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生まれる前から一緒の僕らは、これからもずっと一緒だ。当然じゃないか。1
しおりを挟む僕らは生まれた時からずっと一緒で。
二人で一つ、のはずだった。
***
僕らは二卵性双生児だ。
オメガの母とベータの父から生まれた僕らは、とても幸せだった。
両親は愛し合っていたし、僕らはとても愛されていたから。
「悠くんは目の色がママに似て真っ黒だねぇ」
「瞬くんはパパに似て、茶色い目だ」
僕らの顔を覗き込んで、笑い合っていた両親を覚えている。
「悠くんの髪はパパに似て真っ黒ね。烏の濡れ羽色って、こんな感じかなぁ」
「瞬くんはママに似て、ちょっと茶色がかってるね。チョコレートみたいでおいしそう」
僕らの髪を梳きながら、嬉しそうに目を細めた両親を覚えている。
「でも、それ以外は、二人とも本当にそっくり」
二人はいつもそう言って、僕らをまとめて抱きしめてくれたのだ。
愛し合う両親の下で、僕らはのびのびと満たされた毎日を送っていた。
けれど、五歳の夏のある日、全てが一変した。
母に、運命の番が現れたのだ。
「……おかぁさん?」
その瞬間、永遠に続くはずだった僕らの幸せな日常は崩壊した。
「……おかぁさん、どこへいくの?」
母は家族への愛など忘れ果てたかのように、迷うことなく僕らを捨てて、運命の番の元に走る。
呼び止めようとする僕らの声など、全く耳に入ってはいなかった。
「あの女のことは忘れろ。あいつは、俺たちを捨てた女だ」
怒りと悲しみに震えながら、力一杯に僕らを抱きしめた父の腕。
幼い体には強すぎる力が痛いほどだったのに、涙を堪えて震える父をひどく頼りなく感じたいことを覚えている。
「お前たちは、俺が立派に育ててやる」
その後、父は宣言通りに、男手ひとつで僕らを育ててくれた。
けれど、年を経るごとに僕らは、母に似ていった。
容姿も、声も、そして何故か、纏う雰囲気までも。
「きっとお前たちも、オメガなんだろうな。あの女と同じように。欲望と本能で動く、オメガなんだ」
まだバース性が判明する前から、父はよく僕らに言っていた。
今思えば、それは、保険だったのかもしれない。
万が一二人ともオメガだった時に、父の心を守るための。
その頃には、父はオメガ性自体を憎むようになっていたから。
「お前たちは、普通に暮らすには、異常すぎる」
僕らが小学校に入って暫くした頃、父は吐き捨てるように言った。
円な瞳、はっきりとした二重、くるりとカールを描く長い睫毛、桜色の頬と薔薇色の唇、折れそうに細い首、すらりとした華奢な肢体。
母を忘れるには、あまりにも母に似て美しくなり過ぎた僕たちを、父は次第に疎むようになったのだ。
「お前はあいつと同じ、そっちの世界の人間だ」
徐々に父の愛を失っていった僕らは、父に金を与える道具として働くことになった。
体で稼ぐ、とは言っても、非合法の仕事ではない。
父は犯罪者になりたいわけではなかったから、僕らを子役タレントとして、売ることにしたのだ。
かつて母も一時期モデルとして働いていたことがあったらしい。
すぐに、ただのベータと恋に落ちて、あっさり引退したから、あまり有名ではなかったようだけれども。
幸いにも、母に似て美しい容姿だった僕らは、簡単にその業界に入り込めた。
並んだ僕らは「美しい一対の人形のようだ」と持て囃され、あっという間に人気者になった。
それも、オメガの証のようだと、父の怒りを買ったのだけれども。
小学四年の時、国民的ドラマに出演したことで、僕らは一躍有名になった。
父は僕らを大手の芸能事務所に託し、僕らとの関わりを絶った。
母と瓜二つに育ってきた僕らを見るのが嫌で、僕らを捨てたのだろう。
そう理解しながらも、僕らは特に傷つくこともなかった。
ただ、来るべき日が来たのだな、と思っただけだ。
それからも、日々は忙しなく過ぎていく。
中学生になり、仕事の幅も少し広がり、期待される水準も高くなってくる。
今、自分が立っているのか座っているのかも分からないほど忙しい毎日の中。
僕らは売れっ子の子役として、必死に駆け回った。
そして。
「……コンサート?」
「うん、決まったから」
「え、なんで?」
「ファンの子達からの要望が多くてねぇ。君たち、ドラマ主題歌も歌ってたし、いけるでしょう」
にっこりと笑った事務所社長の一言で、僕らはドラマ、映画、CM、バラエティ番組への出演に加えて、歌とダンスまでこなすことになった。
「なんだか何でも屋みたいだね」
「おや、アイドルと言ってちょうだいよ。君たち、今年のアイドル人気投票同点一位なんだから」
「……僕ら、アイドルだったっけ」
「そんなようなものだよ」
微笑みながら僕らの疑問をあっさり流す社長は、僕らの雇用主であり、マネージャーであり、指導者であり、そして親代わりでもある。
彼の言うことは、決定事項だ。
「……そうなんだぁ」
子役、つまりは役者だったはずの僕らは、気がつけば、いつのまにかアイドルのような立ち位置になっていたのだ。
その結果、僕らのファンは、何十倍にも激増した。
「……すごいことになったね」
「今日も遅れちゃうね」
出待ち、入り待ちと呼ばれるファンが原因でテレビ局から出られず、予定が押すことも多くなった。
「社長、大変そうだよ」
「マネージャーも大変そう」
ファン層の拡大に伴って、トラブルも増加したが、僕らは気にしなかった。
それに対応するのは、僕らの仕事ではないから。
なんにせよ、僕らのやるべきことは変わらない。
言われたことを言われたように、望まれるままに、演じるだけだ。
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