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《俺はどうせ……さ》
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あのチャラ男と唯センコーが居た場所は職員室から少し離れて階段の踊り場に出たところであった。時間はというと、あと十分で初めての校内実習が始まる。でも俺がぶたれた左頬はまるで疼くように痛みだした。
俺は舌打ちを打ってしまう。唯センコーが怯えたように肩を震わせる。でもそれでも俺は痛みだす左頬を擦る行為をする前に唯センコーへ質問したんだ。「今の、元カレ? もしくはセフレ?」
俺の声が強張っていたからか唯センコーは顔をビクつかせてか細い声で紡ぐ。
「えっと……、お気に入りのセフレ、だった子、です」
「……っマジかよ。俺以外にも生徒に手を出したとかサイテーだな、あんた」
唯センコーの買ったばかりの黒縁眼鏡から見える大きな瞳から雫が零れそうだ。泣きたいのはこっちだよ。いつになったら、俺は一番の愛しい人になれんだよ……。
俺はどうせ下から数える方が早いんだろ。どうせ九番目なんだろ? だったら、……もういい。俺は切り捨てるだけだ。切り捨てられる前に、俺が切ってやる。
「まっ、唯原せんせーにとっては俺って都合のいい相手なんですよね。まっ、それでもいいですよ。俺、そういうの慣れてますから」
「……違うよ」
「大丈夫です。俺は大人ですから実習が終わってもせんせーの醜態は晒しませんし、暴露もするつもりもありませんから。あっ、金もせびらないんで安心してください」
「だからっ、違うって!」
すると時刻はあと五分前となってしまった。俺は唯センコーの肩を突き放すように叩いたんだ。「じゃあ、早く実習に行きましょうよ。一年生の担任が遅れたら示しがつかないでしょ?」
それから俺たちは実習へと入っていく。ほかの先生方も集合しており、校内実習する気満々だ。今回は実習担当の先生がマイクを持って身だしなみ検査を行っていた。
俺は息を吐いて涙を流すのを堪えた。流したら負けだと考えた。俺はずっと愛されない。どうせ九番目の最下位なんだから――
校内実習の内容としては俺と実里ちゃんペアでは自己紹介をした後に髪の毛を洗わせてもらう、というものだ。この行為を洗髪といい、まぁ実際に一年生の実習でもやるかもしれない技能の一つである。
しかしこの患者さんは難聴で、なおかつ認知症が入っており、しかも上体を起こせないでいる厄介な患者さん役を唯センコーが請け負っているのだ。
そしてこの患者さんは洗髪されるのを嫌がっているという設定も忘れてはならない。
はじめに実里ちゃんが先にやることになったのだが、唯センコーはそこまで狼狽もせずにやはり面倒な患者さんとして役をしていた。
実里ちゃんが一生懸命「髪の毛を洗ったらきれいになりますよぉ~!」などと言うのだが、唯センコーは「はい? なんて言いましたか?」などと会話を翻してしまう。まるで話す気がないようだ。
それでも実里ちゃんが必死になって洗髪をしようと試みるが、意地悪な唯センコーは「髪の毛を洗うなんて、嫌だなぁ~」などと抜かす。そして制限時間が過ぎてしまった。
周囲のクラスメイトが「厳しすぎじゃね?」とか「こんな患者居たらマジで無理なんだけど……」などと泣きそうな実里ちゃんを見て励ましつつ看護の厳しさを学んでいるようだ。
まぁ、自分の時には唯センコーがもっと文句を言うだろうなと俺はふと考えて息を吐いた。
ただ俺が後に回されたということは、俺のアルバイトをどこかで知っているということだ。いや、アルバイトを知らなくても俺の前歴を知れば、俺の方を格段に難易度を上げるはずだ。
唯センコーが俺を見てそっぽを向く。「じゃあ、次。君は少し難しくするから」そう言って唯センコーは先生方へなにかを相談したかと思えば、軽く笑んでいたのだ。なにか企んでやがるな、この人?
(受けて立とうじゃねぇか、センコーよ?)
「よろしくお願いします」
俺は唯センコーへ礼儀正しく頭を下げるのだ。
俺は舌打ちを打ってしまう。唯センコーが怯えたように肩を震わせる。でもそれでも俺は痛みだす左頬を擦る行為をする前に唯センコーへ質問したんだ。「今の、元カレ? もしくはセフレ?」
俺の声が強張っていたからか唯センコーは顔をビクつかせてか細い声で紡ぐ。
「えっと……、お気に入りのセフレ、だった子、です」
「……っマジかよ。俺以外にも生徒に手を出したとかサイテーだな、あんた」
唯センコーの買ったばかりの黒縁眼鏡から見える大きな瞳から雫が零れそうだ。泣きたいのはこっちだよ。いつになったら、俺は一番の愛しい人になれんだよ……。
俺はどうせ下から数える方が早いんだろ。どうせ九番目なんだろ? だったら、……もういい。俺は切り捨てるだけだ。切り捨てられる前に、俺が切ってやる。
「まっ、唯原せんせーにとっては俺って都合のいい相手なんですよね。まっ、それでもいいですよ。俺、そういうの慣れてますから」
「……違うよ」
「大丈夫です。俺は大人ですから実習が終わってもせんせーの醜態は晒しませんし、暴露もするつもりもありませんから。あっ、金もせびらないんで安心してください」
「だからっ、違うって!」
すると時刻はあと五分前となってしまった。俺は唯センコーの肩を突き放すように叩いたんだ。「じゃあ、早く実習に行きましょうよ。一年生の担任が遅れたら示しがつかないでしょ?」
それから俺たちは実習へと入っていく。ほかの先生方も集合しており、校内実習する気満々だ。今回は実習担当の先生がマイクを持って身だしなみ検査を行っていた。
俺は息を吐いて涙を流すのを堪えた。流したら負けだと考えた。俺はずっと愛されない。どうせ九番目の最下位なんだから――
校内実習の内容としては俺と実里ちゃんペアでは自己紹介をした後に髪の毛を洗わせてもらう、というものだ。この行為を洗髪といい、まぁ実際に一年生の実習でもやるかもしれない技能の一つである。
しかしこの患者さんは難聴で、なおかつ認知症が入っており、しかも上体を起こせないでいる厄介な患者さん役を唯センコーが請け負っているのだ。
そしてこの患者さんは洗髪されるのを嫌がっているという設定も忘れてはならない。
はじめに実里ちゃんが先にやることになったのだが、唯センコーはそこまで狼狽もせずにやはり面倒な患者さんとして役をしていた。
実里ちゃんが一生懸命「髪の毛を洗ったらきれいになりますよぉ~!」などと言うのだが、唯センコーは「はい? なんて言いましたか?」などと会話を翻してしまう。まるで話す気がないようだ。
それでも実里ちゃんが必死になって洗髪をしようと試みるが、意地悪な唯センコーは「髪の毛を洗うなんて、嫌だなぁ~」などと抜かす。そして制限時間が過ぎてしまった。
周囲のクラスメイトが「厳しすぎじゃね?」とか「こんな患者居たらマジで無理なんだけど……」などと泣きそうな実里ちゃんを見て励ましつつ看護の厳しさを学んでいるようだ。
まぁ、自分の時には唯センコーがもっと文句を言うだろうなと俺はふと考えて息を吐いた。
ただ俺が後に回されたということは、俺のアルバイトをどこかで知っているということだ。いや、アルバイトを知らなくても俺の前歴を知れば、俺の方を格段に難易度を上げるはずだ。
唯センコーが俺を見てそっぽを向く。「じゃあ、次。君は少し難しくするから」そう言って唯センコーは先生方へなにかを相談したかと思えば、軽く笑んでいたのだ。なにか企んでやがるな、この人?
(受けて立とうじゃねぇか、センコーよ?)
「よろしくお願いします」
俺は唯センコーへ礼儀正しく頭を下げるのだ。
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