黒い獣は巻き込まれ平凡を持ち帰る

たなぱ

文字の大きさ
9 / 38
平凡が異世界で獣と出会う話

獣は守りたい

しおりを挟む
Side グレス


日比野優真


異世界から召喚された神子様と共に現れた存在
理由もわからないままこの世界に害のある存在と牢屋へ押し込められ死を強要させられていた男

ユウマを救う過程で、瘴気の侵食に彼の体液が有用であるとわかった時、何故か特効薬としてでなく、心からの歓喜した
牢屋に捨てられた彼が国から破棄される未来が決まっている俺に重なったのだ
この世界では珍しい黒一色の髪、特徴のない顔だが見ていて飽きない、彼を側に確実に置くために飼うと表現してしまったがそれすらも必死に受け入れ順応してくれる事が嬉しい


薬としてではない感情で手放したくないのだと
そう気付くのに時間はかからなかった
俺に比べて随分と華奢な筋肉のあまりついていない、それでいてそれなりに細身な身体を抱き締めて寝ると、愛おしさが湧いてくる
寝る時も食事の時間もありとあらゆる時間を共有したいと思うくらいの存在に出会うのは奇跡だろう


女が好きなのにと、何度もうわ言のように話すユウマ、それでもペットだからと盛大に割り切って俺へ身体を預けてくれるのは可愛い
キスやフェラをされ体液を飲まれる事に最初は戸惑いがあったが今は自分からの強請るほど素直に受け入れてくれる
足りないと俺に縋る姿が本当に可愛い


ユウマの立場は危うい、害のある存在というレッテルから護るためには俺のに支配された所有物として周知するのが安全だと、その白い首へ隷属の首輪を付けた
案の定これまで何度も王宮よりユウマは危険では無いのか疑う声が上がる、主に神子様の発言とそれを鵜呑みにする使用人のせいだ

俺の所有物がこの国に害を及ぼすということは俺自身が害ではないのか?そう伝えると大抵は言葉を濁し、行動に注意しろと言う
何故そこまで鵜呑みにするのか、離宮から呼び出し以外で出ることをよく思われていない俺には知りようがないのが現状だ…
俺はユウマを守りたい、失いたくない、その気持ちだけが日に日に強くなっている




これまでの俺は所有物として大人しく生きてきた
魔獣討伐のみが第一王子である俺の与えられた仕事、
人ならざる者の血を受け継いでしまった俺は、普通の人間に比べるとかなり強い、被害も少なく魔獣を処分できる
瘴気で侵食された魔獣討伐でほぼ無傷でいられるほどに頑丈で毒も効かない、侵食自体も幼い頃から蝕まれているのに進行が緩やかだ、更に魔獣に対して人間の兵士はまず恐怖に勝てない、神子様が安定して浄化を行えるようになるまで瘴気の侵食に怯え、死と隣り合わせの中でまともに戦える兵士はいない


俺は先の死が決まった存在、離宮で第一王子としての暮らしを約束する代わりに魔獣討伐を責務とされ、いずれ瘴気による侵食が満ちる前に処分される国の所有物
人の国に化け物はいらない、そういう事だろう
契約で神子様からの浄化を受ける事は許されないという一文からも分かる

それでいい、いずれ国の為に大人しく処分されよう





そう割り切っていたのに…ユウマに出会ってしまった
お前の存在がどれほど大きいかわかるだろうか…?ただの国の所有物がこれからも生きていたいと思ってしまった、ユウマの存在は愛おしさだけでなく、侵食を後退させ、死を先延ばしにしてくれる
ユウマとの時間をこれからも過ごせる…それほどに嬉しい事はない
本当に大切な存在なんだ…それを守るためならば…




未だに上手く浄化使えず王宮で泣き寝入りしている神子様を見ると、体液という縛りはあるが既に浄化らしき事ができるユウマが本当の神子様ではないかと思う事がある…
しかし、歴代の神子様は皆、強い光属性の者たちだ
ユウマは光属性ではない、寧ろ異質で異様な気配ある魔力属性が見えない存在だ

たが、ユウマは俺の所有物、この力の事を俺は誰にも知らせない
体液で浄化ができる存在だとバレてみろ?俺以外に、口淫やキスをされ体液を飲まれるのか?家畜の様に体液を搾られ配られるかもしれない…
何より、俺は神子様の浄化は受けられない、俺からユウマを奪われるような、そんな事は絶対にさせない、俺の愛おしい存在を護り通す


早く浄化を学べ神子様









「グレス、近隣の街に魔獣の出現情報の通報があった、確認し討伐せよ」

国王陛下が俺を呼び出すのは魔獣討伐かユウマに害あるかの確認の二択
暫く魔獣討伐が無かったがここに来てか…今までは国境や辺鄙な場所が多かった、しかも近隣の街…そこまで瘴気の発生が進んでいるのか…?
契約で魔獣討伐に関することに対して拒否はできない、「かしこまりました」と言うしかない

「討伐部隊を組み、明朝にも出立します」

「それは成りません、兄上」

聞きたくもない声がする、国王陛下の前でだけ俺を兄と呼ぶ第二王子アルフ…なんの用のだ…

「今回は街に魔獣出現です、今からすぐにでも向かい討伐するのがこの国の第一王子としての役目では?住民の避難に僕の私兵を既に向かわせました、兄上は今すぐにでもそちらへ合流し魔獣討伐をお願いします」

普段見せない笑顔で何を言う…
確実に何か仕掛けているな…討伐部隊を編成する時間も与えずこのまま行けと、お前の私兵は信用に値するのか?

「アルフよ、素晴らしい采配だ、グレス直ぐにでも討伐へ向かい事態を沈静化させるのだ、第1王子としての責務を全うせよ」

…………おかしい、何か違和感がある
国王陛下はアルフを可愛がってはいるが、この訴えを受け入れるほど浅はかな王ではないはずだ…
アルフ、その笑みはなんだ…?なぜ俺に笑いかける?

だが、責務と言われてしまえば俺は逆らえない
そういう契約だ…


「はい、直ぐにでも出発します」



そう答えた俺はそのままアルフの部下に連れられ現場へと移動を余儀なくされる
離宮へ一度戻ることも許されないのか!?
そう反論するも緊急事態と言い張り魔獣討伐の責務をと繰り返す
さっさと討伐を終えて帰るしかないか…
ユウマを一人にしてしまう事が心配だ、早く帰られば
言いしれぬ違和感を感じながら魔獣目撃情報のあった近隣の街へ向う………はず、だった





「神子様がこれで褒めて下さる」
門までの移動中、急にアルフの部下が背後で何かを言い始めると同時に首に何かが刺さる
同時に手足の痺れ、目眩…頭痛、視界が暗転する

次に見えたのは地面、地面だ、俺は倒れたのか…?
なんだ…!?今、何をされた?殺意も気配も無かった、どういう事だ?
このアルフの部下は今なんと言った…?

「神子様やりましたよ!化け物に薬を打つことができました!ああ!きっと褒めて下さる!」
「直ぐに運ぼう、きっとお待ちだ!神子様がお待ちだ!」

意識が朦朧とする、手足を縛られる感覚…
神子様?なぜ神子様が出てくる?
こいつ等になぜ殺意も気配も感じないんだ…?
くそっ、声も出せない、身動きも取れない、俺に毒は効かないか効きにくいはずだ…なのにこの効果、一体何を使った…?


アルフの部下が楽しそうに俺を運ぶ、王宮の奥、おそらく神子様の部屋へと

ドサッ
まるで荷物でも置くように床へ投げ捨てられる俺の前に見知った気配が2つ、第二王子と神子様だ
もう殆ど四肢の動かない身体、目は動くことに気づき二人を見る、第二王子に横抱きにされるようにソファへ座る神子様、薄ら寒い笑みを浮かべるアルフ…
どういう事だ…?これはいったい…?なぜ神子様が?


何も理解できず、二人を見据える事しか出来ない俺に神子様が優しく語りかけてくる

「お久しぶりですね、第一王子殿下?
私、浄化の力を使えなくて困っているんです…いっぱい悩んで毎日、解決策考えて…殿下は協力して下さいますよね…?
もう原因はわかってるんです、日比野先輩………彼が彼のままいるから私は浄化を使えない………これって酷いと思いません?この国のために浄化を使いたい私に精神的苦痛を味合わせる日比野先輩…毎日思い詰めて泣いちゃったんですよ?」

「カナデ、泣かないで私のカナデ…
ちゃんとグレスを捕まえてあげたよ?嬉しいかい?」

神子様が何を言っているか理解したくない、なぜユウマの名を出す?浄化が使えないのも努力が足りないからなのではないのか!?
アルフの様子もおかしい…にやにやと笑みを浮かべ神子様を慰める姿に違和感しか感じない…


「うふふ、殿下は日比野先輩がどうやったら誠心誠意謝って、私に屈して、壊れて、隷属してくれると思いますか?
それさえ叶えば私はちゃんと浄化が使えるんです、この世界で神子様としてちゃんと仕事ができる…それって大切な事ですよね?
みんなに話したらすごく協力してくれてるんですよ?」


この女は何を言っているんだ?ユウマへ何をするつもりなんだ…
手足が麻痺し感覚がなく意識も朦朧としている俺をアルフの部下が椅子へ拘束していく…その動きにすら気付くのが遅れた…
身動き一つ取れない俺の元へ神子様が何かを持ち歩いてくる、酷く楽しそうに…


「日比野先輩を壊すなら…殿下、あなたの前で壊して絶望させてあげたい、ふふ、でも私は優しいの
殿下が言う事聞いてくれたら日比野先輩は傷つかなくていいかもしれないのよ?
コレ、素直に飲んでくれてる間は日比野先輩はずっと無事で居られるの」


真っ黒な液体の入った小瓶を俺に見せる神子様
十中八九、毒か何かだろう
コレを飲めと、ユウマの平穏を守るために…


「飲んでくれなかったら今すぐ日比野先輩の手足でも切断してここへ連れてきちゃうかもしれないなー……あはは!動けないくせに酷い顔~そんなに日比野先輩が大事?大事なの?ねぇ、コレ飲むの?飲まないの?日比野先輩守りたいなら口を開けてみて?私が飲ませてあげるから…」




ユウマが危険に晒されるなど、あってはならない、
俺は口を開ける
コポコポと口の中に入る真っ黒な液体を飲み干す
胃の中を焼くような熱さ、体内を犯す寒気…全身を這う異様な気配…
この感覚に覚えがある、なんてものを王宮に持ち込んでいるんだ…これは瘴気に侵された魔獣の血だ…


それでも抵抗は出来ない、ユウマの命が少しでも長く守られるなら…俺は喜んで神子様に協力しよう…







叶うならユウマにもう一度会いたい…






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...