いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。

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第1話 恋の始まり

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レナンは恋をしている。

ここアドガルム国の王太子エリック=ウィズフォードにだ。

彼を知った時には、既に彼には婚約者がいた。

憧れている彼に、レナンはひっそりと眺めるだけの恋をする。

自分だけではない。

エリックは氷の王子と度々揶揄されている程、笑顔は硬く、その目も冷たく冷え切っていた。

しかしその人間離れした雰囲気が良いと、美しい顔立ちに見惚れる女性は多かった。

金髪翠眼、白い肌はきめ細かく、その双眸は切れ長で見るものを若干萎縮させる。

人形のように人間離れしたその美貌は、女性陣からの評判は良かった。

アカデミーに入学し同じクラスになった時は内心大喜びしていた。

遠くから、見つめ、憧れ、それで充分だと思った。

そもそも婚約者がいる人に手を出すなんて、貴族としてありえないのだから。








「あの、レナン様。内密でお話が……」
彼の従者、ニコラが放課後声を掛けに来た。

人気のないところに連れていかれ、そそっと何かを渡される。

「こちらの魔石を受け取ってほしいのです」

「魔石?」
見せられたのは手に納まる小さな魔石。

「このようなもの、ニコラ様から受け取れませんわ」

「こちら、僕からではなくエリック様からなのです。あなたに内密で渡して欲しいと」
ますます受け取れない!

「誤解されておられますが、こちらは観賞用ではなく、通信石となります」

「通信?」

「王家の秘術です。遠く離れた方と会話が出来るもの。特定の方との通信しかできないため、他の方は使えませんが」
レナンと会話したいという話だ。

「以前あなたは自己紹介の際に、他国の産業と貿易について興味があると話されていましたよね? いずれは留学してみたいと。語学も勉強中と聞きました。そこでエリック様は強い興味を持ち、あなたとそういう話をしてみたいとおっしゃったのです。しかしエリック様は婚約者のいる身分、いくらあなたと学術的な話がしたいと思っても周りの目が許しません」
そこで魔石を指し示した。

「なのでこの通信石を通してぜひエリック様にそのお知恵を貸して頂きたい。もちろん他言無用で。あなた様に迷惑がかかるといけませんからね」
改めて差し出され、レナンは考え込む。

急な申し出だし、受け取っていいものか。

「レナン様、念の為お聞きしますが婚約者様はいらっしゃいますか?」
婚約者がいるから遠慮されているのかと、尋ねられる。

「わたくしには婚約者がいませんわ。勉強ばかりで外見も磨かずに来たため、社交界デビューも父のエスコートでしたの。何度か婚約のお話はありましたが、ご覧の通り可愛げのない女ですので」
これからのパーティなどでいつまで父にエスコートしてもらえるか、心配だと話す。

いずれは誰かと結婚しなくてはいけないとわかっているが、相手がいない。

「もしよろしければ僕がエスコートを引き受けますよ。今後毎回お父上に頼むのも大変でしょうし」
もちろん通信石を受け取ってもらえるならばだが。

「婚約者が見つかるまでの間、あなたの盾になりましょう。他意はございません。僕も心に決めた人はいますので」
交換条件の一つです、とレナンに念を押す。

「あとこちらもレナン様と話すことで有益な話が出来ます。なので、もしも留学する際は国からの支援を約束します。レナン様なら貴重な人材となりますのでぜひ援助させてもらいたいのです」
どちらも魅力的なお話だが、戸惑いは拭えない。

「レナン様以外にも、有益な話が出来そうな方には声をかけています、重く受け止めず、交流のつもりで受け取ってもらえれば幸いです」
他の方にもという話を聞き、それなら誤解されずにすみそうだ。

それに自分だけ特別だなんて思う方が不遜だと、ようやくレナンは受け取った。

魔石は淡く光ると静かになる。

「これでレナン様以外にこの通信石は使えません。通信先はエリック様だけですので、会話は他にはもれません」
あとこちらを、とネックレスを渡された。

「万が一会話が聞かれたら困りますので、話す際はこちらに魔力を流してください。周りとの音が遮断され、盗み聞きなどを防ぐものです」

普段使いでもお守りになるためどうぞ、と渡される。

金鎖の先に小さな緑の魔石がついている。

制服の中にも隠せるし、目立たない。

「本日の夜、ノーヴェの刻にて通信させて頂きます。通信が来たら魔石が光りますので、魔力を流してください。お声だけなのであまり緊張なさらずに」
そう伝えるとペコペコと頭を下げながら、ニコラは足早に去っていった。

秘密の石に何だかドキドキしてしまう。

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