【完結】匂いフェチと言うには不自由すぎる

325号室の住人

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『ティル…キスしたい。さっき了承の返事は貰ったよ。』


長い沈黙が明けてのジャンの言葉にドキリとした。

甘い、恋人にキスをねだるような……


『ねぇ…ティルぅ……キスぅ……』

どうしてそんな、急に…………

そんな声で囁かれたら、俺の理性が焼き切れちまう。
俺は、とりあえず返答した。

「キス…ジャンと……そうだな。確かに了承した。」

『だろう? ティルぅ…恥ずかしいの?』

──あー!! 頑張れ俺! 耐えろ!! 
俺には弟妹を幸せにするという義務がぁーーー!!!


ふと、頭の中で我に返る。

こんなジャン、明らかにおかしい。
暫し考える。


学園にいても、婚約者とイチャイチャすることもない。

だが、他の婚約者同士はどうだ?
暇さえあればイチャイチャしているぞ?

正直、ジャンとのイチャイチャ妄想のネタとして見ることも多いし……

なのにジャンが婚約者に対して、大事にしたい。
その代わり、婚姻したら覚悟しておいてなんて言って、手を出していないとしたら…

焦れた婚約者がジャンに1服盛るということもある…気がする。


「どうしたんだ、ジャン。媚薬だとしたら誰に盛られたんだ? 婚約者か? だとしたら、ちゃんとその女を襲ってやれよ。
俺は帰る。」

俺はジャンの目を見ることもできないまま、ジャンの部屋のバルコニーを後にした。






翌朝…

目覚めた僕は、ティルに手紙を書いた。

─昨夜の僕の気持ちは本物だ。
話がある。
今晩、また僕の部屋に訪ね来て。
窓の鍵は、開けておくから。─

今日の手紙は、どうしてもティルに届いて欲しくて、昨夜のバルコニーに出てから手紙を送る魔法陣を出す。

魔法陣の起動により、手紙は小鳥に姿を変え、飛び立つ。

………………が、

キェーーーッ
ピィーッ


突如、大きな鳥に襲われた。
僕の放った手紙の小鳥は、逃げ惑うも捕まり、庭に落ちてしまった。


ピュイィィィーーーー

そこへ、指笛の音が響く。
音は、地上から聞こえているようだ。

バササッ

大きな鳥は一度羽ばたくと急降下し、一直線に地上の1点を目指す。

バササッ

羽根を閉じて何者かの肩に乗る。

肩に大きな鳥を乗せた人物は、庭をスタスタと歩いて僕の手紙の鳥の落下地点までやって来ると、指でつまみ上げるようにして持ち上げ、右掌で魔法を解いて手紙の形に戻した。

そして中を読んでから、魔法で手紙を燃やした。

その人物が、振り返ろうと体を捻……

僕は慌ててバルコニーの中へ身を隠す。
けれど、ちょっとだけ頭を出すようにして確認すれば、大きな鳥を扱い僕の手紙を燃やしたのは、爺やだった。


──これまでの手紙も、もしかしたら全部………………

僕の中に疑念が生まれた瞬間だった。


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