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第二十六章 血の型の謎
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第二十六章 血の型の謎
午後、ひよりの家。
窓の外では陽が傾き始めていたが、部屋の空気は重く、陰鬱に沈んでいた。
三人とも、ひたすら無言で座っていた。
響は椅子に座ったまま、指を組んで揺らしている。
駿はスマホを手にしたまま、画面も見ずにうつむいていた。
佑真はソファーの肘掛けを指でトントンと叩いている。
「……佐倉、無事かな」
沈黙を破って、佑真が言った。
「アイツも……入れ替えられてたり、しないかな。すでに、ドッペルゲンガーになってるとか……」
「……そんなの……考えたくないけど」 駿がつぶやいた。
「なあ」
響がふと口を開いた。
「ちょっと、さっき思い出したことあるんだけどさ」
「なに?」
「前にさ、ドッペルゲンガーの共通点とか、複製される人間に何か条件があるのかって話したことあっただろ?」
「うん、佐倉が“血液型かも”って言ってたやつだよな」
「そう。それでさ、あのとき俺も、お前も、AB型って言ってたよな」
「うん。俺もAB型。真嶋も、だろ?」
「でさ、あれ、冗談っぽく終わったけど……あれ、本当に関係あるかもしれない」
二人が顔を見合わせた。
「……どういうこと?」
「俺、あいつ――白鷺にキスされる前に、血液型聞かれたんだ。
“ねえ、真嶋くんって何型?”って」
「……マジか」
「……俺も……聞かれた気がする。たしか、一緒にいたとき、ほかの話の流れで“結城くんって何型?”って……。
でも、まったく気にしてなかったから忘れてたけど…」
響が深く頷いた。
「北沢や風間先輩も……確認はもうできないけど、多分AB型なんじゃないかって、今になって思ってさ」
「もしそうだとしたら……」
「複製されるのはAB型の人間だけ? ……いや、される“可能性がある”のがAB型、か」
「でも、AB型限定だとしたら、なんで?」
響は腕を組み、言いにくそうに口を開いた。
「……例えばさ、白鷺が俺たちの……なんというか、“素材”を選んでるんだとしたら……
その条件に、血液型が関わってるとか。
AB型の人にだけできるとか、逆にAB型はできないとか……何かあるのかもしれない」
「それ、医学的にどうなんだろ」
佑真がつぶやいた。
三人はそれぞれ、思案するように黙り込んだ。
だが、その仮説を証明するには、さらなる情報が必要だった。
沈黙の中、佑真のスマホが微かに震えた。
三人の視線が、一斉にスマホに集まった――。
画面に表示された名前は「新庄」。
「……新庄だ」
佑真が通話ボタンを押すと、いつもの気だるげな声がスピーカーから漏れた。
「一ノ瀬?あー、急にごめん。ちょっとだけ話してもいい?」
「ああ、もちろん。どうかした?」
「この前さ、みんなで来てくれたじゃん?……ほんとありがとな。あのあと、なんかすげえスッキリした。最近はだいぶ気分も落ち着いてきたんだ」
新庄の声は穏やかで、むしろ今の状況とは無縁に思えるほどだった。
その様子に少し安心しながら、佑真はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「なあ、新庄。唐突に悪いけど、血液型って、なんだっけ?」
「ん?……俺?ABだけど。何かの調査?」
佑真は思わず、スマホから顔を上げて響と駿を見た。
二人とも目を見開いたまま、無言で頷いた。
「いや、大丈夫。ありがとう、新庄。落ち着いたみたいで良かった。また連絡する」
「ああ……?」
一ノ瀬は通話を切った。
沈黙。
「やっぱり、決まりだ」
響がぽつりと呟いた。
「AB型の血液が必要なんだ、あいつには。しかも……“完成された複製の血”じゃなきゃ意味がないのかもしれない」
佑真が眉をひそめた。「どういうことだ?」
「白鷺ユリは、血を必要としてるんだと思う。 やつの家に行ったとき、ワイングラスに赤い液体が残っていた。 普通に考えたら赤ワインなんだろうけど、匂いが違った。あれは血だったんだ」
駿の目が丸くなる。
「血? あの女、血を飲んでるって?」
「いや、それは分からないけど、その可能性はあると思う」
佑真が興味深げに 「で?」
「ドッペルゲンガーから血を抜いてるのかも?」
「やつがキスして、複製作って、そこから血を抜いて飲むってか?そんなバカな」
駿は飽きれて言った。
「そう、ただし、条件があるのかも」
「どんな?」
「完全に入れ替わったドッペルゲンガーからの血」
「完全に入れ替わった?どういうこと?」 佑真が不思議そうに。
「俺たちの複製って、もう存在してるよな? 普通なら、そこから血を取れば済む話のはず。 でもそうしてないで、執こく俺たちの命を狙ってくる。 てことは、未完成の“器”じゃダメなんだ」
駿が少し身を乗り出す。「つまり……複製を完成させるには、オリジナルを殺す必要があるってことか」
「そう。完全に入れ替えた肉体。そいつの血だけが目的。風間も北沢も、多分その血を抜かれて死んだ」
「……おい、それ、めちゃくちゃ辻褄合うじゃん。おまえ、すげえな」
「いや、論理的に考えただけ。 こんな現実離れした変な話の場合、むしろ論理的に考えないと破綻するから、ちゃんと積み上げてみた」
佑真が、少し呆れたように笑う。
「で、結局なんなんだよ、白鷺ユリって。吸血鬼かよ」
響は静かに頷いた。 「ああ、ある意味な。彼女は血がないと死ぬ。もしくは何らか支障があると考えるのが自然」
駿が小さく舌打ちした。「AB型って日本の人口の10パーくらいだろ? めんどくせえ趣味してんな……A型なら吸い放題だったろうに」
「じゃあ、捕まった佐倉は大丈夫か。たしかA型だったはず。 血を抜く為に捕まったんじゃなく、俺たちをおびき寄せる餌として捕まったってことだな」 ピンチなのに佑真はちょっと安心した。
「しかし、AB型にこだわるってことは、他の型を摂取すると何かまずいんだろう。輸血で間違った血液入れたらショック死するみたいに」 駿が言う。
「……じゃあ逆に、違う型の血飲ませたら――」 佑真の目が輝いた。
「死ぬかもな」 駿も嬉しそうに言う。
その言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。
佑真が、ポツリとつぶやいた。
「それ、めちゃくちゃ熱い展開だな……」
「確信はないけどね」 と響が苦笑した。
けれど、その仮説が真実だったなら――
白鷺ユリに、明確な“弱点”があるということだった。
午後、ひよりの家。
窓の外では陽が傾き始めていたが、部屋の空気は重く、陰鬱に沈んでいた。
三人とも、ひたすら無言で座っていた。
響は椅子に座ったまま、指を組んで揺らしている。
駿はスマホを手にしたまま、画面も見ずにうつむいていた。
佑真はソファーの肘掛けを指でトントンと叩いている。
「……佐倉、無事かな」
沈黙を破って、佑真が言った。
「アイツも……入れ替えられてたり、しないかな。すでに、ドッペルゲンガーになってるとか……」
「……そんなの……考えたくないけど」 駿がつぶやいた。
「なあ」
響がふと口を開いた。
「ちょっと、さっき思い出したことあるんだけどさ」
「なに?」
「前にさ、ドッペルゲンガーの共通点とか、複製される人間に何か条件があるのかって話したことあっただろ?」
「うん、佐倉が“血液型かも”って言ってたやつだよな」
「そう。それでさ、あのとき俺も、お前も、AB型って言ってたよな」
「うん。俺もAB型。真嶋も、だろ?」
「でさ、あれ、冗談っぽく終わったけど……あれ、本当に関係あるかもしれない」
二人が顔を見合わせた。
「……どういうこと?」
「俺、あいつ――白鷺にキスされる前に、血液型聞かれたんだ。
“ねえ、真嶋くんって何型?”って」
「……マジか」
「……俺も……聞かれた気がする。たしか、一緒にいたとき、ほかの話の流れで“結城くんって何型?”って……。
でも、まったく気にしてなかったから忘れてたけど…」
響が深く頷いた。
「北沢や風間先輩も……確認はもうできないけど、多分AB型なんじゃないかって、今になって思ってさ」
「もしそうだとしたら……」
「複製されるのはAB型の人間だけ? ……いや、される“可能性がある”のがAB型、か」
「でも、AB型限定だとしたら、なんで?」
響は腕を組み、言いにくそうに口を開いた。
「……例えばさ、白鷺が俺たちの……なんというか、“素材”を選んでるんだとしたら……
その条件に、血液型が関わってるとか。
AB型の人にだけできるとか、逆にAB型はできないとか……何かあるのかもしれない」
「それ、医学的にどうなんだろ」
佑真がつぶやいた。
三人はそれぞれ、思案するように黙り込んだ。
だが、その仮説を証明するには、さらなる情報が必要だった。
沈黙の中、佑真のスマホが微かに震えた。
三人の視線が、一斉にスマホに集まった――。
画面に表示された名前は「新庄」。
「……新庄だ」
佑真が通話ボタンを押すと、いつもの気だるげな声がスピーカーから漏れた。
「一ノ瀬?あー、急にごめん。ちょっとだけ話してもいい?」
「ああ、もちろん。どうかした?」
「この前さ、みんなで来てくれたじゃん?……ほんとありがとな。あのあと、なんかすげえスッキリした。最近はだいぶ気分も落ち着いてきたんだ」
新庄の声は穏やかで、むしろ今の状況とは無縁に思えるほどだった。
その様子に少し安心しながら、佑真はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「なあ、新庄。唐突に悪いけど、血液型って、なんだっけ?」
「ん?……俺?ABだけど。何かの調査?」
佑真は思わず、スマホから顔を上げて響と駿を見た。
二人とも目を見開いたまま、無言で頷いた。
「いや、大丈夫。ありがとう、新庄。落ち着いたみたいで良かった。また連絡する」
「ああ……?」
一ノ瀬は通話を切った。
沈黙。
「やっぱり、決まりだ」
響がぽつりと呟いた。
「AB型の血液が必要なんだ、あいつには。しかも……“完成された複製の血”じゃなきゃ意味がないのかもしれない」
佑真が眉をひそめた。「どういうことだ?」
「白鷺ユリは、血を必要としてるんだと思う。 やつの家に行ったとき、ワイングラスに赤い液体が残っていた。 普通に考えたら赤ワインなんだろうけど、匂いが違った。あれは血だったんだ」
駿の目が丸くなる。
「血? あの女、血を飲んでるって?」
「いや、それは分からないけど、その可能性はあると思う」
佑真が興味深げに 「で?」
「ドッペルゲンガーから血を抜いてるのかも?」
「やつがキスして、複製作って、そこから血を抜いて飲むってか?そんなバカな」
駿は飽きれて言った。
「そう、ただし、条件があるのかも」
「どんな?」
「完全に入れ替わったドッペルゲンガーからの血」
「完全に入れ替わった?どういうこと?」 佑真が不思議そうに。
「俺たちの複製って、もう存在してるよな? 普通なら、そこから血を取れば済む話のはず。 でもそうしてないで、執こく俺たちの命を狙ってくる。 てことは、未完成の“器”じゃダメなんだ」
駿が少し身を乗り出す。「つまり……複製を完成させるには、オリジナルを殺す必要があるってことか」
「そう。完全に入れ替えた肉体。そいつの血だけが目的。風間も北沢も、多分その血を抜かれて死んだ」
「……おい、それ、めちゃくちゃ辻褄合うじゃん。おまえ、すげえな」
「いや、論理的に考えただけ。 こんな現実離れした変な話の場合、むしろ論理的に考えないと破綻するから、ちゃんと積み上げてみた」
佑真が、少し呆れたように笑う。
「で、結局なんなんだよ、白鷺ユリって。吸血鬼かよ」
響は静かに頷いた。 「ああ、ある意味な。彼女は血がないと死ぬ。もしくは何らか支障があると考えるのが自然」
駿が小さく舌打ちした。「AB型って日本の人口の10パーくらいだろ? めんどくせえ趣味してんな……A型なら吸い放題だったろうに」
「じゃあ、捕まった佐倉は大丈夫か。たしかA型だったはず。 血を抜く為に捕まったんじゃなく、俺たちをおびき寄せる餌として捕まったってことだな」 ピンチなのに佑真はちょっと安心した。
「しかし、AB型にこだわるってことは、他の型を摂取すると何かまずいんだろう。輸血で間違った血液入れたらショック死するみたいに」 駿が言う。
「……じゃあ逆に、違う型の血飲ませたら――」 佑真の目が輝いた。
「死ぬかもな」 駿も嬉しそうに言う。
その言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。
佑真が、ポツリとつぶやいた。
「それ、めちゃくちゃ熱い展開だな……」
「確信はないけどね」 と響が苦笑した。
けれど、その仮説が真実だったなら――
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