小桜姫幻想奇譚

日浦森郎(西村守博)

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 幻想弟橘媛 3

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 「弟ちゃん、これで良かったかしらん?」
 「ごめ~ん! 邪鬼が怖がりすぎるといけないと思って~。ほら、お母さまが、そのまま連れ去られたらまずいでしょ! それに、郁恵ちゃんのこともあるし~」
 「分かってるわ。弟ちゃん、ちょっと怖もてしすぎて、女性の霊にしてはめずらしく敬遠されてるからね。悪霊にはとくにね!」
 「ふだんは、もう少し女の子らしくしょうと思っているんだけど。ダメね。何かあるとつい本性が出てくるのよ!」
 「まあ、それも仕方ないか? 旦那さまは日本武尊(ヤマトタケルのミコト)といわれる日本一の大豪傑だし、その奥方は、吹き荒れる波をもろともせず、わが身を投げうつほどの勇敢な人だから!」
 私は、弟橘媛の経歴をつらつら考えてみて、どうしてこれほど有名な霊人が、私のような平凡な霊と仲よくしてくれるのか、不思議でなりませんでした。
 「また、それを言う。逆に小桜姫の名前をきけば、知らない人はいないくらいなのに! それに龍神のなかでは、いとこどうしの関係なんだから!」
 「ごめん。もう言わないようにするから!」                     
 あまりいうと機嫌が悪くなる(?)ので私もしつこくは言いませんが、龍神がごくごく近しい関係みたいなのは本当でした。話がややこしくなるので、龍神と私たちとの経緯は、次の章でまたあらためて取り上げましょう………。 
 「そうよ!」 
 「それで、未来ちゃんはどうなの?」
 「うん、もう大丈夫よ! 邪鬼が、郁恵ちゃんの母親にたいする想いを逆手に取って、未来ちゃんの友達おもいの心を利用しただけだったようね。私が来るかもしれないって聞いただけで用心してたのに、まさか小桜姫さまがいらっしゃる(?)なんて思ってもみなかったみたい!」
 済んでみれば何でもないことなんですが、複数の人を助けることはなかなか大変なことです。それが同時に三人、四人となればなおさらです。
 今回も、眠り姫ふたりを助けだすことは比較的容易でしたが、その両親まで含めると、本当に大変だったのです。一方の母親は邪鬼に支配され、父親はこの世の男女の掟に支配されているんですから。まだ片方の両親が、二人とも信仰に厚くて助かったと思います。 
 「それで二人はもう大丈夫なのネ?」
 「えぇ。二人とも一晩ぐっすり寝て、あした眼を覚ませば、この一月そんな事ありましたっけ、というぐらい元気になれるでしょうね!」
 「もともと邪鬼に、母親がつけこまれたのが原因ね。生きている人間の弱点だけど、もう少し思いやる心を持てれば良いのだけれど………」
 私は、送っていった母親のことを考えていました。反省する気持ちが本人になければ、このまま地獄へまっ逆さまに堕ちてゆくことも有りうるのです。いずれにしても、母親の心しだいで地獄も天国も自由自在なのです。私は、郁恵ちゃんの母親の運命を、幸多かれと祈らざるを得ませんでした。
 「未来ちゃんのご両親は?」
 「その点は大丈夫。なにせ走水神社の優等生たちだもん。最初は少なからず、お互い戸惑ったみたい。だけど、神様を信じる気持がスゴくて、なにが未来ちゃんのためになるのか、二人でちゃんと話し合って決めたみたい。自分たちも苦しいのに、娘のためにしてあげた最高の努力ね!」 
 「未来ちゃんの話は聞いているゎ。貴女が子供の間の未来ちゃんの準守護霊で、大人になってもそのまま守護霊をつとめるって事は。だから大切な天の御使いを、邪鬼のような小さな悪霊のために駄目にしたくなかったのよね。このままスクスク成長していけば、将来は女性の救世主(キリシタ)になったはずだし………!」
 「まあ、たとえどんな事になったとしても、私はこの子のことは信頼しているけどね。ご両親も走水神社の申し子のようなもんだし!」
 私は始めから、今回の件について霊視してみた事があります。未来という少女は、自分の事だけについて邪鬼につけこまれるような娘さんではないはずです。それが、どうして今回のような顚末になってしまったのか?ひらたく言うと、あの世とこの世の時間の概念が違うことに原因があります。私たちの世界は、時間はあってなきが如しで、原因があれば結果はすぐさまついてきます。そこには、なんの不思議もありません。ところが
現実世界は、原因と結果の間に大小さまざまのタイムラグがあって、私たちを惑わせます。タイムラグが微妙な結果の違いになって、それがまた新しい原因を形づくるのです。今回もそれを利用して、邪鬼が暗躍したのでした。
 「でも、これでひと安心ね。禍福はあざなえる縄の如し、とはよく言ったものね!」
 「ほんと、ありがとうね! わたし一人じゃ、ちょっと厳しいと思ってたの。小桜がいてくれてほんと助かったわ!」
 「また、また! わかってたくせに~。邪鬼の力量なんかも、お見通しよね?」
 「ギクッ?」
 「まぁ、いいわ。犠牲者は邪鬼だけのようだしネ! こわい怖い弟橘媛さまが来れば、もっと怖ろしい目に合うだろうと脅かしておいたわ!」
 「エヘヘ!」
 
 
   
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