100日以内に愛されなきゃ、俺は完全に女になる

紡識かなめ

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【第22話/45日目】 妹と一緒に、女湯へ

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「は? いや、待て、美月。俺は……!」

「だからさー、もう“お兄ちゃん”じゃなくなってきてるんだから、こっち入っても違和感ないって」

その一言で、すべての抵抗が崩れかけた。

家族で温泉に来た週末のことだった。
父は仕事で来られず、母と妹の美月と俺の三人。
食後、当然のように「女湯行くよ」と言われ、拒否しきれずにいたら――

「じゃ、先行ってるね~」

そう言って母が先に脱衣所へ消えていき、気づけば美月とふたりきりだった。

「どうせ、男湯入ったら変な目で見られるんだし、あんたももう“そっち”でしょ?」

「……っ、でも」

「大丈夫。私が守る。最強の妹だから」

茶化すように笑うその言葉に、もう何も言えなくなった。

脱衣所の空気は、ほんのり甘くて、石鹸の香りが漂っていた。
シャツを脱いで、ブラのホックを外す。
それだけで、心臓の音がうるさいほど響いた。

(俺……何やってんだ……)

でも、“女の身体”としての自分は、すでにもう、そこにあった。

鏡に映る素肌。
胸元の柔らかいカーブ。
腰のライン。細くなった手首。

誰がどう見たって、もう“女の子”だった。

「こっちこっちー、脱衣かごそこね」

美月の先導で浴場に入ると、湯気と暖かな蒸気が全身を包み込む。

数人の女性たちが談笑していたけれど、誰もこちらを二度見することはなかった。
当たり前のように、ただ“女性”として空間の一部に溶け込んでいた。

「湯加減、最高すぎる……ふぅーっ」

肩まで湯に浸かりながら、美月が伸びをした。
隣で俺も、そっと息を吐く。

落ち着かない。けど、不快じゃない。

視線が刺さることもなく、
無理に男らしく振る舞う必要もなく、
この空間では、俺は“普通”に呼吸ができた。

「……変だな」

ぽつりと呟くと、美月がちらっとこちらを見た。

「何が?」

「こんな状況、怖くてもおかしくないのに。……なんか、落ち着く」

「それ、たぶんね。“もう、自分で選んでる”ってことなんだと思うよ」

「……選んでる?」

「うん。身体が変わってるからじゃなくて、自分で“今の自分”を肯定してるから。だから怖くないんじゃない?」

まるで大人みたいなことを言う妹に、苦笑しそうになったけれど――
その言葉は、まっすぐ胸の奥に響いていた。

湯のなかで、自分の身体を見下ろす。
“誰かの呪い”じゃなくて、“自分の選択”として。
この変化を、今日初めて、ちゃんと受け止めた気がした。

──45日目。女湯で初めて、“わたし”が自然に呼吸をした。
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