73 / 104
第六幕~青年は親友を信じた8
しおりを挟む「お嬢ちゃん、勘違いしているようだがな…俺らの目的ははなっからそこの青年だ。そいつは天使人格化まで至ってないお嬢ちゃんよりもヤバい奴なもんでな」
彼に説明されるまでもなく、ミラ―スもそれは実感していた。
反論が出来ず、彼女は沈黙し下唇を噛みしめる。
「確かに…養製天使の中にはトカゲの尻尾切りの如く、自らの翼や蹄を切り落として外見を誤魔化した奴らもいた」
だがそれはあくまでも一時しのぎの荒業であり、しばらく経てば自己治癒力の高い天使の力で、翼も蹄も自然と再生してしまう。
イグバーンはそう話しつつ、マッチを擦り、煙草に火をつける。
「だがな…そこの青年はそんな前例に全く当てはまらねえ。ずっと人間の姿のままだ。だからこそ、異例であり異常…ルイス君も判断に随分と苦労したようだ」
イグバーンの言葉に顔を顰め、俯くエスタ。
ミラ―スは思わずそんな彼へと視線を向けるが、エスタは視線を合わそうとしない。
それは彼だけではなく、ルイスも同じであった。
誰も、互いに目を合わそうとしない。出来ないでいる。
「じゃあ…どうして…エスタが、天使だって……」
するとイグバーンは待ってましたとばかりに口角を吊り上げる。
昨日、エスタにも見せたほくそ笑んだ、歪な笑顔。
「天使の誰もが引っかかるとっておきの呪文があるんだな、これが」
煙をまき散らしながら、自信満々に告げるイグバーン。
「―――ところで、お嬢ちゃんは自身の信仰する神をなんて呼ぶ?」
唐突の、意図の掴めない謎の質問。
警戒し、困惑しつつも、ミラ―スは自然に答え、その神の名を口にする。
「……黒鷹様」
「そう、それだ」
イグバーンはそう言って、煙草を掴む指先をミラ―スに向ける。
と、彼の質問の意図に気付いたエスタは青白い顔のまま、瞳を大きくさせた。
「まさ、か…」
「察したか青年。まあそうだよな、昨日も似たような質問を俺がしたから」
歪んで吊り上がる口角。
漂う独特の煙の匂い。
前日の匂いが、今と全く同様の光景が、エスタの脳内で蘇る。
「三神について聞かれて…赤猫様、白猿様、黒鷹様って答えた…でも、それだけで―――」
「それについては歴史的背景もあるわけだが…そもそも、邪神にご丁寧に『様』をつける奴はいねえんだよ、普通の『人』ならな」
しかし養製天使となった者たちは、例え人間の人格のままであっても。
邪神であると学んでいるはずの黒鷹を『様』付けしてしまっていた。
それは、『天使の灰』に刷り込まれていた黒鷹神への強い信仰心と言うべきか。
はたまた力を分け与えて貰ったがための無自覚の謝意か。
そして、天使となったが故の運命とも言えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる