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~悔恨の手記2~
しおりを挟む話を戻そう。
私はたった一人の少年により、生まれて初めて窮地に陥った。
情けない事に腰が抜け、身動き一つ取れなくなったのだ。
相対する少年は幼い外見に似合わず、武人に近い気迫を放っていた。
私はここで命を落とすと覚悟し、神からの宿命を受け入れた。
はずだった。
気付けば目前の少年の面は割れていた。
果敢な一人の軍兵が、私の背後から隙を突き、その面を壊したのだ。
仮面の下の少年は、涙を流し、悲しみと苦しみで歪んだ顔をしていた。
「もう良いだろ? 楽になれよ」と言う軍兵の言葉に、彼は小さく頷くだけだった。
少年の顔付きは、憑き物が取れたかの如く晴れやかなものとなった。
そして次の瞬間、少年の身体は灰塵となって消えていった。
まるで白昼夢のような、化かされたかのような事態。
私は暫く考えが追いつかなかった。
だが一つ確かなことは、不老不死の少年により私たちは生存者たった二名という大惨劇に遭ってしまったということだ。
この真相は直ぐに軍により隠ぺい、改変された。
ただでさえ不老不死という事実は驚愕であるのに、その一人の少年により軍が壊滅状態に陥った等と、口外出来るはずもなく無理もない。
同時に数少ない目撃者である私と新兵だった青年は、ある選択を迫られた。
『この事実を忘れてくれるのであれば、安寧の地位を約束する』というものだった。
それは、呑まなければ間違いなく処断される選択権のない選択であった。
こうして私とその青年は、望まぬまま適当な理由で中将の地位を与えられた。
最終的にこの内戦は、旧国家が追い詰められ淘汰され終幕となった。
その直前に彼らはとある実験に手を出そうとして失敗したらしく、それが決め手となった。
新たな面を生成しようとしたのか、はたまた別の兵器を造り出そうとしたのか。
それについては定かではない。
この大戦により、私は将軍の地位を得る同時に、知りたくもなかった数多くの事実を知ってしまった。
だがそれは自分の宿命として受け入れた。
誰に語る事もなく、あの日見た悍ましい事実と少年の涙は墓場まで持って行こうと誓った。
それは新兵から大出世した青年も同様であった。
この戦で随分と精神を病んで捻くれてしまったようだが、根は真面目な男だ。
私と同じく、胸の内に生涯しまうつもりでいたようだった。
しかし、我らの宿命はそれで終わりはしなかった。
この後、予言者の神子が突然命を落とした。
彼女は不吉な予言を残した。
『天使の再誕により、百年後に世界は終わる』という―――我らが密かに『落日の予言』と呼ぶものだ。
信じたくはなかったが、神子の予言は外れたことがなかった。
だが予言は完璧ではないとも、彼女は言い残した。
それはつまり、この予言は覆すことが出来る。というものだった。
軍は当然その予言は公言せず。
事実を知る我らに予言を回避すべく動けと、丸投げに近い命を出した。
私は何をどうするべきかもわからぬまま、先ずは天使について知るべきと、ありとあらゆる書物を読み漁り、調べた。
そこで私は知ってしまった。
『天使と人の争乱』について、人々も知らない真実の歴史を。
天使は元来、自由自在に肉体を消し、姿を現すことが出来たのだ。
だからそれを恐れ■■■■は■■■を■で■■■、■■■した。
だからこそ天使は人を呪うのだ。
このことばかりはここに書き残すことさえ躊躇われるため、伏せることとする。
結局、私は天使自体について何も知らなかった。
何もわかってはいなかったと思い知らされた。
天使についてもっと知る必要があると、私は思った。
同時期、軍の上層部から命が下った。
かつて旧国家が作成していたあの不老不死の面を造り出せ、と。
直ぐに私は察した。
仮に作成方法を知り得たとしても、灰である『天使の呪い』自体に限りがある。
彼らは旧国家がした事と同じように、選ばれた者だけを不老不死と化し、終焉の予言を回避しようとしているのだ。
余りの愚考に言葉もない。
だが、私はよもや軍に逆らうことも出来ない僕だ。
せめてもの対抗ではないが、違う回避方法も探し続けることにした。
そうして私が辿り着いた結論は、余りにも非道なものだった。
それが『養製天使計画』だった。
『天使の呪い』が人の肉体や理を改変してしまうことは、先の内戦の件で知っていた。
だから私は少量の『天使の呪い』を被験者に投与し、疑似的な天使を造り出した。
表向きは『天使』について調査するための研究と実験。
しかしその裏では養製天使化した被験者の肉体を利用し、新たな『天使の呪い』を生み出す。
恐ろしい再生機能を持つ彼奴らだからこそ可能だろうと言う、とても悍ましい計画を考えてしまった。
予言回避のため、人の世のためという大義を言い訳にした、大罪以外の何ものでもないと今は後悔している。
更に私は、この計画の欠点に気付かず、大罪を重ね続ける。
それは疑似天使―――養製天使の危険性を軽んじて考えていたこと。
そのせいで私は私自身の手で予言の『終焉』を生み出してしまった。
そしてもう一つ、唯一残っていた不老不死の面…『檻猿籠鳥の面』と私の背負うべき重い責務を未だ若き彼に託してしまったということだ。
これが決して許されぬ、そして語れぬ私が犯した大罪だ。
これを最後まで読んだ者よ。
その覚悟に敬意を表して記したい。
どうか私を許さないでくれ、罵ってくれ。
そして、予言が回避されたその未来があるならば、書き残して欲しい。
貴殿が叶わずとも、後世の誰かが継ぐように書き記して欲しい。
我らの間違えた過去が、もう二度と繰り返されぬように。
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