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第18話 寂しい《決意》
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蒼柳と別れ、利里は黙々とテスト勉強をしていく。今回は《基礎看護》に関するテスト内容だ。単語とコミュニケーションに含まれる看護の倫理関係は覚えたが、実践であるコミュニケーションの一環の看護技術、《清拭》の看護行為をあまり覚えていない。だがとりあえず身体の拭き方や、看護のポイントを押さえたやり方などを当時の看護計画表を読み込みながら思い出していく。
――計画表は赤字だらけのおかげでさらに落ち込んだ。
「はぁ……」
(やっぱり俺、向いてないかもな。あぁ~、見るの嫌だな)
自分の羞恥を煽る計画表にも頭を痛めたが、1番を占めているのは……。
「慎さんの1番にはなれないんだ。俺は、なんにも1番になれない。優秀でもないから、バカだから、……看護師なんて向いていないから」
1つ1つ呟いていくと、また瞳から雫が机にぽたりと落ちる。幾度も落ちて、呻くように静かに泣いてしまう。
幸い学生ホールには自分しか居ない。だが人が来るかもしれないのを恐れて静かに泣いては、晴らすように持参の水筒を開けて冷水を一気に飲む。
冷たい水は自身の涙を潤すだけだった。
「ひぃっく、うぅ……うぅ……」
(早く泣き止め、なきやめ、なきやめっ!!!)
深呼吸をして流れ落ちる涙を拭い、ついにはトイレにまで行って顔を洗った。冷たい水が熱い目頭を冷ましてくれて、ほどよい気持ちよさを感じる。
ハンカチで顔を拭いて、自分の真っ白な肌を見ては……卑屈に嘆く。
「そうだよね。こんなお化けみたいな、気持ち悪くて陰鬱な奴が親友なんて、あり得ないよね」
(あぁ、もうこんな気持ちを抱くのはやめよう。心の自傷行為は、もうやめよう)
――人に期待するのは、もうヤメヨウ。
鏡に映る自分が薄っぺらな笑みをした。そして学生ホールにまた戻り、イヤホンでバンドの曲を聴いて気を紛らわす。聴いているのは大好きなリンツが出ているアニメの曲だ。リンツはどんなひどい目にあっても負けない。重たい過去を背負っていても負けない。自分が焦がれていても裏切らない。――アニメのキャラは自分を裏切らない。
(リンツちゃんは俺を裏切らない。裏切らない。だから)
――俺は君しか信じられない。
そう思うだけでなんとなく心が軽くなった。人に期待する分だけ、満たされない分だけ辛くなって苦しくなる。……自分の持病と向き合わないといけなくなる。
そんな悲痛な彼は音楽に没頭しては勉強をしていく。テスト勉強やこれからの課題や、これからの自分の人付き合いを。
放課後となり、学生ホールに人が集まってきた。小さなクラスの掃除を終えて、面倒な女性群をあしらって、蒼柳は学生ホールへ足早に進む。
――気になるのは利里が笑って言っていた”慎さん”という単語と、悲哀な笑みをしたその表情と言葉。
それがなんとなく気になった。
(親友だって言っていた、よな。でもその割には、友達と昼食べるだけであんな悲しそうな顔をしていて――)
……どうしてだろう?
なんとなく思いながら「まぁあとで聞けばいっか!」と自分で納得させて、引き戸を開けて学生ホールへ入室をする。
冷水器と電子レンジが近い席に利里は普段から座って勉強をしている。小柄だが、黒髪の癖毛が少々跳ねていて、白く雪のような肌は自分とは似て非なるものだ。そんな彼は、熱心に教科書とノートを広げて、集中している様子であった。
(この人、留年しているからっていうのもあるけれど、相当の努力はしているよな。いや、並大抵以上の努力はしているんだよな~)
――なんで留年したんだろう?
人には人の事情があるので、また今度聞けばそれでいいかとか考えては蒼柳は利里に声を掛けた。
「乾さ~ん」
「……」
「乾さん!」
「……」
(あれ、聞いてない? もしかして、なんかしたかな?)
そしたら余計に、どうしてだが不安になった蒼柳はイヤホンを入れて爆音で聴きならしている利里の肩に手を置いて、わざと顔を近づけた。
自分の顔に自信があるのもあるが、利里がどんな反応を見せるのかを知りたかったのだ。
――だが、いたずらっこな蒼柳の予想とは裏腹に、利里の反応は少々冷たかったのだ。
「あぁ、蒼柳か。ごめん、音楽聴いていて気が付かなかった」
(え、俺の顔、スルー?)
「あ、いや、あの……」
「ごめんね。じゃあ行こうか」
さっさと支度をする利里に、蒼柳は痛みを伴う寂しさを抱いた。
――計画表は赤字だらけのおかげでさらに落ち込んだ。
「はぁ……」
(やっぱり俺、向いてないかもな。あぁ~、見るの嫌だな)
自分の羞恥を煽る計画表にも頭を痛めたが、1番を占めているのは……。
「慎さんの1番にはなれないんだ。俺は、なんにも1番になれない。優秀でもないから、バカだから、……看護師なんて向いていないから」
1つ1つ呟いていくと、また瞳から雫が机にぽたりと落ちる。幾度も落ちて、呻くように静かに泣いてしまう。
幸い学生ホールには自分しか居ない。だが人が来るかもしれないのを恐れて静かに泣いては、晴らすように持参の水筒を開けて冷水を一気に飲む。
冷たい水は自身の涙を潤すだけだった。
「ひぃっく、うぅ……うぅ……」
(早く泣き止め、なきやめ、なきやめっ!!!)
深呼吸をして流れ落ちる涙を拭い、ついにはトイレにまで行って顔を洗った。冷たい水が熱い目頭を冷ましてくれて、ほどよい気持ちよさを感じる。
ハンカチで顔を拭いて、自分の真っ白な肌を見ては……卑屈に嘆く。
「そうだよね。こんなお化けみたいな、気持ち悪くて陰鬱な奴が親友なんて、あり得ないよね」
(あぁ、もうこんな気持ちを抱くのはやめよう。心の自傷行為は、もうやめよう)
――人に期待するのは、もうヤメヨウ。
鏡に映る自分が薄っぺらな笑みをした。そして学生ホールにまた戻り、イヤホンでバンドの曲を聴いて気を紛らわす。聴いているのは大好きなリンツが出ているアニメの曲だ。リンツはどんなひどい目にあっても負けない。重たい過去を背負っていても負けない。自分が焦がれていても裏切らない。――アニメのキャラは自分を裏切らない。
(リンツちゃんは俺を裏切らない。裏切らない。だから)
――俺は君しか信じられない。
そう思うだけでなんとなく心が軽くなった。人に期待する分だけ、満たされない分だけ辛くなって苦しくなる。……自分の持病と向き合わないといけなくなる。
そんな悲痛な彼は音楽に没頭しては勉強をしていく。テスト勉強やこれからの課題や、これからの自分の人付き合いを。
放課後となり、学生ホールに人が集まってきた。小さなクラスの掃除を終えて、面倒な女性群をあしらって、蒼柳は学生ホールへ足早に進む。
――気になるのは利里が笑って言っていた”慎さん”という単語と、悲哀な笑みをしたその表情と言葉。
それがなんとなく気になった。
(親友だって言っていた、よな。でもその割には、友達と昼食べるだけであんな悲しそうな顔をしていて――)
……どうしてだろう?
なんとなく思いながら「まぁあとで聞けばいっか!」と自分で納得させて、引き戸を開けて学生ホールへ入室をする。
冷水器と電子レンジが近い席に利里は普段から座って勉強をしている。小柄だが、黒髪の癖毛が少々跳ねていて、白く雪のような肌は自分とは似て非なるものだ。そんな彼は、熱心に教科書とノートを広げて、集中している様子であった。
(この人、留年しているからっていうのもあるけれど、相当の努力はしているよな。いや、並大抵以上の努力はしているんだよな~)
――なんで留年したんだろう?
人には人の事情があるので、また今度聞けばそれでいいかとか考えては蒼柳は利里に声を掛けた。
「乾さ~ん」
「……」
「乾さん!」
「……」
(あれ、聞いてない? もしかして、なんかしたかな?)
そしたら余計に、どうしてだが不安になった蒼柳はイヤホンを入れて爆音で聴きならしている利里の肩に手を置いて、わざと顔を近づけた。
自分の顔に自信があるのもあるが、利里がどんな反応を見せるのかを知りたかったのだ。
――だが、いたずらっこな蒼柳の予想とは裏腹に、利里の反応は少々冷たかったのだ。
「あぁ、蒼柳か。ごめん、音楽聴いていて気が付かなかった」
(え、俺の顔、スルー?)
「あ、いや、あの……」
「ごめんね。じゃあ行こうか」
さっさと支度をする利里に、蒼柳は痛みを伴う寂しさを抱いた。
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