下っ端から始まる創造神

夏菜しの

文字の大きさ
6 / 44

06:異世界召喚の裏事情

しおりを挟む
 いつも通り世界を管理していると、下二位にして第八位『大』の四姉さまが転移していらした。一切の揺らぎがなかった二姉さまの転移に比べて大変お粗末で、揺らぎまくり。なんなら転移前に、来るのが判るほど。
 いや人の事は言えない。わたしの転移もまだまだ精進せねば。

「お久しぶりです。大姉さま、どうされました?」
 心の中は四姉さま、しかし口に出すのは『大』姉さまだ。言い間違えるとめんど……じゃなくて、機嫌が大変悪くなる。三姉さまらと違って、まだ階位が低いから心に余裕が無いのだと思う。

 そんな四姉さまの神力は手が届きそうで、だが絶対に届かない位置にある。
 五つの世界を経験したわたしの神力はまだ一万には届いていない。あと三つ、いや二つで届くのだが、きっとそれよりはまだまだ高い。
 二姉さまや三姉さまに比べれば矮小だった四姉さまも、同じ土俵に入ってみると実はすごく遠い存在だと改めて思い知らされた。

「新たに神格を得て、世界を創造したんですってね。
 普通より早いのはあーしの指導のお陰よね?」
「大姉さまには大変感謝しております」
 計算間違いで気候変動起こしたり、術式の維持に失敗して流星が落ちたりとまあ、やらかすことやらかすこと。
 そんな四姉さまを表すにふさわしい言葉はきっと〝うかつ〟に違いないわ。
 ちなみに四姉さまもわたしと同じくまだ確定した神性は発現していない。けれど三姉さまの鑑定によれば〝戦〟方向に傾きつつあるらしい。
 〝火〟やら〝戦〟ってのはつまるところ脳筋である。
 脳筋……
 二姉さまからこっち、脳筋→繊細→脳筋→繊細と、交互に続くのは果たして偶然だろうか。

 ところで。うかつな行動による世界の破滅危機よりも、比較実験とかの方が邪神認定されるのってどうよ?


「ねえ。その貸し・・少しばかり返して欲しいんだけど?」
 貸しと来ましたか。
 四姉さまのうかつから起きた事変は、研修時の体験としては多彩にして難問でした。そういう意味では良い経験をさせていただいたとは思っていますが。
 ソウデスカ、貸しでしたか。
 むしろこっちが貸してる気分でしたよ……
「返すと言われましても、わたしは見ての通り神になりたてのド新米ですよ。大姉さまにお返しできるようなことは何もないかと思います」
「ああ大丈夫、大丈夫。ちょっとバグ処理でミスっちゃってさ。巻き添えになった子をそっちで引き取って欲しいのよ。
 どう簡単でしょ?」
「引き取る、ですか?」
 うわぁい、厄介ごとの香りしかしないわー

「ウチの天使の監視が甘くてねーバグの発見が遅れたのよ。
 で、処理したらボン! いやーびっくりしたわー」

 そうか四姉さまは天使の監視を使ってるんだ。
 天使とは自分が楽をするためのシステムの一つで、神力を一部消費して創るロボットのような存在だ。
 創ったときの設定そのままに忠実に作業をするので、創るときに細かく設定すれば、それはもう優秀であるが、設定が荒ければどれだけ神力を注ごうが無能。
 つまりうかつで雑な四姉さまとはことごとく相性が悪い。
 逆に細かい性格のわたしとは相性が良いのだけど、まだ管理世界が少ないし、それを設定する手間を思えば自分で視る方が楽なので創らないヤツ。

 それを知ってか知らずか、「天使はやっぱダメねー」とぼやく四姉さまに、ダメなのはあなたですとは言えない。

「まっバグの方は解決したんだけどー
 巻き込まれて死んだ可哀そうな子が居てさー、そっちに転生して欲しいんだけど。もちろんいいわよね」
 断られると思っていないのだろう、問いのはずなのに、四姉さまの語尾にははてなマークは無かった。


 異世界の○○。
 ある世界で死に、異世界へ転移、もしくは転生するボーナスゲーム的な状態をいう。○○には大抵〝勇者〟や〝聖女〟と言う言葉が入る。

 一連の流れはこんな感じだ。
 1)元の世界で死んだAに、異世界で生まれ変わる選択があることが伝えられる
 2)この時現れる神は、現地神の場合と異世界神の場合の2パターンが存在する
 3)Aは承諾し、大抵チート能力もしくは装備を手に入れて、異世界でやり直す

 ちなみにこれ、受け入れ側である異世界神。つまりわたしには全く利益がない。なんなら負担の方が多かったりする。
 なぜか?
 判りやすく2)に固有名を入れて解説してみよう。

 2)この時現れる神は、四姉さま(現地神バージョン)と四姉さま(異世界神バージョン)の2パターンが存在する

 要するにAの感謝や信仰は、すべて、わたしではなく四姉さまに向かうのだ。
 さらに言うと、Aチートを与えるのは四姉さまで、四姉さまはより感謝されるためにチート能力を多分に与えることだろう。それこそ世界のバランスなど無視した力を!

 阻止したい。
 しかし悲しいかな、この脳筋は第九位『無』わたしより格上。彼女が与えられる能力はわたしより強い・・

 さすがに本気出せば排除できるだろう。
 でもそれをやると、四姉さまに向かう【信仰】が途絶えるので、始末したのがバレる。やって来た異世界人はお客様、ながーく快適に生きて貰うのが鉄則だ。

 だが強い能力を持ったAが長くわたしの世界で生きるということはとても不味い。
 世界統一されたり、その余波で種族が滅んだり、脅威設定した魔物がすべて討伐されたりと、正直リスクしかない。
 やってらんない、断りてー!

「うち、魔王とかいませんよ」
「創りなさいよ」
「わたしは生まれたての『無』ですよ。神力にそんな余裕はありません」
 コマンド『逃げ出す』を発動。
 六つ目の世界を創っておいて、生まれたてはやや苦しいけれど気にしない。

「5上げるわ、それで創って」
 しかし回り込まれてしまった。
 魔王からは逃げられない!

 確かに神力5があれば魔王は余裕で創れるだろう。と言うか500ぽっちの世界で1%に当たる神力5も使ったら魔王倒せませんけど?
 なに考えてるんですかね、この脳筋。


「判りました魔王はうちの世界にあった強さで創ります。
 そしてそちらにも制約をお願いします。
 まず不老不死は駄目です。あと装備も出来ればやめてください。もしどうしてもって言うなら、使ったら片づけるを徹底してください。本人のみ使用可。間違っても子々孫々に語り継げるようなものは却下ですよ」
「はいはい判ってるって、心配性ねぇ」
 いいえ心配はしてませんよ、一切信頼してないだけです。
 この脳筋、そういう細かい術式苦手だったもん。絶対に消えずに残るやつですわー
 魔改造された神器が残ったら大惨事。絶対に回収しないと!
 かくなる上は降臨して付いていくしかないか……

「ああそうそう。弱めの魔王創るんでしょ。残りは返しなさいよ」
「今回の件、三姉さまに相だ「チッ少ないけどご祝儀に上げるわ」」
 ほんとに少ないですわー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...