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第二幕~青年は翼を見る4
しおりを挟む―――マーディル暦2033年、08、14。
飲みすぎた。
そう思いながら口元を押さえる軍服の青年。
人の少ない商業区の町並みを歩き、彼はいつもの店を目指す。
午前中、この辺りは人の気配はまるでない。
昼時になれば賑わいを見せるが、それ以外は殆ど無人状態と言っても良い。
そのためかこの時間帯に軍人が通ることもほとんどない。
大体は工業区を見回るためだという。
だが、青年の任務はこの町の見回りではないため、そうする必要はない。
と、辿り着いた一角の店。
青年はノックもなしにドアを開けた。
今の時間は一応営業中となっているため、ドアに鍵は掛かっていない。
しかし、店内には店主の姿がなかった。
いつもならば暇であろうともドアベルが鳴れば直ぐに顔を見せるはず。
不審に思っていると、ようやく店主が姿を見せた。
が、大急ぎで駆け寄ってきた青年店主の様子はまるで帰りを待ち焦がれていた子供のようであった。
「ルイス! 遅かったじゃん!」
「すまんエスタ。飲みすぎて今の今まで寝てた」
しかし、店主―――エスタの様子は『会いたくて待っていた』というよりは、『どうすれば良いか判らず来るのを頼りにしていた』というようだった。
例えるならば部屋で害虫を見つけたからどうにかしてほしい、という混乱状態に近い。
そんなことを察しながらルイスは、頭を押さえつつ尋ねた。
「どうかしたのか、エスタ?」
「そ、それが…」
と、エスタは何故か彼と距離を置き、そして頬をかく。
謎の距離感に、ルイスは一瞬顔を顰めた。
「…あのさ…驚かないで聞いて欲しいんだ…」
「はいはい判ったって。で、なんだよ?」
エスタの尋常ではない動揺とは裏腹に、冷静でいるルイス。
というより、彼にとって尋常でないのは頭の痛みと胸やけ。
本当は今日此処へ来るのを躊躇ったほどであった。
「とりあえず来て!」
するとエスタはルイスの背を半ば強引に押して、部屋の奥へと通した。
店内の奥―――作業場兼キッチンの更に奥―――居間へとルイスを連れて行く。
そして辿り着いたルイスは、目の前の光景にこれでもかというほど驚愕した。
「なっ…ななななっんぐ―――」
ルイスの叫び声はエスタの両手によって塞がれた。
エスタへと振り返ったルイスは、大きくさせた瞳を見せながら両肩を掴んだ。
「な、なんで女の子がお前ん家の中にいるんだよ! つ、連れ込んだのか…?」
「ち、違うって! 昨日、煙突から突然落ちてきて…!」
ヒソヒソ声で話す二人。
そんな二人の目の前には、ソファーで眠る少女の姿。
それは、昨夜煙突から落ちてきた少女だった。
彼女は今毛布を被せられ、眠りについている。
相当疲れていたのだろうか。
昨夜倒れてから今まで、未だに目を覚ましていなかった。
それどころか、何処か苦しんでいる呻き声をたまに漏らすほど。
ルイスに事情を説明しようにも、エスタ自身も状況を飲み込めていない状態であった。
ルイスが信じてくれないのも無理は無い。
だが、驚くにはまだ早かった。
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