生まれる前から一緒の僕らが、離れられるわけもないのに

トウ子

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「さて、ふてぶてしい仔猫ちゃん?あなたは何をしてくれるのかしら」
「何もしませんよ、僕は平穏に暮らせればそれで良いので」
「あら、嘘ばかり」

十和子は挑発するように唇の端を吊り上げて、扇状的な流し目を送ってきた。

「あなたがそんなつまらない仔だとは、とうてい思えないのだけれど」
「むしろ、何かして欲しいんですか?飼い犬に手を噛まれるのがお好きとは、変わった方ですね」
「ほほっ、オメガの小さな犬歯で、私の肌に傷をつけられるものかしら?」

飼い主が、檻の中で体を大きく見せながら威嚇してくる仔猫を微笑ましく見守るように、もしくは、予防接種の後で飼い主に一矢報いんと牙を剥く仔猫をあしらうように十和子は余裕に満ちた笑みを見せる。

「そうでしょうかね?まぁ、僕は大人しく過ごすつもりですよ。無駄な努力をする趣味はないので」

白々しいほどに言い切り、僕はわざとらしいほどに清々しい笑みを浮かべて、目の前の十和子をまっすぐに見る。
気後れしない僕の態度に喜んだように、十和子はまた笑い声を立てた。
よく笑う女だ。

「嘘っぽい台詞だこと。でも、生意気な獣の方が、躾甲斐があるものよ」
「野生の獣であればこそ、格の違いが分かります。無駄な戦いは避けるものですよ。余計な血を流すだけですからね」
「あら、賢い子。ああ、楽しみだこと!あなたは一体どんな面白いことを考えているのかしら」
「僕は、僕が幸せになることしか、考えていませんよ」
「ふふふ、そう?まぁ、せいぜい私を楽しませてちょうだいな」

楽しそうに笑う十和子に微笑を返しながら、僕は心の中で未来の計画を練る。

僕は、雪那や十和子に服従するつもりなどない。
アルファである彼らを、利用しようとしているのだ。
オメガがアルファを利用してはいけないなんて、そんな決まりはないだろう?



誰もが知る通り、アルファとオメガの番契約は、どちらかが死ぬまで有効だ。
番を得たオメガのフェロモンは、番のアルファ以外を誘惑することはなくなる。
そして、オメガは、番のアルファ以外をその身の内に受け入れられなくなるのだ。
他のアルファやベータのモノを胎内に受け入れると、粘膜で拒絶反応が起き、強い拒否感、嫌悪感が現れ、嘔吐や頭痛腹痛症状が現れ、はては痙攣して失神することもあるという。
番のアルファ以外の子を妊娠しないための生体防御反応だという。

けれど実は、オメガ同士ならば、性交も可能なのだ。
オメガのペニスは短く、拒否反応を示す粘膜にまで達しないし、奥まで届けたい時は張形を使うからだ。
はるか昔のオメガが集められたハーレムでは、皇帝以外の子を孕まぬよう、初夜に番契約を結ばされたが、それ以降皇帝の訪れがないことも多く、オメガの妃たちは互いに張形などを用いてヒートの熱を鎮めていたと言う。
その話を知ってから、僕はずっと考えていた。
これは使えるのではないか、と。

フェロモンさえコントロールできるのならば、オメガも自由に生きていける。
ヒートに番のアルファかいなくても、抑制剤を利用してピークを抑え、お互いに慰め合えば、獣欲の熱に狂うこともないだろう。

運命の番と契約してしまったら、心まで奪われるのではないかということだけが心配だったが、それも杞憂だった。
僕の願いは今も変わらず、瞬と離れず、ずっと一緒にいることだけだ。

アルファ達は独占欲が強いから、そのうちに僕らを隔離してしまうだろう。
僕らは一緒にいられる、なんて口約束を信じてはいない。
自分がオメガの一番でない、だなんて許せるアルファはいないだろうから。
けれど、それまでにどうにかしてみせる。

僕は死に損ねて、開き直ったんだ。
もう怖いものなんてない。
諦めることも、二度としない。
開き直った人間は、強いのだから。

ねぇ、アルファのお二人さん。
楽しみにしていて下さいな。

僕は、いつか、絶対に。
あなたたちの檻から抜け出すから。









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感想 1

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みんなの感想(1件)

めい
2024.07.15 めい

毎日楽しく閲覧させていただいてます!
珍しく本日は投稿がございませんが、体調を崩されたりしていないことを願います。
この作品のおかげで毎日20:10が楽しみになりました!!
ありがとうございます、気温の変化が激しい時期ですので体調にお気をつけて!

2024.07.17 トウ子

わー!すみません!ご心配ありがとうございます!!
この続きがうまくまとまらず、ハピエンにできる自信がないため、「俺たちの戦いはこれからだ」みたいな感じになってしまいますが、いったん完結表示にしてしまいました。すみません。
また未来へ向かって二人が歩いていけるような展開が見えてきたら、更新を再開したいと思います。
嬉しいお言葉をたくさんありがとうございました。この作品を書いて良かったです!!

解除

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