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第14話 やさしさの牢獄を越えて
しおりを挟む──意識が戻った瞬間、空気が変わっていた。
濃霧は晴れ、紫の魔力も消えていた。
ルークたちは、先ほどまで立っていた広間に戻っていたが──そこには、見慣れぬものがあった。
「……っ」
ジークが思わず声を呑む。
そこには、壁際に寄りかかるようにして転がる──乾ききった白骨死体が三体。
衣服の名残から察するに、冒険者だったのだろう。
それぞれの手には、古びた武器や冒険者用のバッグが握られたまま。
「幻影から……戻れなかったんだな。ずっと……あの安らぎの中に」
ルークが膝をつき、頭を垂れる。
「何も感じず、何も苦しまず──静かに餓死したってことか」
ジークが言う。どこか、自嘲のように。
だが。
「そもそも、あんたが褒められた瞬間に罠にかからなきゃ、こんなことにならなかったんだけど」
クラリスの鋭い一言が飛んだ。
「うっ……それは……ごめん……!」
ジークがしょんぼりと肩を落とした。
そしてふと、何かを思い出したように振り向く。
「なあ、クラリス。さっきの……膝枕の件だけどさ。
あれ、マジだった? それとも冗談だった……?」
クラリスは一瞬固まり、そしてふいっと視線を逸らした。
「……冗談に決まってるでしょ。
あんたなんかに本気になるわけ……ないし……」
ジークが目に見えて落ち込む。肩が更に落ち、背中まで丸まっていく。
「……でも、たまにはいいわよ。特別に、今度だけ……」
「……え?」
「ただし、汗臭いまま近寄ったら蹴飛ばすからね!」
顔を真っ赤にして叫んだクラリスがくるっと背を向けると、ジークは静かに拳を握った。
「……生きててよかった……」
一方その頃。
フィオナは、魔力の干渉から戻ったばかりの頭でまだふらふらと歩いていた。
そんな彼女の肩に、ふわりと温かい手が添えられた。
「……よく、頑張ってるわね。フィオナ」
ミレイアだった。
「えっ……?」
「この旅の間、ずっと見てたわ。あなた、いつも本を開いて勉強してる。魔法の知識も鍛錬も、コツコツと」
ミレイアは優しく微笑む。
「……その努力、いつかきっと報われるわ。ルーク様は、そういう人。ちゃんと見てるもの」
「……っ」
フィオナの目に、熱いものが込み上げる。
「私……いつか、あの人に“頼られる人”になりたいです」
「なるわ。あなたなら」
ミレイアはそっとフィオナの頭を撫でた。
指先は少しだけぎこちなく、それでも、確かな温もりを宿していた。
ルークは、仲間たちの様子を見守りながら、静かに目を閉じた。
グレイアの迷宮は、“戦い”ではなく“心の隙”を突いてくる。
しかし彼らは、それを超えた。
(……行こう。この先に、必ず“本物”が待っている)
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