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「楽には殺してやらねぇからなぁ……覚悟しろや、」
喉奥で笑いながら、嘉島は気遅れた様子も見せず、腕を動かす。
刃を引き抜いて再び突き刺し、抉り回して引き抜いては、また突き刺す。
満足気に目を細めて笑う嘉島の姿に、その場に居た組員達も流石に慄然とした。
喚き、暴れる菅田から目を背けた田岡はようやく、顔面蒼白の蓮に気付く。
華奢な身体は震えて、両足はがくがくと揺れ、立っているのがやっとと云った様子だ。
顔色がひどく悪く、額からは汗が滲み出て伝い落ち、二重の双眸は大きく見開かれている。
――組長の恐ろしい姿を目にしたからか。
それとも、残酷過ぎる光景を目の当たりにしたからだろうかと考えるが、それにしては何だか様子が違う。
近付こうと田岡が足を進ませた瞬間、大きな悲鳴が響き渡った。
菅田の声では無く、もっと高い、そして悲痛な声。
手をぴたりと止めた嘉島は緩慢な動きで振り返り、地面に膝をついている蓮を目にして、眉を顰めた。
頭を抱えて俯いている蓮の体躯が、異常なほど震えている。
「う……ぅ、あ……嫌……やだ……嫌だ……」
久しく聞いていなかった声が、か細く、切れ切れに零れ落ちる。
嘉島は目を見開き、突き刺したままの匕首から手を離した。
冷酷な一面を嘘のように消して足を進め、蓮のもとへ近付く。
「蓮、どうした……おい、」
自分でも驚くほど穏やかな口調で問い、蓮の肩を掴もうと手を伸ばす。が、その手は勢い良く払い落とされた。
嘉島が更に眉を顰め出すと、その場に居た組員達が一瞬、息を呑む。
忌々しそうに舌打ちを零しただけで、嘉島は蓮を殴りつけることもせず、華奢な身体を強引に抱き寄せた。
「嫌だっ、いや……ッ触る、な……っ」
逃げようと暴れだす蓮を強く抱き締め、宥めるように背を撫でてやる。
不機嫌な顔とは裏腹に、その手付きはあまりにも優しい。
「……そいつ、そうか……あの時の」
苦しげな菅田の声が耳に届くが嘉島は振り返らず、蓮を宥める事に集中する。
そうしながらも、背後から聞こえる菅田の声は、決して聞き逃すまいと耳を澄ましていた。
「笑えるぜ、嘉島よぉ……まだそんな薄汚れた人形を、手元に置いてやがるのか……」
せせら笑う菅田の言葉を背中に浴びるが、蓮の背を撫でる嘉島の手付きは、相変わらず緩やかだった。
自分の腕の中で暴れる蓮の動きは、徐々に静まっていったが
身体は未だに震えたままで――少しでも離れれば、壊れてしまいそうな気配がする。
蓮が完全に大人しくなると、嘉島は徐に振り向いた。
蓮へ向けられていた表情とは打って変わり、険しく、刺すような鋭さを感じる。
獰猛で狂気的な雰囲気を纏う嘉島に、菅田は一瞬だけ怯むが、負けじと虚勢を張り続けた。
喉奥で笑いながら、嘉島は気遅れた様子も見せず、腕を動かす。
刃を引き抜いて再び突き刺し、抉り回して引き抜いては、また突き刺す。
満足気に目を細めて笑う嘉島の姿に、その場に居た組員達も流石に慄然とした。
喚き、暴れる菅田から目を背けた田岡はようやく、顔面蒼白の蓮に気付く。
華奢な身体は震えて、両足はがくがくと揺れ、立っているのがやっとと云った様子だ。
顔色がひどく悪く、額からは汗が滲み出て伝い落ち、二重の双眸は大きく見開かれている。
――組長の恐ろしい姿を目にしたからか。
それとも、残酷過ぎる光景を目の当たりにしたからだろうかと考えるが、それにしては何だか様子が違う。
近付こうと田岡が足を進ませた瞬間、大きな悲鳴が響き渡った。
菅田の声では無く、もっと高い、そして悲痛な声。
手をぴたりと止めた嘉島は緩慢な動きで振り返り、地面に膝をついている蓮を目にして、眉を顰めた。
頭を抱えて俯いている蓮の体躯が、異常なほど震えている。
「う……ぅ、あ……嫌……やだ……嫌だ……」
久しく聞いていなかった声が、か細く、切れ切れに零れ落ちる。
嘉島は目を見開き、突き刺したままの匕首から手を離した。
冷酷な一面を嘘のように消して足を進め、蓮のもとへ近付く。
「蓮、どうした……おい、」
自分でも驚くほど穏やかな口調で問い、蓮の肩を掴もうと手を伸ばす。が、その手は勢い良く払い落とされた。
嘉島が更に眉を顰め出すと、その場に居た組員達が一瞬、息を呑む。
忌々しそうに舌打ちを零しただけで、嘉島は蓮を殴りつけることもせず、華奢な身体を強引に抱き寄せた。
「嫌だっ、いや……ッ触る、な……っ」
逃げようと暴れだす蓮を強く抱き締め、宥めるように背を撫でてやる。
不機嫌な顔とは裏腹に、その手付きはあまりにも優しい。
「……そいつ、そうか……あの時の」
苦しげな菅田の声が耳に届くが嘉島は振り返らず、蓮を宥める事に集中する。
そうしながらも、背後から聞こえる菅田の声は、決して聞き逃すまいと耳を澄ましていた。
「笑えるぜ、嘉島よぉ……まだそんな薄汚れた人形を、手元に置いてやがるのか……」
せせら笑う菅田の言葉を背中に浴びるが、蓮の背を撫でる嘉島の手付きは、相変わらず緩やかだった。
自分の腕の中で暴れる蓮の動きは、徐々に静まっていったが
身体は未だに震えたままで――少しでも離れれば、壊れてしまいそうな気配がする。
蓮が完全に大人しくなると、嘉島は徐に振り向いた。
蓮へ向けられていた表情とは打って変わり、険しく、刺すような鋭さを感じる。
獰猛で狂気的な雰囲気を纏う嘉島に、菅田は一瞬だけ怯むが、負けじと虚勢を張り続けた。
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