていいんですか?」
「ああ、今回は屋敷全体にシールドを施した」
「わかりました。どんなことがあっても外に出ません」
「約束だ」
「はい」
「それとだ、今から俺が言うことに“許す”と一言、言って欲しい」
何だろう。
でも何にしても、テオバルト様のお願いだし、拒絶したくない。
まあ、浮気してもいいかって言われたら、絶対に許さないって答えるけど。
「わかりました」
私がそう言うと、テオバルト様はいつも使用している赤黒い剣を魔法で出現させた。
その剣をなぜか私に持たせる。
初めて剣を持ってみたけど、なんて重いんだろう。
こんな重い剣を振りまわせるテオバルト様って、やっぱり凄い。
そしてテオバルト様は、私の目の前で片膝をついて、跪いた。
突然のことでビックリしたけど、テオバルト様は真剣に、私を見つめる。
直後、空気が張り詰め、私の身体は緊張で強張る。
そんな雰囲気のなか、テオバルト様は、ゆっくりと丁寧に言葉を発した。
「俺は、アメリアの剣となり、盾になることを誓う。俺の全てを捧げアメリアだけに仕えることを誓う。この誓約をもって、アメリアの騎士になることを許してくれるか」
テオバルト様がそう言い終えると、私が持っている剣が、ゆっくりとテオバルト様の肩に剣先が置かれる。
私は何もしてないのに、勝手に。
恐らくテオバルト様の魔法で剣が動いたんだと思う。
でも、どっ、どどどどうしょう。
いきなり騎士の誓約だなんて、緊張で手が震える。
同時に剣も小刻みに震えている。
こんな小心者の私が、私ごときが、本当に騎士の叙勲なんてしてもいいの?
戸惑っている私に対して、テオバルト様は顔を伏せ、私の言葉を待っている。
もう仕方がない、テオバルト様とさっき約束したし、言うしかない。
「…………………、許す」
私がそう言うと、テオバルト様は、ほくそ笑んだように見えた。
俯いているから良くは見えなかったけど。
もっとよーくテオバルト様の表情を見ようとしたら、テオバルト様は立ち上がり、私をひょいっと抱き上げた。
同時にテオバルト様の剣は消えてなくなった。
「これで、俺がアメリアの騎士になった。あいつより先にな」
あいつって、ノアの事を言っているんだ。
テオバルト様は意外にも気にしていたんだな、私が騎士好きなのを。
でも魔導士も好きなんだけどな~。
ただ、この世界って魔導士の数が極端に少ないし、そもそも普通に暮らしていたら魔導士と出会うことなんてない。
だから騎士好きって言っていた方が現実味あるから、そう公言してただけなのに。
でもそんなことを気にしてしまうテオバルト様が、可愛く思えてしまう。
もう何をしても、テオバルト様が愛おしくて仕方がない。
それに、それに、なんと言っても私の目の前に跪くテオバルト様、心臓が破裂しちゃうと思うくらいドキドキした。
だって、このシチュエーションって、女子なら誰しもが一回は夢見るはず。
「私は、魔導士様のテオバルト様も、騎士のテオバルト様も、ただのテオバルト様も、大好きです。あ、変態のテオバルト様も、もちろん大好きですよ」
「変態なのは、アメリアだろ」
「ええー。私は変態じゃありません。ありませんけど、今、テオバルト様にキスしたいです」
私はさっきテオバルト様がしたように、おでこ、瞼、頬、鼻先の順にちゅっ、ちゅっ、とキスし、最後に唇にキスした。
テオバルト様の乾いた唇を潤すように、舌先でペロっ、ペロって舐めて、半開きになった口の中にそっと舌を入れる。
入れた途端、テオバルト様の舌は私の舌に絡みつく。
離れないように、逃げられないように、まるで蛇のように私の舌に絡みつく。
私も今回は絶対に引かない、負けない、そう思って、テオバルト様の頭の後ろに手を回し、離れないようにした。
テオバルト様の口内全てを味わうように、舌で舌を舐めまわし、舌で歯の感触を楽しみ、最後は頬の内側の肉を、つんつんと突っつく。
「ぅっっ……」
珍しくテオバルト様が吐息を洩らすと、抱きかかえていた私をベッドにゴロンと下した。
見上げてみると、テオバルト様は荒々しく呼吸をし、髪をかき上げている。
さすがに私も息が上がっていて、お互い息が整うまで、じっと見つめ合った。
「やはり、アメリアは相当変態だな」
テオバルト様は呼吸が整うと、開口一番そう述べた。
「そうですね……、変態かもしれません。テオバルト様と一緒です」
「そうだな……、一緒だな」
これからもっとイチャイチャできる、そう思ったのに、明日の山賊退治でやることがあるからと、テオバルト様は自分の部屋に戻ってしまった。
こんなにも身体が火照っているのに……。
きっとテオバルト様も同じだと思うのに、なぜ頑なに私を抱いてくれないんだろう。
翌日、夜明けとともにテオバルト様は出発することとなった。
私一人だけ、いや私と両親だけ眠そうにしていて、テオバルト様や騎士達、ノアも皆、平然としている。
ノアは一切、私を見ようとせず、任された仕事を忠実にこなそうとしている。
で……、一瞬目を疑ったのが、テオバルト様の今着ている服。
なんと、テオバルト様は騎士の服を着ている。
公爵家の騎士の服は、黒ベースに所々、青色が使われている。
マントの表は黒だけど、裏は青とか、そんな感じで、とてもオシャレでカッコイイ。
もちろんそんな騎士の服をまとったテオバルト様は恐ろしくカッコイイ。
「おはようございます。テオバルト様」
「おはよう、アメリア」
「騎士の服だなんて、すっごくカッコイイです」
と私がテオバルト様に言ったら、周りにいた騎士達が物凄く嫌そうな表情をした。
余計なことを言うな的な表情を……。
ノアに至っては、吐く真似して「うげぇ」って呟いた
もしかして私とテオバルト様って傍から見たら痛いカップルなのだろうか。
イチャイチャするのを抑えるべきかも……。
いや、でも私達はこれから結婚するカップルだし、今は一番イチャイチャしていい時。
うん、周りのことは気にしないことにしよう。
だって、テオバルト様は嬉しそうだし。
「俺は騎士だからな。それで何度も言うが屋敷からは一歩も出るなよ」
「はい。わかりました」
「じゃあ、行ってくる」
「はい。帰りをお待ちしてます」
テオバルト様達は馬に乗り、颯爽と出発した。
私は言いつけを守り、屋敷の中に入った。
そして私はこれから大事なことをしなければならない。
そう、結婚に向けて両親を説得するという重要な任務が。
「お父様、お母様、お話があるんだけど」
「うっ……、うむ。何を言いたいのかは、わかる」
お父様は私と目を合わせたくないのか、窓の外を見つめている。
「わかっているなら話は早いよね。それで結婚のことだけど、認めてくれるよね? テオバルト様、お父様に認めて貰うために、山賊を退治しに行ってくれたんだよ、きっと」
「わかっている」
「なら、認めてくれるよね?」
「うむむ……。もう少し人となりを見てだな……」
「お父様! 私が選んだ人だよ。私を信じてよ」
「あなた。アメリアのことです、私達が反対した所で結婚してしまいますわ。そうなればアメリアの花嫁衣裳も孫も見られないかもしれないんですよ」
お母様は、どうやらこの結婚に反対はしてないよう。
お母様はレーナお姉様と同じく計算高いところがあるからかな。
「うむむむ……。それはそうだが……。今は山賊退治の方が重要だ。それが解決したら結婚のことを考える」
お父様は意外に頑固だな。
けどお父様の言う通りなら、結婚より重要な山賊退治をテオバルト様が解決したら、テオバルト様との結婚も認めざるを得ないよね。
テオバルト様、どうか私達の結婚のためにも、山賊退治を頑張って下さい。
そう心の中で私は強く念じた。
「結婚のことを考えるんじゃなくて、絶対に認めてね。あ、それとレーナお姉様から手紙を預かってきたの」
私はレーナお姉様から託された手紙を両親に渡した。
「おおー。どれどれ」
両親は早速、レーナお姉様の手紙を読む。
始めのうちは、うんうん、うんうん、と手紙に対して嬉しそうに頷いている。
しまいには両親ともに、目に涙がうっすらと溜まりだした。
しかし手紙が残りの1ページに差し掛かった時、突如青ざめ、深い溜息をついた。
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