無双してるのに、愛されすぎて歩けません(物理) 〜12歳児、異世界でちやほやされ中〜

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第1章 転移と出会いと、初めてのごはん

第2話『革命はトイレから始まった(見た目は天使、中身は公衆衛生の申し子)』

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朝日が差し込むと同時に、春日ユウトは目を覚ました。
干し草のベッドは意外と快適で、昨夜のふわとろポテトガレットの余韻が、まだ口の中に残っている気がした。

だが──腹が痛い。

というか、正確には「お腹の中に何かを抱えている感じ」がある。
ああ、これは……人として抗えない自然の摂理。

「……あの、トイレって……どこ?」

ユウトは勇気を出して村の男性に尋ねた。

「ト、イ……レ……?」

まるで宇宙語でも聞いたような顔。通じていない。まさか、とは思ったが、もう一度。

「だから、こう……“用を足す”ところ、だよ?」

「ああ、それなら──あっちの森で」

案内された先は、村の裏手にある茂みだった。
そこに、木の棒が数本無造作に立てかけられていて、穴も何もない。
──ただの“野ざらし”。

「えっ、これって……全員ここで……?」

「そうじゃが?」

絶望した。これでは、飲み水と排泄が完全に混在してしまう。
空気も悪い、菌も広がる、なにより──尊厳がない。

「……だめだ……これは、だめだよ……!」

息を荒げながらユウトは立ち上がった。

「トイレを……ぼくが、作る!」

村人たちは「えっ」と声を漏らしたが、ユウトの顔は本気だった。
その眼差しは、小動物のように愛くるしいのに、なぜか人を動かす圧があった。

 

ユウトがまず選んだのは、井戸の裏手の誰にも見えない空き地。
村の中では目立たず、それでいて動線的にもアクセスがよい。
何人かの男たちに協力してもらいながら、地面を掘り始めた。

「最低でも、深さは腰より深く掘って。それと、地中に炭を入れておくと、臭いが抑えられるよ」

炭は多孔質──つまり細かい穴がたくさん空いている。そこに臭気成分や微生物を吸着させることで、空気の浄化が可能になる。

次に、掘った穴の上に木の板を設置し、便座部分にだけ丸い穴を開けた。
手近な木材で四方を囲み、天井と扉までつければ、簡易ながらも「個室」が完成した。

「……おお……これは、まるで……“部屋”じゃ!」

村の老婆が感嘆の声を漏らす。

「でしょ? しかも、中に香草を吊るすと、いい匂いもするよ」

香草──この世界で言えば“ミルタ”。見た目はミントに似ていて、爽やかな香りが特徴。
ユウトはそれを何本か束ね、天井から吊るしていた。

「女性たちも、これなら安心して入れる。人間ってね、“出す”ことを恥じる生き物なんだ。でも、それは悪いことじゃない」

彼は真顔で言う。

「堂々とトイレに行ける環境こそ、文明の証なんだよ」

……天使か?

その場にいた村人たちの脳裏に、ふわっと天から羽が舞い降りる幻が見えた。
それほどまでに、ユウトの言葉と笑顔は、心を震わせた。

 

その後もユウトの手は止まらない。

「排泄の後は、手洗いが必須。菌は手から口に入るからね」

竹筒に水を入れ、先端に小さな穴を開けて、足で踏むと水が流れる“踏み式手洗い装置”を作り出した。

「ティピタップっていうんだ。アフリカで広まってる衛生ツールでね、手を汚さずに使えるんだよ」

さらに、灰を使って石けん代わりの洗浄材も作成。
木の薪を燃やした後の灰にはアルカリ性が含まれており、脂分を分解する効果がある。

子どもたちが「気持ちいい!」と笑顔で手を洗う姿に、村の大人たちは言葉を失った。

「……たった1日で、村が……村が文明に……!」

 

そして夜、ユウトはひと仕事を終え、村の中央に作ったかまどで夕飯の準備に取り掛かっていた。
この日のメニューは──ふろふき大根。

村の大根は水分が少なく、繊維が硬い。だが、じっくり煮込むことで甘みが引き出せる。
昆布と干し茸で出汁をとり、味噌は村の麹を少しだけ発酵させたものを使う。

「うま味っていうのは、昆布の“グルタミン酸”と、干し茸の“グアニル酸”が一緒になることで、何倍にもなるんだ。化学反応じゃなくて、舌が“うおっ!”って驚く、そんな感じ」

大根は弱火で2時間。火加減は、薪を調整して絶妙に保たれた。

出来上がったふろふき大根は、すっと箸が通るほどやわらかく、透明な出汁が輝いていた。
一口食べた瞬間──

「──っ! ……あ、甘い……」

「まるで、雪解け水の中に溶けた大根が、口の中で春になったみたい……!」

「こんなに優しくて、こんなに染みる味……はじめて……!」

「ユウト様……っ!」

また、地面に人が倒れた。
その後ろから、何人もが連なるように膝をつく。

「ユウト様あああああ!!」
「まさかトイレ革命に続いて、食でも革命を起こされるとは……!!」
「次はなに!? 下水!? それとも農業!?」

「えっ……あ、うん、じゃあ……明日は、畑、やろうかなって……」

まっすぐな瞳で笑う12歳の少年に、村中の人々が今日もひと目惚れした。

 

──だが、ユウトはまだ気づいていない。
この村の99%が、彼に恋をしているという事実に。
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