バイタルサイン

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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第27話 やっぱり《恋》

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 蒼柳は現在、帰宅してから思い起こすように利里に触れられたことへの”優越感”に浸っていた。しかもボディタッチもできた。自分ってやるじゃんとか思って胸が弾んでしまうほどだ。
 机に向かいながら今日受けたテストの復習と、明日の予習を済ませて大きく伸びをした。――そんな時であった。
「おい真緒、入るぞ~」
 ノックもせずに部屋に入り片手には漫画を、そして菓子を携えて居座ってきた美男が「よっこらせ」などと言って座り込んだ。蒼柳に瓜二つだが、口の右端にほくろが付いた彼は、食事前だというのにチョコレート菓子を食している。
 さすがの蒼柳も図々しい兄に挑発的に息を吐いた。
「母さんがご飯作ってくれていんぞ、クソ兄貴。食えなくなるぞ」
「平気だ。俺はちゃ~んと食べられるし、最悪、残しても明日の朝に食うからな」
「言ってあんのかよ」
「言ってねぇ」
 また盛大に蒼柳がため息を吐くが構わずに兄の真佳まかは、食しながら、きわどいBL漫画を読みながら話を進めた。
「そんで、お前もついに女ではなく男に移行するのか。……さすが俺の溺愛した弟だ」
「キモいからそんなこと言うなクズ」
「彼女とかいるのなら別れろよ。まっ、遊び人まがいのお前のことだ。どうせろくでもねぇ、顔しか興味のないバカな女でも選んでいそうだ」
 真佳の率直でムカつく言い分に蒼柳……いや、真緒は憤慨を通り越して呆れと、兄の観察力の高さに恐れおののく。
 真佳は昔から観察力と洞察力には長けていた。そのおかげで悪知恵も働いて、真緒や自分の同級生さえもよく馬鹿にしてきた美形のクズ。
 しかしそんな兄は、自分の目標としている職業……看護師になっている。
 「こんなクズでも看護師になれるのだな」なんて真緒も考えたりするが、兄は国公立の看護大学にストレート入学し、学内でもトップ10には入っていた天才であった。が、当時も今と同じでかなり遊んでおり、女や男問わずに手を出して痛い目も見てきたようだ。
 ――天才というのは皆、変人でクズなのだろうなと、真緒は兄を見てよく思う。
「馬鹿っていうか、束縛系の彼女はいるよ。……今は連絡してないけど」
「わぉ、クズだね~。別れたかったらそいつとはちゃんと会って別れた方が良いぜ。そういうのは女の方が未練たらったらなんだよ。さっさとケリつけとけ」
「……わかったよ」
(というか、俺がホモになった話していないのに。しかも別れる前提で話しているのは、どうしてなんだ?)
 不思議に思いつつも真緒もスマホをいじって彼女へ『話があるから1度会ってくれない?』というメッセージを送る。返事は来たようだが、真佳がチョコレートからスナック菓子を食べ始めようと袋を開けた際に、ポツリと言い放った。
「宙ぶらりんで、保険がかかった恋愛は相手をさらに傷つけんだぜ。特に同性はな。保険を掛けたい気持ちはわかるし、同性を好きになるのは確かにおかしい話だ。でもな」
 そう切って、1枚のポテチを食してから漫画を片手に告げるのだ。軽い触感のポテチの音は、小さな悲鳴のように聞こえた。
「同性でも同じなんだよ。いや、逆に同性は博打みたいなもんだ。……異性よりも互いを信頼して、誠意を見せていかないと相手に一生のが残る。まぁ、それもそれで一興かもしれないけどな」
(キズ、利里さんが傷つく)
 ……それは嫌だ。
 あんなかわいらしくて、努力家で、まっすぐで、優しくて……儚げな、消えそうなあの人が、また薄っぺらく笑うのは、
 ――あの人が傷つく姿をもう見たくない。できることなら、
「……支えたいんだよ、惚れちゃったから。だから、傷つけたくない。でももし、あの人に一生のキズを、癒えない傷を負わせちゃうのなら」
 —―俺はその隣で支えたいんだ。
 真緒の真剣な発言に真佳は読んでいた漫画から顔を上げる。――ちょうど褐色肌のヤンキーが、筋肉が素晴らしい美男から愛撫を受けるシーンであった。
「じゃあお前、そいつを女と同じようにできんのか? そんな覚悟はあるのかよ?」
「できるかは分からない。俺は今まで女の子としか付き合ったことないし」
「頼りねぇ変態だな~」
「キモいシーンで手を止めているあんたに言われたくはない。でも」
 すると真緒は羞恥を抱くような表情を見せては、静かだがまっすぐな口調で述べる。
「できる努力はする。その人を悲しませるのなら、今の彼女と縁を切って、その人のために尽くす。……それが俺にできることだから」
「ふ~ん。妙に自信あるじゃん。まっ、俺の弟だから前途多難でもなんとかなるって思わせろ。……兄ちゃんを悲しませる結果にさせんなよ? 人たらし?」
「……ふん」
 ”人たらし”発言には自覚があったので、真緒はとんだ勘違いをしている彼女からのメッセージへ返信をする。

『デートはしないよ。真剣な話がしたいだけだから』

 第1の難関な別れ話になりそうだと頭痛を覚えて考えてしまう。
 ――異性と同性との恋愛もやっぱり手間なのではないか?
 ふと思って真佳に尋ねようとしたが、兄は漫画を読み終えてうたた寝していたのであった。
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