勇者は幸せになりました

たなぱ

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愛されたかった

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不幸な人生、それは何処からが不幸なのだろう






ぼくが5歳の頃、母が別の男と不倫し出ていった
残されたおれと父対して、一言母が残した手紙には『愛することができませんでした』そう書き綴ってあったのを覚えている




愛する事ができない…
愛されるとはどういう事なんだろう…





5歳のぼくにはその意味がわからず、ただ日常生活が寂しいものへと変わったのだけを実感した
母が居なくなり全てを仕事に掛けて気を紛らわせている父からは愛されるとはどういう意味なのか、回答を貰うことはできなかった
金さえあれば子は育つ…今となれば父はそう言う気持ちだったのかもしれない…
出前を取りなさいと小学校時代から言われ続け、家には誰も居なかった…
日中ハウスクリーニングが入るのか異様に綺麗な家に自分の居場所を感じられなかったのはこの頃からだと思う…
学校から帰っても父は帰ってこない、真夜中にたまに帰って来るがおれと会話をしてくれる事はなった
授業参観でも毎回ぼくだけ家族がいない、運動会も、学芸会も…何もかもぼくだけが1人…
周囲もその異様さに気付いてしまったんだろう…誰も寄っては来ず、避けられた…
寂しい世界にぼく自身もずっと1人の世界に慣れてしまったのも悪かった



愛されるとはどういう事なんだろうか
それだけが時々自分の中で木霊する




高校2年の春、父が再婚した
何年ぶりかの父との会話、とても嬉しそうな顔で美人の女性をおれに紹介してくれる




「この人を愛しているんだ」





父の言葉の意味は理解できなかった
しかし、新しい家族との出会い…その女性は2人幼い子供を連れて父と再婚、一緒に暮らすことになる
ぼくの知りたかったた愛されると言うことの意味を新しい家族となら実感できるかもしれない



美人の母となる女性からの視線に気付かなかった…
能天気にぼくは楽しい筈の現実を受け入れようとしていたんだ












「あの人を私から奪った悪魔!私の人生を返してよ!!!なんで、なんであの女とおんなじ顔なの!ふざけないで!私の綺麗な人生にお前なんかいらない!いらない!!いらない!!!!」


ヒステリックな声を上げ、無抵抗のぼくを殴り、蹴るのは新しく父の妻となった美人な女性だ
戸籍上は義理の母となった女性…


父と自分の連れ子には聖母の様に優しく、儚げな存在の美しい義母は…ぼくにだけ鬼のような恐ろしさで父の不在を狙っては暴言と暴力を振るった
楽しい生活、愛されるという事がわかるかもしれない、その期待は直ぐに生ゴミの様に捨てるしか無かった

高校2年、ある程度ぼくが成長していてよかったと思う…罵声も暴力も辛い、痛い…しかし死ぬ事は無かったから…
ぼくは、まだ死にたくない…愛されるって事を知りたい、愛されて死にたい…それだけが生きる意味だった




父の義母と凄す時の顔が好きだ、とても優しい男の顔をしている…義母も父と過ごす時はとても優しく微笑む…
愛とは笑顔なのか…?ぼくが居ない家族の空間が愛なのか…?わからない…
日に日に暴力が酷くなり、誰かと喧嘩をしていると学校からも先生からも、父からも信用が地に落ちた



ある日、義母が言った

「あなたは不要なの、その顔も性格もこの世のゴミでしかない、出ていって
二度と私たちの前に姿を現さないで!一人で出ていって!死んで!」






ぼくは、その言葉で始めて涙がでた気がした
このままここにいても、ぼくは愛される意味を知らないまま死ぬのだろうか?今、死ねと言われているのだろうか?
死にたくない、生きていたい…愛される意味を知りたい…愛されてみたい…

でも、この世界はぼくを不要としている…











閉じられた玄関を前に、ただ立ち尽くすぼくの心は全てを投げ出してしまえばいいと囁いていた
ぼくはこの世界に存在してはいけないのだろうか………?


涙が溢れてくる…それでも閉じられた扉は開かない…
帰る場所すらも無いと感じた








その瞬間、ぼくの足元に浮遊感が生まれた













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