僕と天使の終幕のはじまり、はじまり

緋島礼桜

文字の大きさ
88 / 104

第八幕~青年は絶望を味わった5

しおりを挟む







 最新兵器の威力は紛れもなく悍ましいものであったはずだった。
 先の内戦で建物を容易く崩壊するほどの破壊兵器を改良したものだ。
 人の身体など、容易く破壊できるはずだったのだ。
 ―――しかし。

「…以前の思念体はこの兵器に心底怯えていたようだが…こうもつまらないものだったとはな」

 黒煙から姿を現したエスタは、恐ろしいほどに無傷であった。
 かすり傷一つさえ、ついていなかったのだ。
 流石の事態に言葉を失う軍の者たち。
 それはイグバーンでさえ、同じだった。

「これならば私一人で、今直ぐにでも世界を終わらせることが出来るだろうな…!」

 エスタは自身の強さを確信したのか、更に勝ち誇った笑みを浮かべる。
 と、同時に。彼の言葉を聞いたイグバーンとトラストは目を見開いた。
 刹那の中で頭を回転させ、辿り着いた推測に二人は心を震わせる。
 
「……そういうことかよ、くそったれ…」

 人知れずそう洩らし、イグバーンはもう一度銃を撃ち込もうと弾を補充する。
 が、彼が銃口を向けるより先に、エスタが動いた。
 背中に翼の様な黒い光を帯びさせ、その輝きは彼を中心に包み込むようにゆっくりと取り囲んでいた兵たちや兵器を呑み込んでいく。

「な、なんだあの黒い光…!」
「こっちに来るぞ!」

 見たこともない禍々しい黒い輝き。
 それへと勇ましく呑み込まれる者もいれば、恐れ慄き逃れようとする者もいる。

「なんだこれはッ!!」
「動け、ない…!!」
「わからない、前も、後ろも…なんなんだ…!?」

 程なく、黒い光に取り込まれた者たちの悲鳴が、中から聞こえてきた。
 その叫び声が更に恐怖を駆り立てていく。
 ルイスはその光景を、呆然と静観している。

「あれは…逃げた方が良い…!」

 傍にいたトラストは知識と直感から脅威を感じ、ルイスの腕を引く。
 しかし、怪我人であるトラストとルイスは思うように動けず。
 そうこうとしている間にも黒い光は人の歩く速さでゆっくりと静かに近付いてくる。
 黒曜石のような、怪しくも魅惑的に輝くそれは、まるで誘っているかのようにも見えてしまう。
 無意識にルイスは手を伸ばそうとした。
 その向こう側に、エスタがいつもの笑顔で待っているような気がしたからだ。

「誰でもいい、じいさんとルイスを死ぬ気で守れ!!」
「はい!」

 と、光の向こう側から聞こえてきた叫びに、ルイスの手は止まる。
 次の瞬間、命令を聞いた優秀な部下たちが身を挺し、ルイスとトラストを投げ飛ばした。
 咄嗟の判断だったとはいえ、急に投げ飛ばされた二人は再度横転し、倒れ込んだ。

「―――いいか、最初で最後に信じてやるから…だから絶対にコイツを何とかしろッ!!」

 イグバーンの声だった。
 それを耳にしたルイスは横転するも直ぐに顔を上げた。

「将軍…!」

 次の瞬間。
 光はまるで霧が晴れるかのように、静かに収束し、消える。
 そして、光に呑み込まれていたはずの兵たちも、消えてしまっていた。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

処理中です...