マイアバターに異世界転生したら宰相だった私に救いの手を!

鏑木 うりこ

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護るべきもの

32 不安

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「拷問にかけてオウガの行方を吐かせて下さい。」

 騒ぎを聞きつけてやってきた兵士に引き渡す。

「しかし…」

「陛下に説明しておきます。リュリュ、行くよ。」

「パパ…ティーフェが…」

 リュリュの顔は青を通り越して、真っ白だ。手まで白くなっている。

「大丈夫、来て。」

 リュリュはふらふらと背中にくっついた。背負ってアルトがいる会議室へ向かう。

 リュリュを下ろし、扉を開ける。アルトの姿を確認して、礼儀も何もなしに言う。

「陛下、聖女と出ます。」

「何があった?」

「今、私達がいる救護室に伝令が来ました。」



「そして焦った様子でこう言いました。『赤竜 ティーシェ・ダグラス殿が負傷した』と。」

「敵か。」

「オウガの行方を吐かせるよう、指示しましたが、まだ行われていないでしょう。早くしないと、吐く前に死ぬかもしれません。」

 急がせろ、アルトは側近を動かす。

「リュリュ、行くよ。」

「でも…パパ、ティーフェ…」

「ティーフェを探しに行こう。私が一緒だから大丈夫だ。」

 きゅっと顔を上げたリュリュの頬に赤みが戻る。

「失礼します。」

「待て!罠だぞ‼︎」

 びくり、肩を跳ね上がらせリュリュは恐る恐る私を見上げた。

「だから、どうしたというのです?」





「リュリュ、ティーフェは無事だ。でも顔を見るまで安心出来ないでしょう?」

「でも…パパ、罠だって……」

 ふ、と一つ笑う。

「でも、気になるでしょう?」

 リュリュに雨具をかぶせる。

 伝令はアルトのもとに集まるのに、リュリュがいる救護室に来た。狙いはリュリュで間違いない。

「あの偽伝令はティーフェの名前を間違えた。キューブワースの伝令はそんなミスは絶対にしない。」

 私も雨具を着ながら、短剣と長剣を腰に吊る。しっかりしたブーツを選びリュリュに渡す。

「…ティーシェって言った……」

「あと、ティーフェ殿、なんて敬称は付けない。クソ赤竜くらいだろうし」

 手袋も渡す。雨で冷えるのを少しでも防ぎたい。

「怪我程度で報告なんてあげて来ない。」

 ティーフェは怪我では止まらない。リュリュとティーフェの仲を知って名前を出したのだろう。
 その作戦は成功した。リュリュは動揺して、外に出るのだから。私と言うおまけもついていくが。

「さあ、行くよ、リュリュ。風邪をひいても我慢しなさいね。」

「リンパパ!お願い!」

 更に激しくなる雨の中、私達は戦場に飛び出した。

 静かに市街地を行く。アルトは騎兵達に撤退の指令を飛ばしている。草原に出るまでもなく、ティーフェと会えると確信している。
 だからと言ってリュリュを連れての戦闘は避けたい。

 怖いとも寒いとも言わず、リュリュは私と手を繋いでついてくる。ただ一刻も早くティーフェに会いたいから。

「リィン!」

 違う、ティーフェの声じゃない。まさか!

「何で出てきてるんですか!」

「俺も行く。」

 流石に舌打ちをする。なんでアルトがここにいる!バカか!

「帰れ!今すぐに!」

「大丈夫だ。俺とて…」

 雨足は激しくなる、音がかき消されて行く。嫌なヤツだ。守らなければならない者が2人もいるなんて!

クソッ 恨むぞ アルト!

「ティーフェ‼︎ここだ!セレーネ!来いッ‼︎」

 短剣を投げつける。物陰から声を聞きつけたリュリュを狙う刺客の1人を倒す。ついでに長剣も投げて、民家に貼り付けにする。

 セレーネの蹄の音が聞こえる。あのティーフェの愛馬は、私に良く懐いていて、私の声を雨の中から聞き分けてくれた。

「下がって!」

「リィン!」

「何人いると思ってるんですか!ティーフェが来るまで耐えて下さい!」

 アルトの腰から予備の剣を勝手に引き抜く。蹄の音はすぐそこだ。

「リィン!」

「ティーフェ!」

 ティーフェは流れるようにリュリュを馬の上に引き上げる。そこは慣れたもの。

「アルトも!」

 3人は多すぎるが、セレーネは素晴らしい馬だ。城はすぐそこなので耐えてくれる。

「リィン!」

「1人なら逃げられる!」

 ティーフェは無理矢理アルトを掴み上げ、馬首をめぐらせた。
 私はアサシンだ。1人の方が闇に、人に紛れることが容易い。

「行け!セレーネ!」

 走り去ろうとする馬めがけて、矢が飛んでくる。慣れないアルトの剣で叩き落とし、隙を見て後退する。
 
逃げるぞ! 追え!

 誘き出した聖女より大物が出てきたのだ。千載一遇のチャンスを逃してなるかと、追いすがる。

「追わないで欲しいんだがな!」

 バックステップを踏みながら、迫る敵を払い退ける。もう少し、馬にスピードが乗ればこいつらも追いつけないし、矢も届かないだろう。

 どっ、避けきれなかった矢が足に刺さる。

くそ……!

 当然ながら毒が塗ってあり、くらっと目の前が揺れた。その隙は見逃してもらえず、脇腹に熱と痛みを感じる。
 
「痛いな…」

 毒と出血と痛みで、私は敵の真ん中で気を失った。






 
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