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《どうして気に掛けるのだろう?》
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介護現場ではいつ、なにが起こるかはわからない。それは看護の現場でも同じことが言えるだろう。ただ二つの共通点としてはそういうことに対してマニュアルがある。
でも、人生は突飛なことが起こっても事態を把握できない。たとえマニュアル通りに動いても、それが仇となってしまうことがあるのだ。――それが俺だ。
俺の人生において脳内フラッシュ暗算が得意になったのはそのおかげだ。突飛な行動を取る親族と友達と自分に嫌気が差して、今の俺が居る。
俺は自分が嫌いだ。クズで人を愛せない、自分さえも愛さえない自分が嫌いなのだ。でもそれでも期待をしてしまう。自分を愛してくれるかもしれない両親に期待する自分が居る。まっ、形式上は両親で本物の親父は死んで母親は俺を捨てたけどね。
夜の勤務の間、俺は仮眠室に居た。仮眠できる小さなスペースがあるのだ。そこに電子レンジで温めた弁当を片手になんとなくスマホを弄る。
ハンバーグドリアはやはりいい。味の濃い味付けは疲れた身体に沁みるものがある。「さ~て。スマホでアニメでも見ようかなぁ」
俺はハンバーグとホワイトソースで隠されたチキンライスを頬張る。なんと夜の八時にメッセージがあったらしい。それはショートメッセージからであった。内容を把握して俺は息を吐いた。「……唯センコーかい」
そう。どういうわけか唯センコーがメッセージを出していたのだ。電話がブロックされたならショートメッセージで、そう考えたのだろう。
『なんか足早に帰って行ったけど、彼女とのデートかな? だったらごめんね。左頬を傷つけて。痛いでしょ?』
そう言われてみれば今もジンジンして痛い左頬が少し腫れていた。実は施設長にも先ほど心配されたのだ。
「親御さんになにかされた?」ものすごく心配されたのでただの怪我だと言った。施設長には名義上の両親のことを話してしまったことがあるのでひどく心配してくれたのだ。
あの両親が犬もインコもどちらともに二匹と二羽飼っているのがあり得ないと俺は考えている。名義上の姉にあたる人物も十歳は離れているから姉というより他人だ。まっ、血の関係が薄いから他人に近いけど。
メッセージは続く。『でも連絡だけはください。僕はいつでも待っています。唯原 信。』俺は左頬に触れて盛大な息を吐いていた。なんだあいつは。俺の恋人気取りかよ、なんて思った。
「……めんどくさっ。というか、今、深夜の三時だぞ。ぜってぇ寝てんだろ」
俺は一人しかいない仮眠室で再び吐息を漏らした。あー、めんどくさ。留守電に入れてそれで終わりにしよう~と。
俺はブロックしていた連絡先を一旦解除した。それから電話を掛ける。数コール鳴ってから早く留守電にならねぇかなとか考えていた。でも、――電話が出たんだ。
『もしもしっ? 唯原ですっ、あの、その……。今、どこにいますか? 今すぐ行きたいですっ』
いや乗り込む気かい、などとメンヘラの唯センコーへツッコミを入れつつ俺は答えた。「俺、今日はバイトなんですよ。夜勤のね。というかよく起きてましたね、せんせー?」
すると唯センコーは少し欠伸を我慢していた様子であった。我慢しなくていいのに、などと思いつつ俺はふと自分の強張っていた表情筋が緩くなったのを感じる。それから我に返って表情を固めた。
唯センコーが電話越しで話す。『そのっ、しょ、職場には絶対に乗り込まないからっ、あのっ! ……夜勤が終わったら迎えに来ても、良いかな?』
なんでそこまで俺に入れ込むのだろう。俺は不思議で堪らない。でも、唯センコーには借りがある。唯センコーに貸しを一つでもされたら借りを百は返さないといけないと噂になっているのだ。
どうしてだが俺はそう思って咳払いをしてから脳内フラッシュ暗算で弾きだした。「……最寄り駅まで来られます?」
でも、人生は突飛なことが起こっても事態を把握できない。たとえマニュアル通りに動いても、それが仇となってしまうことがあるのだ。――それが俺だ。
俺の人生において脳内フラッシュ暗算が得意になったのはそのおかげだ。突飛な行動を取る親族と友達と自分に嫌気が差して、今の俺が居る。
俺は自分が嫌いだ。クズで人を愛せない、自分さえも愛さえない自分が嫌いなのだ。でもそれでも期待をしてしまう。自分を愛してくれるかもしれない両親に期待する自分が居る。まっ、形式上は両親で本物の親父は死んで母親は俺を捨てたけどね。
夜の勤務の間、俺は仮眠室に居た。仮眠できる小さなスペースがあるのだ。そこに電子レンジで温めた弁当を片手になんとなくスマホを弄る。
ハンバーグドリアはやはりいい。味の濃い味付けは疲れた身体に沁みるものがある。「さ~て。スマホでアニメでも見ようかなぁ」
俺はハンバーグとホワイトソースで隠されたチキンライスを頬張る。なんと夜の八時にメッセージがあったらしい。それはショートメッセージからであった。内容を把握して俺は息を吐いた。「……唯センコーかい」
そう。どういうわけか唯センコーがメッセージを出していたのだ。電話がブロックされたならショートメッセージで、そう考えたのだろう。
『なんか足早に帰って行ったけど、彼女とのデートかな? だったらごめんね。左頬を傷つけて。痛いでしょ?』
そう言われてみれば今もジンジンして痛い左頬が少し腫れていた。実は施設長にも先ほど心配されたのだ。
「親御さんになにかされた?」ものすごく心配されたのでただの怪我だと言った。施設長には名義上の両親のことを話してしまったことがあるのでひどく心配してくれたのだ。
あの両親が犬もインコもどちらともに二匹と二羽飼っているのがあり得ないと俺は考えている。名義上の姉にあたる人物も十歳は離れているから姉というより他人だ。まっ、血の関係が薄いから他人に近いけど。
メッセージは続く。『でも連絡だけはください。僕はいつでも待っています。唯原 信。』俺は左頬に触れて盛大な息を吐いていた。なんだあいつは。俺の恋人気取りかよ、なんて思った。
「……めんどくさっ。というか、今、深夜の三時だぞ。ぜってぇ寝てんだろ」
俺は一人しかいない仮眠室で再び吐息を漏らした。あー、めんどくさ。留守電に入れてそれで終わりにしよう~と。
俺はブロックしていた連絡先を一旦解除した。それから電話を掛ける。数コール鳴ってから早く留守電にならねぇかなとか考えていた。でも、――電話が出たんだ。
『もしもしっ? 唯原ですっ、あの、その……。今、どこにいますか? 今すぐ行きたいですっ』
いや乗り込む気かい、などとメンヘラの唯センコーへツッコミを入れつつ俺は答えた。「俺、今日はバイトなんですよ。夜勤のね。というかよく起きてましたね、せんせー?」
すると唯センコーは少し欠伸を我慢していた様子であった。我慢しなくていいのに、などと思いつつ俺はふと自分の強張っていた表情筋が緩くなったのを感じる。それから我に返って表情を固めた。
唯センコーが電話越しで話す。『そのっ、しょ、職場には絶対に乗り込まないからっ、あのっ! ……夜勤が終わったら迎えに来ても、良いかな?』
なんでそこまで俺に入れ込むのだろう。俺は不思議で堪らない。でも、唯センコーには借りがある。唯センコーに貸しを一つでもされたら借りを百は返さないといけないと噂になっているのだ。
どうしてだが俺はそう思って咳払いをしてから脳内フラッシュ暗算で弾きだした。「……最寄り駅まで来られます?」
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