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2 白の勇者
11 その勇者 策士にして2
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にこにことホールケーキを平らげて行く。それをじーっと見つめる。黒い艶のある髪、血のような赤い瞳。
アーサーの赤とは違うほの暗い淫靡さを持った瞳。
「ねえ、魔王さま」
「はい、何でしょうか」
魔王さまはケーキに夢中で今ひとつ気付いていないが、今は威圧感も何もない。
きっと自室に入った時に、自ら無意識で、腕にはめた腕輪の効力なのだろう。魔王さまの力を抑えるようだ、アーサー、覚えた。
「魔王さまの衣服にはポイントがついているのをご存知でしょうか?」
「あ、はい」
「申し訳ないのですが、その上着も譲っていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
一枚ゲットだぜ。
少し時間を置きながら靴下も貰う。マニアックだな。
とうとう魔王さまはホールケーキを食べ切ってしまった。
「ところで魔王さま、魔王の衣服にはポイントがついていることをご存知でしょうか?」
「あ、はい」
同じような質問を何度も繰り返しているが、魔王さまはきょとんとしている。
「申し訳ないのですが、いただいてもよろしいでしょうか?もちろん、ただとはもうしません」
アーサーは立ち上がって腰の剣に手をかけた。
「‼︎何を」
しゅるん、鞘から抜いたそれはケーキのカット用のナイフだった。ゴソゴソと荷物の中からそれは見事なケーキを1つ取り出した。
「ミルフィーユですので、断面をみていただきたくて」
すっとナイフを入れると何層にも重なった美しい断面が顔を出す。
「美味しいですよ?」
魔王さまはシャツを手渡して、上半身裸になってしまった。
ふわふわの毛布をアーサーはかけてくれた。手触りが気持ちいい。
気がついてはいなかったが、魔王さまはとうとうパンツ一丁でふわふわの毛布に包まってケーキをぱくぱく食べていた。
フルコンプまであと1枚である。
「魔王さま、魔王さま、申し訳無いのですが…最後の一枚をいただいても…」
「えっと…流石に…」
ちっ、流石にゴネたか。
ことり、小さな器を出す。
「プリンです」
「⁈」
「このプリンに…こう生クリームをくるりと絞り出し、苺を乗せます」
「わぁ…!」
「さあ、どうしますか?」
「ううう…!」
フルコンプいただきましたー!
魔王さまはもふもふに包まって、プリンを食べる。自分の部屋なのだから、着替えはあるだろうに。真面目なのか、頭が回っていないのか?
もふもふ毛布から覗く手も足も白く怪我の跡1つもない。この人は数多くの勇者を返り討ちにしたのに。きっと神からのギフトが強大なのだろう。
その肌の上にクリームでデコレーションしてやったのなら、黒い髪に映えて美しいだろうか?
キラキラの星を飛ばせば夜空のようになるだろうか?
「ねぇ、魔王さま。私と契約しませんか?」
アーサーの赤とは違うほの暗い淫靡さを持った瞳。
「ねえ、魔王さま」
「はい、何でしょうか」
魔王さまはケーキに夢中で今ひとつ気付いていないが、今は威圧感も何もない。
きっと自室に入った時に、自ら無意識で、腕にはめた腕輪の効力なのだろう。魔王さまの力を抑えるようだ、アーサー、覚えた。
「魔王さまの衣服にはポイントがついているのをご存知でしょうか?」
「あ、はい」
「申し訳ないのですが、その上着も譲っていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
一枚ゲットだぜ。
少し時間を置きながら靴下も貰う。マニアックだな。
とうとう魔王さまはホールケーキを食べ切ってしまった。
「ところで魔王さま、魔王の衣服にはポイントがついていることをご存知でしょうか?」
「あ、はい」
同じような質問を何度も繰り返しているが、魔王さまはきょとんとしている。
「申し訳ないのですが、いただいてもよろしいでしょうか?もちろん、ただとはもうしません」
アーサーは立ち上がって腰の剣に手をかけた。
「‼︎何を」
しゅるん、鞘から抜いたそれはケーキのカット用のナイフだった。ゴソゴソと荷物の中からそれは見事なケーキを1つ取り出した。
「ミルフィーユですので、断面をみていただきたくて」
すっとナイフを入れると何層にも重なった美しい断面が顔を出す。
「美味しいですよ?」
魔王さまはシャツを手渡して、上半身裸になってしまった。
ふわふわの毛布をアーサーはかけてくれた。手触りが気持ちいい。
気がついてはいなかったが、魔王さまはとうとうパンツ一丁でふわふわの毛布に包まってケーキをぱくぱく食べていた。
フルコンプまであと1枚である。
「魔王さま、魔王さま、申し訳無いのですが…最後の一枚をいただいても…」
「えっと…流石に…」
ちっ、流石にゴネたか。
ことり、小さな器を出す。
「プリンです」
「⁈」
「このプリンに…こう生クリームをくるりと絞り出し、苺を乗せます」
「わぁ…!」
「さあ、どうしますか?」
「ううう…!」
フルコンプいただきましたー!
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もふもふ毛布から覗く手も足も白く怪我の跡1つもない。この人は数多くの勇者を返り討ちにしたのに。きっと神からのギフトが強大なのだろう。
その肌の上にクリームでデコレーションしてやったのなら、黒い髪に映えて美しいだろうか?
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「ねぇ、魔王さま。私と契約しませんか?」
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