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第2話 新たな仲間
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「敵とみなす」長老のその言葉で場の空気が凍りついた。長老の顔からは先程の様な笑みは消え、冷静な眼差しでケールを直視していた
魔女の子とは思っていたがこうも簡単に見抜かれるとは、流石に見くびっていたかもしれない。ここでエルフ達を敵に回すとケール諸共殺されかねない
「どうしたアルタイア大尉」
そんなことを考えていると長老が口を開いた、と同時に汗が頬をつたう感覚が鮮明に感じ取れた
まずい、非常にまずい。エルフ達は戦闘や争い事は好まないものの、いざって時には魔女達にすら対抗しうる力を発揮する。しかもそれが長老レベルになると、消し炭にされる
「この子は森で保護した子供ですよ」
苦し紛れの言い訳だった。だが、馬鹿正直に森で保護した魔女の子ですなんて言えるはずもない。俺の言葉に長老はしばらく沈黙し口を開いた
「そうか、まぁよい。俺とアルタイアの仲だ見逃してやろう」
長老はそう言うとまた笑顔に戻り椅子に腰をかけた。どうやら俺の嘘には気づいているようだった
「だけどな、次その子が一緒にいる所を見つけたら殺す」
そう言い放った長老は赤色のオーラを体に纏い、殺気に溢れた目で俺を睨みつけた。一瞬の出来事で俺達を案内したエルフも動揺していた、だがケールだけが依然変わらぬ態度で長老を眺めていた
「…分かりました」
この時俺は敵は魔女だけではないと悟った。魔女の子を連れている以上、エルフのみならず人間も敵になるかもしれない
「ほっほ、分かればいい。なら大人しく帰ることだな、この集落はお前だけなら大歓迎だかその子は話が違う」
長老の冷たい言葉が少し琴線に触れたが、ここは出るのが最優先だろう。この子をとにかく連れ帰るのが最優先だ
俺は長老に「ありがとうございました」と一礼をしその場を後にした
「さて、ここから軍施設まではだいぶあるが歩いて行く…しかないな」
現在地から軍施設までは歩いて丸一日はかかるだろう。軍施設から前線までは馬に乗って3時間程、ケールのペースに合わせて歩くとなると丸一日は余裕でかかるはずだ
「…」
相変わらずケールは何も喋らずじっと遠くを見ていた。だが、俺が歩き出すとテクテクと着いて来、立ち止まるとまた遠くを見始める
子供の好奇心と言うやつなのだろうか?まぁ付いてくるだけマシだ。俺は考えることはやめ軍施設へと歩き出した
♦
歩き出して数時間、現在俺たちは魔女から逃げた森と軍施設との半分の位置にある『アミト湿地』と呼ばれる湿地帯に来ていた。ここらには魔物が出没するという噂のある危険地域だ、気を付けて行か無ければ命が無い
魔物と言うのは魔女が生み出す獣の事で、上手く使役出来た魔物の事を『使役獣』、使役できず野生化した物を『魔物』と呼ぶ。魔物は魔女の言うことも聞かず目につくものに全てに牙をむく。しかし変わった事に魔物同士では争わない、それどころか群れて他の動物や人間、時には魔女ですら狩る
「ケール離れるなよ、この辺は魔物が出る」
ケールは静かに頷くと俺の後をついてくる。こんな子供が魔物に襲われると一溜りもない
湿地帯のジメジメした空気に嫌悪感を覚えつつも、ドンドンと突き進みやがてアミト湿地の真ん中へと辿り着く。あと半分でこの湿地を抜けれる、ここからは地面がさらに泥濘む、俺はケールをおんぶすると再び歩み出した
「ケール…静かにしろよ動くんじゃない」
俺は目の前に現れた1匹の魔物によって足を止めていた。5m程の巨体、コウモリのような羽に顔からは無数の触手が飛び出した鳥とタコを混ぜたような魔物がそこにはいた
この魔物の名前は『アルゴス』、湿地帯にのみ生息し普段は1匹で生活している魔物だ。しかし、1番出くわしては行けない者に出くわしてしまった
アルゴスは大きな羽を振るい目の前の地面に着地すると、周りを見渡し獲物を探し始めた。アルゴスは真っ暗な湿地にいるせいか目が良くなく、じっとしていれば気付かれない…はずだ
「ッツまずい」
しかし、じっとしている間にケールの重みも重なり足がドンドン地面へと飲み込まれて行く。このままでは埋まってしまうのも時間の問題だろう、だからと言って動いても奴の餌になるだけだ
「ギギ…」
アルゴスが視線を逸らした時、俺は足を引き抜き走り出した。一か八かの賭けだがじっとしていたらそのまま死んでしまう。アルゴスはしつこい奴で、1度着地すると獲物を見つけるまでその付近から離れない
「ガァァア!」
走り出し数秒、アルゴスがこちらに気付き奇声を上げ追いかけてくる。アルゴスが歩く度に地面が揺れ、死が迫っているという恐怖感が込み上げてきた。だが、走り出したらもう止まれない
「ッツ!」
しかし、泥に足を取られその場で盛大に転んでしまう。ケールはそのまま投げ捨てられ、俺は地面に顔から着地する。泥の冷たさを感じる間もなく焦りと動揺で、気が触れそうになるが立ち上がりケールに覆い被さる
ケールを抱えあげ起き上がろうとするが、振り向くと俺の顔から数センチの所にアルゴスの触手が迫っていた
「ギィ……!」
触手が俺を絡めとる直前、アルゴスの頭から凄まじい音と共に血が吹き出しそのまま絶命した。アルゴスが倒れると辺りの泥が飛び散り、辺りに飛散した
しかしさっきの爆音、聞き慣れた音だ。恐らく銃、それもスナイパーライフルの類だろう、正確にアルゴスの脳天を撃ち抜いている
「さて、食料調達完了~アンタら何してんの?」
倒れたアルゴスの頭の上に1人の少年がどこから現れたのか、着地しそう言った
「…お前は?」
「僕か?普通自己紹介アンタからでしょ、命の恩人なんだから。まぁいいか、僕の名前はルキア、ここに住んでる人間さ」
赤髪の少年ルキアはそう言い手に持っていた銃を背にぶら下げた。よく見るとその銃も見たことない形状をしていた、しかし今はそんなことはどうでもいい
「俺はアルタイア、軍の大尉をしている。こっちの子はケールだ、助けてくれてありがとう」
「ふーん、軍の大尉か。とにかくウチに来なよ、もう日が暮れる。この辺は日が暮れるとアルゴスレベルの魔物がうじゃうじゃいるからねぇ~」
怪しい。怪しいがルキアの言う通りだ、アルゴスのせいで無駄な時間を食った、言葉に甘えさせてもらう事にしよう。ルキアはアルゴスの肉を抉り取り袋に詰めると、俺達に「着いてきな」といい案内を始めた
湿地帯の奥へ奥へと足を踏み入れていくと、そこにひとつの家のようなものが現れた。家は沼地に建設されており濡れないように高床式となっていた
「ここが我が家だよ~」
ルキアが1人で建てたのだろうか、家は意外としっかりしており中に3人入っても揺れすらしなかった。家の中には机や椅子、ベットまであり充実した環境が整っていた
「凄いな、どーやってこんなとこに」
「大変だったよ?」
「だろうな」
ルキアはおもむろにキッチンへと移動すると袋からアルゴスの肉を取りだし、ナイフで捌き始めた
「久々の客人だ、料理作ってやるから座ってな」
そういいルキアは慣れた手つきでアルゴスのどこの肉かも分からないものを、捌きフライパンで炒め始めた。頼むからどこの肉かだけを教えていただきたい……
そしてしばらくすると机の上を美味そうな肉料理が埋めつくした。美味そうなんだ、とても美味そうなんだけど何処の肉だ……。しかし、適当そうな見た目と発言とは裏腹に、しっかりとした物を作り上げたルキアに驚かされたのは事実だ
俺とケールは椅子に座りアルゴスの肉を恐る恐る口に運んだ
「うめぇ!」
思わず声が漏れだしてしまう、どこの部位かも分からないアルゴスの肉はとても味わい深く、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し口を満たした。ケールはこんな美味い飯を食べても相変わらず表情一つ変えないが、無我夢中で口に運んでいる辺り気に入ったのだろう
「そうだろ?しかし、そっちの女の子全然喋らないな。何者だ?」
「この子は魔女の森で保護した女の子だ、多分魔女の子だが」
「ふ~ん」
魔女の子と聞くとルキアは一瞬眉をひそめた、しかし、先程からルキアからは敵意が全くと言っていいほど感じられない、こいつになら真実を話してもいいと思った俺の判断だ。判断ミスじゃ無ければルキアが敵意をむき出すことはないだろう
「おもしろいなアンタ、人間だろ?」
「まぁな、だが困ってる子を助けるのに理由はいらないだろ?」
「へぇ…気に入った。僕アンタらに着いてくよ」
ルキアは少し考えるとそう言った。突拍子もない言い出しに思わず言葉を失う。流石に仲間にするには謎が多すぎる、俺はルキアのことをもっと詳細に聞き出す事にした
「まぁ、着いてこさせるかどうかはルキア、君の話を聞いてからだな」
「ふむ…僕は至って普通の人間だよ。魔女に両親を殺された人間さ」
そう言い放ったルキアには先程までは微塵も感じなかった殺意が感じられた。俺は思わずケールを守るために立ち上がる
「はは、大丈夫だよ。僕が憎んでる魔女はただ1人…風の魔女『アセチル・ナイトレート』ただ1人だよ」
ルキアは歯を食いしばりそう言った。風の魔女『アセチル・ナイトレート』初めて聞く名だ、いや、正確には名前を初めて知ったと言うべきか
魔女には4人の中心的人物が居る、それぞれ火の魔女、水の魔女、風の魔女、地の魔女の4人
この4人は魔女達の中でも『カダス』と呼ばれており、一人一人が絶大な戦力を誇る。我が隊が殺られたのは恐らく火の魔女だ
しかし、名前は流出していないはずだ
「この湿地帯はね、元々ナイトレートの支配下だったんだよ。ナイトレートは魔物を生み出すのを得意としていた魔女でね、次々と魔物を生み出してはここに住んでいた人達を餌にしたり、魔物の世話焼きにされたんだ」
淡々と話していくルキアの顔は段々と悲しみに溢れた顔に変化していくのが感じ取れた
♦
ある日、ナイトレートに呼び出された僕達家族はいつもどうり、湿地帯の中心に設置された円形のガラス張りにされた闘技場のような場所へと来ていた
僕の両親はとても強く魔物の力試し用の人材として利用されていた
いつもどうりナイトレートが生み出した魔物とこの施設で戦って終わり、そう思っていた僕の考えはすぐに打ち砕かれる
「さぁ、ルキア、君はこっちにおいで」
ナイトレートに呼ばれた僕は両親と離れ、闘技場の中を見渡せるガラス張りの観察部屋に案内された。ナイトレートは幼い僕を何故か気に入っており、いつも両親が魔物と戦う姿をここから見せられている
やがていつものようにナイトレートが生み出した魔物が、魔法陣の中から姿を現した。しかし、今回登場した魔物に僕は絶望の表情を浮かべた
タコのような風貌、30mはあろう圧倒的な巨体、触手1本で村ぐらいの規模なら叩き潰せるほどの大きさの化け物が、魔法陣から引きずり出されるように現れた。その化け物は見ただけで勝てない事がわかった、殺される…母さん達が殺される!
「ねぇ、ナイトレート死んじゃうよ……母さん達死んじゃうよ!」
「死んだらそこまでって事だよ」
声を荒らげる僕をナイトレートは一瞥するとそう言った。ナイトレートの顔は今までに無いほどの笑顔に包まれていた
「グオオォオ!!!」
やがて魔物は鼓膜が潰れそうになるほどの咆哮を上げ、両親目掛け触手を振るった
「さぁ、『エコー』!君の力を見せてくれ!そいつらを殺せ!」
ナイトレートはワクワクしたような顔でそう言い楽しそうに両親と『エコー』と呼ばれる化け物の戦いを眺めていた
やがて、エコーは触手の先に魔法陣を出現させそこからレーザーの様なものを放出した。放出されたレーザーは地面をえぐり施設のガラスをも飲み込み父親を一瞬で消し飛ばした
そして、ターゲットを母親へと変更しその触手を伸ばした。母親は遠距離の戦いを得意としている、近距離で気を引く役目の父親が居なくなった時点で負けることは明白だ
「強化ガラスをいとも容易く溶かしたか…凄まじい威力だ」
「て、てめぇ……」
そんな事を言い笑いながらメモを取るナイトレートに殺意が芽ばえる。しかし、殴りかかろうと腕を伸ばしたが見えない力で弾き返された。魔法の影響だろう、何度殴りかかろうと触れることすら出来ない
やがて、エコーの触手は母親を絡めとり真っ二つに母親の体を引きちぎった。母親の上半身は宙を舞い観察施設のガラスに叩きつけられた
「あ……っあ……かぁ…さん…」
口から血を流し、臓物をさらけ出し絶命寸前の母さんはガラス越しに「愛してる」と掠れた声で言うとそのまま絶命した。目の前で起きた信じられない出来事に涙すら流れず、声を失いその場に崩れ落ちる
「フフ、ハハハハ!そうだよルキア!君のその絶望の表情が見たかったのさ!傑作だ!生かしておいて良かったよ!」
大声で笑い散らすナイトレート、僕の中で何かがちぎれる様な音がした
「ナイトレェェェト!!!」
「さて、実験は終わりだ。私は魔女街へと帰ることにするよ、せいぜい生き延びてくれたまえルキアくん」
殴りかかろうとする僕を蹴り飛ばしナイトレートはそう言うとその場から姿を消した。それと同時にエコーという魔物も魔法陣に飲み込まれ姿を消した。急いで母親の死体に駆け寄り声をかける、しかし
「母さん…母さぁぁぁん!!」
返事がある訳もなくドンドンと冷たくなっていく母親の体温を感じ、無力な僕には泣き叫ぶ事しか残されていなかった
「ナイトレート…絶対に許さない…」
母さんの死体に下げられていた銃を手に取り僕は復讐を誓った。故郷を荒らし、両親を殺し、他の仲間まで奪った風の魔女を殺す。そう決めた僕は銃を手にその場を後にした
♦
「って感じだね…」
ルキアの一連の出来事を聞き俺は深く怒りに燃えていた。風の魔女…とんだゲス野郎だ
「ルキア、俺達に着いてこい。絶対に風の魔女に復讐させてやる」
「元から断られても行くつもりさ。これからよろしく頼むよアルタイア大尉殿~」
ふざけた顔でそう言うルキアの頭を撫で、その日は眠りにつく事にした。しかし、ケールはこんな話を聞いても表情1つ変えない…一体何が彼女をここまでしばりつけているんだろうか
魔女の子とは思っていたがこうも簡単に見抜かれるとは、流石に見くびっていたかもしれない。ここでエルフ達を敵に回すとケール諸共殺されかねない
「どうしたアルタイア大尉」
そんなことを考えていると長老が口を開いた、と同時に汗が頬をつたう感覚が鮮明に感じ取れた
まずい、非常にまずい。エルフ達は戦闘や争い事は好まないものの、いざって時には魔女達にすら対抗しうる力を発揮する。しかもそれが長老レベルになると、消し炭にされる
「この子は森で保護した子供ですよ」
苦し紛れの言い訳だった。だが、馬鹿正直に森で保護した魔女の子ですなんて言えるはずもない。俺の言葉に長老はしばらく沈黙し口を開いた
「そうか、まぁよい。俺とアルタイアの仲だ見逃してやろう」
長老はそう言うとまた笑顔に戻り椅子に腰をかけた。どうやら俺の嘘には気づいているようだった
「だけどな、次その子が一緒にいる所を見つけたら殺す」
そう言い放った長老は赤色のオーラを体に纏い、殺気に溢れた目で俺を睨みつけた。一瞬の出来事で俺達を案内したエルフも動揺していた、だがケールだけが依然変わらぬ態度で長老を眺めていた
「…分かりました」
この時俺は敵は魔女だけではないと悟った。魔女の子を連れている以上、エルフのみならず人間も敵になるかもしれない
「ほっほ、分かればいい。なら大人しく帰ることだな、この集落はお前だけなら大歓迎だかその子は話が違う」
長老の冷たい言葉が少し琴線に触れたが、ここは出るのが最優先だろう。この子をとにかく連れ帰るのが最優先だ
俺は長老に「ありがとうございました」と一礼をしその場を後にした
「さて、ここから軍施設まではだいぶあるが歩いて行く…しかないな」
現在地から軍施設までは歩いて丸一日はかかるだろう。軍施設から前線までは馬に乗って3時間程、ケールのペースに合わせて歩くとなると丸一日は余裕でかかるはずだ
「…」
相変わらずケールは何も喋らずじっと遠くを見ていた。だが、俺が歩き出すとテクテクと着いて来、立ち止まるとまた遠くを見始める
子供の好奇心と言うやつなのだろうか?まぁ付いてくるだけマシだ。俺は考えることはやめ軍施設へと歩き出した
♦
歩き出して数時間、現在俺たちは魔女から逃げた森と軍施設との半分の位置にある『アミト湿地』と呼ばれる湿地帯に来ていた。ここらには魔物が出没するという噂のある危険地域だ、気を付けて行か無ければ命が無い
魔物と言うのは魔女が生み出す獣の事で、上手く使役出来た魔物の事を『使役獣』、使役できず野生化した物を『魔物』と呼ぶ。魔物は魔女の言うことも聞かず目につくものに全てに牙をむく。しかし変わった事に魔物同士では争わない、それどころか群れて他の動物や人間、時には魔女ですら狩る
「ケール離れるなよ、この辺は魔物が出る」
ケールは静かに頷くと俺の後をついてくる。こんな子供が魔物に襲われると一溜りもない
湿地帯のジメジメした空気に嫌悪感を覚えつつも、ドンドンと突き進みやがてアミト湿地の真ん中へと辿り着く。あと半分でこの湿地を抜けれる、ここからは地面がさらに泥濘む、俺はケールをおんぶすると再び歩み出した
「ケール…静かにしろよ動くんじゃない」
俺は目の前に現れた1匹の魔物によって足を止めていた。5m程の巨体、コウモリのような羽に顔からは無数の触手が飛び出した鳥とタコを混ぜたような魔物がそこにはいた
この魔物の名前は『アルゴス』、湿地帯にのみ生息し普段は1匹で生活している魔物だ。しかし、1番出くわしては行けない者に出くわしてしまった
アルゴスは大きな羽を振るい目の前の地面に着地すると、周りを見渡し獲物を探し始めた。アルゴスは真っ暗な湿地にいるせいか目が良くなく、じっとしていれば気付かれない…はずだ
「ッツまずい」
しかし、じっとしている間にケールの重みも重なり足がドンドン地面へと飲み込まれて行く。このままでは埋まってしまうのも時間の問題だろう、だからと言って動いても奴の餌になるだけだ
「ギギ…」
アルゴスが視線を逸らした時、俺は足を引き抜き走り出した。一か八かの賭けだがじっとしていたらそのまま死んでしまう。アルゴスはしつこい奴で、1度着地すると獲物を見つけるまでその付近から離れない
「ガァァア!」
走り出し数秒、アルゴスがこちらに気付き奇声を上げ追いかけてくる。アルゴスが歩く度に地面が揺れ、死が迫っているという恐怖感が込み上げてきた。だが、走り出したらもう止まれない
「ッツ!」
しかし、泥に足を取られその場で盛大に転んでしまう。ケールはそのまま投げ捨てられ、俺は地面に顔から着地する。泥の冷たさを感じる間もなく焦りと動揺で、気が触れそうになるが立ち上がりケールに覆い被さる
ケールを抱えあげ起き上がろうとするが、振り向くと俺の顔から数センチの所にアルゴスの触手が迫っていた
「ギィ……!」
触手が俺を絡めとる直前、アルゴスの頭から凄まじい音と共に血が吹き出しそのまま絶命した。アルゴスが倒れると辺りの泥が飛び散り、辺りに飛散した
しかしさっきの爆音、聞き慣れた音だ。恐らく銃、それもスナイパーライフルの類だろう、正確にアルゴスの脳天を撃ち抜いている
「さて、食料調達完了~アンタら何してんの?」
倒れたアルゴスの頭の上に1人の少年がどこから現れたのか、着地しそう言った
「…お前は?」
「僕か?普通自己紹介アンタからでしょ、命の恩人なんだから。まぁいいか、僕の名前はルキア、ここに住んでる人間さ」
赤髪の少年ルキアはそう言い手に持っていた銃を背にぶら下げた。よく見るとその銃も見たことない形状をしていた、しかし今はそんなことはどうでもいい
「俺はアルタイア、軍の大尉をしている。こっちの子はケールだ、助けてくれてありがとう」
「ふーん、軍の大尉か。とにかくウチに来なよ、もう日が暮れる。この辺は日が暮れるとアルゴスレベルの魔物がうじゃうじゃいるからねぇ~」
怪しい。怪しいがルキアの言う通りだ、アルゴスのせいで無駄な時間を食った、言葉に甘えさせてもらう事にしよう。ルキアはアルゴスの肉を抉り取り袋に詰めると、俺達に「着いてきな」といい案内を始めた
湿地帯の奥へ奥へと足を踏み入れていくと、そこにひとつの家のようなものが現れた。家は沼地に建設されており濡れないように高床式となっていた
「ここが我が家だよ~」
ルキアが1人で建てたのだろうか、家は意外としっかりしており中に3人入っても揺れすらしなかった。家の中には机や椅子、ベットまであり充実した環境が整っていた
「凄いな、どーやってこんなとこに」
「大変だったよ?」
「だろうな」
ルキアはおもむろにキッチンへと移動すると袋からアルゴスの肉を取りだし、ナイフで捌き始めた
「久々の客人だ、料理作ってやるから座ってな」
そういいルキアは慣れた手つきでアルゴスのどこの肉かも分からないものを、捌きフライパンで炒め始めた。頼むからどこの肉かだけを教えていただきたい……
そしてしばらくすると机の上を美味そうな肉料理が埋めつくした。美味そうなんだ、とても美味そうなんだけど何処の肉だ……。しかし、適当そうな見た目と発言とは裏腹に、しっかりとした物を作り上げたルキアに驚かされたのは事実だ
俺とケールは椅子に座りアルゴスの肉を恐る恐る口に運んだ
「うめぇ!」
思わず声が漏れだしてしまう、どこの部位かも分からないアルゴスの肉はとても味わい深く、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し口を満たした。ケールはこんな美味い飯を食べても相変わらず表情一つ変えないが、無我夢中で口に運んでいる辺り気に入ったのだろう
「そうだろ?しかし、そっちの女の子全然喋らないな。何者だ?」
「この子は魔女の森で保護した女の子だ、多分魔女の子だが」
「ふ~ん」
魔女の子と聞くとルキアは一瞬眉をひそめた、しかし、先程からルキアからは敵意が全くと言っていいほど感じられない、こいつになら真実を話してもいいと思った俺の判断だ。判断ミスじゃ無ければルキアが敵意をむき出すことはないだろう
「おもしろいなアンタ、人間だろ?」
「まぁな、だが困ってる子を助けるのに理由はいらないだろ?」
「へぇ…気に入った。僕アンタらに着いてくよ」
ルキアは少し考えるとそう言った。突拍子もない言い出しに思わず言葉を失う。流石に仲間にするには謎が多すぎる、俺はルキアのことをもっと詳細に聞き出す事にした
「まぁ、着いてこさせるかどうかはルキア、君の話を聞いてからだな」
「ふむ…僕は至って普通の人間だよ。魔女に両親を殺された人間さ」
そう言い放ったルキアには先程までは微塵も感じなかった殺意が感じられた。俺は思わずケールを守るために立ち上がる
「はは、大丈夫だよ。僕が憎んでる魔女はただ1人…風の魔女『アセチル・ナイトレート』ただ1人だよ」
ルキアは歯を食いしばりそう言った。風の魔女『アセチル・ナイトレート』初めて聞く名だ、いや、正確には名前を初めて知ったと言うべきか
魔女には4人の中心的人物が居る、それぞれ火の魔女、水の魔女、風の魔女、地の魔女の4人
この4人は魔女達の中でも『カダス』と呼ばれており、一人一人が絶大な戦力を誇る。我が隊が殺られたのは恐らく火の魔女だ
しかし、名前は流出していないはずだ
「この湿地帯はね、元々ナイトレートの支配下だったんだよ。ナイトレートは魔物を生み出すのを得意としていた魔女でね、次々と魔物を生み出してはここに住んでいた人達を餌にしたり、魔物の世話焼きにされたんだ」
淡々と話していくルキアの顔は段々と悲しみに溢れた顔に変化していくのが感じ取れた
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ある日、ナイトレートに呼び出された僕達家族はいつもどうり、湿地帯の中心に設置された円形のガラス張りにされた闘技場のような場所へと来ていた
僕の両親はとても強く魔物の力試し用の人材として利用されていた
いつもどうりナイトレートが生み出した魔物とこの施設で戦って終わり、そう思っていた僕の考えはすぐに打ち砕かれる
「さぁ、ルキア、君はこっちにおいで」
ナイトレートに呼ばれた僕は両親と離れ、闘技場の中を見渡せるガラス張りの観察部屋に案内された。ナイトレートは幼い僕を何故か気に入っており、いつも両親が魔物と戦う姿をここから見せられている
やがていつものようにナイトレートが生み出した魔物が、魔法陣の中から姿を現した。しかし、今回登場した魔物に僕は絶望の表情を浮かべた
タコのような風貌、30mはあろう圧倒的な巨体、触手1本で村ぐらいの規模なら叩き潰せるほどの大きさの化け物が、魔法陣から引きずり出されるように現れた。その化け物は見ただけで勝てない事がわかった、殺される…母さん達が殺される!
「ねぇ、ナイトレート死んじゃうよ……母さん達死んじゃうよ!」
「死んだらそこまでって事だよ」
声を荒らげる僕をナイトレートは一瞥するとそう言った。ナイトレートの顔は今までに無いほどの笑顔に包まれていた
「グオオォオ!!!」
やがて魔物は鼓膜が潰れそうになるほどの咆哮を上げ、両親目掛け触手を振るった
「さぁ、『エコー』!君の力を見せてくれ!そいつらを殺せ!」
ナイトレートはワクワクしたような顔でそう言い楽しそうに両親と『エコー』と呼ばれる化け物の戦いを眺めていた
やがて、エコーは触手の先に魔法陣を出現させそこからレーザーの様なものを放出した。放出されたレーザーは地面をえぐり施設のガラスをも飲み込み父親を一瞬で消し飛ばした
そして、ターゲットを母親へと変更しその触手を伸ばした。母親は遠距離の戦いを得意としている、近距離で気を引く役目の父親が居なくなった時点で負けることは明白だ
「強化ガラスをいとも容易く溶かしたか…凄まじい威力だ」
「て、てめぇ……」
そんな事を言い笑いながらメモを取るナイトレートに殺意が芽ばえる。しかし、殴りかかろうと腕を伸ばしたが見えない力で弾き返された。魔法の影響だろう、何度殴りかかろうと触れることすら出来ない
やがて、エコーの触手は母親を絡めとり真っ二つに母親の体を引きちぎった。母親の上半身は宙を舞い観察施設のガラスに叩きつけられた
「あ……っあ……かぁ…さん…」
口から血を流し、臓物をさらけ出し絶命寸前の母さんはガラス越しに「愛してる」と掠れた声で言うとそのまま絶命した。目の前で起きた信じられない出来事に涙すら流れず、声を失いその場に崩れ落ちる
「フフ、ハハハハ!そうだよルキア!君のその絶望の表情が見たかったのさ!傑作だ!生かしておいて良かったよ!」
大声で笑い散らすナイトレート、僕の中で何かがちぎれる様な音がした
「ナイトレェェェト!!!」
「さて、実験は終わりだ。私は魔女街へと帰ることにするよ、せいぜい生き延びてくれたまえルキアくん」
殴りかかろうとする僕を蹴り飛ばしナイトレートはそう言うとその場から姿を消した。それと同時にエコーという魔物も魔法陣に飲み込まれ姿を消した。急いで母親の死体に駆け寄り声をかける、しかし
「母さん…母さぁぁぁん!!」
返事がある訳もなくドンドンと冷たくなっていく母親の体温を感じ、無力な僕には泣き叫ぶ事しか残されていなかった
「ナイトレート…絶対に許さない…」
母さんの死体に下げられていた銃を手に取り僕は復讐を誓った。故郷を荒らし、両親を殺し、他の仲間まで奪った風の魔女を殺す。そう決めた僕は銃を手にその場を後にした
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「って感じだね…」
ルキアの一連の出来事を聞き俺は深く怒りに燃えていた。風の魔女…とんだゲス野郎だ
「ルキア、俺達に着いてこい。絶対に風の魔女に復讐させてやる」
「元から断られても行くつもりさ。これからよろしく頼むよアルタイア大尉殿~」
ふざけた顔でそう言うルキアの頭を撫で、その日は眠りにつく事にした。しかし、ケールはこんな話を聞いても表情1つ変えない…一体何が彼女をここまでしばりつけているんだろうか
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貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】あなたに知られたくなかった
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他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
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