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【第26話/55日目】 選べないまま、心だけが女になっていく
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六月の風が、肌にまとわりつくように湿っていた。
制服のシャツがじんわりと背中に張りつくその感覚すら、どこか他人事のように思えるくらい――俺の心は、重たかった。
遥香の想いも、悠真の眼差しも、
どちらも、本物だった。
どちらも、まっすぐで、やさしくて、だからこそ、残酷だった。
「陽翔くんは、やさしすぎるのよ」
遥香にそう言われたのは、昨日の放課後だった。
「だから、誰も選べないでしょ? でも、選ばれないってことが……どれだけ、さみしいかわかる?」
責めてるわけじゃなかった。
むしろ、微笑んでいた。
それが余計に苦しくて、俺は何も言えなかった。
一方で、悠真は何も言わない。
気づいてるはずなのに、なにも問わず、いつもと同じ距離でいてくれる。
それが、やさしさなのか、逃げなのか――
今の俺には、もう見分けがつかなかった。
(どっちかを選んだら、どっちかを失う)
当たり前のことなのに、それができない。
選ばないことが誠実だと思ってた。
でも本当は、それがいちばん卑怯なのかもしれない。
そんなふうに、心が引き裂かれそうになるたびに、
ふとした瞬間、鏡に映る“私”が、穏やかに笑っていることに気づく。
それが、怖かった。
(こんなふうに迷ってるくせに――)
(私、もう“女の心”を受け入れはじめてる……)
好きという感情が、“許されるか”じゃなくて、“感じてしまうか”で動いてしまう。
触れられるだけでときめく。
名前を呼ばれるだけで、胸がきゅっとなる。
それは、誰のせいでもない。
変わってしまった身体のせいでも、呪いのせいでもない。
ただの、自分の心の変化。
「ねえ、陽翔。……どうしたい?」
そう、誰かに訊いてほしかった。
でも、本当は自分に問いかけなきゃいけないと、どこかでわかっていた。
──55日目。身体より先に、心が“私”になっていた。
制服のシャツがじんわりと背中に張りつくその感覚すら、どこか他人事のように思えるくらい――俺の心は、重たかった。
遥香の想いも、悠真の眼差しも、
どちらも、本物だった。
どちらも、まっすぐで、やさしくて、だからこそ、残酷だった。
「陽翔くんは、やさしすぎるのよ」
遥香にそう言われたのは、昨日の放課後だった。
「だから、誰も選べないでしょ? でも、選ばれないってことが……どれだけ、さみしいかわかる?」
責めてるわけじゃなかった。
むしろ、微笑んでいた。
それが余計に苦しくて、俺は何も言えなかった。
一方で、悠真は何も言わない。
気づいてるはずなのに、なにも問わず、いつもと同じ距離でいてくれる。
それが、やさしさなのか、逃げなのか――
今の俺には、もう見分けがつかなかった。
(どっちかを選んだら、どっちかを失う)
当たり前のことなのに、それができない。
選ばないことが誠実だと思ってた。
でも本当は、それがいちばん卑怯なのかもしれない。
そんなふうに、心が引き裂かれそうになるたびに、
ふとした瞬間、鏡に映る“私”が、穏やかに笑っていることに気づく。
それが、怖かった。
(こんなふうに迷ってるくせに――)
(私、もう“女の心”を受け入れはじめてる……)
好きという感情が、“許されるか”じゃなくて、“感じてしまうか”で動いてしまう。
触れられるだけでときめく。
名前を呼ばれるだけで、胸がきゅっとなる。
それは、誰のせいでもない。
変わってしまった身体のせいでも、呪いのせいでもない。
ただの、自分の心の変化。
「ねえ、陽翔。……どうしたい?」
そう、誰かに訊いてほしかった。
でも、本当は自分に問いかけなきゃいけないと、どこかでわかっていた。
──55日目。身体より先に、心が“私”になっていた。
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