絶対零度の王女は謀略の貴公子と恋のワルツを踊る

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アレックス・バードの願望【アレックスside】

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結婚したい。

俺がそう思ったのは、ルーシアに許されたその瞬間だった。
簡単には許してもらえない。そう思っていた。俺はそれだけのことをしている。ルーシアの清らかな心を傷つけ、涙を流させた。

けれどルーシアは、

「あなたを許してあげたい」

そう言ってくれた。
俺の心はそれだけでも舞い上がった。

ルーシアに許される可能性がある、そのことが奇跡のように思えたのだ。
それだけでも喜ばしい事だったのに、続けて言ってくれたのだ。

「あなたを愛してるから」

そして慈愛の表情で微笑んでくれた。
こんなに傷つけた俺をまだ愛してくれている。
なんて愛情深いのだろう。

恋は盲目。
誰かがそう言っているのを聞いたことがある。俺はその言葉を聞いた時「ありえないな」と思った。
と言うよりも、俺は女を愛することなんて、一生できないのではないか。そう思った。

だが、違った。
俺にはルーシアが現れたのだ。彼女は美しく、高尚で、純粋な心を持つ、誰よりも魅力的な女性だった。
「恋は盲目」という言葉にも素直に納得することが出来た。

ルーシアは絶対零度なんかじゃない。

俺は、美しく微笑んでくれた彼女をみてそう思った。許されたことの次に、俺の頭をよぎる感想はそれだった。

彼女の微笑みは温かい日向のようで、彼女の笑顔は、まるで大輪の花が開いたかのように美しく愛らしい。

本当に「恋は盲目」だ。


俺はそんなルーシアを自分のものだけにしたかった。彼女の微笑みは自分だけが知っていればいい。そんな薄暗い心が生まれたのも事実だ。

そのためには、早く結婚するべきだと思った。
結婚なんて堅苦しく、窮屈で、つまらないものだと考えていた。
だが、相手の女を自分だけに縛り付けることができるという制度は、素晴らしいものだったのだ。考えが逆転したことは不思議じゃない。

俺はルーシアという尊き存在を愛しているから。

彼女と改めて繋がることが出来た夜は、今まで生きていた中で一番幸福な時間だった。

「私の自室でいいかしら」

そう言って、俺をルーシアの暮らす空間へと招き入れてくれ、抱くことを遠回しに許可してくれる言葉をくれた時。俺は耳を疑った。

だがその言葉は真実で、自分が愛している人が、自分のことも愛してくれている。そのことを雄弁に示してくれていた。

情交なんてただ性欲を晴らすだけの行為だと考えていた自分が、今ではおかしく感じる。こんなにも心を繋げることのできる大切なものなのに。
かと言って、ルーシア以外を抱こうという気持ちなど毛頭ないが。

彼女とのキスは甘く、そして幸福な世界へと連れて行ってくれる。
彼女の体はどこもかしこも甘く、俺は興奮を抑えることが出来なかった。

早く入れたい。

何度そう思ったことだろうか。
だが、ルーシアは二回目。無理をさせる事など絶対に出来ない。これからは、彼女を傷つけることはしないと心に誓っていたから。

その行為も終わって、ルーシアと語らう時間。俺は『婚約者』についての詳細を聞いた。

すでに齢十八である彼女は、早く結婚しなければと考えているようだった。

そんなの、俺がしてやるよ。

言葉が口を滑りそうになるのを抑えた。ルーシアにプロポーズする時は、絶対にロマンティックにしたい。そして、周りの人たちに「彼女は俺のものだ」と大声で示したかった。
そのため俺は計画を立てることにした。


その第一段階で、俺はルーシアにブルーサファイアのネックレスを渡した。
彼女に一番似合うものは何か、熟考して作らせたものだったのだ。以前、受け取ることを拒否されたものとは違う、心のこもった一品だ。

このネックレスと対になる指輪を贈る。場所は大舞踏会の開かれている会場の真ん中で。皆が見ている中、求婚しようと思った。

ルーシアがその求婚を断ることはないとは思う。だが、可能性が絶対にないとは言い切れない。
それならば周りの目がある中で、絶対に断れない状況を作り、優しい彼女が絶対に受けざるを得ない状況を作ってしまえばいいのだ。

その中で、周りの奴ら全員にルーシアは俺の大切な人だと示したい。ネックレスは、彼女が俺のものだと分かる鎖。
指輪は……契約の証だ。

ルーシアにブルーサファイアのネックレスを渡したとき、彼女の方からキスをさてくれたことには驚いた。俺は動揺して、顔を赤くしたことを気付かれたくなくて、彼女を強く抱きしめた。

きっと勘の良いルーシアにはバレていただろうが。

徐々に外堀を埋め、大舞踏会当日。
彼女の父、ライオネル王に挨拶をしたときは、内心冷や汗を流していた。王は「俺の娘を幸せにできるのか」と射殺しそうな瞳でこちらを睨んでいたことは、きっとルーシアは知ることはないだろう。

それを乗り越え、彼女とワルツを踊っているとき。幸せの第一歩まであと少しと、胸を高鳴らせたものだ。


「俺と、結婚してください」


そう言って求婚した時の彼女の驚いた顔。そしてその後の満面の笑み。
俺は一生忘れることはないだろう。

満面の笑みを周りに見せるのは癪だが、俺が彼女にここまで幸せそうな顔をさせたということは誇らしかった。

俺、アレックス・バードはルーシア・ライオネルを何よりも大切にするつもりだ。

かけがえのない彼女を前に誓った。


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