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元辺境伯令嬢、現公爵夫人の帰宅 2
しおりを挟む「やあ、マリアンナ。久し振りだな。」
「王子殿下…?」
室内にいらしたのは、ジン様とシャンテ様、ゲイル様、それから、私と婚約破棄して王都追放とした王太子殿下の腹違いの弟君である、第2王子殿下だった。
「マリアンナ、いや、ローズマリアンナ嬢。この度は、我が兄が君を貶めるようなことをしでかし、大変申し訳なかった。」
第2王子殿下は、既に平民のマリアンナとなった私の前へやって来ると、膝をついて頭を下げられた。
「あの、お顔をお上げください。殿下は兄君ではないのです。殿下からの謝罪は不要ですわ。」
「そうか。」
殿下は顔を上げる。
王族の色とされる金髪ではなく、隣国の王族の血を継ぐ焦げ茶色の髪に蒼眼。でも顔立ちは王太子殿下にそっくりだ。
やや童顔に見られるのが嫌で髭を貯えている。
剣を嗜まれるだけあって、とても背が高くガッシリとした体型をしており、現王家では王太子殿下よりも人気がある。
「やはり、ローズマリアンナ嬢はお優しい。」
殿下は言うと、自然な流れで私の右手を取り、手の甲へ唇を触れさせ…
「ひっ…」
ヌチャッとした唇と刷毛で触れたような髭の感触に、思わず変な声と共に手を引っこ抜いてしまうと、同時に動いたジン様が私と殿下の間へ体を入れて私達を引き離してくださった。
私を少し離すとその場に膝をつかれ、
「殿下。彼女は既に私辺境伯ジン・スタイキの妻であります。
重婚は処刑対象となりますゆえ、ご容赦くださいませ。」
と、頭を下げられた。
私もジン様の隣に膝をつき、頭を下げた。
「あぁ、その件は聞いている。城へもきちんと届けは出され、受理されている。済まなかった。」
殿下は言うと立ち上がる。
「だが今日はその件でも来た。
実は兄が廃嫡の運びとなり、俺の順位が上がることになった。
王太子、そして国王ともなれば、側妃として召し上げることができる。それがたとえ人の妻になっていたとしても、王城で預かり、妊娠の兆候が三月なければ可能だ。だから、ローズマリアンナ嬢にその気があるのか確かめさせてもらったのだ。」
「「え…」」
殿下の言葉にジン様とハモってしまう。
正直なところ、あの環境からは早く離れたかった。
元婚約者は、幼少期からそれはもうぎゅうぎゅう詰めにあらゆる教育を受け、国王様と王妃様から甘やかされて育っている。
そんな育て方であんな男が出来上がるなら、私の産んだ子らもそうなる可能性がある。
「が、俺は既に婚約者であるファニーと好い仲でな。だからローズマリアンナ嬢を受け入れるなら側妃となる。」
──あ、こんな男に育つ可能性もあるのか。
「あの私、もう王族の方とは…」
「なぜだ? 兄と婚約してた頃はあの場所が好きだったんじゃないのか?」
確かに、記憶が戻る前のローズマリアンナというのはそんな女だったようだ。
王太子よりも王妃という立場が好きだったような…
でも…
「いいえ。今は違います。私はこの場所が好きですし、それに…」
「それに?」
「私は、ジンに愛されて…いいえ。私はジンを愛していますから。」
全開の笑みで力強く返答すると、後ろから力強く抱き締められた。
「はい。私は、妻であるローズマリアンナを愛しております。」
それからジン様の手が私の顎に伸びて、息つく暇もない激しいキスをされる。
「ん…んうっ………」
──苦しい。食べられてしまうみたいで怖い…
長い長いキスを終え、膝が抜けてしまったところを、ジン様に腰を支えてもらいながらジン様の胸に縋り付くようにしてやっと立っているような状態になる。
けれど、既にその場に殿下の姿はなかった。
ジン様がソファに掛け、私はジン様の膝の上に座ったところで、
「あの子、ジン達のキスに当てられて、結構序盤に去って行ったわよ。ほら、もう馬車が出る。」
シャンテ様の言葉と同時に、窓の外に王家のド派手な馬車が月光を反射しながら門に向かうのが見えた。
「いや、いつになく祖父様のハゲ頭を思い出すテカリっぷりだなぁ。」
シャンテ様とゲイル様は、執務机の後ろにある窓から外を見ながら何やら話している。
「マリア、ありがとう。うれしかった。」
ジン様の囁く声が耳に響く。
「私も。」
私も首を伸ばしてジン様の耳に囁き、ついでに頬に軽く唇を触れさせる。
恥ずかしいけれど、感謝の気持ちを伝えたいような、そんな気持ちになったのだ。
「さぁ。それじゃ、今日私達がここに来た件に移りましょうか。」
シャンテ様の言葉に、ゲイル様はソファに着席し私はジン様の隣に下ろしてもらった。
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