生まれる前から一緒の僕らが、離れられるわけもないのに

トウ子

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「瞬!まったく、なんてことを言ったんだい!明日からますます大変なことになるじゃないか!」

半ば魂の抜けたような顔で頭を抱える社長を無視して、瞬は口を開いた。

「ねぇ、社長。あの女、『信者様』って言ってたよね?……それって、変な扇動をしてたっていう、アカウントの通称だよね」

淡々と確認する僕に、社長はたらりと冷や汗を流しながら無言で頷く。
下手な誤魔化しや話題の転換は逆効果だと考えたのだろう。
さすが社長、賢明な判断だ。
僕は今、少し狂っているようだから、あまり刺激しないでくれるとありがいのだ。

「そうだね。……きっと、あの犯人を唆したのが、その『信者』なんだろうね」
「ふふ、そうだね。きっとそうだ」

僕は笑って頷く。

「僕ね、相手に一人心当たりがあるんだ」
「えっ!?」

驚く社長に、僕はギリギリと歯軋りしながら、喉の奥で笑った。

「僕らを引き離そうと卑怯な真似ばっかりしていた人間。僕らを痛めつけるのが楽しくて仕方がない最低の人間。それが僕の、運命の番……永谷雪那だよ」







凍りついた後に、止めようとする社長を振り払って、僕は一人タクシーに乗り込み、永谷雪那の会社を訪れた。
ご親切にもあいつは、「僕に会いたい時はここにおいで。ここにいる可能性が一番高いからね」とわざわざ教えてくれていたのだ。
ほんの数日前の話だ。
今日の事件を予期していたとしか思えない。

「時野瞬と申します。永谷雪那さんにお会いしたいのですが」

受付で名前を告げると、受付嬢は動揺することもなく、淡々とどこかへ電話をかける。
そして一言二言の会話の後に電話を切り、あっさり「ご案内します」と立ち上がった。
いつでもフリーパスで通れるようにしておくと言う台詞は、伊達ではなかったらしい。
あまりにもスムーズな展開に、僕は笑い出しそうになる。
雪那はどこまで分かっていたのだろうか、と。

「やあ、いらっしゃい」

応接用のソファに深く腰掛けて、快活な笑顔で迎えた雪那に、僕は刺すような視線を向けた。

「……あんたの仕業だろう?」
「え?何がだい?」

ニヤニヤと笑いながら首を傾げて見せる雪那に、僕はチッと舌打ちをした。

「全部わかってるくせに、とぼけるのはやめろ!」
「ふふ。……でも、残念ながら、俺は本当に、、関わっていないよ」
「え?」
「今回の事件は、壊れた天使の自作自演さ」

意味深に薄い笑みを浮かべながら言う雪那に、僕は眉を寄せた。

「……一体、どういう意味?」
「くくくっ」

随分と愉快そうに喉の奥で笑う雪那の声が不快で仕方ない。
ますます苛立つ僕を目を細めて眺めて、雪那はゆるりと口角を上げた。

「あえて言うならば、これは君たちの、人生初めての仲間割れ、もしくは食い違い、といったところかな?」

理解できていない僕を無視して、雪那は「いやぁ、面白いことになったねぇ」と言いながら、ゆっくりとコーヒーを呷る。
香ばしい匂いがふわりと広がり、雪那が醸し出す余裕は僕の余裕をどんどんと奪っていく。

「だから!何が言いたいんだ!」
「ねぇ、あのアカウント、誰のものだろうねぇ?」

バンッと机を叩いた僕に、雪那は謎かけをするような声で尋ねた。
大人にとっては、とても簡単な問題を、幼児に答えさせるかのような口調で。

「あんなにも……君のことを知っているのは、悔しいことに、この世でただ一人だと、僕は思うんだけれど」

雪那の示唆する内容を察し、僕の顔からはみるみると血の気が引いていく。
だって、そんな、馬鹿な。

「ば、かな。嘘だ!」
「さぁ、どうかな?本人に聞いてみたら?」

面白がるような満面の笑みを睨みつけ、僕は踵を返す。
タクシーに飛び乗って病院に駆けつける途中でスマートフォンを見れば、手術が無事に終了し、悠が目を覚ましたと連絡があった。

「ゆぅ……嘘だろ……」

駆け込んだ病室では、顔と腕に包帯を巻き、痛々しい姿の悠が横たわっている。
ぼんやりと、どこも見ていないの目が、ゆっくりと僕の方を向いた。
合っているはずなのに、合っていない視線。
悠の考えていることが理解できない。
これまでにない恐怖に、僕は立ち尽くした。

「ねぇ、悠。……なんで、こうなったの?」



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