バイタルサイン

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
27 / 43

第26話 《テスト》開始

しおりを挟む
 テストの日がついにやってきた。今までのすべてをつぎ込んで、精一杯頑張ってきた解剖生理の《骨格・筋肉》と《基礎看護》の2教科。
 基礎看護のトラブルはあったが、なんとか乗り超えられるように蒼柳と勉強をし……今、緊張感が差し迫る教室に利里は息を落ち着かせる。
 溜飲が下がってしまう気持ちはあるが、蒼柳からの「一緒に進級がしたい」と言ってくれたおかげで、気持ちを抑えることができた。
 共に頑張ろうと鼓舞してくれる友達に巡り合えて、利里は感謝をする。肝心の蒼柳は女子たちに囲まれて話している様子だが、それでもよかった。
 ――まだ謝罪できていない永礼に睨まれたのは少し傷ついたが。
(大丈夫。……大丈夫!)
 心のなかの呪文を唱え、おまじないで水筒に入っている冷水を一気に飲む。心地よい冷たさに打たれて、痺れたのと同時に先生が引き戸を開けて入室した。
 テスト前の予鈴のように乱雑に扉を開け放った先生はヒールの音を立てて前進し、教壇につく。片手には紙の束が重厚感を催して机に置かれた。
「はい。皆さん、席について。テスト10分前です。スマホは電源を必ず切って、各自かばんに入れてください。カンニングしたら即刻、単位を落とします」
 冷淡に言い放つ教師にクラスメートは少しざわついたかと思えば、仕方がないようにスマホの電源を落として各々のかばんやリュックに入れて席に着いた。
 利里の席は1番後ろであった。
「じゃあこれより、1限目が《骨格・筋肉》。2限目を《基礎看護》でテストを行います。再度通告しますが、赤点は60点で取ってしまった場合は1度だけテストを受けられますが……受からなかったら再履修となります。単位を以上落とすと、になりますから、皆さん真剣に臨んでください」
 脅迫めいた言葉ではあるが、クラスメートは恐ろしいぐらい静かな反応を見せている。――喉元から声が出そうになるのは異端なのかと利里は思ったが、口をつぐんだ。
 テストが配られて、刻々と時間が迫る。利里は裏返しになっているテストに負けぬように、姿勢を正す。
(今までやってきたんだ。大丈夫、大丈夫、……大丈夫!)
「始めっ!」
 先生の合図とともに皆が一斉にテストをめくり、問題文を読み込んでいった。
 利里は一瞬だけ頭が真っ白になったが、少し顔をはにかませて紙面をシャーペンで書き込んでいくのだ。
 ――テストが2つとも終了し、担当教師がそそくさと退出をする。すると緊張の糸が切れたかのように皆が悲嘆に暮れていたのだ。
「やばいよ~! 2つともマジでむずかった!!」
「記述多すぎ……。過去問があてにならなかったよ~」
「初の再履修とか取っちゃうかも。……どうしよう」
 今回のテストは過去問に頼った者はほぼ全滅だろう。生徒をいじめたいのか、記述問題が多めで応用問題がかなりあった。おそらく丸暗記であったらテストは60点いくのかさえままならないかもしれない。
 女子たちの阿鼻叫喚が広がるクラスの雰囲気にて、利里は吹っ切れたような顔をしてクラスを出ようとした。まずまずの結果だとは思うが、70点は2つとも取れたはずだ。それなりの自信はある。
 なぜなら自分も同じような局面に遭って再履修をしてしまった人間だから。留年という苦渋を飲んだからには、もう同じような悲劇を繰り返してはならない。だからいつも以上に念入りに勉強をしたのである。
 引き戸を開けて逃げるように学生ホールへ向かおうとする利里ではあったが、誰かに腹を抱え込むように引き込まれた。「ぐぇっ!?」なんて気味の悪い声を上げれば、余裕そうに歌う笑い声が聞こえる。
「なんすか~、また逃げるように帰ろうとして~? つれないじゃないっすか~?」
「……蒼柳、苦しいんだけど」
「90点は余裕っすね~。良かったすよ。いつもよりちょっと勉強しておいて」
「ぶっ飛ばしたいんだけど、お前」
「はは~。頭が良いって罪っすね~」
 愉しげに話す蒼柳に利里は頬を膨らませ、そっぽを向く。自慢をする人間は嫌いだが、蒼柳はあえて言っている気がする。どうして自慢したがるのかは分からないが、だったら応えてやろうではないか。……受けて立とうではないかと、利里は燃え上がらせた。
「そうですね~! 蒼柳くんはかっこいいし、頭いいし、女の子にモテモテだし、俺みたいな落ちこぼれにもチョー優しい、……”人たらし”ですもんね~。いや~、恐れちゃうな~!!!」
「あの……、途中暴言が入っていないっすか?」
「いえいえ~。俺は正直なのが取柄なのでね~。そんじゃあ、俺は学生ホールにお先に行くからさ」
 ――来たかったらおいで?
 小バカしたような誘いに蒼柳は困ったように笑って、利里の顔を覗き込む。利里の挑発的な表情に、そそるなにかを抱いた。
「……ちゃんと来ますよ、小鳥さん」
「うっさい、キザ野郎」
「あはは~」
 蒼柳は少し強く抱きしめてから、名残惜しむように小鳥を……利里を離した。

「なにあのチビデブ。蒼柳くんは、ながれのモノなんだから!」
 少し化粧を薄くした茶髪のギャル……永礼は、彼らの様子を見て唇を噛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

処理中です...