本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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<テオバルト視点>二つ目の願い事

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「いっ、行かないで下さい」

 テオバルトが王宮図書館に行こうと扉を開けた瞬間、アメリアが突然後ろから抱きついた。
ここ最近のアメリアは、テオバルトが王宮図書館に行こうとする度に、口をへの字に曲げ拗ねていたが、引き留められたのは初めてだった。
テオバルトはアメリアの表情を確認するために振り返り、アメリアの顎をクイっと持ち上げた。
アメリアは何か言いたげに唇を震わせている。

「アメリア、どうした?」

「昨日も、一昨日も、その前も、王宮図書館に行っていましたよね? なぜそんなにも行くんですか? 本を借りるぐらい私にだってできます。なぜ私に命じてくれないんですか?」

「それは手に取って本を選びたいからだ」

「毎日通ってもまだ、本を選び足りないんですかっ?」

「そうだ」

「……、本当は、司書のハンナさんに会いたくて王宮図書館に通っているんですよね?」

 ハンナ……、ハンナ……、ああ、あの女のことか。

「いや、違う」

 そもそも王宮図書館に通って本を読んでいるのは、全てアメリアのためだ。
中イキの特訓を開始してから3ヵ月経過したが、まだアメリアは中でイケない。
だからこそ、中イキで重要な心理を学ぼうと、心理学、精神分析、心理療法などの本を読み漁っている。

「本当に? 本当にハンナさんに会うためじゃないんですか? ハンナさんは美人だから……」

 アメリアの瞳に涙が滲んでいる。
なぜアメリアはここまで感情的になっているのか、なぜハンナに拘っているのか……。
もしや、アメリアは嫉妬しているのか?
そうだ……、嫉妬しているんだ。
そう理解した瞬間、テオバルトは胸の底から嬉しさがこみ上げた。

「アメリア、本当に違う」

「わっ、わかりました……。引き留めてごめんなさい」

「いや、いい。それに今日は行かないことにする」

「本当ですか?」

「ああ」

 アメリアは一瞬にしてパーッと笑顔になり、テオバルトに抱き付いた。
それからのアメリアは、テオバルトに甘えてベタベタとくっつき離れない。
キスをねだったり、お風呂も一緒に入りたいと言ったり、セックスも情熱的だった……。
嫉妬しているアメリアは、なんて愛おしく可愛いのか、こんなことならもっとアメリアに嫉妬して欲しい。
そうテオバルトは思った。

 テオバルトはアメリアが寝た後、書斎に移動し、嫉妬について書かれてある大衆雑誌を熟読した。
そうか、嫉妬は恋のスパイスなのか。
適度に嫉妬させることで、より愛されるようになるとは思いもしなかった
またその大衆雑誌には嫉妬させるテクニックについても書かれてある。
実践できそうなのは、会う時間を減らす、他の女性を褒める、他の女性と絡む、ぐらいだろうか。
ただこの大衆雑誌の最後に、嫉妬は諸刃の剣、やり過ぎ厳禁と締めくくられていた。
アメリアはまだ一回しか嫉妬していないのだから、あと数回はきっと大丈夫なはず、そうテオバルトは解釈した。

 そろそろ寝室に戻ろうとテオバルトが席を立とうとした時、ランプの灯が一瞬揺らいだ。
と同時にテオバルトの目の前に影が現れた。
その影は男性の姿になり、テオバルトに低い声で話し掛けた。

「お久しぶりです、閣下」

 その男性はテオバルトが雇っている密偵だ。

「ああ。で、秘伝書は見つかったか?」

「いいえ、見つかっていません。今回はビアンカの件で相談に上がりました」

 ビアンカはこの男と同じく密偵で、秘伝書の探索の為にアメリアの故郷に潜入している。
またビアンカにはアメリアの幼馴染ノアを誘惑するよう命じている。

「実は、ノアがビアンカに求婚してきました」

「……、ビアンカは何と言っている?」

「閣下の判断に委ねるとのことです」

「ビアンカは、お前から見て結婚したそうだったか?」

「ビアンカは、ノアに惚れていないと思いますが、結婚に憧れていると思います。ビアンカは戦災孤児ですから、家族に憧れがあるのでしょう」

「そうか。ならビアンカに “幸せな家庭を作れ” と命じよう」

「かしこまりました。秘伝書の件はどうしましょうか?」

「秘伝書を無理に捜索しなくていいが、もし手に入れたら、連絡するよう命じろ」

「かしこまりました。ただ残念ですね、ビアンカは優秀な暗殺者でしたから」

「そうだな」

「では、失礼します」

 男は影のようになり消えた。

 田舎は閉鎖的だから、新参者のビアンカでは秘伝書を入手するのは困難だったのだろう。
しかしビアンカとノアが結婚し、娘が産まれれば……、その時こそ秘伝書を入手できるかもしれない。
ノアを殺さなくて良かった、とテオバルトは思った。

 翌日から早速テオバルトは、アメリアを嫉妬させようと、極力食事の時間を一緒に取らないようにした。
するとアメリアの方から、シャンテーネに食事に行きたいとか、寝る前だけでもお酒を一緒に嗜みたいと、必死にせがむようになった。
その必死にせがむアメリアの姿が、格別に可愛らしい。

 次にテオバルトは、アメリアの前で司書ハンナのことをわざと褒めた。

「アメリア、ここにある本の蔵書目録を作成したいができるか? もし難しいようなら司書ハンナに依頼しようと思う。ハンナは優秀だからな」

「わっ、私が作成します。頑張りますから、私にやらせて下さい」

「そうか。なら頼む」

「はい」

 それからアメリアは必死に蔵書目録を作成した。
しかしその作業に没頭するあまり、アメリアはミスを犯す。
ヘルツフェルト宰相に渡さなければいけない書類を渡し忘れるというミスを。
些細なミスで大して仕事に支障はなかったが、アメリアの落ち込みは激しかった。
その時からだろうか、アメリアはテオバルトに一切甘えてこなくなった。

 テオバルトは焦燥感に駆られ、何としてもまたアメリアに甘えられたい、縋って欲しい、独占して欲しい、そう思った。
もう一度、もう一度だけ、アメリアを嫉妬させよう。
そのためにテオバルトは王宮図書館に向かった。
アメリアにわざわざ、司書ハンナに会いに行くと言って。

 テオバルトが王宮図書館に行くと、司書ハンナの方から近づいて来て、仕事の依頼をされた。
禁書の本を整理するため、同席して欲しいと。
通常、禁書の本は宮廷魔導士がいなければ触れることはできない、そのため司書が禁書を整理する際は、事前に宮廷魔導士の派遣を依頼する。
今回はたまたまテオバルトがタイミングよく現れたので、依頼してきたのだろう。

 禁書のある場所は図書館の奥まった場所にあり、人の出入りが極端に少ない。
そこへテオバルトと司書ハンナは2人きりで向かう。
その際、アメリアが後方より尾行していることに、テオバルトは気づいていた。
テオバルトは頬がだらしなく緩まないよう、必死に堪えた。

 禁書の整理は思いのほか時間がかかり、終了したのは2時間後。
その間、アメリアの気配を感じつつ、テオバルトは禁書の本を斜め読みした。

 禁書のコーナから出ると、アメリアは本を読んでいた。
いや、アメリアは本を読んだ振りをしつつ、テオバルトと司書ハンナが出てくるのを待っていたのだろう。
そのアメリアに、司書のハンナがテオバルトより先に話し掛けた。

「あら、アメリア様。閣下に何か用事がありましたか?」

「いっ、いえ……。別に……」

 アメリアはそう言うと、足早に立ち去った。
おかしい、いつもならテオバルトを独占するように、司書ハンナに見せつけるように、アメリアはテオバルトの腕を組んだりしてくるのに……。
また表情も、いつもと違う。
いつもなら唇を可愛く尖らせ、少し怒った感じでテオバルトを見つめるのに、今回は冷ややかな表情をしていた。
その表情を見た瞬間、諸刃の剣が胸にぐさりと突き刺さったかのような痛みをテオバルトは感じた。

「閣下、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ? どこか具合が悪いのですか?」

 司書ハンナがテオバルトを気遣うが、テオバルトはそれを無視し急ぎ部屋に戻った。
アメリアは部屋の席に着いて仕事をしている。
ただ、いつもならテオバルトが部屋に戻ると駆け寄って「おかえりなさい、テオバルト様」と笑顔で声を掛けてくれるのに、今回はそれがない。
部屋が恐ろしいほど静まり返っている。

「アっ、アメリア、蔵書目録の作成は順調か?」

「はい」

「今日は、仕事が早く終わりそうだから、シャンテーネに行かないか?」

「今日はレーナお姉様と約束があるので行きません」

「そうなのか? いつ約束したんだ?」

「別に、いつでもいいですよね」

 アメリアの口調はテオバルトを突き放すように、冷たい。

「良くない。アメリアは俺に報告する義務がある。契約したはずだ」

「そうでしたね。申し訳ございませんでした」

「アメリアっ、契約を破ったら罰を受ける約束だ。覚えているよな」

 テオバルトはアメリアを抱え、強制転移で自身の屋敷に戻る。
そしてアメリアをベッドに押し倒し、衣服を剥ぎ取ろうとした。
しかしアメリアが、震えながら大粒の涙をポロポロと溢しているのを見て、テオバルトの手が動かなくなった。

「アメリア……、アメリア、すまな」

 テオバルトは、さすがにやり過ぎたと反省し謝罪しようとしたが、アメリアに遮られた。

「テオバルト様なんて大嫌いっ」

 そう言われた瞬間、テオバルトは体が全く動かなくなり、思考が停止した。



 我に返った時には、アメリアはベッドからいなくなっていた。
ベッドが冷たく、部屋の空気も凍えるように冷たい。
テオバルト自身も、寒気に襲われガタガタと体が震え出す。
その時、執事のローマンが恐る恐る部屋に入ってきた。

「閣下……、奥様ですが……、お姉様がいる教会に向かわれました。しばらくの間、そこで過ごすそうです」

 どす黒い感情が、テオバルトの頭の中に広がっていく。
レーナを殺し、アメリアを連れて戻り、もう二度と離れないように、鎖でつなぎ留めたい。
そしてアメリアの衣食住全てを支配し、テオバルトだけに依存するようしたい。
だが、それをすればアメリアの心が壊れてしまう。
二度と、あの花のような笑顔を見ることができない。
それだけは絶対に駄目だ。

 テオバルトは書斎に行き、嫉妬について書かれてある大衆雑誌を読み返した。
嫉妬は諸刃の剣、やり過ぎ厳禁と書かれてあったが、やり過ぎてしまった場合の対処方法も書かれてあるのではないか、と思い何度も読み返した。
しかしそれについては、全く書かれていない。
他の雑誌や本も調べてみたが、嫉妬による過ちを挽回する方法は書かれてない。
それどころか嫉妬させ過ぎた結果、喧嘩、修復不可能、別れ、という言葉が出てくる。

 テオバルトは急ぎ執事のローマンを呼びつけた。

「すぐにベン卿とリアム卿を呼んで来い、今すぐにだっ」

 家出をしていたベン卿の妻子は戻ってきたと聞いた。
それならば、ベン卿はアメリアが家出をした事への対処方法も知っているはず。

 その後すぐに、ベン卿とリアム卿は駆け足でテオバルトの書斎まで来た。
両名とも大汗をかいている。

「閣下、お待たせしましたっ」

「とりあえず、座れ」

「はい」

 テオバルトは彼らが座っている目の前のテーブルに、小さな箱を二つ置く。
その箱を開き中身を見せると、彼らから「おぉ~」と歓声が上がる。
それもそのはず、箱には金貨がぎっしり詰まっている。

「わかっていると思うが、これは賄賂だ。受け取ってもらう」

「あのっ、今度はどんな相談でしょうか?」

 リアム卿が訊ねる。
今回の嫉妬の件を相談するのは、さすがのテオバルトも気恥ずかしかったが、そうも言ってはいられない状況だ
テオバルトは素直に今までの経緯を包み隠さず話した。
するとリアム卿は目を瞑り頭を抱え、ベン卿は口を半開きにし、あきれ顔をした。

「それでだ、俺に教授して欲しい、アメリアとの修復方法を。特にベン卿、どうやって妻子が戻ってきたのか、教えて欲しい」

「俺の妻子が出て行った理由は、俺がフラフラ飲みに行きすぎたせいなんですけど。まあ、戻ってきてくれたのは、誠心誠意謝罪し、生活を改めたからですね」

「やはり謝罪か」

「はい。閣下の場合は、嫉妬の件も正直に説明してから謝罪した方がいいと思います」

 ベン卿は真面目に答える。
その答えに同調するように、リアム卿も口をはさむ。

「そうですね。それも今から謝罪しに行った方がいいと思います、それぐらい閣下の状況は深刻です」

「深刻……」

「はい。想像してみてください。もし奥様とベン卿が二人っきりで密室に2時間もいたら、閣下もお怒りになりますよね」

「ああ、ベン卿を殺すっ」

 テオバルトがそう答えた瞬間、ベン卿は青ざめ、リアム卿の横っ腹を拳で殴った。

「あっ、その、奥様に対してお怒りになりませんか? ベン卿ではなく」

「アメリアに? まさか」

「ええっと、例えが良くなかったですが、今、閣下がベン卿に向けた怒りと同じく、奥様も閣下に対して怒っています」

「俺に……」

「はい。ですからその怒りを鎮めるためには、誠心誠意、謝罪するしかありません」

「わかった。今から謝罪してくる」

「閣下、何度追い返されても、謝罪し続けてください。あと謝罪する時には必ずプレゼントを持参してください」

 ベン卿が応援するように、拳を掲げる。

「わかった。二人はもう戻っていい」

 テオバルトは転移で、教会の目の前に来た。
本当は聖女レーナの部屋の前に転移したかったが、そうすると聖女レーナが怒るかもしれない。
今は聖女レーナの怒りを買ってはいけない。

「テオバルト・マーレンベルクだ。聖女レーナの妹、アメリア・マーレンベルクがここに来ていると思うので呼んできて欲しい。おそらく聖女レーナの部屋にいる」

 テオバルトは教会の受付にそう話した。
受付の人はアメリアを呼びに行ってくれたが、アメリアは現れない。

「申し訳ございません。アメリア様は、もう就寝中とのことです」

 テオバルトはその場で待つことにした。
アメリアが朝まで現れないとしても、一人では帰りたくない。
あの冷たいベッドに一人で寝るなんて、もう不可能だ。

 翌朝、アメリアはテオバルトの前に現れた。
表情は固く、テオバルトを無視して馬車に乗ろうとする。
しかしテオバルトはアメリアの腕を掴み、その行動を制した。

「アメリア、すまない。本当にすまない。俺はっ」

「離してっ、触れないで」

 アメリアはテオバルトを睨みつけ、テオバルトの手を振りほどいた。

「アメリア、俺の話を聞いてほしい」

「いやっ、聞きたくないっ」

 アメリアは両手で耳を塞いで、そのまま馬車に乗り込む。
テオバルトはしばらくその場から動けなかったが、なんとか気を取り直して、アメリアの後を追うように王宮に転移した。

 仕事場に着くと、アメリアは黙々と仕事をこなしていた。
テオバルトは何度もアメリアに話し掛けたが、その度にアメリアは両手で耳を塞いでしまう。
ランチの時も、アメリアは一人で食堂に行ってしまった。

 定時になり、アメリアは帰ろうと扉を開けようとしたが、テオバルトは魔法で扉を開けなくした。
そんなことしたら、さらにアメリアが怒ると明白だったが、どうしもテオバルトはアメリアと向き合い、話したかった。

「扉、開けて下さいっ」

「アメリア、お願いだ。俺の話を聞いてほしい」

「いや、早く扉を開けて下さい」

「お願いだ、アメリア……、頼む」

 テオバルトが、そう真摯に訴えかけた時、アメリアはほんの一瞬、テオバルトを見た。
その一瞬にテオバルトは仄かな希望を感じずにはいられなかった。

「アメリア……」

「……、わかりました、わかりましたよ。聞きますから手短にお願いします」

「あっ、ああ。わかった。なるべく手短に話す。俺は、アメリアに謝罪したい。アメリア、本当にすまなかった。俺はアメリアに甘えて欲しくて、俺に縋って欲しくて、わざと嫉妬させるような振る舞いをした。アメリアの気持ちも考えずに俺の欲を優先させてしまった。本当に、すまなかった」

「ハンナさんと、浮気はしてないんですか?」

「してない。断じてしてない」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ。それに司書ハンナはヘルツフェルト宰相の愛人だ」

「えっ……、ええ? 本当ですか? 私だって噂話詳しいんですよ、でもそんな話、初めて聞きました」

「俺なりの情報網があるから。俺と関わる人間については、徹底的に調べ上げるんだ、俺は」

「そっ、そうなんですね……」

「アメリア、それとこれを受け取って欲しい」

 テオバルトはアメリアにピンク色のリボンが巻かれた小さな箱を見せた。

「受け取りませんよ、まだ私は怒っているんですからっ」

「これはペンだ。魔石が埋め込まれていて、どんなに書いても疲れない。目録の作成に役立つと思う」

「……、わかりました。仕事上でテオバルト様が使えと言うなら使います」

 アメリアはテオバルトの手から箱を受け取る。

「アメリア、今日は屋敷に帰って来るよな?」

「帰りませんよ。私達、少し距離を置いた方がいいと思うんです」

「なら俺も帰らない。アメリアが許してくれるまで、アメリアが俺と一緒に屋敷に帰るまで俺も、帰らない」

「えっ……。そっ、そんなこと言われても、まだ許しませんから」

 アメリアはそう言うと、扉を開け帰ってしまった、教会へ。
その日からテオバルトも、アメリアの後を追うように、仕事後は屋敷には戻らず、教会に行った。
少しでもアメリアの近くに、アメリアの気配を感じるために。
食事も、睡眠も、満たされない日々だったが、テオバルトは一人で屋敷に帰るよりは、心が落ち着いていられた。
また毎日のように、いや アメリアと目と目が合う度に、テオバルトはアメリアに何かしらプレゼントを渡した。
それはオルゴールや花瓶やランプなど、テオバルト自身がアメリアのために悩み、選んだ品々で、どれも最高品。

 そんな生活が5日ほど過ぎた時だろうか、いつものようにテオバルトが教会に行くとアメリアの気配が全く感じられなかった。
聖女レーナを強引に呼び出し、問い詰めたが「知らない」の一点張り。
王宮に戻りアメリアを魔法で探したがどこにもいない。
街も探したが、どこにもいない。
アメリアがいない、どこにもいない……、そう思った瞬間、テオバルトは目の前が真っ暗になり、膝から崩れ落ちた。



「    ァルト様っ  テオバルト様っ」

 どこからかアメリアの声が聞こえる。
テオバルトの名を呼ぶアメリアの声が。

「テオバルト様? 気づきましたか?」

 やはりアメリアの声が聞こえる。
テオバルトはガバっと置き、周囲を見渡した。
すると、アメリアが心配そうにテオバルトを見つめている。

「アメリアっ」

 テオバルトは思わず、アメリアを力一杯抱きしめた。

「テオバルト様っ、苦しいですっ」

「すっ、すまない……、ここは……、俺の屋敷か……?」

「そうですよ。街のど真ん中でテオバルト様は倒れていたんです。騎士達に運んで貰ったんです」

「あ、ああ……、そうだっ、アメリアはあの時何処にいたんだ? 俺は……、俺はアメリアがいなくて」

「あの日は、屋敷に戻っていました」

「そっ、そうだったのか……。アメリア、本当にすまない。許して欲しい、お願いだ」

「はい、いいですよ。許してあげます。私もちょっと意固地になりすぎたかなって反省しています」

「アメリア、もう二度と、二度と、いなくなるな」

「わかりました。でもテオバルト様も、もう二度とあんなことしないで下さいね」

「ああ、ああ、二度としない」

「約束ですよ」

「約束だ」

 アメリアは、いつもの可愛らしい花のような笑顔をテオバルトに向けた。
ああ、やはりアメリアなしでは、到底生きられない、生きてなどいけない、そうテオバルトは確信した。

「アメリア、2つ目の俺の願い事を今、叶えてくれるだろうか?」

「2つ目の願い事……、そうでしたね、まだ叶えてませんでしたね。いいですよ、どんなことですか?」

「アメリアに魔法を掛けたい」

「どんな魔法ですか?」

「アメリアを……、守る魔法だ」

「以前貰った、このブレスレッドも私を守ってくれるって言ってましたけど」

「それよりも、強力な保護魔法だ。その魔法はアメリアの身体に刻印され、一生消えない。また刻印される瞬間、痛みが生じる」

「凄く痛いですか?」

「痛いな……」

「……いいですよ。2つ目の願い事、叶えて下さい。あっ、テオバルト様と同じように顔に刻印されるんですか?」

「違う。なるべく人から見えない場所がいいと思っている。だから腿の内側でいいか?」

「はい。大丈夫です。でもせっかくのテオバルト様の願い事なのに、私の為に使っていいんですか」

「ああ。これは俺のためでもあるから」

「ふーーん、そうなんですね。わかりました」

「じゃあ、今から魔法を掛ける。アメリアは横になって目を瞑って」

 テオバルトは深呼吸し、アメリアの腿に手を置いた。
そして呪文を唱える。

「ぅう、痛いぃぃ」

 アメリアの内腿に、じわ~っと浮き出るように赤黒い魔法陣か刻印がされた。

「アメリア、魔法は成功した」

 アメリアは刻印を不思議そうに見つめ、その刻印を手で触った。

「なんか、魔導士になったみたい。魔法使えたりしませんか?」

「残念だか、魔法は使えない」 

「そうなんですね。これで私は安泰ですね。それで……、テオバルト様、これからですけど……、食事にしますか? それともお風呂? それとも……、私?」

「すぐに風呂に入って、アメリアだっ。絶対にどこにも行くな、絶対だ」

 テオバルトは、素早く、しかし入念に身体を洗う。
そしてすぐに、アメリアに抱きついた。

「愛している、アメリア。愛している」

「わっ。わたしも、あっ、愛してますっ」

 アメリアの衣服を剥ぎ取り、柔らかい乳房に触れ、同時に唇を這わす。
ああ、なんて柔らかいんだ。
溶けてしまいそうなほど、柔らかい。
ずっと、永遠に触り続けたい。

 「あっ、テオバルトさまっ。胸ばっかり、さわっちゃ、いやだぁっ、あっ…」

 テオバルトは舌を、乳首からアメリアの可愛らしい蕾に向かって這わす。
そしてその蕾の花弁を開くように舌を押し当てる。

「あっっ、んっ、んんっ、ぁ…、っ、  あっ」

 アメリアの喘ぎが、テオバルトを興奮させる。
もっと愛撫しアメリアをイカせてから挿れたかったが、テオバルトはもう我慢の限界だった。
テオバルトは、アメリアの割れ目にペニスをグッと押し込むようにして挿れる。

 なんて気持ちがいいんだっ。

「アメリア、愛している。もう二度と離れるな、離れたら絶対に許さないっ」

 テオバルトは、その言葉を何度も、何度も、口に出す。
アメリアは目を潤ませ、頬が熟れた桃のように紅潮している。
全てを、アメリアの全てを喰らい尽くしたい。

「んんっ、んっ……、なっ、なんかっ、わたしっ、あっ、ああっ、きちゃう、きちゃうぅっ」

 アメリアの中が、テオバルトのペニスを絞りとるように絡みつき、ビクビクと、脈立つ。

「くっっ……」

 激しい快楽がテオバルトを貫き、一瞬にして全身の力が抜け落ちた。
そしてテオバルトは、アメリアに覆い被さるようにぐったりと倒れ込んだ。
アメリアは苦しいのか、目も口もギュッと閉じ、身体を強張らせている。
また、アメリアの中も肌もビクビクと痙攣している。

「……大丈夫か? アメリア」

「きっ、気持ち良すぎて辛い……、の……。すごい、こんなにすごいなんて……」

「アメリア、もしかして……」

「わたし、中でイったと思う」

「アメリア、やったな!」

「はい」

 アメリアは、はにかんだような笑顔をした。
ああ、笑顔のアメリアは最高に可愛い。

 それからすぐにアメリアは眠りについた。
その横で、テオバルトはアメリアの寝顔をずーっと見たり、時たま体を撫でたり突いたり、髪の毛に触ったり、アメリアを存分に楽しむ。
最後に、アメリアの内腿にある魔法陣を指でツツーっと指で撫でる。
この魔法陣は、実は保護魔法ではなく、身代わり魔法。
アメリアが死んだ時、テオバルトの命を触媒にして、アメリアを復活させる魔法。

 もしこの魔法が発動したら、きっとアメリアは怒るだろうな……。
だがすまない、アメリア。
もうアメリアなしでは生きていけないんだ。
だから、どうか、どうか、長生きしてくれ、アメリア。
テオバルトは、そう強く願いながら、アメリアを抱きしめ眠りについた。





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