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第20話 《正直》な言い分
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実習室へとやってきた利里と蒼柳ではあるが、利里は思い出したような顔をして、蒼柳に軽く謝った。なぜかというと……。
「ごめん! 実習室のカギ持ってくるの忘れてた……。今から取りに行って――」
「あぁ、大丈夫っすよ。問題なしっす」
「え?」
不思議に思う利里に、蒼柳はにやりと笑ってから閉まっているはずの実習室の引き戸を開けたのだ。どうして開けられたのか分からなかったが、彼は自慢げな顔をして笑った。
「さすがに実習室でカギ使うのは知っていたっすからね~。乾さんに声かける前に、事務室に行ってきて、開けといてもらったんすよ~」
「マジか! 最近使っていなかったから、忘れてたよ……。本当にありがとう」
「いえいえ~!」
どうしてだが蒼柳が嬉しそうな表情を見せて、楽しげに実習室へ先導するが……急に動きを止めてしまったのだ。
「え、どうしたの? 急に?」
深い息を吐いている蒼柳の視線の先を向ければ、そこには明らかに先生に怒られるであろう化粧が厚い茶髪のギャルが居た。
(うわぁ~、ぜったい先生に怒られているよね。この子)
利里が正直な感想を秘めていると、蒼柳にしか目に留めていない彼女は早走りで近寄って、蒼柳にすり寄るのだ。
――さすがにこの距離ならわかる。キャンディーとローズが入り交ざったような、これまたキツイ匂いがした。
「あおやなぎく~ん! ながれちゃんはぁ~、すっごい! 待ったんだよ~?」
「あぁ……、永礼さん。ペアの子はどうしたの、かな。俺、今日は乾さんと――」
「ながれはぁ~、蒼柳くんと一緒に実技練したいの~。だめぇ~?」
あからさまな態度で好意を寄せる永礼という女子に、利里は呆気に取られてから……盛大なため息を吐いたのだ。
すると彼女は自分と同じ身長の利里に「はぁ?」なんてメンチを切っては、彼に詰め寄って来たのである。
鼻につく香水の匂いに眩暈がしそうになった。
「なにあんた。蒼柳くんになんか用なの? ながれは、蒼柳くんと――」
「くさい」
「えっ」
「あと化粧落としなよ。絶対に先生に注意されたでしょ。香水もなるべく付けない方がいいよ。匂いで気分悪くなる人多いからさ。なんでそんなことも知らないの、君」
矢継ぎ早に告げていく利里の言葉に、彼女はなんと答えたらよいのか分からずに怒ってしまうような態度を取る。
「そんなのながれの勝手だし! 見ず知らずのあんたに――」
「見ずも知らない、チビでデブな奴に基礎的なことを言われたくはないでしょう? 永礼さん。君の実力はどうなのかは俺には分からないよ。でも、勉強ができたからこの学校に入れたのだろうからさ、」
――自分の可能性を自分で潰すのはもったいないよ。
利里の言葉に永礼は呆然としたかと思えば、肩を震わせて、目じりに涙を溜めさせた。だがそれでも利里は険しい顔つきで説教を続けようとした。
「だから、永礼さん。とりあえず化粧を落としてさ、それから、その嫌な匂いがする香水は、……落とせないか。じゃあこれからは控えるようにして――」
「もう嫌だぁ~!!! チビデブのばかぁ~!!!」
泣きじゃくりながら永礼は利里をなけなしの力で突き飛ばした。だが力は案外軽かったのであまり痛みがなかったのが幸いであった。
最後の言葉を残し、ギャル女子の永礼は逃げるように出て行ってしまったのだ。
――――バタンッ! バタバタバタッ!!!
けたたましい音を立てて引き戸を閉めて、足音を鳴らす彼女に利里は気が付いたように顔を青ざめていった。
「やば、女の子泣かしちゃった……。また俺は、」
(やってしまったか。まさかギャルとはいえ、初対面の子に――)
「ふふっ! あっははっ!!」
「え、なにがおかしいんだよ?」
突然蒼柳が笑い出したもので、利里は顔を青くし困惑をしているが、それでも彼は笑っていた。
「あっはは~! あ~おかしい! あの子、本当に香水臭かったから、言いたくて言えなかったんすよ~」
「そう、なの?」
「はい、だからありがとうございます。乾さん」
蒼柳が心底笑ってから、まぶしい笑みを見せられて、利里はその表情にどうしてだが頬を染めた。
「ごめん! 実習室のカギ持ってくるの忘れてた……。今から取りに行って――」
「あぁ、大丈夫っすよ。問題なしっす」
「え?」
不思議に思う利里に、蒼柳はにやりと笑ってから閉まっているはずの実習室の引き戸を開けたのだ。どうして開けられたのか分からなかったが、彼は自慢げな顔をして笑った。
「さすがに実習室でカギ使うのは知っていたっすからね~。乾さんに声かける前に、事務室に行ってきて、開けといてもらったんすよ~」
「マジか! 最近使っていなかったから、忘れてたよ……。本当にありがとう」
「いえいえ~!」
どうしてだが蒼柳が嬉しそうな表情を見せて、楽しげに実習室へ先導するが……急に動きを止めてしまったのだ。
「え、どうしたの? 急に?」
深い息を吐いている蒼柳の視線の先を向ければ、そこには明らかに先生に怒られるであろう化粧が厚い茶髪のギャルが居た。
(うわぁ~、ぜったい先生に怒られているよね。この子)
利里が正直な感想を秘めていると、蒼柳にしか目に留めていない彼女は早走りで近寄って、蒼柳にすり寄るのだ。
――さすがにこの距離ならわかる。キャンディーとローズが入り交ざったような、これまたキツイ匂いがした。
「あおやなぎく~ん! ながれちゃんはぁ~、すっごい! 待ったんだよ~?」
「あぁ……、永礼さん。ペアの子はどうしたの、かな。俺、今日は乾さんと――」
「ながれはぁ~、蒼柳くんと一緒に実技練したいの~。だめぇ~?」
あからさまな態度で好意を寄せる永礼という女子に、利里は呆気に取られてから……盛大なため息を吐いたのだ。
すると彼女は自分と同じ身長の利里に「はぁ?」なんてメンチを切っては、彼に詰め寄って来たのである。
鼻につく香水の匂いに眩暈がしそうになった。
「なにあんた。蒼柳くんになんか用なの? ながれは、蒼柳くんと――」
「くさい」
「えっ」
「あと化粧落としなよ。絶対に先生に注意されたでしょ。香水もなるべく付けない方がいいよ。匂いで気分悪くなる人多いからさ。なんでそんなことも知らないの、君」
矢継ぎ早に告げていく利里の言葉に、彼女はなんと答えたらよいのか分からずに怒ってしまうような態度を取る。
「そんなのながれの勝手だし! 見ず知らずのあんたに――」
「見ずも知らない、チビでデブな奴に基礎的なことを言われたくはないでしょう? 永礼さん。君の実力はどうなのかは俺には分からないよ。でも、勉強ができたからこの学校に入れたのだろうからさ、」
――自分の可能性を自分で潰すのはもったいないよ。
利里の言葉に永礼は呆然としたかと思えば、肩を震わせて、目じりに涙を溜めさせた。だがそれでも利里は険しい顔つきで説教を続けようとした。
「だから、永礼さん。とりあえず化粧を落としてさ、それから、その嫌な匂いがする香水は、……落とせないか。じゃあこれからは控えるようにして――」
「もう嫌だぁ~!!! チビデブのばかぁ~!!!」
泣きじゃくりながら永礼は利里をなけなしの力で突き飛ばした。だが力は案外軽かったのであまり痛みがなかったのが幸いであった。
最後の言葉を残し、ギャル女子の永礼は逃げるように出て行ってしまったのだ。
――――バタンッ! バタバタバタッ!!!
けたたましい音を立てて引き戸を閉めて、足音を鳴らす彼女に利里は気が付いたように顔を青ざめていった。
「やば、女の子泣かしちゃった……。また俺は、」
(やってしまったか。まさかギャルとはいえ、初対面の子に――)
「ふふっ! あっははっ!!」
「え、なにがおかしいんだよ?」
突然蒼柳が笑い出したもので、利里は顔を青くし困惑をしているが、それでも彼は笑っていた。
「あっはは~! あ~おかしい! あの子、本当に香水臭かったから、言いたくて言えなかったんすよ~」
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「はい、だからありがとうございます。乾さん」
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