31 / 113
31 「切断公爵」
しおりを挟む
眼鏡隊と脳筋隊の行動は早かった。元々一騎当千、変幻自在の切れ者集団なのだ。皇帝カリウスの威を借りてできない事は何一つ無かった。疾風のように押し込んで、全てを捕らえ、全てを押さえ、制圧するのは一瞬だったらしい。
「くそっ!離せ!ワシを誰だと心得る!ワシは陛下の覚えもめでたいザサード公爵だぞ!」
でっぷりと肥えた50絡みの男が後ろ手に縛られ部屋の真ん中に投げ出された。その男をみて皇帝カリウスは不快感から少しだけ眉根を寄せた。この見た目も醜悪な男がデズモンド・ザサード公爵。通称「切断公爵」気狂いの公爵だそうだ。俺も初めてみたよ。
「知らん顔だ。これは私の部下ではない。何故このような醜悪な物が私の部下を名乗っておるのだ」
「ひっ?!わ、私は皇帝陛下の忠実な僕でございます!」
「私の前に一度も顔を出さぬ忠実な僕などいるはずも無かろう」
俺の目から見ても汚いおっさんは変な汗を大量に流しながら、目を泳がせる。必死に言い訳を探している顔だ。
「あ、あの!面会記録!面会記録を見ていただければ!」
「私の記憶を疑うというのか?大した忠義者だな」
そこにすっとアシューレス元宰相が手を挙げた。許す、そう皇帝から声をかけられ、フローラ傭兵団眼鏡部隊隊長が口を開く。
「あ!あ!アシューレス!な、何故お前が!あ、足!手!た、確かに私が奪ったはずなのに?!」
怯えるデズモンドのおっさんを一瞥、鼻で一つ笑ってから、眼鏡を人差し指でクイっとあげた。
「その男に買収された書記官のリストです。そして改ざんされた面会記録簿。すぐに押さえた為、補正の隙を与えませんでした。この記録簿によると、そこの男は一昨日とその前日にも皇帝と直接の会い、長い懇談をした事になっております」
「ほう?」
「この改ざんは陛下が皇帝となられる前から行われており、現存する全ての記録簿は彼らの手により勝手に捏造されている物に相違ありません」
「ば!馬鹿な!そんな事がある訳がないっ!!」
自重で起き上がれないザサードは這いつくばったまま、唾を飛ばして怒鳴りまくる。それをここにいる全員が冷たく見下しながら、別の眼鏡が手を挙げる。許す、皇帝の許可を確認して眼鏡は言う。
「面会記録簿と、皇帝の行動記録簿、戦歴などなどここ10年あまりの事を調べましたが、その面会記録簿の改ざんはあまりに稚拙すぎます。皇帝陛下が戦場で駆けている時に、王城にてその男は謁見し、爵位を授かるという不思議な事を良く起こしております」
「ほう?」
「で!出鱈目を!出鱈目を言うな!わ、ワシは陛下より直々に爵位を授かった!」
「私はお前に会った事などないのだが、お前はどの皇帝に爵位を貰ったのだ?私ではあるまいな?」
ギロリと睨まれ、おっさんはまた縮み上がる。フローラ傭兵団の眼鏡に知能舌戦で勝てる訳がないのに。
また別の眼鏡が手を上げ、許可される。
「そこの醜い男を捉える際に少し失敬して参りました。この男が陛下より授かったという爵位譲渡書ですが、偽造と判断されます」
金縁の美しい豪奢な厚い紙には確かにデズモンド・ザサードを公爵とする旨記され、皇帝の印とサインがされていた。
「ぎ、偽造な訳がなかろう!皇帝印は本物だ!」
喚く男に、眼鏡は冷たい光を反射し、射殺す。
「そう、用紙も印も本物です。しかしサインは違います。このサインは皇帝付き秘書官の筆跡ですからね。陛下がいない隙に勝手に作った様です。このような爵位譲渡書など、一度受け取ってしまえば一目に触れる事などほとんどありませんからね……?」
「な、何故!何故!それを持ち出せるのだ!それは我が家でも最も見つけにくい秘密の場所に隠してあったはず!ま、まさかその譲渡書は偽物だろう!私を陥れる為に作ったのであろう!」
デブの叫びは誰にも届かない。眼鏡の一人が静かにデブに近づき言う。
「そう。あそこは一番みつかりにくく、一番大切な物をしまっておくのに相応しい隠し金庫だ。そんな金庫を元々あの屋敷の主人である私が知らぬ訳があるまい?しかもご丁寧に解除の数字まで以前のままであったから何の苦労もなく開ける事ができたぞ」
「い、以前の主人……?!ひ!アルベルト・ブロウ公爵!!お前は目玉をくり抜いてやったはず!!」
「ええ、とても苦しい思いをさせられましたよ?しかし、いくら私の目玉をくり抜こうと、真実は消せぬものなんですよ」
冷たい、不快、腹立たしさ。怒りも憎しみも内包した笑みはいっそ、聖母の様に暖かさすら感じた。
「くそっ!離せ!ワシを誰だと心得る!ワシは陛下の覚えもめでたいザサード公爵だぞ!」
でっぷりと肥えた50絡みの男が後ろ手に縛られ部屋の真ん中に投げ出された。その男をみて皇帝カリウスは不快感から少しだけ眉根を寄せた。この見た目も醜悪な男がデズモンド・ザサード公爵。通称「切断公爵」気狂いの公爵だそうだ。俺も初めてみたよ。
「知らん顔だ。これは私の部下ではない。何故このような醜悪な物が私の部下を名乗っておるのだ」
「ひっ?!わ、私は皇帝陛下の忠実な僕でございます!」
「私の前に一度も顔を出さぬ忠実な僕などいるはずも無かろう」
俺の目から見ても汚いおっさんは変な汗を大量に流しながら、目を泳がせる。必死に言い訳を探している顔だ。
「あ、あの!面会記録!面会記録を見ていただければ!」
「私の記憶を疑うというのか?大した忠義者だな」
そこにすっとアシューレス元宰相が手を挙げた。許す、そう皇帝から声をかけられ、フローラ傭兵団眼鏡部隊隊長が口を開く。
「あ!あ!アシューレス!な、何故お前が!あ、足!手!た、確かに私が奪ったはずなのに?!」
怯えるデズモンドのおっさんを一瞥、鼻で一つ笑ってから、眼鏡を人差し指でクイっとあげた。
「その男に買収された書記官のリストです。そして改ざんされた面会記録簿。すぐに押さえた為、補正の隙を与えませんでした。この記録簿によると、そこの男は一昨日とその前日にも皇帝と直接の会い、長い懇談をした事になっております」
「ほう?」
「この改ざんは陛下が皇帝となられる前から行われており、現存する全ての記録簿は彼らの手により勝手に捏造されている物に相違ありません」
「ば!馬鹿な!そんな事がある訳がないっ!!」
自重で起き上がれないザサードは這いつくばったまま、唾を飛ばして怒鳴りまくる。それをここにいる全員が冷たく見下しながら、別の眼鏡が手を挙げる。許す、皇帝の許可を確認して眼鏡は言う。
「面会記録簿と、皇帝の行動記録簿、戦歴などなどここ10年あまりの事を調べましたが、その面会記録簿の改ざんはあまりに稚拙すぎます。皇帝陛下が戦場で駆けている時に、王城にてその男は謁見し、爵位を授かるという不思議な事を良く起こしております」
「ほう?」
「で!出鱈目を!出鱈目を言うな!わ、ワシは陛下より直々に爵位を授かった!」
「私はお前に会った事などないのだが、お前はどの皇帝に爵位を貰ったのだ?私ではあるまいな?」
ギロリと睨まれ、おっさんはまた縮み上がる。フローラ傭兵団の眼鏡に知能舌戦で勝てる訳がないのに。
また別の眼鏡が手を上げ、許可される。
「そこの醜い男を捉える際に少し失敬して参りました。この男が陛下より授かったという爵位譲渡書ですが、偽造と判断されます」
金縁の美しい豪奢な厚い紙には確かにデズモンド・ザサードを公爵とする旨記され、皇帝の印とサインがされていた。
「ぎ、偽造な訳がなかろう!皇帝印は本物だ!」
喚く男に、眼鏡は冷たい光を反射し、射殺す。
「そう、用紙も印も本物です。しかしサインは違います。このサインは皇帝付き秘書官の筆跡ですからね。陛下がいない隙に勝手に作った様です。このような爵位譲渡書など、一度受け取ってしまえば一目に触れる事などほとんどありませんからね……?」
「な、何故!何故!それを持ち出せるのだ!それは我が家でも最も見つけにくい秘密の場所に隠してあったはず!ま、まさかその譲渡書は偽物だろう!私を陥れる為に作ったのであろう!」
デブの叫びは誰にも届かない。眼鏡の一人が静かにデブに近づき言う。
「そう。あそこは一番みつかりにくく、一番大切な物をしまっておくのに相応しい隠し金庫だ。そんな金庫を元々あの屋敷の主人である私が知らぬ訳があるまい?しかもご丁寧に解除の数字まで以前のままであったから何の苦労もなく開ける事ができたぞ」
「い、以前の主人……?!ひ!アルベルト・ブロウ公爵!!お前は目玉をくり抜いてやったはず!!」
「ええ、とても苦しい思いをさせられましたよ?しかし、いくら私の目玉をくり抜こうと、真実は消せぬものなんですよ」
冷たい、不快、腹立たしさ。怒りも憎しみも内包した笑みはいっそ、聖母の様に暖かさすら感じた。
174
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる