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前編 エラ視点
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「じゃあいってらっしゃ~い♪」
扉がバタンと閉められ、丸っこいフォルムの馬車がゆっくりと動き始めた。
「……」
一人で乗るには広すぎるフカフカな座席に座り、私は身にまとっている水色のドレスを見下ろした。
なんの素材かわからないが、光が当たるとキラキラと輝く美しい布地でできている。
そして、足元には透明感のある素材でできた靴。
爪先をぶつけてみると、カチンと硬質な音がした。
これ、ガラスだよね。
主人公が今の私と同じ状況になる物語を、私はよく知っている。
え? 嘘でしょ?
「……私……シンデレラに転生してるの……?」
私は呆然と呟いた。
「ねぇ、エラ。
今夜はね、お城でとっても大きな舞踏会が開かれるのよ」
上の義姉が、瞬きするたびにバサバサと音がしそうなまつ毛の間から覗く目玉でギョロリと私を睨んだ。
「王子様が結婚相手を探すための舞踏会なんですって。
国中の令嬢が招待されているわ」
下の義姉が、これでもかと大きく開いた襟ぐりから零れ落ちそうなバインバインな胸を逸らせて私を見下ろした。
「みすぼらしい灰かぶりが選ばれるわけないんだから、連れて行くだけ無駄というもの。
いつも通り、掃除でもしてなさい。
あんたにはそれがお似合いよ」
香水の匂いがぷんぷんする義母は、派手な色の羽でできた扇子を振って私を追い払った。
私だって、お城の舞踏会になんて行けるとは思っていない。
義母たちは毎日のように着飾って出かけるが、私はずっと屋敷で掃除や洗濯などの仕事に追われているのだ。
それなのにわざわざこんなことを言うのは、私を蔑むのが楽しくてしかたがないからだ。
「お母様、王子様ってとっても素敵な方なんでしょう?」
「選ばれたらお妃様になれるのよね?」
「ええ、そうよ。
あなたたちは可愛いから、きっとお目に留まるわ。
ふふふ、楽しみね」
三人は意気揚々と馬車に乗り込み、お城へと出かけて行った。
いつものことだ。
今さら心が痛むこともない。
私は黙って去っていく馬車を見送ると、台所に戻って掃除の続きをするために箒を手にした。
「こんばんは~♪」
突然後ろから声をかけられ、私は驚いて箒を取り落としそうになった。
通いの使用人たちはもう全員帰宅したので、屋敷には私以外だれもいないはずなのに。
「だ、だれ⁉」
「魔法使いよぉ~♪」
そこにいたのは、黒いローブに身を包み、ぴかぴか光る棒を手にした筋骨隆々で……
真っ赤なルージュが妙に似合う、年齢不詳のおネエさんだった。
「あなたに魔法をかけてあげるわぁ~♪」
「きゃっ! なに⁉」
おネエさんが棒をくるくると回すと、棒の先からキラキラした光の粒が出てきて私に降り注ぎ、私は思わず目をつぶった。
「さぁ、終わったわよ~目を開けてごらんなさ~い♪」
恐る恐る目を開けて、私はびっくり仰天した。
ボロボロで灰まみれだった私のワンピースは、豪華な水色のドレスになっていたのだ。
「ほ~らとってもきれいになったわよ~♪」
ポンッと音を立てて、大きな銀色の板が現れた。
その表面には、ぱっちり二重の水色の瞳と艶やかな黄金の髪をした、目が覚めるような美女が写っているではないか。
驚いた表情の美女の顔には、見覚えがある。
はて、と頬に手をやってみると、美女も同じように頬に手をあてた。
逆の手も同じように頬にやると、美女もまた同じ動作をする。
これ、鏡だ。
つまり、この美女は私なのだ!
ふんわりと裾が広がった瞳と同じ色のドレスを着て、金色の髪を結い上げた美女。
間違いなく私なのだが、ものすごく既視感がある姿だ。
私が呆然としている間に、おネエさんの魔法により台所にあったカボチャが丸っこいフォルムの馬車にされ、台所の隅にいた鼠が馭者にされた。
「魔法の効果は十二時の鐘が鳴り終わったら消えるから、それまでに帰ってくるのよ~♪」
呆然としたままの私をひょいと抱えて、おネエさんは笑顔で馬車に放り込んだ。
「じゃあいってらっしゃ~い♪」
こうして訳も分からぬまま、問答無用で私は屋敷から連れ出されたのだった。
そして馬車が動き出してから正気に戻った私は、同時になぜか前世の記憶も取り戻していた。
前世の私は、日本という国で生まれ育ったごく普通の女性だった。
大学を卒業し、第一希望だった会社に就職してバリバリ働いていたのに、どうやら交通事故で命を落としてしまったようだ。
せっかく仕事が楽しくなってきたところだったのに、残念すぎて溜息がでる。
前世の記憶が戻っても、この世界で生きてきた十八年の記憶が消えたわけではない。
なにもかも、しっかり全て覚えている。
だからこそ、私のこれまでの人生は、シンデレラの物語そのままだとよくわかる。
「……ということは、私が向かっているのは、義母たちが言っていた王子様の結婚相手探しの舞踏会なのね」
そこで私は王子様に見初められ、ガラスの靴を落として……という流れになるということか。
夢見がちな女の子なら喜ぶかもしれないが、生憎とアラサーまで生きた記憶がある私は現実的なのだ。
この世界のことをほとんど知らないのに、本物の王子様と結婚なんてしたら苦労するに決まっている。
それに、顔だけで将来の王妃を選ぶ王子様なんて、ごめん被る!
だが、これは私に与えられたおそらく最初で最後のチャンスでもある。
大規模な夜会という話だから、王子様以外の独身男性もたくさんいるはず。
その中から、私は私だけの王子様を探そうではないか。
そうすることで、今のシンデレラな境遇から抜け出すのだ!
私は馬車の窓に顔を映してみた。
おとぎ話のヒロインなだけあって、我ながら驚くほどに美しい。
「いける。これなら十分戦えるわ!」
私はほくそえみ、それからぐっと拳を握りしめて気を引き締めた。
なんでこんなことになったのかはさっぱりわからないが、ギリギリのところで前世の記憶が戻ったのは、きっと運命を変えて幸運を掴み取れということなのだと思う。
それができるかどうかは、私次第。
家を継がない次男とか三男が狙い目ね。
それも、高位貴族じゃなくて、気楽な中級以下にしましょう。
淑女教育を受けていない私には、社交とか無理なのだから。
もしくは、商家とかもアリだと思うわ。
美人だからといって、高望みをしてはいけない。
経済的に苦労せず、普通の暮らしをさせてくれる男性を見つけることを目標と定めることにしよう。
「やってやるわ! シンデレラは今日で卒業してやるんだから!」
気合十分な私を乗せて、カボチャの馬車は粛々とお城へと向かっていった。
停まった馬車から降りてきょろきょろとあたりを見回してみると、着飾った人たちが同じ方向に歩いていくのが見えた。
ふむ、どうやらあちらがお城の入口らしい。
私もその流れに乗りてくてくと歩いて行くと、周囲の人たちがちらちらと私を見るのがわかった。
なんだろう? と思ったところで、すぐにその理由に気が付いた。
私のように一人だけで歩いている女性が見当たらないのだ。
見える限り全員が男性にエスコートされてるか、複数の女性で連れだって歩いている。
誰からもなにも言われないし、壁際の衛兵にも止められないから追い出されるほどのことはないにしても、一人で舞踏会に参加するのは常識から外れているのだろう。
あのおネエさん、せっかくならエスコート役も魔法でなんとかしてくれたらよかったのに。
とはいえ、今さらそんなことがわかってもどうしようもないので、私は平然とした顔で歩き続けた。
そうして私はお城の中に足を踏み入れると、あちこちにあるランプのおかげで周囲が明るくなった。
そうなると、自然と私に視線が集まってくる。
あまり目立ちたくはないが、私は美人なのだからこればかりはしかたがない。
変なのに絡まれたら面倒だな、と思ってさりげなく周囲に視線を走らせたところで、私はある重大なことに気が付いた。
右側にいる明るい栗色の髪の男性も。
左斜め前にる金髪の男性も
少し後ろにいるこげ茶色の髪の男性も。
全員が、はっきりそうとわかるくらい化粧をしているのだ。
長く伸ばした髪はさらさらで、色が白くて、細くて、雅というか典雅というか。
正直なところ、全員が私の好みからは大きく外れている。
(しかも、あれって付けほくろよね。
この国って、こんな感じなんだ……)
ここの文化や習慣を否定するつもりはないが、なんとも残念な気持ちになってしまった。
とはいえ、がっかりしたのは一瞬だけで、すぐに気を取り直した。
前世でアラサーまで生きた私は、外見が全てでないことをよく知っている。
化粧してようがなんだろうが、心優しい男性であればそれでいい。
私はこの舞踏会に全てを賭けると決めたではないか。
容姿が好みじゃないなんて贅沢を言っている場合ではないのだ。
長い廊下を歩いていると、だんだんと人が増えてきた。
前方に見える大きく開かれた扉の先が、おそらく舞踏会の会場になっている広間なのだろう。
(絶対に優良物件を見つけるわ)
気合を入れて扉をくぐったところで、横からやや大きめな声がした。
「もうエスコートは結構と言っているのよ!
いい加減にして!」
そちらを見てみると、ちょうど若い女性が男性の手を振り払ったところだった。
「しかし、あなたを一人にするわけには」
「そんな心配は無用よ。
私にはお友達がたくさんいますから!」
なかなかに可愛らしい顔をした女性だが、エスコート役だったらしい背の高い男性を見る目には明らかに見下したような色がある。
その理由はすぐにわかった。
「お父様に頼まれたからエスコートを許したけど、こんな蛮族みたいな相手だと知っていたら絶対に断っていたわ。
お化粧すらせずにこの私の隣に立つなんて、どういう神経をしているのかしら!」
私の位置からは男性の顔は見えないが、どうやら彼は化粧をしていないらしい。
それだけでなく、黒髪は短く切り揃えられ、背が高くがっしりとした体つきをしていて、後ろ姿だけでこの場では異質だということが見てとれる。
ピコンと私の直感が反応した。
「いや、これにはわけが」
「お黙りなさい! 言い訳など聞きたくないわ!
私は、栄えあるフュネース子爵家の令嬢よ。
あなたみたいな成り上がり男爵の弟風情が、本来なら触れることすら許されないというのに、こんな不敬は耐えられないわ!」
成り上がり男爵の弟……
ということは、お金で爵位を買えるくらい裕福で、しかも男爵本人ではない、ということだ。
ピコンピコンと私の中で注意を促す音がする。
「二度と私の前に現れないで!」
女性はそう吐き捨てると、さっさと歩み去ってしまった。
男性は後を追うこともできずその場に立ち尽くし、周囲の人々は眉をひそめてヒソヒソとしながらそんな彼を見ている。
これはチャンスだ! と私の直感が強く訴えている。
逃してなるものかと私は迷わず足を踏み出して、男性の正面に立った。
「あなた、私をエスコートしてくださらない?」
にっこりと笑って手を差し出しながら彼の顔を見上げたところで、私は息をのんだ。
切れ長の碧の瞳に、凛々しい形をした眉、すっと通った鼻筋。
白粉が塗られていない肌は、やや日焼けした健康的な色。
ビコンビコンビッコーン!
爆音が脳内で鳴り響いた。
めっちゃタイプなんですけど⁉⁉
本能が彼にロックオンするのを感じた。
私の獲物だ。
絶対に逃がさない。
だが、彼は精悍な顔に困惑の表情を浮かべ、私と差し出された手を交互に見ている。
「私のエスコートをするのは、お嫌?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
やや上目遣いで見上げると、彼の頬がみるみる赤くなった。
それもそのはず。
だって、私は王子様が一目惚れするくらいの美人なのだ。
「本当に……私などがエスコートさせていただいてよろしいのですか?」
「もちろんよ。私はあなたがいいの!」
さあ! とさらにずいっと手を差し出すと、彼は躊躇いがちに私の手をとってくれた。
大きな手は温かくて、掌には硬いところがあるのがわかる。
労働をしたことがある手だ。
「私は、エラ・パジェス。パジェス伯爵家の娘よ。
あなたのお名前は?」
「ベルナール・クレチアンと申します」
低い声も耳に心地いい。
この声で、耳元で囁かれたら……なんて不埒な考えが脳裏をよぎり、慌ててかき消した。
いけない。
まずは、会ったばかりの彼と仲良くなることに集中しなくては。
「ベルナールさんというのね。
私のことはエラと呼んでくださいな」
手をぎゅっと握りながらにっこりと笑って見せると、彼の顔がさらに赤くなった。
よし、いい感じだ。
「ねぇ、どこかに落ち着いてお話ができるところはないかしら」
「お話……ですか?」
「これもなにかの縁なのだし、あなたのことをもっと知りたいの」
「ですが、その……」
彼はちらりと音楽が聞こえてくる方を見た。
ここは、王子様の結婚相手を選ぶ舞踏会の会場。
私のような若い女の子は、皆が王子様に選ばれるためにここに来ているはずなのだ。
「ね、いいでしょう?」
「……!」
上目遣いをしながら小首を傾げる。
我ながらあざとい仕草だと思うが、今の私なら効果抜群だ。
案の定、彼は赤くなった顔の下半分を手で多いながら目をそらした。
「で、では、そうですね……控室……ではなく、テラスにお連れします」
「いいわ、行きましょう」
私は彼に手を引かれ、スキップするように軽い足取りでテラスへと向かった。
テラスに出ると、少しひんやりした夜風が頬をなでる。
彼が廊下に続く扉を閉めると、音楽の音と人々のざわめきが遠くなり、密室ではないが二人だけの空間になった。
私は改めて高いところにある彼の顔を見上げた。
ああ、これは……
どこからどう見ても、私の好みど真ん中だ。
「それで……私のなにを知りたいのですか?」
「そうね。まずは、あなたが化粧をしていない理由から知りたいわ」
単純に気になっていたし、これから初対面同士で会話を始めるのにちょうどいい話題だと思う。
「私は白粉が肌に合わないようで、痒くなってしまうんですよ。
だから化粧ができないのです」
「ああ、そういう理由なのね。
それはしかたがないと思うわ」
あっさりと頷いた私に、彼は驚いた顔をした。
「それくらい我慢しろと言わないのですか?」
「そんなこと言わないわよ。
だって、そういう体質なんだからしかたないじゃない。
誰かにそう言われたの?」
「化粧をしなくていいと言ってくれたのは、兄と義姉くらいですよ」
前世では、女性は社会人になるとほぼ全員が化粧をするのがマナーで一般常識だった。
この国では、貴族階級の男性も同じような感じなのだろう。
「私は化粧もできない上にこの図体ですから、貴族の令嬢には怖がられるか嫌がられるのが普通なんです。
令嬢をエスコートして舞踏会に参加するなんて無理だと兄には何度も言ったのですが、押し切られてしまいまして……」
「それで、さっきのようなことになってしまったわけね」
「お恥ずかしながら、そのとおりです」
この国では化粧をした細身の優男タイプが主流なようだから、彼は一般的な女性の好みからは大きく外れてしまうのだろう。
「お兄様とは仲がいいの?」
「はい。もう両親はおりませんし、年が離れていますので、弟というより息子のように扱われています」
「いいわね。羨ましいわ」
義母と義姉にはこき使われたことしかない私は、つい本音が漏れてしまった。
「ご令嬢は、一人でここにおいでになったのですか?」
「ええ、そうよ。
それから、ご令嬢じゃなくてエラって呼んで?」
「……お美しいエラ様なら、きっと王子殿下を射止めることができますよ」
「もしかして、私が王子様に選ばれるために無理して舞踏会に来たって思ってる?」
「違うのですか?」
「違うわよ!
いや、違うとも言い切れないのかしら?」
首を傾げた彼に、私は悪戯っぽく笑って見せた。
「私はね、私だけの王子様を探しに来たの!」
それから私は、前世の記憶以外の私の事情を包み隠さず説明した。
義母と義姉たちの私への仕打ちに彼は顔を顰め怒りを露わにしたが、魔法使いのくだりでは驚いた顔になった。
「そのドレスは魔法でできているのですか?」
「本当よ。
その証拠に、今夜の十二時の鐘がなり終わるのと同時に、元の汚れたワンピースに戻るらしいわ」
「なんともったいない。
こんなにもエラ様に似合っているというのに」
「ふふふ、ありがとう。
魔法使いのことも信じてくれるのね」
「信じますよ。エラ様の言うことなら、なんでも」
精悍な顔でふんわりと笑う彼に、私はドキドキしてしまう。
「それで、パジェス伯爵家の家督がどうなっているのか不明なのですね?」
「そうなの。
私が正当な後継者のはずなのだけど、書類関係は義母が全て管理していて、私は触れることができないのよ」
彼は長い指を顎にあてて考える仕草をした。
「どうにも犯罪の臭いがしますね。
私は法律関係には明るくありませんが、兄の商会には頼りになる顧問弁護士がいますから、相談してみましょうか」
なんともありがたい申し出に、私はパッと顔を輝かせた。
「いいの⁉」
「もちろんですとも。
これでパジェス伯爵家との繋がりができるなら、兄も喜びます」
「ありがとう! 是非お願いするわ!」
飛び上がって喜んだところで、はたと気が付いた。
「あ、でも、もし私が家を継げないような状態になっていたら……せっかく助けてもらっても、お兄様の商会に利益がないってことになってしまわないかしら?
そうなったら申し訳ないわ」
「その時はその時です。
私と一緒に兄に謝りましょう。
兄は私に甘いので、きっと許してくれますよ」
「ふふふ、ありがとう。
ついでに、私を下働きか何かで雇ってくれたらありがたいのだけど」
「いいですね。私専属のメイドにでもなっていただきましょうか」
ベルナールさんの専属メイド。
つまり、彼の近くで仕えるということだ。
それって、毎日が眼福三昧ってことじゃない?
「嬉しいわ。よろしくお願いね」
メイドの仕事なら、私にもできるだろう。
これで家がどうなろうと、路頭に迷わずに済みそうだ。
「では、エラ様。
早速ですが我が家にお連れします。
今夜は兄は家にいるはずですから、さっさと話を通してしまいましょう」
「こんな時間に突然押しかけたりしたら、迷惑になってしまわない?」
「大丈夫です。
商売人は情報と縁を現金と同じくらい大切にしなくてはいけないと兄はいつも言っていますから。
エラ様をここで逃がしてしまったら、私が大目玉を喰らうでしょう」
「そう? それなら、お言葉に甘えようかしら」
彼に出会えた幸運に感謝しながら差し出された大きな手をとったところで、私はあることを思いついた。
「ねぇ、ベルナールさん。
少し待ってくれないかしら」
「構いませんよ。
パウダールームでしたら、あちらに」
「いえ、そうではなくてね。
一目だけ、本物の王子様を見てみたいの!」
シンデレラの姿はなんとなく記憶にあるが、王子様がどんな感じだったかさっぱり覚えていない。
義姉が素敵な方だと言っていたこと以外、私は名前すら知らないのだ。
王子様を間近で見ることができる機会なんて、もう二度とないかもしれない。
今夜の最大の目的は果たしたのだし、立ち去る前に些細な好奇心を満たしたっていいではないか。
「ベルナールさんは、王子様を見たらわかる?」
「それは、わかりますが……」
「よかったわ。見つけたら、どの方か教えてね!
さ、行きましょう」
私はなぜか渋い顔をする彼の手を引っ張って、うきうきと舞踏会の会場へと戻った。
王子様の婚約者を選ぶための舞踏会だから、本人はきっとたくさんの女性と踊っているはずだ。
音楽がする方へと歩いて行こうとしたところ、ベルナールさんが繋いでいた手を放して代わりに私の腰をぎゅっと抱き寄せた。
「べ、ベルナールさん?」
ぐっと近くなった距離に、心臓がドキドキする。
「こうしておけば、他の男にちょっかいをかけられることはありません」
そうだ、私って美人なんだっけ。
暫定私だけの王子様があっさり見つかった今、他の男性に絡まれるなんて面倒でしかない。
早く王子様を遠くからチラ見して、こんな場所からおさらばしよう。
ベルナールさんに腰をがっちり掴まれて歩き出す。
そして、背が高い彼はすぐに目当ての人物を見つけて足を止めた。
「いました。あのこげ茶色の髪の、金色の派手な肩章がヒラヒラしているのが王子殿下です」
「……あそこの、あのピンクのドレスの女性と踊ってる方ね」
私はベルナールさんに身を預けるようにしながら、目をじっと凝らしてみた。
化粧と付けほくろのせいで、顔立ちはよくわからない。
涼しい目元をしているような気がするが、私が期待したほどのイケメンではなさそうだ。
とはいえ、王子様の近くにいる女性たちは全員が、彼に熱い視線を送っている。
前世の記憶に引きずられている私の感覚がおかしいだけで、この国の基準では彼は群を抜いた美男子なのかもしれない。
「……気は済みましたか?」
「ええ、もう十分だわ」
実際の王子様より、ベルナールさんのほうが私にとっては百万倍素敵だ。
それがわかっただけでも、なんだか胸がスッキリした気分だ。
もうこの場に用はない。
さっさとベルナールさんのお家に連れて行ってもらおう。
そう思って王子様から視線を逸らそうとした直前、
「!」
王子様とバチッと視線が合ってしまった。
マズい! と思った時には後の祭りで、私を見る彼の目が驚いたように見開かれるのがはっきりと見えた。
いけない。
王子様に認識されてしまった。
「さ、行きましょう!」
私はぱっと身を翻し、ベルナールさんの大きな体に隠れるようにして不自然にならない程度の速足で会場を抜け出した。
会場から離れれば離れるほど、人がまばらになっていく。
角を一つ曲がって、もう会場からは私たちの姿は見えなくなったところで、私は足を止めた。
「エラ様?」
「ベルナールさん、ちょっと待ってね」
私は高いヒールのガラスの靴を脱いで、両手でしっかりと握りしめた。
これは、言わずと知れた物語のキーアイテム。
絶対に落としてはいけない。
「走るわよ! ついてきて!」
そう言うと、彼の返事も待たずに私は裸足で走り始めた。
普段こき使われているので、重いドレスを着ていても難なく走ることができるだけの筋力と体力があるのだ。
私の全速力で走っていたら、突然視界がぐんと高くなった。
「きゃあ! なに⁉」
下を見ると、ニヤリと笑ったベルナールさんの顔がある。
そんな顔も素敵……と、ついときめいてしまった。
「こうするほうが速い」
彼は私を布越しでも逞しいのがよくわかる肩に担ぎ上げると、私の全速力の倍くらいの速さで駆けだした。
「わあああ! 速い速い! すごいわベルナールさん!」
荷物のように運ばれながら、それがなんだか楽しくて歓声を上げた。
たまにすれ違う人に驚かれながら、あっという間に馬車が停めてある区画にたどりついた。
「あの馬車よ! あの丸っこくて水色の馬車に乗って!」
四角くて黒か茶色の馬車が並ぶ中で、カボチャっぽいフォルムの馬車はとても目立つ。
ベルナールさんは私を担いだまま馬車に飛び込み、扉をバタンと閉めた。
「出して!」
私が馭者側の壁をゴンゴンと叩いて合図をすると、馬車はすぐに動き始めた。
窓から外を覗いてみる。
誰かが追いかけてきているような様子はない。
そして、一番大事なのは両手で今もしっかりと握っているガラスの靴。
もちろん、両側がそろってここにある。
よかった。
王子様には顔を見られてしまったが、それもほんの少しだけだ。
ガラスの靴というキーアイテムがないのだから、私にたどり着くことなどできないだろう。
ほっと息を吐いたところで、
「その靴が気になるのか?」
「ひゃ!」
艶のある声で耳元で囁かれ、私は首をすくめた。
ベルナールさんは私の隣にぴったりくっつくように座っている。
「きれいな靴だが、これも魔法でできているんだろう?」
「え、ええ、そうよ。
魔法のガラスでできているの」
「ふぅん、魔法ってのはすごいな」
そう言って、彼は私の手から靴を取り上げると、床にコトンと置いた。
「魔法は、十二時の鐘が鳴るまで有効なんだよな」
「ええ、そう聞いているわ」
「じゃあ、まだまだたっぷり時間があるな」
彼は大きな手で壁を叩いた。
「時間まで適当に流してくれ。
最終目的地はヘザー通りの1483番地、クレチアン商会前だ」
外からコンコンと壁を叩く音がして、承知したことが伝えられた。
「魔法でできた馬車の乗り心地は最高だな。
せっかくだから時間いっぱい有効活用させてもらおう」
「有効活用?」
「エラ、気づいているか?
馬車の中っていうのは、密室なんだよ」
密室。
言われてみればそうだ。
っていうか、今呼び捨てにされたよね。
さっきまでエラ様って言ってたのに。
「狭い密室に、若い男女が二人きり。
当然、こういうことになるよな?」
私はひょいと抱え上げられ、彼の膝の上に向かい合わせで座らせられた。
精悍に整った彼の顔を間近に見て、私は赤くなった。
そんな私の頬を、大きな手が優しく撫でる。
「王子殿下を見て、どう思った?」
「どうって……他のひとたちとあんまり変わらないなって思ったわ。
それだけよ」
「そうか。きみの目には、そう見えたのか」
彼のもう片方の手が、私の背中と腰をゆっくりと撫で下す。
「ん……」
なんだか体の奥がぞくぞくとして、つい声が出てしまった。
「エラ。俺に触られるのは、嫌ではないか?」
俺って言った。
きっと、これが素のベルナールさんなのだ。
紳士だった時も素敵だと思ったが、少しだけ粗野な素の彼の方が私の好みだ。
「嫌なんかじゃないわ」
むしろ、もっと触ってほしい。
そう思ってしまう。
「よかった。
まぁ、嫌がられたところで、もう止めるつもりはないんだが」
切れ長な碧の瞳が、怪しい光をたたえて至近距離で私を見ている。
「な、なにを」
するつもりなの、と言う前に噛みつくようなキスで口を塞がれた。
「んぅ……! ンん……」
驚いて離れようとしたが、後頭部と腰をがっちりと押さえられていてびくともしない。
分厚い舌が口腔にはいりこみ、私の舌を絡めとる。
ザラザラした粘膜が擦りあうと、ビリビリするような官能が体中に広がっていく。
「ふ……ん……」
長い間そうやって貪られ、やっと開放されたころには私の体からすっかり力が抜けていた。
「エラ。きみは可愛すぎる」
彼の低く艶のある声は、腰に響く。
「この馬車に二人で乗り込んだ時点で、きみが俺のものになるのは確定していた」
「え」
「きみはあまりに可愛すぎて、危険だ。
このまま放っておけば、きみを求める男たちが醜い争いを繰り広げることになるだろう。
そうならないように、ここで俺のものになってもらう」
「ここで……?」
この、魔法でできた馬車の中で?
予想外の展開に慄く私に、彼は飢えた獣のように瞳をギラギラと光らせながら笑った。
「大丈夫だ。全部俺にまかせて」
欲情が滴るような声で囁いてから、彼は私の首筋に噛みつくようなキスをした。
敢えて目立つところに所有の証をつけているのだと思うと、また背筋がぞくぞくとした。
もう逃げられない。
私はこの馬車の中で、獣に頭から全て食べ尽くされてしまうのだ。
「脱がせるよ」
大きな手が私のドレスの胸元に触れたと思ったら、そのままぐいっと力任せに引き下ろされた。
「あ、や……」
下の義姉ほどバインバインではないにしても、それなりのサイズの胸が空気にさらされる。
咄嗟に手で隠そうとしたが、もちろんそんなことは許されない。
「きみは、ここも可愛いんだな。
俺の手にすっぽりと収まる、ちょうどいい大きさだ」
両方の掌で胸を包み込まれ、私は赤くなった。
彼はゆっくりと柔らかさを確かめるように胸を揉みながら、私のデコルテや胸の膨らみに執拗なほどたくさんの赤い痕をつけていく。
「やだ、人前に出れなくなっちゃう……」
「しばらく人前に出すつもりはない。
少なくとも、この痕が消えるくらいまでは」
「え、なんで」
「俺たちは今夜から蜜月に入ったってことだ」
蜜月? それって、結婚した直後にラブラブで過ごす時期って意味じゃなかった?
つまり、私たちは結婚することまでもう確定しているの?
「嫌がっても抵抗しても無駄だよ。
きみはもう俺から逃げることはできない」
「あっ、あああぁ……」
私が抗議しようとしたのを察したのか、彼は右側の胸の頂きに吸いついた。
左側も指先でひっかくようにされ、甘い刺激に私の意識は蕩けていく。
「は……ひぁ……」
こんなことをするのは初めてなのに、随分と感度がいい。と思う。
これもヒロイン仕様なのだろうか。
息を乱して喘ぐ私に、彼の瞳はまた獣のように光った。
「本当は優しくトロトロにしてやりたいところだが……俺もあまり余裕がない。
それもこれも、きみが可愛すぎるのが悪いんだからな」
なんだか言い訳みたいなことを言いながら、彼はドレスの裾をまくり上げた。
太腿を大きな手で撫で上げられると、またぞくぞくとなったところで、彼はぐっと眉を寄せた。
「……エラ。下着をつけていないのか?」
「え?」
蕩けていた私の意識が一気に覚醒した。
まだ裾をまくり上げただけのはずなのに、太腿には彼の手に直接触れられている感触がある。
ボロボロのワンピースから一瞬で魔法で豪華なドレスに着替えさせられたので、下着のことなんか考えてもいなかった。
「そ、そんな……!」
どうやら私は、下着なしでお城の舞踏会に突撃させられたらしい。
魔法にかけられる前は、古くはあるがちゃんとしたドロワーズを着ていたのに!
「こういうのが、きみの趣味なのか?」
「ち、ちが……魔法使いが……!」
断じて私の趣味でこうなっているわけではない。
あのおネエさん、なんてことしてくれたのよ!
「まあ、そのあたりは後でじっくり確かめるとしよう。
今はこのほうが都合がいいしな」
彼は嬉しそうに笑うと、太腿にあった手を足の付け根へと移動させた。
「あ……!」
下着がないせいで、いとも簡単に秘部に触れられてしまった。
「ああ、しっかり濡れているな。
わかるだろう?」
触れられて初めて、そこがすっかり潤っていることがわかった。
「胸を愛撫されて、こんなに気持ちよかったんだな」
「やだ、言わないで……」
そのとおりなのだが、わざわざ言葉にされると恥ずかしくて、私は彼に肩に顔を埋めた。
しっかりと厚みのある肩は、布越しでも逞しいことがわかる。
いまのところ、肌をさらしているのは私ばかり。
こんなのズルいではないか。
「ね、あなたも脱いで……?」
そうお願いすると、碧の瞳が一度見開かれた。
「俺に触りたいのか?」
私は素直に頷いた。
私だって、逞しい雄の体に触れてみたいのだ。
またニヤリと笑った彼は、たぶんクラヴァットとよばれる首元の布をさっと取り払った。
それが前世の記憶にある男性がネクタイを緩める仕草に似ていて、思わずときめいてしまった。
ベストのボタンを外し、その下のシャツのボタンまで外すと、完全に上半身の前をはだけた状態になる。
ああ、思った通りだ。
すごく逞しい……
「ほら、好きなだけ触っていいぞ」
彼は私の手をとり、盛り上がった胸筋の上にぺたりと置いた。
「わぁ……筋肉……」
胸筋の下には、きれいに割れた腹筋。
それから、鎖骨や肩のラインも忘れてはいけない大事なポイントだ。
うっとりと手を這わせていると、彼がまた笑った。
「筋肉が好きなのか?」
「ええ、とっても……」
「そんな令嬢もいるんだな」
優男タイプがモテるこの国では、筋肉好きな私は異端なのだろう。
なんと言われても構わない。
私は前世の時からずっと、ガッチリ系の男性がタイプなのだ!
よりによってシンデレラにし転生してしまった今も、そのあたりの性癖は変わらなかったらしい。
「体を鍛えているのね」
「俺は少し前まで下級騎士だったんだよ。
詳しいことはあとで説明してやるから、今はこっちに集中しような」
彼は私の体をひょいと持ち上げると、私を座席に座らせて自分は床に膝をついてドレスの裾を捲り上げた。
下着がないのだから、その状態でぐいっと足を両側に開かれたら、当然ながら秘部が彼の目前にさらされることになる。
「ま、待って」
さすがに恥ずかしくて、どうにかして逃れようと身をよじったが、もちろん徒労に終わった。
「あっ、あぁぁ!」
分厚い舌で蜜が溢れる秘部を舐め上げられ、私はのけ反った。
襞を弄ぶようにねっとりと舐める舌に翻弄されながら、さらに蜜が溢れだす。
そうやって秘部を隅々まで舐めつくしてから、彼は下生えの中に隠れていた陰核にちゅっと吸いついた。
「やっ、それダメぇっ!」
神経に電流が流されたようなビリビリとした刺激に、私はまた声を上げた。
強すぎる刺激に跳ねる腰を太い腕でがっちりと抱え込み、彼はさらに私を追い詰めていく。
皮を剥かれて剝き出しになった陰核を吸い上げながら、ざらざらした舌の表面で優しく舐め、時に強く押しつぶす。
甘い責め苦を加える彼を押しのけようと短髪の頭に手をやったが、もう既に体に力は入らなくなっていた。
「あぁ……もうっ……ひ、あぁあああああ!」
襞を舐められていた時とは段違いの刺激に、無垢な体はあっさりと絶頂へと押し上げられてしまった。
あられもない声は馭者にも届いているはずだ。
あの馭者が魔法で姿を変えられた鼠でなかったら、恥ずかしくて泣いていたかもしれない。
「上手にイけたな。いい子だ」
ぐったりと座席に沈んだ私の頬に、彼は嬉しそうにキスをした。
「指を挿れるよ。痛かったら言ってくれ」
絶頂の余韻でひくついている膣口に、異物が侵入してきた。
「ん……」
ゆっくりと差し入れられた指は、浅いところで動きを止めた。
「ものすごく狭いな……痛くないか?」
「痛くは、ないわ」
異物感はあるが、痛くはない。
自分でも触れたことがないところに、今夜会ったばかりの彼の指が触れているというのが不思議な気分だ。
零れるほどに蜜が溢れているからか、指が根本まで挿れられても痛みは感じない。
「大丈夫そうだな」
「ええ、今のところは……」
私の胎内の構造を確かめるように、挿れられた指がゆっくりとかき回す。
十周くらいしたところで、指が二本に増えた。
「これでも痛くないか?」
拓かれたばかりの膣内を押し広げるようにかき回されながら、私は頷いた。
痛くはないが、腹側を刺激されるとなんだかムズムズして腹の奥がきゅんとする。
この先にあるのが快楽だということが、本能的に理解できた。
「エラ……そろそろ俺が限界だ。
次回はもっと頑張るから、今はこれで勘弁してくれ」
ギラギラと輝く碧の瞳が、射貫くように私を見つめる。
これから私は、この獣に食べられるのだ。
そう思うと、期待と欲情で体が震えた。
彼がズボンの前を寛げると、そこからぶるりと肉棒が飛び出してきた。
「……!」
体が大きい彼のことだから、そこも大きいのかなと思っていたが……
思わず息をのんだ私のドレスの裾を、彼はさらに大きく捲り上げた。
「エラ。
きみが俺のものになるところを、その目でしっかり見るんだ」
肉棒の丸く膨らんだ先端が膣口に触れたかと思うと、ぐっと押し入ってきた。
「あ……」
太い肉棒が、私の胎内に挿れられていく。
私は目を大きく見開いて、ただその光景を見つめていた。
そして肉棒がおよそ半分ほど見えなくなったころ、ゆっくりと引き裂かれるような痛みがはしった。
「い、いたい……ベルナールさん……」
痛みを訴えたが、腰を進めるのを止めてはくれない。
「すまない……堪えてくれ……」
食いしばった歯の間から押し出したような声。
見ると、私よりも彼のほうがよほど苦しそうな顔をしている。
一旦停止は無理そうだと悟った私は、次第に大きくなる痛みを唇を噛みしめて耐えた。
果たして、これがどこまで続くのか……と恐ろしくなったところで、やっと彼の肉棒が全て私の胎内に収まり、私たちの体がぴったりと重なった。
既にこの時点で私はもう涙目で、彼も肩で息をしている状態だ。
「エラ……きみは、どこもかしこも素晴らしいな……」
彼は私を抱きしめ、耳元で囁いた。
「悪いが、あまり優しくしてやれそうにない。
覚悟してくれ」
「ん、あぁ……」
奥まで埋まっていた肉棒がずるりと引き抜かれ、内側から内臓を押し上げられるような圧迫感が緩んだ。
「あ……あぅ……」
だが、すぐにまた肉棒は深々と挿入され、奥がぐりっと抉られる。
ゆっくりと繰り返される律動は、破瓜の痛みを快楽へと少しずつ置き換えていく。
「はぁ、エラ……気持ちよすぎる……」
「ん……ベルナール、さん……」
はだけたシャツの間から覗く胸筋と鎖骨が、ぞくりとするほど色っぽい。
「キス、して……」
そう強請ると、彼はすぐに噛みつくようなキスをくれた。
そして、それと同時に突如として律動が激しくなった。
「んっ! んんんっ!」
貪られるような容赦のない行為に、チカチカと視界が明滅する。
大きな体にしがみつくと素肌が触れ合い、そこからまた新たな快楽が生まれてしまい、私は追い詰められていく。
私の意志とは無関係にぎゅっと締まる膣に、彼は低く呻いてさらに律動を早めた。
「んっ……んんんんんんん!」
「……くっ……」
舌を絡めたまま私は絶頂へと昇りつめ、彼も数秒遅れて私の奥で精をぶちまけた。
ゴトゴトと揺れる車内に、二人の荒い息遣いの音が響く。
ものすごく、気持ちよかった……
陶然とする私の頬を撫で、彼は満足気に笑った。
「エラ……これで、きみは全て俺のものだ」
私も彼の汗ばんだ胸板を撫で、まだ獣のようにギラギラしている瞳を見上げた。
「あなたも、私のものよ……そうでしょ?」
「ああ、そうだよ。俺もきみのものになった」
嬉しくて微笑んだ私を、彼はぐいっと抱き起こした。
「ふぁ……」
体勢が変わったことで挿入されたままの肉棒に奥が捏ねられ、情けない声が漏れる。
どうするのかと思えば、今度は彼が座席に座り、私は彼の上に向かい合わせで座らされた。
少し前までと同じ体勢だが、違うのは私たちの体が繋がっているということだ。
「んぅ……これ、深いぃ……」
一度果てたというのに質量を保ったままの肉棒は、さきほどよりさらに私の奥に入り込んでいる。
そのせいで、さっきまでは意識することもなかった馬車の揺れがダイレクトに腹に響く。
「あぁ……これ、無理っ!」
生まれて初めて絶頂の快楽がやっと引いたばかりの敏感な膣は、こんな中途半端な刺激からも身悶えるほどの快楽を拾ってしまう。
「大丈夫。まだ時間はあるから」
無理と言っているのは時間のことではないということを、彼はわかっているはずだ。
それなのに、刺激から逃れるために上げようとした私の腰を掴んで、彼の下半身にぐっと押し付ける。
「あうぅっ!」
自重に彼の腕の力も加わり、さらに奥まで貫かれた私は思わずのけ反った。
「無理! むりぃ! ベルナールさん!」
なんとか快楽を逃がそうと必死で首を振ったら、纏められていた髪が解けてしまった。
「ああ、いい眺めだな。時間ギリギリまでこうしていようか」
彼はというと、そんな私を眺めるのが愉しいらしく、碧の瞳を眇めて笑っている。
時間の感覚などとっくになくしてしまった私は慄いた。
こんなのを長時間続けられたら、どうにかなってしまう!
「や、お願い、もう……」
涙を流しながら、もう許してくれと訴えようとしたところで、馬車の車輪が小石かなにかに乗り上げたらしく、車体が大きくガタッと揺れた。
「ひあぁぁっ!」
不意打ちで奥をさらに強く抉られた私は、成すすべもなく再び絶頂へと昇りつめてしまった。
膣がぎゅうぎゅうと肉棒を締め付け、精を搾り取ろうと積極的に蠢いているのがわかる。
そして、彼はそんな私を、下から容赦なく突き上げ始めた。
まだ快楽の波にのみこまれている最中にさらに激しく責め立てられ、絶頂がいつまでも終わらない。
「は……あ……」
私はほとんど声も上げることができず、のけ反ったまま揺さぶられ続けた。
そのあたりで記憶が曖昧になっているが、たぶん二度目に精を注がれたあたりで完全に気を失ってしまったのだと思う。
せっかくだから魔法が解けるところも見たかったのに。
様々な幸運に恵まれた私だが、その点だけが残念だったと後年まで思うことになるのだった。
扉がバタンと閉められ、丸っこいフォルムの馬車がゆっくりと動き始めた。
「……」
一人で乗るには広すぎるフカフカな座席に座り、私は身にまとっている水色のドレスを見下ろした。
なんの素材かわからないが、光が当たるとキラキラと輝く美しい布地でできている。
そして、足元には透明感のある素材でできた靴。
爪先をぶつけてみると、カチンと硬質な音がした。
これ、ガラスだよね。
主人公が今の私と同じ状況になる物語を、私はよく知っている。
え? 嘘でしょ?
「……私……シンデレラに転生してるの……?」
私は呆然と呟いた。
「ねぇ、エラ。
今夜はね、お城でとっても大きな舞踏会が開かれるのよ」
上の義姉が、瞬きするたびにバサバサと音がしそうなまつ毛の間から覗く目玉でギョロリと私を睨んだ。
「王子様が結婚相手を探すための舞踏会なんですって。
国中の令嬢が招待されているわ」
下の義姉が、これでもかと大きく開いた襟ぐりから零れ落ちそうなバインバインな胸を逸らせて私を見下ろした。
「みすぼらしい灰かぶりが選ばれるわけないんだから、連れて行くだけ無駄というもの。
いつも通り、掃除でもしてなさい。
あんたにはそれがお似合いよ」
香水の匂いがぷんぷんする義母は、派手な色の羽でできた扇子を振って私を追い払った。
私だって、お城の舞踏会になんて行けるとは思っていない。
義母たちは毎日のように着飾って出かけるが、私はずっと屋敷で掃除や洗濯などの仕事に追われているのだ。
それなのにわざわざこんなことを言うのは、私を蔑むのが楽しくてしかたがないからだ。
「お母様、王子様ってとっても素敵な方なんでしょう?」
「選ばれたらお妃様になれるのよね?」
「ええ、そうよ。
あなたたちは可愛いから、きっとお目に留まるわ。
ふふふ、楽しみね」
三人は意気揚々と馬車に乗り込み、お城へと出かけて行った。
いつものことだ。
今さら心が痛むこともない。
私は黙って去っていく馬車を見送ると、台所に戻って掃除の続きをするために箒を手にした。
「こんばんは~♪」
突然後ろから声をかけられ、私は驚いて箒を取り落としそうになった。
通いの使用人たちはもう全員帰宅したので、屋敷には私以外だれもいないはずなのに。
「だ、だれ⁉」
「魔法使いよぉ~♪」
そこにいたのは、黒いローブに身を包み、ぴかぴか光る棒を手にした筋骨隆々で……
真っ赤なルージュが妙に似合う、年齢不詳のおネエさんだった。
「あなたに魔法をかけてあげるわぁ~♪」
「きゃっ! なに⁉」
おネエさんが棒をくるくると回すと、棒の先からキラキラした光の粒が出てきて私に降り注ぎ、私は思わず目をつぶった。
「さぁ、終わったわよ~目を開けてごらんなさ~い♪」
恐る恐る目を開けて、私はびっくり仰天した。
ボロボロで灰まみれだった私のワンピースは、豪華な水色のドレスになっていたのだ。
「ほ~らとってもきれいになったわよ~♪」
ポンッと音を立てて、大きな銀色の板が現れた。
その表面には、ぱっちり二重の水色の瞳と艶やかな黄金の髪をした、目が覚めるような美女が写っているではないか。
驚いた表情の美女の顔には、見覚えがある。
はて、と頬に手をやってみると、美女も同じように頬に手をあてた。
逆の手も同じように頬にやると、美女もまた同じ動作をする。
これ、鏡だ。
つまり、この美女は私なのだ!
ふんわりと裾が広がった瞳と同じ色のドレスを着て、金色の髪を結い上げた美女。
間違いなく私なのだが、ものすごく既視感がある姿だ。
私が呆然としている間に、おネエさんの魔法により台所にあったカボチャが丸っこいフォルムの馬車にされ、台所の隅にいた鼠が馭者にされた。
「魔法の効果は十二時の鐘が鳴り終わったら消えるから、それまでに帰ってくるのよ~♪」
呆然としたままの私をひょいと抱えて、おネエさんは笑顔で馬車に放り込んだ。
「じゃあいってらっしゃ~い♪」
こうして訳も分からぬまま、問答無用で私は屋敷から連れ出されたのだった。
そして馬車が動き出してから正気に戻った私は、同時になぜか前世の記憶も取り戻していた。
前世の私は、日本という国で生まれ育ったごく普通の女性だった。
大学を卒業し、第一希望だった会社に就職してバリバリ働いていたのに、どうやら交通事故で命を落としてしまったようだ。
せっかく仕事が楽しくなってきたところだったのに、残念すぎて溜息がでる。
前世の記憶が戻っても、この世界で生きてきた十八年の記憶が消えたわけではない。
なにもかも、しっかり全て覚えている。
だからこそ、私のこれまでの人生は、シンデレラの物語そのままだとよくわかる。
「……ということは、私が向かっているのは、義母たちが言っていた王子様の結婚相手探しの舞踏会なのね」
そこで私は王子様に見初められ、ガラスの靴を落として……という流れになるということか。
夢見がちな女の子なら喜ぶかもしれないが、生憎とアラサーまで生きた記憶がある私は現実的なのだ。
この世界のことをほとんど知らないのに、本物の王子様と結婚なんてしたら苦労するに決まっている。
それに、顔だけで将来の王妃を選ぶ王子様なんて、ごめん被る!
だが、これは私に与えられたおそらく最初で最後のチャンスでもある。
大規模な夜会という話だから、王子様以外の独身男性もたくさんいるはず。
その中から、私は私だけの王子様を探そうではないか。
そうすることで、今のシンデレラな境遇から抜け出すのだ!
私は馬車の窓に顔を映してみた。
おとぎ話のヒロインなだけあって、我ながら驚くほどに美しい。
「いける。これなら十分戦えるわ!」
私はほくそえみ、それからぐっと拳を握りしめて気を引き締めた。
なんでこんなことになったのかはさっぱりわからないが、ギリギリのところで前世の記憶が戻ったのは、きっと運命を変えて幸運を掴み取れということなのだと思う。
それができるかどうかは、私次第。
家を継がない次男とか三男が狙い目ね。
それも、高位貴族じゃなくて、気楽な中級以下にしましょう。
淑女教育を受けていない私には、社交とか無理なのだから。
もしくは、商家とかもアリだと思うわ。
美人だからといって、高望みをしてはいけない。
経済的に苦労せず、普通の暮らしをさせてくれる男性を見つけることを目標と定めることにしよう。
「やってやるわ! シンデレラは今日で卒業してやるんだから!」
気合十分な私を乗せて、カボチャの馬車は粛々とお城へと向かっていった。
停まった馬車から降りてきょろきょろとあたりを見回してみると、着飾った人たちが同じ方向に歩いていくのが見えた。
ふむ、どうやらあちらがお城の入口らしい。
私もその流れに乗りてくてくと歩いて行くと、周囲の人たちがちらちらと私を見るのがわかった。
なんだろう? と思ったところで、すぐにその理由に気が付いた。
私のように一人だけで歩いている女性が見当たらないのだ。
見える限り全員が男性にエスコートされてるか、複数の女性で連れだって歩いている。
誰からもなにも言われないし、壁際の衛兵にも止められないから追い出されるほどのことはないにしても、一人で舞踏会に参加するのは常識から外れているのだろう。
あのおネエさん、せっかくならエスコート役も魔法でなんとかしてくれたらよかったのに。
とはいえ、今さらそんなことがわかってもどうしようもないので、私は平然とした顔で歩き続けた。
そうして私はお城の中に足を踏み入れると、あちこちにあるランプのおかげで周囲が明るくなった。
そうなると、自然と私に視線が集まってくる。
あまり目立ちたくはないが、私は美人なのだからこればかりはしかたがない。
変なのに絡まれたら面倒だな、と思ってさりげなく周囲に視線を走らせたところで、私はある重大なことに気が付いた。
右側にいる明るい栗色の髪の男性も。
左斜め前にる金髪の男性も
少し後ろにいるこげ茶色の髪の男性も。
全員が、はっきりそうとわかるくらい化粧をしているのだ。
長く伸ばした髪はさらさらで、色が白くて、細くて、雅というか典雅というか。
正直なところ、全員が私の好みからは大きく外れている。
(しかも、あれって付けほくろよね。
この国って、こんな感じなんだ……)
ここの文化や習慣を否定するつもりはないが、なんとも残念な気持ちになってしまった。
とはいえ、がっかりしたのは一瞬だけで、すぐに気を取り直した。
前世でアラサーまで生きた私は、外見が全てでないことをよく知っている。
化粧してようがなんだろうが、心優しい男性であればそれでいい。
私はこの舞踏会に全てを賭けると決めたではないか。
容姿が好みじゃないなんて贅沢を言っている場合ではないのだ。
長い廊下を歩いていると、だんだんと人が増えてきた。
前方に見える大きく開かれた扉の先が、おそらく舞踏会の会場になっている広間なのだろう。
(絶対に優良物件を見つけるわ)
気合を入れて扉をくぐったところで、横からやや大きめな声がした。
「もうエスコートは結構と言っているのよ!
いい加減にして!」
そちらを見てみると、ちょうど若い女性が男性の手を振り払ったところだった。
「しかし、あなたを一人にするわけには」
「そんな心配は無用よ。
私にはお友達がたくさんいますから!」
なかなかに可愛らしい顔をした女性だが、エスコート役だったらしい背の高い男性を見る目には明らかに見下したような色がある。
その理由はすぐにわかった。
「お父様に頼まれたからエスコートを許したけど、こんな蛮族みたいな相手だと知っていたら絶対に断っていたわ。
お化粧すらせずにこの私の隣に立つなんて、どういう神経をしているのかしら!」
私の位置からは男性の顔は見えないが、どうやら彼は化粧をしていないらしい。
それだけでなく、黒髪は短く切り揃えられ、背が高くがっしりとした体つきをしていて、後ろ姿だけでこの場では異質だということが見てとれる。
ピコンと私の直感が反応した。
「いや、これにはわけが」
「お黙りなさい! 言い訳など聞きたくないわ!
私は、栄えあるフュネース子爵家の令嬢よ。
あなたみたいな成り上がり男爵の弟風情が、本来なら触れることすら許されないというのに、こんな不敬は耐えられないわ!」
成り上がり男爵の弟……
ということは、お金で爵位を買えるくらい裕福で、しかも男爵本人ではない、ということだ。
ピコンピコンと私の中で注意を促す音がする。
「二度と私の前に現れないで!」
女性はそう吐き捨てると、さっさと歩み去ってしまった。
男性は後を追うこともできずその場に立ち尽くし、周囲の人々は眉をひそめてヒソヒソとしながらそんな彼を見ている。
これはチャンスだ! と私の直感が強く訴えている。
逃してなるものかと私は迷わず足を踏み出して、男性の正面に立った。
「あなた、私をエスコートしてくださらない?」
にっこりと笑って手を差し出しながら彼の顔を見上げたところで、私は息をのんだ。
切れ長の碧の瞳に、凛々しい形をした眉、すっと通った鼻筋。
白粉が塗られていない肌は、やや日焼けした健康的な色。
ビコンビコンビッコーン!
爆音が脳内で鳴り響いた。
めっちゃタイプなんですけど⁉⁉
本能が彼にロックオンするのを感じた。
私の獲物だ。
絶対に逃がさない。
だが、彼は精悍な顔に困惑の表情を浮かべ、私と差し出された手を交互に見ている。
「私のエスコートをするのは、お嫌?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
やや上目遣いで見上げると、彼の頬がみるみる赤くなった。
それもそのはず。
だって、私は王子様が一目惚れするくらいの美人なのだ。
「本当に……私などがエスコートさせていただいてよろしいのですか?」
「もちろんよ。私はあなたがいいの!」
さあ! とさらにずいっと手を差し出すと、彼は躊躇いがちに私の手をとってくれた。
大きな手は温かくて、掌には硬いところがあるのがわかる。
労働をしたことがある手だ。
「私は、エラ・パジェス。パジェス伯爵家の娘よ。
あなたのお名前は?」
「ベルナール・クレチアンと申します」
低い声も耳に心地いい。
この声で、耳元で囁かれたら……なんて不埒な考えが脳裏をよぎり、慌ててかき消した。
いけない。
まずは、会ったばかりの彼と仲良くなることに集中しなくては。
「ベルナールさんというのね。
私のことはエラと呼んでくださいな」
手をぎゅっと握りながらにっこりと笑って見せると、彼の顔がさらに赤くなった。
よし、いい感じだ。
「ねぇ、どこかに落ち着いてお話ができるところはないかしら」
「お話……ですか?」
「これもなにかの縁なのだし、あなたのことをもっと知りたいの」
「ですが、その……」
彼はちらりと音楽が聞こえてくる方を見た。
ここは、王子様の結婚相手を選ぶ舞踏会の会場。
私のような若い女の子は、皆が王子様に選ばれるためにここに来ているはずなのだ。
「ね、いいでしょう?」
「……!」
上目遣いをしながら小首を傾げる。
我ながらあざとい仕草だと思うが、今の私なら効果抜群だ。
案の定、彼は赤くなった顔の下半分を手で多いながら目をそらした。
「で、では、そうですね……控室……ではなく、テラスにお連れします」
「いいわ、行きましょう」
私は彼に手を引かれ、スキップするように軽い足取りでテラスへと向かった。
テラスに出ると、少しひんやりした夜風が頬をなでる。
彼が廊下に続く扉を閉めると、音楽の音と人々のざわめきが遠くなり、密室ではないが二人だけの空間になった。
私は改めて高いところにある彼の顔を見上げた。
ああ、これは……
どこからどう見ても、私の好みど真ん中だ。
「それで……私のなにを知りたいのですか?」
「そうね。まずは、あなたが化粧をしていない理由から知りたいわ」
単純に気になっていたし、これから初対面同士で会話を始めるのにちょうどいい話題だと思う。
「私は白粉が肌に合わないようで、痒くなってしまうんですよ。
だから化粧ができないのです」
「ああ、そういう理由なのね。
それはしかたがないと思うわ」
あっさりと頷いた私に、彼は驚いた顔をした。
「それくらい我慢しろと言わないのですか?」
「そんなこと言わないわよ。
だって、そういう体質なんだからしかたないじゃない。
誰かにそう言われたの?」
「化粧をしなくていいと言ってくれたのは、兄と義姉くらいですよ」
前世では、女性は社会人になるとほぼ全員が化粧をするのがマナーで一般常識だった。
この国では、貴族階級の男性も同じような感じなのだろう。
「私は化粧もできない上にこの図体ですから、貴族の令嬢には怖がられるか嫌がられるのが普通なんです。
令嬢をエスコートして舞踏会に参加するなんて無理だと兄には何度も言ったのですが、押し切られてしまいまして……」
「それで、さっきのようなことになってしまったわけね」
「お恥ずかしながら、そのとおりです」
この国では化粧をした細身の優男タイプが主流なようだから、彼は一般的な女性の好みからは大きく外れてしまうのだろう。
「お兄様とは仲がいいの?」
「はい。もう両親はおりませんし、年が離れていますので、弟というより息子のように扱われています」
「いいわね。羨ましいわ」
義母と義姉にはこき使われたことしかない私は、つい本音が漏れてしまった。
「ご令嬢は、一人でここにおいでになったのですか?」
「ええ、そうよ。
それから、ご令嬢じゃなくてエラって呼んで?」
「……お美しいエラ様なら、きっと王子殿下を射止めることができますよ」
「もしかして、私が王子様に選ばれるために無理して舞踏会に来たって思ってる?」
「違うのですか?」
「違うわよ!
いや、違うとも言い切れないのかしら?」
首を傾げた彼に、私は悪戯っぽく笑って見せた。
「私はね、私だけの王子様を探しに来たの!」
それから私は、前世の記憶以外の私の事情を包み隠さず説明した。
義母と義姉たちの私への仕打ちに彼は顔を顰め怒りを露わにしたが、魔法使いのくだりでは驚いた顔になった。
「そのドレスは魔法でできているのですか?」
「本当よ。
その証拠に、今夜の十二時の鐘がなり終わるのと同時に、元の汚れたワンピースに戻るらしいわ」
「なんともったいない。
こんなにもエラ様に似合っているというのに」
「ふふふ、ありがとう。
魔法使いのことも信じてくれるのね」
「信じますよ。エラ様の言うことなら、なんでも」
精悍な顔でふんわりと笑う彼に、私はドキドキしてしまう。
「それで、パジェス伯爵家の家督がどうなっているのか不明なのですね?」
「そうなの。
私が正当な後継者のはずなのだけど、書類関係は義母が全て管理していて、私は触れることができないのよ」
彼は長い指を顎にあてて考える仕草をした。
「どうにも犯罪の臭いがしますね。
私は法律関係には明るくありませんが、兄の商会には頼りになる顧問弁護士がいますから、相談してみましょうか」
なんともありがたい申し出に、私はパッと顔を輝かせた。
「いいの⁉」
「もちろんですとも。
これでパジェス伯爵家との繋がりができるなら、兄も喜びます」
「ありがとう! 是非お願いするわ!」
飛び上がって喜んだところで、はたと気が付いた。
「あ、でも、もし私が家を継げないような状態になっていたら……せっかく助けてもらっても、お兄様の商会に利益がないってことになってしまわないかしら?
そうなったら申し訳ないわ」
「その時はその時です。
私と一緒に兄に謝りましょう。
兄は私に甘いので、きっと許してくれますよ」
「ふふふ、ありがとう。
ついでに、私を下働きか何かで雇ってくれたらありがたいのだけど」
「いいですね。私専属のメイドにでもなっていただきましょうか」
ベルナールさんの専属メイド。
つまり、彼の近くで仕えるということだ。
それって、毎日が眼福三昧ってことじゃない?
「嬉しいわ。よろしくお願いね」
メイドの仕事なら、私にもできるだろう。
これで家がどうなろうと、路頭に迷わずに済みそうだ。
「では、エラ様。
早速ですが我が家にお連れします。
今夜は兄は家にいるはずですから、さっさと話を通してしまいましょう」
「こんな時間に突然押しかけたりしたら、迷惑になってしまわない?」
「大丈夫です。
商売人は情報と縁を現金と同じくらい大切にしなくてはいけないと兄はいつも言っていますから。
エラ様をここで逃がしてしまったら、私が大目玉を喰らうでしょう」
「そう? それなら、お言葉に甘えようかしら」
彼に出会えた幸運に感謝しながら差し出された大きな手をとったところで、私はあることを思いついた。
「ねぇ、ベルナールさん。
少し待ってくれないかしら」
「構いませんよ。
パウダールームでしたら、あちらに」
「いえ、そうではなくてね。
一目だけ、本物の王子様を見てみたいの!」
シンデレラの姿はなんとなく記憶にあるが、王子様がどんな感じだったかさっぱり覚えていない。
義姉が素敵な方だと言っていたこと以外、私は名前すら知らないのだ。
王子様を間近で見ることができる機会なんて、もう二度とないかもしれない。
今夜の最大の目的は果たしたのだし、立ち去る前に些細な好奇心を満たしたっていいではないか。
「ベルナールさんは、王子様を見たらわかる?」
「それは、わかりますが……」
「よかったわ。見つけたら、どの方か教えてね!
さ、行きましょう」
私はなぜか渋い顔をする彼の手を引っ張って、うきうきと舞踏会の会場へと戻った。
王子様の婚約者を選ぶための舞踏会だから、本人はきっとたくさんの女性と踊っているはずだ。
音楽がする方へと歩いて行こうとしたところ、ベルナールさんが繋いでいた手を放して代わりに私の腰をぎゅっと抱き寄せた。
「べ、ベルナールさん?」
ぐっと近くなった距離に、心臓がドキドキする。
「こうしておけば、他の男にちょっかいをかけられることはありません」
そうだ、私って美人なんだっけ。
暫定私だけの王子様があっさり見つかった今、他の男性に絡まれるなんて面倒でしかない。
早く王子様を遠くからチラ見して、こんな場所からおさらばしよう。
ベルナールさんに腰をがっちり掴まれて歩き出す。
そして、背が高い彼はすぐに目当ての人物を見つけて足を止めた。
「いました。あのこげ茶色の髪の、金色の派手な肩章がヒラヒラしているのが王子殿下です」
「……あそこの、あのピンクのドレスの女性と踊ってる方ね」
私はベルナールさんに身を預けるようにしながら、目をじっと凝らしてみた。
化粧と付けほくろのせいで、顔立ちはよくわからない。
涼しい目元をしているような気がするが、私が期待したほどのイケメンではなさそうだ。
とはいえ、王子様の近くにいる女性たちは全員が、彼に熱い視線を送っている。
前世の記憶に引きずられている私の感覚がおかしいだけで、この国の基準では彼は群を抜いた美男子なのかもしれない。
「……気は済みましたか?」
「ええ、もう十分だわ」
実際の王子様より、ベルナールさんのほうが私にとっては百万倍素敵だ。
それがわかっただけでも、なんだか胸がスッキリした気分だ。
もうこの場に用はない。
さっさとベルナールさんのお家に連れて行ってもらおう。
そう思って王子様から視線を逸らそうとした直前、
「!」
王子様とバチッと視線が合ってしまった。
マズい! と思った時には後の祭りで、私を見る彼の目が驚いたように見開かれるのがはっきりと見えた。
いけない。
王子様に認識されてしまった。
「さ、行きましょう!」
私はぱっと身を翻し、ベルナールさんの大きな体に隠れるようにして不自然にならない程度の速足で会場を抜け出した。
会場から離れれば離れるほど、人がまばらになっていく。
角を一つ曲がって、もう会場からは私たちの姿は見えなくなったところで、私は足を止めた。
「エラ様?」
「ベルナールさん、ちょっと待ってね」
私は高いヒールのガラスの靴を脱いで、両手でしっかりと握りしめた。
これは、言わずと知れた物語のキーアイテム。
絶対に落としてはいけない。
「走るわよ! ついてきて!」
そう言うと、彼の返事も待たずに私は裸足で走り始めた。
普段こき使われているので、重いドレスを着ていても難なく走ることができるだけの筋力と体力があるのだ。
私の全速力で走っていたら、突然視界がぐんと高くなった。
「きゃあ! なに⁉」
下を見ると、ニヤリと笑ったベルナールさんの顔がある。
そんな顔も素敵……と、ついときめいてしまった。
「こうするほうが速い」
彼は私を布越しでも逞しいのがよくわかる肩に担ぎ上げると、私の全速力の倍くらいの速さで駆けだした。
「わあああ! 速い速い! すごいわベルナールさん!」
荷物のように運ばれながら、それがなんだか楽しくて歓声を上げた。
たまにすれ違う人に驚かれながら、あっという間に馬車が停めてある区画にたどりついた。
「あの馬車よ! あの丸っこくて水色の馬車に乗って!」
四角くて黒か茶色の馬車が並ぶ中で、カボチャっぽいフォルムの馬車はとても目立つ。
ベルナールさんは私を担いだまま馬車に飛び込み、扉をバタンと閉めた。
「出して!」
私が馭者側の壁をゴンゴンと叩いて合図をすると、馬車はすぐに動き始めた。
窓から外を覗いてみる。
誰かが追いかけてきているような様子はない。
そして、一番大事なのは両手で今もしっかりと握っているガラスの靴。
もちろん、両側がそろってここにある。
よかった。
王子様には顔を見られてしまったが、それもほんの少しだけだ。
ガラスの靴というキーアイテムがないのだから、私にたどり着くことなどできないだろう。
ほっと息を吐いたところで、
「その靴が気になるのか?」
「ひゃ!」
艶のある声で耳元で囁かれ、私は首をすくめた。
ベルナールさんは私の隣にぴったりくっつくように座っている。
「きれいな靴だが、これも魔法でできているんだろう?」
「え、ええ、そうよ。
魔法のガラスでできているの」
「ふぅん、魔法ってのはすごいな」
そう言って、彼は私の手から靴を取り上げると、床にコトンと置いた。
「魔法は、十二時の鐘が鳴るまで有効なんだよな」
「ええ、そう聞いているわ」
「じゃあ、まだまだたっぷり時間があるな」
彼は大きな手で壁を叩いた。
「時間まで適当に流してくれ。
最終目的地はヘザー通りの1483番地、クレチアン商会前だ」
外からコンコンと壁を叩く音がして、承知したことが伝えられた。
「魔法でできた馬車の乗り心地は最高だな。
せっかくだから時間いっぱい有効活用させてもらおう」
「有効活用?」
「エラ、気づいているか?
馬車の中っていうのは、密室なんだよ」
密室。
言われてみればそうだ。
っていうか、今呼び捨てにされたよね。
さっきまでエラ様って言ってたのに。
「狭い密室に、若い男女が二人きり。
当然、こういうことになるよな?」
私はひょいと抱え上げられ、彼の膝の上に向かい合わせで座らせられた。
精悍に整った彼の顔を間近に見て、私は赤くなった。
そんな私の頬を、大きな手が優しく撫でる。
「王子殿下を見て、どう思った?」
「どうって……他のひとたちとあんまり変わらないなって思ったわ。
それだけよ」
「そうか。きみの目には、そう見えたのか」
彼のもう片方の手が、私の背中と腰をゆっくりと撫で下す。
「ん……」
なんだか体の奥がぞくぞくとして、つい声が出てしまった。
「エラ。俺に触られるのは、嫌ではないか?」
俺って言った。
きっと、これが素のベルナールさんなのだ。
紳士だった時も素敵だと思ったが、少しだけ粗野な素の彼の方が私の好みだ。
「嫌なんかじゃないわ」
むしろ、もっと触ってほしい。
そう思ってしまう。
「よかった。
まぁ、嫌がられたところで、もう止めるつもりはないんだが」
切れ長な碧の瞳が、怪しい光をたたえて至近距離で私を見ている。
「な、なにを」
するつもりなの、と言う前に噛みつくようなキスで口を塞がれた。
「んぅ……! ンん……」
驚いて離れようとしたが、後頭部と腰をがっちりと押さえられていてびくともしない。
分厚い舌が口腔にはいりこみ、私の舌を絡めとる。
ザラザラした粘膜が擦りあうと、ビリビリするような官能が体中に広がっていく。
「ふ……ん……」
長い間そうやって貪られ、やっと開放されたころには私の体からすっかり力が抜けていた。
「エラ。きみは可愛すぎる」
彼の低く艶のある声は、腰に響く。
「この馬車に二人で乗り込んだ時点で、きみが俺のものになるのは確定していた」
「え」
「きみはあまりに可愛すぎて、危険だ。
このまま放っておけば、きみを求める男たちが醜い争いを繰り広げることになるだろう。
そうならないように、ここで俺のものになってもらう」
「ここで……?」
この、魔法でできた馬車の中で?
予想外の展開に慄く私に、彼は飢えた獣のように瞳をギラギラと光らせながら笑った。
「大丈夫だ。全部俺にまかせて」
欲情が滴るような声で囁いてから、彼は私の首筋に噛みつくようなキスをした。
敢えて目立つところに所有の証をつけているのだと思うと、また背筋がぞくぞくとした。
もう逃げられない。
私はこの馬車の中で、獣に頭から全て食べ尽くされてしまうのだ。
「脱がせるよ」
大きな手が私のドレスの胸元に触れたと思ったら、そのままぐいっと力任せに引き下ろされた。
「あ、や……」
下の義姉ほどバインバインではないにしても、それなりのサイズの胸が空気にさらされる。
咄嗟に手で隠そうとしたが、もちろんそんなことは許されない。
「きみは、ここも可愛いんだな。
俺の手にすっぽりと収まる、ちょうどいい大きさだ」
両方の掌で胸を包み込まれ、私は赤くなった。
彼はゆっくりと柔らかさを確かめるように胸を揉みながら、私のデコルテや胸の膨らみに執拗なほどたくさんの赤い痕をつけていく。
「やだ、人前に出れなくなっちゃう……」
「しばらく人前に出すつもりはない。
少なくとも、この痕が消えるくらいまでは」
「え、なんで」
「俺たちは今夜から蜜月に入ったってことだ」
蜜月? それって、結婚した直後にラブラブで過ごす時期って意味じゃなかった?
つまり、私たちは結婚することまでもう確定しているの?
「嫌がっても抵抗しても無駄だよ。
きみはもう俺から逃げることはできない」
「あっ、あああぁ……」
私が抗議しようとしたのを察したのか、彼は右側の胸の頂きに吸いついた。
左側も指先でひっかくようにされ、甘い刺激に私の意識は蕩けていく。
「は……ひぁ……」
こんなことをするのは初めてなのに、随分と感度がいい。と思う。
これもヒロイン仕様なのだろうか。
息を乱して喘ぐ私に、彼の瞳はまた獣のように光った。
「本当は優しくトロトロにしてやりたいところだが……俺もあまり余裕がない。
それもこれも、きみが可愛すぎるのが悪いんだからな」
なんだか言い訳みたいなことを言いながら、彼はドレスの裾をまくり上げた。
太腿を大きな手で撫で上げられると、またぞくぞくとなったところで、彼はぐっと眉を寄せた。
「……エラ。下着をつけていないのか?」
「え?」
蕩けていた私の意識が一気に覚醒した。
まだ裾をまくり上げただけのはずなのに、太腿には彼の手に直接触れられている感触がある。
ボロボロのワンピースから一瞬で魔法で豪華なドレスに着替えさせられたので、下着のことなんか考えてもいなかった。
「そ、そんな……!」
どうやら私は、下着なしでお城の舞踏会に突撃させられたらしい。
魔法にかけられる前は、古くはあるがちゃんとしたドロワーズを着ていたのに!
「こういうのが、きみの趣味なのか?」
「ち、ちが……魔法使いが……!」
断じて私の趣味でこうなっているわけではない。
あのおネエさん、なんてことしてくれたのよ!
「まあ、そのあたりは後でじっくり確かめるとしよう。
今はこのほうが都合がいいしな」
彼は嬉しそうに笑うと、太腿にあった手を足の付け根へと移動させた。
「あ……!」
下着がないせいで、いとも簡単に秘部に触れられてしまった。
「ああ、しっかり濡れているな。
わかるだろう?」
触れられて初めて、そこがすっかり潤っていることがわかった。
「胸を愛撫されて、こんなに気持ちよかったんだな」
「やだ、言わないで……」
そのとおりなのだが、わざわざ言葉にされると恥ずかしくて、私は彼に肩に顔を埋めた。
しっかりと厚みのある肩は、布越しでも逞しいことがわかる。
いまのところ、肌をさらしているのは私ばかり。
こんなのズルいではないか。
「ね、あなたも脱いで……?」
そうお願いすると、碧の瞳が一度見開かれた。
「俺に触りたいのか?」
私は素直に頷いた。
私だって、逞しい雄の体に触れてみたいのだ。
またニヤリと笑った彼は、たぶんクラヴァットとよばれる首元の布をさっと取り払った。
それが前世の記憶にある男性がネクタイを緩める仕草に似ていて、思わずときめいてしまった。
ベストのボタンを外し、その下のシャツのボタンまで外すと、完全に上半身の前をはだけた状態になる。
ああ、思った通りだ。
すごく逞しい……
「ほら、好きなだけ触っていいぞ」
彼は私の手をとり、盛り上がった胸筋の上にぺたりと置いた。
「わぁ……筋肉……」
胸筋の下には、きれいに割れた腹筋。
それから、鎖骨や肩のラインも忘れてはいけない大事なポイントだ。
うっとりと手を這わせていると、彼がまた笑った。
「筋肉が好きなのか?」
「ええ、とっても……」
「そんな令嬢もいるんだな」
優男タイプがモテるこの国では、筋肉好きな私は異端なのだろう。
なんと言われても構わない。
私は前世の時からずっと、ガッチリ系の男性がタイプなのだ!
よりによってシンデレラにし転生してしまった今も、そのあたりの性癖は変わらなかったらしい。
「体を鍛えているのね」
「俺は少し前まで下級騎士だったんだよ。
詳しいことはあとで説明してやるから、今はこっちに集中しような」
彼は私の体をひょいと持ち上げると、私を座席に座らせて自分は床に膝をついてドレスの裾を捲り上げた。
下着がないのだから、その状態でぐいっと足を両側に開かれたら、当然ながら秘部が彼の目前にさらされることになる。
「ま、待って」
さすがに恥ずかしくて、どうにかして逃れようと身をよじったが、もちろん徒労に終わった。
「あっ、あぁぁ!」
分厚い舌で蜜が溢れる秘部を舐め上げられ、私はのけ反った。
襞を弄ぶようにねっとりと舐める舌に翻弄されながら、さらに蜜が溢れだす。
そうやって秘部を隅々まで舐めつくしてから、彼は下生えの中に隠れていた陰核にちゅっと吸いついた。
「やっ、それダメぇっ!」
神経に電流が流されたようなビリビリとした刺激に、私はまた声を上げた。
強すぎる刺激に跳ねる腰を太い腕でがっちりと抱え込み、彼はさらに私を追い詰めていく。
皮を剥かれて剝き出しになった陰核を吸い上げながら、ざらざらした舌の表面で優しく舐め、時に強く押しつぶす。
甘い責め苦を加える彼を押しのけようと短髪の頭に手をやったが、もう既に体に力は入らなくなっていた。
「あぁ……もうっ……ひ、あぁあああああ!」
襞を舐められていた時とは段違いの刺激に、無垢な体はあっさりと絶頂へと押し上げられてしまった。
あられもない声は馭者にも届いているはずだ。
あの馭者が魔法で姿を変えられた鼠でなかったら、恥ずかしくて泣いていたかもしれない。
「上手にイけたな。いい子だ」
ぐったりと座席に沈んだ私の頬に、彼は嬉しそうにキスをした。
「指を挿れるよ。痛かったら言ってくれ」
絶頂の余韻でひくついている膣口に、異物が侵入してきた。
「ん……」
ゆっくりと差し入れられた指は、浅いところで動きを止めた。
「ものすごく狭いな……痛くないか?」
「痛くは、ないわ」
異物感はあるが、痛くはない。
自分でも触れたことがないところに、今夜会ったばかりの彼の指が触れているというのが不思議な気分だ。
零れるほどに蜜が溢れているからか、指が根本まで挿れられても痛みは感じない。
「大丈夫そうだな」
「ええ、今のところは……」
私の胎内の構造を確かめるように、挿れられた指がゆっくりとかき回す。
十周くらいしたところで、指が二本に増えた。
「これでも痛くないか?」
拓かれたばかりの膣内を押し広げるようにかき回されながら、私は頷いた。
痛くはないが、腹側を刺激されるとなんだかムズムズして腹の奥がきゅんとする。
この先にあるのが快楽だということが、本能的に理解できた。
「エラ……そろそろ俺が限界だ。
次回はもっと頑張るから、今はこれで勘弁してくれ」
ギラギラと輝く碧の瞳が、射貫くように私を見つめる。
これから私は、この獣に食べられるのだ。
そう思うと、期待と欲情で体が震えた。
彼がズボンの前を寛げると、そこからぶるりと肉棒が飛び出してきた。
「……!」
体が大きい彼のことだから、そこも大きいのかなと思っていたが……
思わず息をのんだ私のドレスの裾を、彼はさらに大きく捲り上げた。
「エラ。
きみが俺のものになるところを、その目でしっかり見るんだ」
肉棒の丸く膨らんだ先端が膣口に触れたかと思うと、ぐっと押し入ってきた。
「あ……」
太い肉棒が、私の胎内に挿れられていく。
私は目を大きく見開いて、ただその光景を見つめていた。
そして肉棒がおよそ半分ほど見えなくなったころ、ゆっくりと引き裂かれるような痛みがはしった。
「い、いたい……ベルナールさん……」
痛みを訴えたが、腰を進めるのを止めてはくれない。
「すまない……堪えてくれ……」
食いしばった歯の間から押し出したような声。
見ると、私よりも彼のほうがよほど苦しそうな顔をしている。
一旦停止は無理そうだと悟った私は、次第に大きくなる痛みを唇を噛みしめて耐えた。
果たして、これがどこまで続くのか……と恐ろしくなったところで、やっと彼の肉棒が全て私の胎内に収まり、私たちの体がぴったりと重なった。
既にこの時点で私はもう涙目で、彼も肩で息をしている状態だ。
「エラ……きみは、どこもかしこも素晴らしいな……」
彼は私を抱きしめ、耳元で囁いた。
「悪いが、あまり優しくしてやれそうにない。
覚悟してくれ」
「ん、あぁ……」
奥まで埋まっていた肉棒がずるりと引き抜かれ、内側から内臓を押し上げられるような圧迫感が緩んだ。
「あ……あぅ……」
だが、すぐにまた肉棒は深々と挿入され、奥がぐりっと抉られる。
ゆっくりと繰り返される律動は、破瓜の痛みを快楽へと少しずつ置き換えていく。
「はぁ、エラ……気持ちよすぎる……」
「ん……ベルナール、さん……」
はだけたシャツの間から覗く胸筋と鎖骨が、ぞくりとするほど色っぽい。
「キス、して……」
そう強請ると、彼はすぐに噛みつくようなキスをくれた。
そして、それと同時に突如として律動が激しくなった。
「んっ! んんんっ!」
貪られるような容赦のない行為に、チカチカと視界が明滅する。
大きな体にしがみつくと素肌が触れ合い、そこからまた新たな快楽が生まれてしまい、私は追い詰められていく。
私の意志とは無関係にぎゅっと締まる膣に、彼は低く呻いてさらに律動を早めた。
「んっ……んんんんんんん!」
「……くっ……」
舌を絡めたまま私は絶頂へと昇りつめ、彼も数秒遅れて私の奥で精をぶちまけた。
ゴトゴトと揺れる車内に、二人の荒い息遣いの音が響く。
ものすごく、気持ちよかった……
陶然とする私の頬を撫で、彼は満足気に笑った。
「エラ……これで、きみは全て俺のものだ」
私も彼の汗ばんだ胸板を撫で、まだ獣のようにギラギラしている瞳を見上げた。
「あなたも、私のものよ……そうでしょ?」
「ああ、そうだよ。俺もきみのものになった」
嬉しくて微笑んだ私を、彼はぐいっと抱き起こした。
「ふぁ……」
体勢が変わったことで挿入されたままの肉棒に奥が捏ねられ、情けない声が漏れる。
どうするのかと思えば、今度は彼が座席に座り、私は彼の上に向かい合わせで座らされた。
少し前までと同じ体勢だが、違うのは私たちの体が繋がっているということだ。
「んぅ……これ、深いぃ……」
一度果てたというのに質量を保ったままの肉棒は、さきほどよりさらに私の奥に入り込んでいる。
そのせいで、さっきまでは意識することもなかった馬車の揺れがダイレクトに腹に響く。
「あぁ……これ、無理っ!」
生まれて初めて絶頂の快楽がやっと引いたばかりの敏感な膣は、こんな中途半端な刺激からも身悶えるほどの快楽を拾ってしまう。
「大丈夫。まだ時間はあるから」
無理と言っているのは時間のことではないということを、彼はわかっているはずだ。
それなのに、刺激から逃れるために上げようとした私の腰を掴んで、彼の下半身にぐっと押し付ける。
「あうぅっ!」
自重に彼の腕の力も加わり、さらに奥まで貫かれた私は思わずのけ反った。
「無理! むりぃ! ベルナールさん!」
なんとか快楽を逃がそうと必死で首を振ったら、纏められていた髪が解けてしまった。
「ああ、いい眺めだな。時間ギリギリまでこうしていようか」
彼はというと、そんな私を眺めるのが愉しいらしく、碧の瞳を眇めて笑っている。
時間の感覚などとっくになくしてしまった私は慄いた。
こんなのを長時間続けられたら、どうにかなってしまう!
「や、お願い、もう……」
涙を流しながら、もう許してくれと訴えようとしたところで、馬車の車輪が小石かなにかに乗り上げたらしく、車体が大きくガタッと揺れた。
「ひあぁぁっ!」
不意打ちで奥をさらに強く抉られた私は、成すすべもなく再び絶頂へと昇りつめてしまった。
膣がぎゅうぎゅうと肉棒を締め付け、精を搾り取ろうと積極的に蠢いているのがわかる。
そして、彼はそんな私を、下から容赦なく突き上げ始めた。
まだ快楽の波にのみこまれている最中にさらに激しく責め立てられ、絶頂がいつまでも終わらない。
「は……あ……」
私はほとんど声も上げることができず、のけ反ったまま揺さぶられ続けた。
そのあたりで記憶が曖昧になっているが、たぶん二度目に精を注がれたあたりで完全に気を失ってしまったのだと思う。
せっかくだから魔法が解けるところも見たかったのに。
様々な幸運に恵まれた私だが、その点だけが残念だったと後年まで思うことになるのだった。
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