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狐 オン ザ ライス
42 意外と可愛いところ、あるよ?
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朝から何度も叩いた重い扉を叩く。
「こんにちは、お時間よろしいですか?」
しん、返事はなかったが、しばらくして
「入れ」
答えがあった。
あの野郎!やっぱりか!ティアンを連れてきた時だけ開けやがる!毒づきは内心だけにして 失礼します と中に入った。まだ気がつかぬティアンを肩に担いだまま。
大きな執務机にどっかりと陣取り、学園長にして魔王陛下 ライゼフォン・ゼノアギアスは書類にサインをしていた。
ジュンヤに一瞥もしないが、それで構わないと思う。
「手短に言います。今日も無事に返してくれますか?」
「善処しよう」
なら、いいか。ジュンヤだってこの後、ラブラブデートでベッドを買わなければならないのだから!
「では」
「…」
ごっ、音がなるほど、吹き付ける黒い魔力が強くなった。おー怖い怖い。
「置いていきます?」
「…」
否とも是とも答えない。これがこの魔王なのだろう。2秒ほど、紫の目と真紅の目は絡み合ったが、机の前の来客用のソファの上にごろり、とティアンを転がした。ふーやれやれ、一応病み上がりなんだぞ、と本当に病み上がりで辛い人に謝れ!と言いたくなるような事をジュンヤは考えていた。
スタスタとそのまま扉へ向かう。真っ黒な魔力が早く出て行け!と背中を押してくるようだ。
「あ、そうだ、魔王さまー」
どこまでも太々しく聞こえる。
「今度、真のアイドルになる方法、教えて下さいねー」
魔王にも理解不能な言葉を残して、ジュンヤは扉を閉めた。
背後で防音やら、なんやら物騒な魔法が発動する気配を感じながら、ジュンヤは
「なんで言うか、可愛い所あるじゃん!」
鼻歌を歌いながら教室へ戻って行った。早く行かなくちゃ門の所でルーカスが待ってるからねー。
「…ん…あれ…?」
気がつくとどこかに座っているようだった。ジュンヤってば一体何をしたんだと、少し考えてハッとする。
自分は何か暖かいものの上に座っている!そう、人肌くらいの暖かい物の上に…物のじゃない…者だ、と。
「が、ガクエンチョウ オハヨウゴザイマス…」
「ああ」
昨日とほぼ同じ、寮の夕飯の時間まで膝の上に乗り続け
「明日も来るように」
「…ハイ……」
返事をし、もそもそもと夕飯を食べ、風呂に入ると可哀想なほど、毛が抜けてティアン史上最高にでっかいハゲが出来た。金色の毛が悲しくも製造元から大量に別れを告げた。
ーーーーーーーーーーーー
アレンは、生徒会長としても友人としても、一言言わなければならないと心に決めた。
「おっはよー!みんなー今日もいい日だねー!」
朝から今日も絶好調のジュンヤは、いつにも増して艶々で、幸せそうなピンク色だ。
「ジュンヤ…君はもう少し自重してくれ……いくら何でも、みんな気がついているぞ」
「えーそうかなー?」
むしろ気づかないはずがないのだ。誰と濃厚に混ざりあった、濃すぎる残り香のような魔力に。
誰か、と言うより毎日送り迎えをしてくる、金髪の男だ。
毎日毎日、何をしていたのか、いや、ナニを致していたのか。
「でもしょうがないんだよねー。今までために溜めた魔力が全部飛んじゃったからさー。また溜めておかないと困るでしょ?」
いい笑顔で答えるジュンヤだが、一理はあるのだ。大量にあった魔力のおかげでジュンヤは生き返られた側面もある。
だが、限度はある。
「なんで言うかー?通じ合った相手だと、効率が違うっていうか!凄くいいって言うか?」
ぱわっとリリカルなピンクの花を撒き散らさん勢いのジュンヤに、アレンはぷすりと釘を刺す。
「健全な学園生活の為に自重するように言い渡すぞ?ルーカスに」
「やめてー!」
ルーカスはとても真面目な男だ。真面目だったからこそ、病んだ。元騎士団長のルーカスに王子であるアレンが言えば彼は拝命したとばかりに、全力で答えるだろう。
ジュンヤに指一本触れないに違いない。それはジュンヤも困る。
「授業のある日は、自重しますのでそれだけは勘弁してー!」
平和を守る者としてのアレンの能力は高かった。
「そして…ティアンなんだが…」
ちらりと見るとティアンは今日も机と仲が良い。ふさふさだった尻尾はあちこちハゲ上がり、ボサボサのよれよれだ。授業中ですら、目が死んでいてこれはこれでよろしくない。
そしてこちらも自らのものではない魔力をまとっている。真っ黒な魔王の魔力だ。しかし、ティアンの方は混じり合っている訳ではなく、周囲に漂わせているだけだ。
牽制にはなっているが、いつまで持つのか。
「ジュンヤ…何かいい方法はないかな…」
解決策が見出せなければ、他の人に意見を求める。大切な能力だろう。
任せて!と言わんばかりに、パチーンとウィンクをして見せる。
「ティアン……抱かれちゃえよ」
「ぎゃーーー!」
「ジュンヤーーーー!」
「と、言うのは冗談で」
絶対に本気だったとアレンとティアンは思ったが、ジュンヤは言葉を続けた。
「ティアンさ、もうちょっと学園長とお喋りしなよ。あの人、そんなに怖い人じゃないよ」
魔王が怖くないなんて言えるのは勇者くらいだと、アレンは思ったが口には出さなかった。
「意外と可愛いところ、あるよ」
にこっと笑うジュンヤをまじまじとティアンは見た。
「こんにちは、お時間よろしいですか?」
しん、返事はなかったが、しばらくして
「入れ」
答えがあった。
あの野郎!やっぱりか!ティアンを連れてきた時だけ開けやがる!毒づきは内心だけにして 失礼します と中に入った。まだ気がつかぬティアンを肩に担いだまま。
大きな執務机にどっかりと陣取り、学園長にして魔王陛下 ライゼフォン・ゼノアギアスは書類にサインをしていた。
ジュンヤに一瞥もしないが、それで構わないと思う。
「手短に言います。今日も無事に返してくれますか?」
「善処しよう」
なら、いいか。ジュンヤだってこの後、ラブラブデートでベッドを買わなければならないのだから!
「では」
「…」
ごっ、音がなるほど、吹き付ける黒い魔力が強くなった。おー怖い怖い。
「置いていきます?」
「…」
否とも是とも答えない。これがこの魔王なのだろう。2秒ほど、紫の目と真紅の目は絡み合ったが、机の前の来客用のソファの上にごろり、とティアンを転がした。ふーやれやれ、一応病み上がりなんだぞ、と本当に病み上がりで辛い人に謝れ!と言いたくなるような事をジュンヤは考えていた。
スタスタとそのまま扉へ向かう。真っ黒な魔力が早く出て行け!と背中を押してくるようだ。
「あ、そうだ、魔王さまー」
どこまでも太々しく聞こえる。
「今度、真のアイドルになる方法、教えて下さいねー」
魔王にも理解不能な言葉を残して、ジュンヤは扉を閉めた。
背後で防音やら、なんやら物騒な魔法が発動する気配を感じながら、ジュンヤは
「なんで言うか、可愛い所あるじゃん!」
鼻歌を歌いながら教室へ戻って行った。早く行かなくちゃ門の所でルーカスが待ってるからねー。
「…ん…あれ…?」
気がつくとどこかに座っているようだった。ジュンヤってば一体何をしたんだと、少し考えてハッとする。
自分は何か暖かいものの上に座っている!そう、人肌くらいの暖かい物の上に…物のじゃない…者だ、と。
「が、ガクエンチョウ オハヨウゴザイマス…」
「ああ」
昨日とほぼ同じ、寮の夕飯の時間まで膝の上に乗り続け
「明日も来るように」
「…ハイ……」
返事をし、もそもそもと夕飯を食べ、風呂に入ると可哀想なほど、毛が抜けてティアン史上最高にでっかいハゲが出来た。金色の毛が悲しくも製造元から大量に別れを告げた。
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アレンは、生徒会長としても友人としても、一言言わなければならないと心に決めた。
「おっはよー!みんなー今日もいい日だねー!」
朝から今日も絶好調のジュンヤは、いつにも増して艶々で、幸せそうなピンク色だ。
「ジュンヤ…君はもう少し自重してくれ……いくら何でも、みんな気がついているぞ」
「えーそうかなー?」
むしろ気づかないはずがないのだ。誰と濃厚に混ざりあった、濃すぎる残り香のような魔力に。
誰か、と言うより毎日送り迎えをしてくる、金髪の男だ。
毎日毎日、何をしていたのか、いや、ナニを致していたのか。
「でもしょうがないんだよねー。今までために溜めた魔力が全部飛んじゃったからさー。また溜めておかないと困るでしょ?」
いい笑顔で答えるジュンヤだが、一理はあるのだ。大量にあった魔力のおかげでジュンヤは生き返られた側面もある。
だが、限度はある。
「なんで言うかー?通じ合った相手だと、効率が違うっていうか!凄くいいって言うか?」
ぱわっとリリカルなピンクの花を撒き散らさん勢いのジュンヤに、アレンはぷすりと釘を刺す。
「健全な学園生活の為に自重するように言い渡すぞ?ルーカスに」
「やめてー!」
ルーカスはとても真面目な男だ。真面目だったからこそ、病んだ。元騎士団長のルーカスに王子であるアレンが言えば彼は拝命したとばかりに、全力で答えるだろう。
ジュンヤに指一本触れないに違いない。それはジュンヤも困る。
「授業のある日は、自重しますのでそれだけは勘弁してー!」
平和を守る者としてのアレンの能力は高かった。
「そして…ティアンなんだが…」
ちらりと見るとティアンは今日も机と仲が良い。ふさふさだった尻尾はあちこちハゲ上がり、ボサボサのよれよれだ。授業中ですら、目が死んでいてこれはこれでよろしくない。
そしてこちらも自らのものではない魔力をまとっている。真っ黒な魔王の魔力だ。しかし、ティアンの方は混じり合っている訳ではなく、周囲に漂わせているだけだ。
牽制にはなっているが、いつまで持つのか。
「ジュンヤ…何かいい方法はないかな…」
解決策が見出せなければ、他の人に意見を求める。大切な能力だろう。
任せて!と言わんばかりに、パチーンとウィンクをして見せる。
「ティアン……抱かれちゃえよ」
「ぎゃーーー!」
「ジュンヤーーーー!」
「と、言うのは冗談で」
絶対に本気だったとアレンとティアンは思ったが、ジュンヤは言葉を続けた。
「ティアンさ、もうちょっと学園長とお喋りしなよ。あの人、そんなに怖い人じゃないよ」
魔王が怖くないなんて言えるのは勇者くらいだと、アレンは思ったが口には出さなかった。
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