キュウ番目の◯◯

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《本性はクズ》

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 なぜか心臓を撃たれたかのように悶絶としている様子の唯センコーに俺は唖然を通り越してどうすれば良いのかをシミュレーションしようとするが、……動揺してできないっ!
「うはっっ、あの、目っ……、ぐぅっ……!???」
 目の前に居る唯センコーは変態じみた言動と共に胸を押さえて喘いでいた。その行動に俺の脳内フラッシュ暗算で導き出したのは、――とりあえず謝って、帰ってしまうということであった。「すみませんっ! 失礼しましたっ!」
「あっ、あ、あ、あ、あや……の……くんっ!」
 俺は卒倒するように逃げ去って行った。こんな気持ちが悪い奴の文句なんか聞けるかっつ~のっ!
 ただ俺は知らない。変な絶叫を上げた唯センコーが真っ赤な顔をして眼鏡を上げてから「……もっと話したかった」などと謎の言葉を吐いているということに。

「た、ただい、まぁっ~~……!」
 俺は逃げるようにこぢんまりとしたクラスへと入った。都立看護学校がどういう仕組みかは不明だが、俺が通っているクラスは一学年に八十名ほどでニクラスしかない。
 しかもAとBに分かれていて、大ホールと小ホールに分かれて授業を行っている。だから基本的には今日は小ホールとか、今日は大ホールの日とか、そんな感じだ。
 今日は小ホールの日で入学当初に仲良くなった俺と同じ社会人出身の幹下みきしたと現役看護学生の黒井くろいくんが待っていたように俺に駆け寄ってくれた。特に俺に懐いていて慕っている黒井くんは俺の慌てように少し驚いていた。「どうしたんですか、キュウさん? そんな血相変えた顔して?」
 俺の本名は救(すくう)だが、大体の人間は音読みのキュウと呼ぶのでほとんどのクラスメイトには「キュウさん」と呼ばれている。
 黒井くんが首を傾げていると、俺と同年代の幹下がにんまりと笑っていた。「唯原先生になにかされたか?」そう尋ねてくるので俺は二人にこれまでのあらましを話し始める。
 今は昼休みで二人は小さなテーブルにコンビニの弁当やら手作り弁当を広げていた。コンビニ弁当は黒井くんで手作り弁当は、看護師になったら挙式をすると約束している幹下の弁当だ。幹下がかなりムカつくっ!
 俺は節約家なので手製の弁当の中に入っている生姜焼きを温めようとする前に、話を終えた。電子レンジは下の階の食堂にあるのだ。
 黒井くんが美味しそうなカルボナーラを食んでいた。「ふ~ん……。唯原先生、なか変ですね。変なものでも食べたのかな?」それから少し考え込んでいると幹下が「知ってるか?」俺へなにかの兆候を示すような話し方をしていた。
「唯原先生ってさ、噂だとお気に入りを下僕として使うらしい」
「げぇぇぇっっ!?? あのクソチビにそんなへきが?」
「あぁ。もしかしたら、キュウが気に入ったのかもしれない。なにか貸しでも作られる前に借りを作らない方が良いかもな。まっ、噂だと貸し一つで借りが百、とか……」
「まじかよっ!?? やばっ、あの変態っ!?」
 俺が絶句していると横から声を掛けてくれたクラスメイトが居た。「キュウさ~ん、今、平気?」それは唯センコーに邪魔をされた巨乳で可愛い現役生の子だ。ぶっちゃけ名字不明。まぁいつかは聞くけどね、いつかは。
 その子は頬を赤らめて俺に近寄る。「もしも良かったら、一緒に食堂行きませんか?」
 俺は思ったね。これは俺の行動次第でこの子を彼女にできる。ヤレるって。
 幹下はしたたかな笑みを浮かべ、黒井くんは戸惑っている様子だった。黒井くんは純粋なのか。だったらこの初心な現役生たちの株を上げなければ。
 俺は爽やかな笑みを浮かべて少し困った表情を見せる。「ありがとう。俺も食堂に行こうとしていたんだ。でも、友達との約束もあるからそれまででも良いかな?」
 俺は内心では悪魔のように笑ったね。こういう時はがつがつしちゃいけないんだよ。大人の余裕って言うのかな?
(そういうのを見せた方が年下はちょろいんだよな……)
 俺がゲスいことを考えているのに、目の前の子は俺の態度に脳天を撃たれたようだった。あぁ、ありがとう。こういうモテるような容姿をさせてくれた親に感謝だぜ。
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