3 / 35
第3話 妹、魔女を見るなり魔法を放つ
しおりを挟むその日、ルークの屋敷にはめずらしく、玄関から雷鳴のような魔力の気配が吹き込んできた。
「お兄ちゃああああああんっ!!!」
屋敷の門を突き破らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、ルークの妹──ルミナ・アルヴェイン、15歳。
魔術学院に通う才女であり、すでに中級以上の魔法を完全詠唱なしで操る実力者。
とはいえ、精神的にはまだまだ年頃の女の子で、根っからのブラコンである。
「久しぶりぃっ! あのねっ、あのね! 討伐先の魔人が、急に全滅したの! それで学院に戻ったら、“勇者が倒した”って話になってて──ええっ!? お兄ちゃんだったのっ!? 本当にっ!?」
「まあ……うん、そうなるかな……?」
玄関ホールで迎えたルークは、気恥ずかしさを隠しきれずに頭をかいた。だが、妹は感動に目を輝かせてルークに抱きつく。
「お兄ちゃん、すごいっ! も~、大好きっ! 尊敬するっ!」
「わ、わかった、ちょっと落ち着けって!」
「えへへへ……お兄ちゃんが世界を救うなんて、ほんとに夢みたい……」
くるくるとルミナが舞うように喜びを表現していた、その時だった。
「ルーク様、お茶が入りましたわ」
廊下の奥から現れたのは、紅茶の盆を手にしたミレイアだった。
白と黒のゆったりした部屋着に身を包み、穏やかな微笑みを浮かべた姿は、どこからどう見ても「良家の婚約者」である。
だが──
「……お兄ちゃんの、後ろにいるの、誰?」
ルミナの声が、一瞬で冷えた。
「えーっと、紹介がまだだったな。ミレイアだ。……闇の魔女だった人」
「魔女!? って、“だった”って何!? ああもう、理屈はいい!!」
ルミナの瞳に魔法陣の光が宿った。
「ちょっとそこ退いてお兄ちゃん!! 今すぐその魔女、消し飛ばすから!!」
「待て! ルミナ、やめ──」
「爆裂魔法・中級詠唱――《ブレイズ・テンペスト》!!」
放たれたのは、火と風を複合させた破壊力特化の魔法。
爆音とともに室内の空気が焼かれ、廊下が閃光で包まれる。
吹き抜ける衝撃波に、絨毯がたわみ、柱の一部が焦げた。
「ふふ……すごい威力。なるほど、これが“勇者の妹”の魔法なのね」
煙の中から現れたミレイアの姿は、肩口が焼け焦げ、腕からは血が流れていた。
だが、彼女は涼しい顔で自らの傷に手を当てると、ゆっくりと笑った。
「……けっこう痛いわね。でも、大丈夫。すぐに治るから」
ルミナが目を見開いた。
「う、うそ……当たったのに……なにそれ……」
その目の前で、ミレイアの皮膚が再生していく。
炭化していた皮膚が、徐々に滑らかな白肌へと戻っていき、血の跡もまるで幻だったかのように消えていった。
「不死身って、そういう意味よ?」
微笑みながら差し出された手に、ルミナは何も返せなかった。
「お兄ちゃんっ! うそ……こわい……! 魔女、こわい……」
バタリと崩れた妹を、ミレイアがふわりと抱き止める。
「大丈夫です。ちょっと魔力を使いすぎただけですね。すぐお部屋にお運びします」
完全看護モードに入ったミレイアを、ルークはただ呆然と見つめるしかなかった。
目を覚ましたルミナは、ふわふわのベッドに寝かされていた。
部屋の照明は落とされ、カーテンの隙間から夕方の光が差し込む。
ナイトテーブルの上には冷たい水と、柔らかなメモ。
『少し休んでください。水を飲んで、落ち着いたら下に来てくださいね。
ミレイアより』
「……魔女のくせに、優しすぎるんだけど」
ルミナは顔を赤くして、枕に顔を埋めた。
怒っていいのか、感謝すべきなのか。頭の中で感情がぐるぐる回る。
「……でも、負けない。負けてたまるか……!」
立ち上がった彼女は、決意を胸に階下へと向かった。
そこでは、ルークが夕食の準備を進めていた。
隣ではミレイアが野菜の皮を剥きながら、時折「きゃっ」と小さな声を上げている。
「ほら、力入れすぎると皮じゃなくて指まで剥くぞ」
「うぅ……料理って難しいのね……。でも、あなたのために頑張ってるのよ?」
「その顔で言うな、怖いから……」
そこへ、階段を駆け下りてきたルミナが、勢いよくダイニングの扉を開いた。
「お兄ちゃんっ!! 私も、お兄ちゃんと結婚する!!」
「……なに言ってんだお前は!?」
「魔女が“妻になります”って当然のように言って受け入れたんでしょ!? だったら、実の妹が婚約申し込んでも文句ないでしょ!!」
「いや文句しかない! 文化とか法律とか以前に、常識ってものが──」
「三年待てばセーフでしょ!? 私、待つからっ!」
「ぐっ……この家、もうツッコミが追いつかねえ!」
その時、扉の脇からぬっと現れた男がいた。
「うわー修羅場ってるねぇ。はいはい、ジークさん登場っと」
「ジーク! お前、なんでうちにいる!?」
「いやあ、ノクトヘルムの魔人いなくなってからヒマなんだよね。勇者ん家なら刺激ありそうだし?」
「だからって勝手に人ん家来るな!!!」
がしっとルークが頭を掴みにいくが、ジークはひょいと逃げる。
「ま、嫁候補がふたりってことは……次は“第三の女”かな?」
「やめろ、フラグを立てるなッ!!!」
1
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる