【完結】やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです

鏑木 うりこ

文字の大きさ
20 / 36

20 大丈夫、いけます

しおりを挟む

 魔王城を素材を集めながら進んで行くと、物凄く広いホールに出た。その一番奥に黒くてかなり気持ちの悪い黒い物が蠢いていた。ドラゴンの体っぽいのに首がある所に人間の上半身が生えているような姿。
 翼も何対もあって羽毛っぽいのもあれば皮膜っぽいのもある。色々な物がでたらめに組み合わさって巨大な生き物を作っていた。

「あいつが魔王ですか」
「でっかいですねぇ」
「うーん、やっぱりそうです。本体は頭部に人間大の物があって残りは荒れ狂った黒い魔力が歪み固められた物質になるみたい」
「見ろよ! リン。魔王の尻尾にすっごい黒水晶みたいのが棘みたいにいっぱい生えてる! あれ使えるぞ、俺あれ欲しい」
「兄ちゃん、それに体中にある鱗状の物、なんか良いよ!」
「なんていうか……全身使える!」
「それなー!」

 にこっとリンと笑いあってから、俺は殿下の所に走って戻った。

「殿下、殿下。俺、あいつの尻尾から切り取っていって、素材にします!」
「あの巨大な山のように膨れ上がった魔王をですか?!」
「はいっ! 順番待ちに切っていけば解体できます」
「……怪我をしないように、無理もしないように」
「はいっ!」

 俺は走り出す前にきちんと殿下に了承を取ることを覚えたのだ! 最初に言っておけば怒られないんだ。

「できるものなのですか、レン」
「俺の目にはあれが宝の山に見えてます! あ、でも頭の付近にある本体は要らないです! あれは素材じゃないです」
「……本体もあるんですね」
「はいっ!」
「では、行ってきて下さい」
「はいー!」

 そして俺はデカい出刃包丁を取り出す。捌くならこいつだろう!

「ふはは……今宵の虎徹は血に飢えておる!」
「兄ちゃん、その包丁に名前つけたの?」
「なんか雰囲気出るだろう!?」
「なら素直に刀を打てば良かったのに……」

 うるさいぞ、リン。刀は日常生活に使わないだろう? 俺はリンになんか良い感じの保護魔法フルセットをかけてもらって魔王に突撃していった。


「う……ここは……私は、確か黒い力に意識を奪われ……」
「あ、起きた。大丈夫ですかー? 本体さん、本体さんはアレと繋がってますかー?」
「アレ……アレとは」
「兄ちゃんー! ソレ、本体さんとは繋がってないみたい。要らないところは封印して良いみたいー」

 よし、なら良いな! 俺は最後の一振りを振り下ろす。

「真ん中の真っ黒い核みたいなのを……切り取り……成功っ! リンが作ってくれた箱にしまって蓋! オッケー」

 俺達が素材になりそうな物を全部引っぺがしたら、魔王は真ん中に人型の魔王の本体さんと真っ黒な核が入ったブヨブヨの失敗したゼリーみたいになったんだ。

「気持ち悪っ」
「ほんとだ」

 でもゼリーみたいだから、切ってもくっ付くし……素材としてももう使えなさそうだった。リンの魔法で焼き尽くそうかと思ったけど、本体さんも焼いちゃうのは可哀想かと思って上手く切り抜いたんだ。
 そして核も火をつけたらポップコーンみたいに爆発したら怖いし隔離したんだ。

「じゃあ兄ちゃんもいるし、こっちで。広域浄化!」
「おー!」

 俺を中心に白い光が広がっていく。その白い光に触れると黒いゼリーは箱ごとしゅわしゅわと泡になって消えて行く。なんか洗濯されてる気分だー。
 黒いゼリー入りの箱が全部溶けて、俺にくっ付いてたゼリーの欠片もなくなってきれいになった、助かるしスッキリしたー!

「レン! 無事ですか!」
「はいっ無事です!」

 走ってきた殿下にぎゅっと抱きつかれた。大丈夫、ちょっと時間がかかって少し疲れたけど、全然平気ですよ!

「レン、よく頑張りましたね」
「えへへ、ありがとうございます」

 やっぱり褒められたら嬉しいな!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...