悪役令息はモブに愛を捧ぐ

たなぱ

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不気味な違和感

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新学期早々、ラドラ様から早めに報告したいと言われたのは今朝、朝食時、食堂での出来事だ

おれたちを見て笑顔で駆け寄ってくる見慣れたはずのラドラ様には、何故か違和感があった…悪い違和感ではなく…なんと言っていいか分からないが不思議な感じがした…
今日の授業が終わってから教会のいつもの部屋に来てほしいと、大切な話がある…それだけ伝えた彼から感じる不思議な感じ…

幸福そうなその表情から長期休暇中に何かあったのだろうと想像できる、直に笑顔で引き返す足取りはかなり軽い…何があったんだ?
エアも同じ事を思ったのか食堂の入り口に向かうラドラ様をじっと見て何かを考えていたようだ


「リナルド様、なんかラドラさまふわっとしてません?なんて言ったらいいんだろう…守られてるって感じのふわっと感…感じません?」


「わかる…違和感があるんだよな…モブになる魔法以外に何か…感じる………てか、エアのふわっとって言い方可愛いな?」



「な、なんでそういう事しれっと言うんですか…うう、恥ずかしい…♡」



そんな何気ない会話をしつつ、ラドラ様と合う午後の授業が終わるまで今日はヒロイン♂は現れるのかと考えていたが、思いも寄らない展開が始まった
食堂から出ていくラドラ様とすれ違うようにヒロイン♂と王太子殿下達が入ってきたが、様子がおかしい…
誰かを探しているのだ、それも必死に…



「ラドラ様、ラドラ様はどこですか?ねぇ、知らない?居ないんだラドラ様が…!ううっ……なんでいないの……!?ぼくが会いたいって探してるのになんで!!ううっっ…ぐずっ………なんでぇ…!」


「ソラト、ここまで探していないんだ…きっと教会に居るんだろう?連絡を待とう、あまり泣くと目が腫れてしまうよ」



ボロボロと大粒の涙を溢しながら食堂の中央までわざわざ歩いてきて泣くヒロイン♂…さっきすれ違った人物を探して泣いている…
エアがラドラ様に施したモブになれる魔法は万能ではない、すれ違うほど近ければラドラ様であると分かる…でも存在が薄くなっている、そんな魔法だ
今のように本人を全く認識せずにすれ違っても気付かない事は無い…ならどうしてヒロイン♂はラドラ様に気付かずにラドラ様を探しているんだ…?

なんとなく嫌な予感はした、さっさと席を外したかったが食堂の真ん中で泣いている相手に近付きたくない…しかし、泣きながら辺りを見回し、探し人が見つからない場所に悪役令息と呼ばれるおれが居たらどうするか…答えは直に近寄ってきたのだから…


「…………ちょっと!!!リナルド様!あなたですか!あなたがラドラ様を隠したんですか!?酷いっ…!あんまりです!長期休暇中ずっとラドラ様に会えなかったのに…学校が始まっても会えないなんて…おかしい!こんなのおかしいです!!

返してよ!ラドラ様を何処にやったの!?リナルド様が犯人なんでしょ!!!」


とんでもない言いがかりだ
さっきすれ違ったのに気付いていないのはお前らだろう…?そう言いたいが無駄に声を出すと更に巻き込まれそうな予感がして冷めた目でヒロイン♂を眺めるに留める
何を根拠におれを犯人と言うのか…全く理解できない…隣に座るエアもなんだコイツらという目で見てる、それが正解の反応…

しかし、既視感を感じないただの灰色の世界…これはゲームの流れじゃないのだと気付いた瞬間、周囲の違和感にゾクリとした


いつもはやれ神子様が可哀想だの、リナルド様は残酷だの言う周囲から声が全く聞こえない…既視感では無い時は少しは聞こえるのがこれまでだったからこの静けさが怖い…そんな事もあるのかと思うが、王太子殿下達の声も聞こえないんだ…
視線を殿下達へ向けると、瞳の色が長期休暇前よりも濁っているような、不気味な微笑みをヒロイン♂に向けている

なぜ、どうして、ラドラ様を返して、そうヒロイン♂がどんなにおれに言おうが一言も話さない周囲の、殿下達の反応があまりにも気味が悪かった

ひとしきりおれに文句を言い、何も解決しないと思ったのかヒロイン♂は泣きながら食堂を出ていく…それに着いていく王太子殿下達…
急に時が動き出したように、食堂にいた生徒の声が溢れかえる…内容はヒロイン♂が食堂に来る前の続きのような、普通の会話だ

おれとヒロイン♂のゲームの展開ではない接触はまるで他の生徒には見えていないような異様な雰囲気…鳥肌が立つことを止められず、隣に座るエアの手を握り癒やされることしか出来なかった


「今の、なんだと思う…?、エア」

「わ、わかりません…あんなシーンゲームじゃ無かった…それは確かです…でも周囲の反応がまるで人形みたいな…僕達がここに居ないみたいな…変な感じがしました…」


エアの手も震えているのがわかった
この異様な空間でエアとおれだけは違和感に気付けているようなそんな不気味な感覚…
長期休暇を超えて何が起きたんだ…?おれたちが公爵領で楽しく過ごしている間に何が変わったんだ…?






何かが少しずつ変わり始めている…そんな気がしてならない

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