無双してるのに、愛されすぎて歩けません（物理） 〜12歳児、異世界でちやほやされ中〜

第1章 転移と出会いと、初めてのごはん

第10話『神子、経済を救う（後編）〜貨幣と恋心の重みは等価ですか？〜』

──翌朝。
王宮の広場に、見渡す限りの民衆が詰めかけていた。

「“神子ユウト様が直々に、新紙幣の説明をしてくださる”って……」

「うわあ……どんなご神託なんだろう……」

「抱きしめたら確定申告が終わりそう……」

完全に“経済”が“恋と信仰”に変換されていた。

　

その中央、壇上に立ったユウトは、手作りのプレゼンボードを掲げた。

「みなさん、こんにちはっ！」

（可愛い──！！！）

「今日は、新しい“ユウト札”の使い方と、どうしてこれが必要かを説明します！」

　

＊＊＊

──そして始まる、“神子の経済セミナー”。

・物価の上昇が止まらない理由は「流通の停滞」と「富の偏り」
・通貨流通量を適正化するために“信用紙幣”の導入が必要
・徴税システムは「電子記録による簡略化（※この世界では魔導端末）」
・課税方式は「超高額所得層を対象にしたインカムキャップ制」に変更

「えっと、難しい言葉に聞こえるかもだけど、
かんたんに言うと、“いっぱい持ってる人からちょっとずつ分けてもらって、
困ってる人に届ける仕組み”ってことです！」

（……わかりやすい……！）
（しかも可愛い……！）
（語尾にハートが見える……！）

もはや説明の論理性ではなく、語る者の尊さが説得力になっていた。

　

＊＊＊

「では、今日からこの紙幣を発行していきます！ 必要な分は各町役場で受け取ってください！」

すると、ひとりの老婦人が壇上に近づいた。

「神子様……わしら、どうしてそこまでしてくれるんです？」

「え？」

ユウトはきょとんとして、ほんの少し微笑んだ。

「だって──困ってるの、見たくないから」

　

──その瞬間、空気が止まった。

会場全体が、彼の言葉に、心臓を撃ち抜かれた。

（ああ、終わった……心が……この子に一生捧げよう……）

（結婚とかそういうレベルじゃない……もはや……存在への信仰……）

　

その晩、各都市では紙幣の配布と同時に、以下の現象が確認された：

・紙幣を額縁に入れて飾る家が続出
・お釣りでユウト札を渡すと感謝のキスを求められる
・“使用済みユウト札”を集めて祈願グッズに加工する市民が現れる

──経済改革のはずが、恋と信仰の流通が始まってしまった。

　

＊＊＊

一方、王城の執務室では。

「これでは、誰が本物の通貨を求めているのか……」

「殿下、紙幣の“保存率”が異常です。“使用”されていません……！」

「なぜだ！？」

「皆、ユウト様が使った“実物”を欲しがるのです……！」

「ッッ……！！ やはり、神子の笑顔には貨幣価値以上の重みがある……！」

王子ユリウスは窓辺に立ち、月を見上げた。

「……ユウト。そなたにこの国の未来を託そう。そして、私の隣の席も──」

「殿下、それは“プロポーズ”の類では……」

「違う！ これは、“国家的同棲”だ！！」

「もっとこじれてます！！」

　

──そんな王子の想いなど露知らず。

その夜、ユウトは寝室でこんがり焼けたパンを片手に、明日の“農業改革プラン”を描いていた。

「明日は畑で、連作障害について説明しよっかな……肥料配合は三成分のバランスが大事だし……」

──世界は、またひとつ、無自覚の天使に跪いた。