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ヒロイン♂の存在
しおりを挟むガシャン!!!!
背後でその音がした時、おれはエアと並んで座り食事をしている最中だった
季節の野菜が美味しく煮込まれたスープの話で盛り上がり、一緒に料理とかも挑戦してみるか?など楽しく会話をしていた
おれは全く動いていない、足は机の下、手は食器を握るかエアの手を撫でて遊ぶかの二択、その中での既視感の襲来だった
「きゃぁ………!いたいっ…………!うう…ひどい、酷いですリナルド様…………ぼくの足を引っ掛けて転ばすなんて…あんまりです!」
哀れな涙声が食堂に響く、広い食堂の窓際、障害物も殆どない閑散とした場所で、神子様ソラトが床に転がっている
食器もトレーも料理も一緒にぶち撒けて………
周囲はざわつき、先程まで誰も近寄らなかったおれ達の周辺に続々と生徒が集まり、人だかりができる
足首も押さえて蹲る神子様はふるふると小動物のように震え涙を浮かべる
おれはエアを愛でるのに忙しいんだが?
…………心の奥底に怒りが湧いてくる…
どんな足の生え方をすれば椅子に座り、食事をするおれの足が後ろを通るお前の足を引っ掛ける事が出来るのか………実践して見せて欲しい
視線だけ神子様に置き、既視感の始まりを作業のように見る
「ひっ………!ごめんなさいっ、ごめんなざい…!リナルド様、そんなに怒らないで……やだ!殴らないで下さい!ぼくがロベール様に可愛がられているのが気に入らないのはわかります!でも、それで暴力を振るうのはおかしいです!暴力じゃ何も、解決しません!」
急にビクッと怯えたと思えば、頭を守るように蹲り、涙をボロボロ零してこちらを見て怯える神子様………
おれはまだ一言も喋ってはいない、視線も置いてはいるが、真顔そのものだ…おれの顔は中性的だが目つきは悪くない…怒っている顔でもない
そして、暴力?椅子に座ったままのおれが?
神子様の見ている世界が本当に理解できない…それでもこれも見たことがある…既視感の世界だ
「なんて酷い…!神子様に足をかけて転ばすなんて!」
「わたし、見ましたわ!蹴るように足を引っ掛けて………」
「最低な男だ…同じ男として恥ずかしい…」
等など外野も何か言っている…いつもの光景…頭が痛い…おれが何もしなくても本当に展開は進んでいく…
ふと、エアの方から声がした気がした、既視感の世界をみてどう思うだろう疑問に思い、エアをチラリと見る
「こ、これは食堂ハプニングその35!!!エンディング近くになってもう躊躇してられなくなったリナルド様が、ヒロイン♂を足蹴にして食堂の床に料理ごとぶち撒けて腕組み&悪い笑みであざ笑うあのシーン!!!!
ヒロイン♂に向かって、王太子殿下は私の伴侶となる存在って声高らかに宣言するけど受け入れて貰えなくて悲しみの涙を零すあのシーン!!!!現実の生リナルド様♡真顔だけど!席すら立ってないけど!それもいい~!!!♡
あわわわわ…やっぱりガレリナの箱庭の世界…!うっ…!僕のことチラ見してくるリナルド様も好き………!」
……………うん、なんか想像と違う反応されていた
ヒロイン♂ってなんだ?神子様のことか?
本来の既視感のおれは腕組みして悪い顔をしている場面なのか…そしてあの王太子殿下に伴侶と言って泣くのか…そうか……………絶対遠慮したい、余りにも目の前に転がってる神子様が嫌いすぎて悪くても笑みを浮かべたくない…王太子殿下の伴侶は今一番捨て去りたい未来のポジションだ
悪い顔で追い詰めるならエアにしたい
感じまくって泣いてるエア追い詰めるなら絶対悪い顔で笑える自信ある、おれ
伴侶になれたらエアに何しよう…どこまで甘く感じるのか試させて欲しいな…エアは恥ずかしがりそう……………もうそれだけで目の前の神子様の存在を消しされる気がしてきた
エアの呟き?早口な語りすら周りには聞かれず、現状神子様を転ばしたおれの図が出来上がっている
頭のどこかで、たぶんもうすぐひとり増えるよなと思っていると案の定、足音を響かせ婚約者であるはずの男もやってきた
「ソラト!!!!ああ!なんてことだ!ソラト…!!!無事か?他の生徒が呼びに来てくれたんだ…!怪我はないか??
…………リナルド!貴様は何をやっている?ソラトに足を引っ掛けて転ばせるなど、何処まで悪魔なんだお前は!
なぜ、可憐なソラトを執拗に苛める?そこまで生根が腐っているのか!」
「ロベール様ぁ~こわかったぁー!ぼく、ぼく………うぇええええんん!!!
リナルド様がころばしてきて、睨んで、ぼくを殴ろうとしてくるんです!ぼくが何をしたっていうんですかぁー!!!ロベール様が好きなだけなのに~!」
「何だと!?リナルド!貴様というやつには失望した!この件は公爵家と我が王家にも伝えてやる!!!覚悟しておけ!
ソラト、大丈夫か?保健室へ行こう…さぁつかまって…」
「えーん!ロベール様~~」
泣きじゃくる神子様を抱き上げ、当然のように深いキスしながら立ち去る、まだ婚約者と言うなの何か……
ちゅっちゅっと嫌な音が食堂に木霊する…
立ち去る2人を、現在も、おれはずっと座ったまま見ている…王太子殿下を前に不敬?いや…立つ暇すらないというやつだ
今回もしっかり記録石に王太子が舌を絡めて神子様のむねを弄りながら立ち去る場面も記録し、公爵家に撮りたての契約違反現場を贈った
日に日にエスカレートしている…2人の行動…そのうち最も気持ち悪いモノを見せつけられそうで怖いな…
食事中に嫌なものを見た………
一気に食欲が失せてしまう…既視感を感じる場面が過ぎると、周囲は何事もなかったのかのように動き始める、人だかりは直ぐに無くなった
おれが王太子殿下達とトラブルになっている間は、囲むように現れ、酷いだの最低だの言うが、終わると霧散し、いつもの陰口だけに戻る
これはエアが言っていたゲームのシーンということなのだろうか?2人の世界が正しいと披露するシーン、周りを囲まれるのはシーンを盛り上げる舞台装置のようなのが生徒なのか?
わからないがエアに聞いてみるのもありかもしれない、エアを見るとちょっと気持ち悪そうだった…大丈夫か?
「エア、変なもの見せて悪かった…おれが話す事も動くこともしていないのにあんな感じで勝手にトラブルを起こして行くのがおれの、既視感の世界なんだ…周囲の悪口も聞いただろ?
でも、誓っていう、おれは何もしていないんだ…
悪評建つ存在と一緒に居たくないとか思ってたら素直に離れていいから…な?」
「もちろんわかってますよ!!!リナルド様はなんにも悪くありません!僕が保証します!
ヒロイン♂も殿下も気持ち悪くて見てたらおえってなりましたけど!それはリナルド様のせいじゃないです!
…………ちょっと気になる事があるので後で確認はしたいですが…とにかく!リナルド様は僕の推しで昨日会ったとは思えないくらい大好きなんで!
絶対離れません!」
エアがおれの手を強く握ってくれる…
きれいな青の混じる目がおれを見てくれる…
離れないと言ってくれる気持ちと言葉が嬉しい
エアの手を握り返す、見つめ合う形になりエアは優しく笑ってくれる…かわいい…
そのまま食堂になんとなく居づらく、エアの自室から荷物をおれの部屋へ運ぶことにした
荷物は思っていたよりも少なく、本当に咄嗟に留学したいと周囲を説得しこの国に来たことがわかる
「現地調達でいいかなーって服もあんまり持ってきてないんですよね」
そう笑うエアと、少ない荷物を持ちおれの自室に戻る、昨日、着せてみてわかったがおれとそこまで体格の変わらないエア………
服はもうおれの着てればいいんじゃないか…?
そう心の中で思ったはずが口に出ていたらしい
赤くなりあわあわとおれを見るエアは本当に新鮮でかわいい…本気で可愛いと思う
無性に激しいキスがしたくなったおれは、ソファへ腰掛け、エアを手招きし向かい合うようにおれの上に腰掛けるよう促す
「あうっ…………重くないですか……?昨日もだけどっ♡♡推しの膝の上恥ずかしいです…」
赤くなりながらもちゃんと答えてくれる健気な姿も可愛い
逃げられないようにエアの腰を腕で抱き寄せキスをしようと唇を寄せた時、なんと、エアから待ったが掛かったのだ
「リナルド様!先程言ってたヒロイン♂とこのゲームの世界についてちょっとお話があります!
あ!あの…キスが嫌とかじゃないです……僕もしたい……………じゃなくて!絶対気持ちよくてこの気付き忘れてしまうので!言ってからキスお願いします!」
そういえばそんなこと話していたな…………
ヒロイン♂という神子様に余りにも興味がなく忘れていたが…
エアの確認したかった事は意外と重要な案件だった
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