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終幕~僕のはじまりはじまり3
しおりを挟むそれは、軍の命令に絶対背いてはいけないこと。
裏切りや背信の可能性があった場合は即座に拘束するということ。
そして手始めに未だ逃亡中である残りの養製天使を確実に処分すること。
まるで軍の手駒になるべく忠誠を誓えという要求であった。
「はは…手駒というより最早僕ですね」
「これの凶悪さを知る軍にしてみれば最大の譲歩ではあるだろうて。何せ首輪さえ掛けてくれれば良いと言っておるのだからな」
そう言うとトラストはおもむろにルイスへと深く頭を下げた。
「本当にすまないと思っておる……お主にこの重荷を背負わせてしまうこと、我らの運命を託してしまうことを…」
元より曲がっていた腰を、更にと折り曲げ謝罪するトラスト。
それを一瞥した後、ルイスは迷うことなく仮面を自分の顔へと被せた。
するとその面はまるで吸い付くようにルイスの顔に張り付く。
「俺は貴方を許しはしません。貴方の大罪を許せるほどの器じゃないので……ですが、感謝はしています」
視界が遮られたことにより、ルイスの景色は暗闇の世界へと一変する。
だが不思議なことに全く何も見えないわけではなく。
そこに何があるのか、何を触っているのかも、まるで見えているかの如く感じ取ることが出来た。
「これで予言が云う終焉のときまで生き続けることが出来る…これなら、何処かに隠れているだろうエスタをこの手で探すことが出来る……」
そう言いながらルイスはトラストの肩に触れた後、静かに踵を返した。
間もなく、その場に崩れ落ちる音と「すまない」と言う声が背後から聞こえてきた。
「儂もこの命続く限り、出来得る全ての手を貸そう…だから頼む、ルイス・ダーワンローゼ―――終焉の予言から世界を救ってくれ」
泣き崩れ、懇願する震えた声。
と、ルイスは足を止めた。
「アグオン将軍も随分と皮肉ぶった名をこの面に付けましたよね……これでもう、俺はルイスじゃいられなくなる。不自由な軍の僕になった」
そう言って苦笑を浮かべるルイス。
だが面で覆われてしまったその顔は、もう作った笑みも見せることは出来ない。
「…だから、今も上官である貴方が命令だろうが頼みであろうが、俺は何が何でもを果たさなければならない。予言は絶対に回避させる…」
しかし、彼は『世界を救う』などと言う大それた明言はしたくなかった。
自分がそんな事を言えるほどの偉人でも英雄でもなく、ただの『僕』に成り下がってしまったからだ。
だが、しかし。
そうしてまでも―――自分を殺してでも、軍の傀儡になってでも、彼には守りたい『約束』がある。
未来永劫、揺るがない決意がある。
「絶対に助けてやるからな…親友」
ルイスは人知れずそう言い、仮面の下で静かに微笑む。
と、彼は静かに歩き出し、暗がりの向こうへと消えて行く。
一寸先も見えない中を平然と進む。
『僕』となった彼の姿が再び光のもとへ現れるのは、それからまだ先のこと―――約百年後のこととなる。
長い長い、終焉へと続く物語が、こうして始まる。
さあ、『僕』と天使の終幕の、はじまりはじまり―――。
~完~
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