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第31話 《初めて》
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それから俺たちは、広い施設へと足を運び、蒼柳が率先して働いている看護師さんの紹介してくれたり、先ほど言ってくれた患者さんにも会ったりした。
ベッドに横になり、よく見えないが腹部に点滴のようなもの挿入されている人はは”ALS”と略称される指定難病に認定されている患者さんだ。その病気はかかってしまった途端、身体や口でさえも動かなくなり……最終的には衰弱死をしてしまうという残酷な病気だ。髪もふさふさしている白髪で60代くらいの男性は、蒼柳を見たかと思えば視線だけを動かした。
「あ、ちょっと待ってくださいね!」
すると蒼柳はベッド脇にあるそれを……文字盤を手に取って、患者さんの視線を手に取るように読み取っていくのだ。神業かのように思えて俺は感激してしまう。
(す……すごい!)
だがそう思っている自分と、先ほど告白を受けて返事をうやむやにしてしまった自分に腹が立った。でも純粋に、尊敬の念を抱いた。
患者さんは視線で想い告げる。文字盤にはびっしりと文字が埋め込まてれていて、目の焦点に合わせて会話をするらしい。
「そ、の、ひと、は、あ、た、らしい……ひ、と? はい、そうっすよ。乾 利里さんって言います。俺の大事な人です!」
なにちゃっかり告白めいたことを言っているのだと熱くなってしまうが、利里は負けずにお辞儀した。
「乾 利里と言います。よろしくお願いします!」
セキ コウタロウと名札が掛かっている患者さんは、いやセキさんはまた文字盤に視線を向けて告げる。
「か、お、が……まっかだ、けど、へい、き? あぁ、いろいろあったんですよ。はい」
するとセキさんは「お前には聞いてないよ」というような睨んだ顔をして蒼柳を見た。だが蒼柳は至って平然としていたので、この気持ちは蒼柳の気まぐれで作られたのではないかと、激しい不安に陥ったのだ。
見学が終わり、俺はなんとなくスマホを見る。……まだ慎さんから返事はきていない。既読にもなっていない。
(なにかあったのかな? 余裕があったら電話してみるか……)
かばんにしまい込んで、家族に『バイトの見学に行ってきた。今から帰る』というような文面を打ち込もうとした時であった。
「ちゃんと連絡するんすね~。まめだな~」
「うぉっ! って、蒼柳か……。後ろにいるなよ、まったく」
挨拶を終えて帰ろうとする際に、蒼柳に背後から掛けられて胸を高鳴らせだが……沈む自分が居た。なんとなく、さきほどの告白は蒼柳のいじりに入っている気がしたから。
――俺はこんな完璧な人間と釣り合うわけないから。
蒼柳も今日はセキさんのコンディションが良いので、早めに帰れるらしい。「ちょっと待っていてください!」と言って仕事をしてから、俺は待合室で待っていたのだ。
そして蒼柳と合流ができたので連絡をしようとしたときであった。
「それでさっきの答えはどうですか?」
スマホの手が止まる。素知らぬ顔でもしておこうか。
「……看護助手のこと?」
「絶対にとぼけていますよね」
深い息をしてから、蒼柳は俺の腕を取って立ち上がらせて、引き寄せては一緒に歩く。まるで1回見たことがある結婚式のバージンロードを歩いているような錯覚になってしまう。
「告白の件です。俺、言いましたよね? 本気だって」
「それは、あの……」
「やっぱり、イケメンでも男じゃダメっすか?」
……イケメンは関係がないだろう、とか思いつつも一緒に出口に向かう俺たちは冷房が効いていた室内から放たれて暑さを感じた。
もう7月に差し掛かろうとする、暑くてまぶしすぎる季節だ。
「……もったいないから」
「え?」
「だから! 俺みたいな落ちこぼれだし、未履修で留年しているし、変な病気にかかっているし、バカだし!」
「……」
「しかも正直で嫌われ者だし、不器用だし、優しくされるとすぐに舞い上がるし。でも、その人に嫌われたくないから努力しようとしても駄目だし、報われないし、」
「利里さん」
利里は自分を罵った。それしかできないから。そういう風にしか自分は見られないから。「それに――」と言って、うつむき加減だった視線を上げる頃には……蒼柳は静止させるように、唇を塞いだのだ。
しかも利里がぺらぺらと話していたから、口のなかに舌まで入れてきたのである。頬に手を添えられて、ゆっくり歯列をなぞられて、下を吸われて、いやらしい音を奏でて。
――チュゥ……クチュゥ……。
「んぅ……、んんぅ……」
説明しろと言いたいが言えないほどの快楽と脱力感に襲われて、利里は眩暈が思想になる。というかなってしまった。ディープキスの途中でくらりとして、上体を蒼柳に預けるような形になる。
頭上で蒼柳がふふっと軽く笑った。
「やっぱり利里さんは小鳥みたい。……キスしていた時にほっぺがぷにぷにしていて、でも口のなかは、無垢で欲なんて知らないみたいな、怯えた触れ方をするから……ぞくぞくしちゃいました」
口角を上げて目を細める蒼柳に利里は顔を真っ赤にして視線を外そうとすれば……顎を取られて、また同様のキスをする。
――キスをするのは初めてであった。でも、幸福感より罪悪感が勝った気がした。
「んぅ……、んぅ……ふひゃ、あお……やな、ぎ……」
――チュッ。
またリップ音を立てて蒼柳が獲物を見るように、でも悟られぬように微笑めば、利里は伏せ目で確認をする。
「その……本気なのか? 本気じゃないなら、俺、怒るよ?」
その言葉に蒼柳も激しい憤りを感じた。いつも思うのだ。……どうして利里はそこまで自信がないのだと。
だから利里の軽い腕を引っ張って、強硬手段に出た。
「……親御さんに言ってください。『今日は帰れない』って」
「え、なに急に?」
「いいから、言ってくださいね!」
どうしてだが怒っている蒼柳に利里は自分の不甲斐なさを感じた。
――しかし場所を見て、唖然とするのだが。
ベッドに横になり、よく見えないが腹部に点滴のようなもの挿入されている人はは”ALS”と略称される指定難病に認定されている患者さんだ。その病気はかかってしまった途端、身体や口でさえも動かなくなり……最終的には衰弱死をしてしまうという残酷な病気だ。髪もふさふさしている白髪で60代くらいの男性は、蒼柳を見たかと思えば視線だけを動かした。
「あ、ちょっと待ってくださいね!」
すると蒼柳はベッド脇にあるそれを……文字盤を手に取って、患者さんの視線を手に取るように読み取っていくのだ。神業かのように思えて俺は感激してしまう。
(す……すごい!)
だがそう思っている自分と、先ほど告白を受けて返事をうやむやにしてしまった自分に腹が立った。でも純粋に、尊敬の念を抱いた。
患者さんは視線で想い告げる。文字盤にはびっしりと文字が埋め込まてれていて、目の焦点に合わせて会話をするらしい。
「そ、の、ひと、は、あ、た、らしい……ひ、と? はい、そうっすよ。乾 利里さんって言います。俺の大事な人です!」
なにちゃっかり告白めいたことを言っているのだと熱くなってしまうが、利里は負けずにお辞儀した。
「乾 利里と言います。よろしくお願いします!」
セキ コウタロウと名札が掛かっている患者さんは、いやセキさんはまた文字盤に視線を向けて告げる。
「か、お、が……まっかだ、けど、へい、き? あぁ、いろいろあったんですよ。はい」
するとセキさんは「お前には聞いてないよ」というような睨んだ顔をして蒼柳を見た。だが蒼柳は至って平然としていたので、この気持ちは蒼柳の気まぐれで作られたのではないかと、激しい不安に陥ったのだ。
見学が終わり、俺はなんとなくスマホを見る。……まだ慎さんから返事はきていない。既読にもなっていない。
(なにかあったのかな? 余裕があったら電話してみるか……)
かばんにしまい込んで、家族に『バイトの見学に行ってきた。今から帰る』というような文面を打ち込もうとした時であった。
「ちゃんと連絡するんすね~。まめだな~」
「うぉっ! って、蒼柳か……。後ろにいるなよ、まったく」
挨拶を終えて帰ろうとする際に、蒼柳に背後から掛けられて胸を高鳴らせだが……沈む自分が居た。なんとなく、さきほどの告白は蒼柳のいじりに入っている気がしたから。
――俺はこんな完璧な人間と釣り合うわけないから。
蒼柳も今日はセキさんのコンディションが良いので、早めに帰れるらしい。「ちょっと待っていてください!」と言って仕事をしてから、俺は待合室で待っていたのだ。
そして蒼柳と合流ができたので連絡をしようとしたときであった。
「それでさっきの答えはどうですか?」
スマホの手が止まる。素知らぬ顔でもしておこうか。
「……看護助手のこと?」
「絶対にとぼけていますよね」
深い息をしてから、蒼柳は俺の腕を取って立ち上がらせて、引き寄せては一緒に歩く。まるで1回見たことがある結婚式のバージンロードを歩いているような錯覚になってしまう。
「告白の件です。俺、言いましたよね? 本気だって」
「それは、あの……」
「やっぱり、イケメンでも男じゃダメっすか?」
……イケメンは関係がないだろう、とか思いつつも一緒に出口に向かう俺たちは冷房が効いていた室内から放たれて暑さを感じた。
もう7月に差し掛かろうとする、暑くてまぶしすぎる季節だ。
「……もったいないから」
「え?」
「だから! 俺みたいな落ちこぼれだし、未履修で留年しているし、変な病気にかかっているし、バカだし!」
「……」
「しかも正直で嫌われ者だし、不器用だし、優しくされるとすぐに舞い上がるし。でも、その人に嫌われたくないから努力しようとしても駄目だし、報われないし、」
「利里さん」
利里は自分を罵った。それしかできないから。そういう風にしか自分は見られないから。「それに――」と言って、うつむき加減だった視線を上げる頃には……蒼柳は静止させるように、唇を塞いだのだ。
しかも利里がぺらぺらと話していたから、口のなかに舌まで入れてきたのである。頬に手を添えられて、ゆっくり歯列をなぞられて、下を吸われて、いやらしい音を奏でて。
――チュゥ……クチュゥ……。
「んぅ……、んんぅ……」
説明しろと言いたいが言えないほどの快楽と脱力感に襲われて、利里は眩暈が思想になる。というかなってしまった。ディープキスの途中でくらりとして、上体を蒼柳に預けるような形になる。
頭上で蒼柳がふふっと軽く笑った。
「やっぱり利里さんは小鳥みたい。……キスしていた時にほっぺがぷにぷにしていて、でも口のなかは、無垢で欲なんて知らないみたいな、怯えた触れ方をするから……ぞくぞくしちゃいました」
口角を上げて目を細める蒼柳に利里は顔を真っ赤にして視線を外そうとすれば……顎を取られて、また同様のキスをする。
――キスをするのは初めてであった。でも、幸福感より罪悪感が勝った気がした。
「んぅ……、んぅ……ふひゃ、あお……やな、ぎ……」
――チュッ。
またリップ音を立てて蒼柳が獲物を見るように、でも悟られぬように微笑めば、利里は伏せ目で確認をする。
「その……本気なのか? 本気じゃないなら、俺、怒るよ?」
その言葉に蒼柳も激しい憤りを感じた。いつも思うのだ。……どうして利里はそこまで自信がないのだと。
だから利里の軽い腕を引っ張って、強硬手段に出た。
「……親御さんに言ってください。『今日は帰れない』って」
「え、なに急に?」
「いいから、言ってくださいね!」
どうしてだが怒っている蒼柳に利里は自分の不甲斐なさを感じた。
――しかし場所を見て、唖然とするのだが。
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