下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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07:異世界の勇者

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 北の空が突如、暗雲に覆われた。
 それが始まりだったのだろう、魔物たちの動きが変わる。野生的であった奴らは知恵を使い始め、逃げる待ち伏せる、集団で襲うなどの行動をとるようになった。

 魔王と名乗る存在が認識されたのはそこからさらに五十年後。
 魔王は悪魔族を名乗る強大な部隊を連れていた。魔王は悪魔族を、悪魔族は魔物を統率すると人の国に襲い掛かった。
 ただの魔物から知恵をつけた魔物に苦戦していた人類たち。悪魔族はそれらを率い効果的に戦うのだから勝てるわけがない。
 みるみるうちに北部の大半が奪われ、蹂躙されていった。
 魔王の軍勢はさらに南下を続けている。このまま滅ぶしかないのかと人々は神に祈りをささげた。

 ある日。天から光が堕ちてきた。
 光は大陸の左右を横断し、北部と南部との間に広く深い断崖を刻んだ。

 大陸を真横に走り抜けた光が再び集まり始め、人の姿を象った。
 表情は朧気で見えないが、そのシルエットは柔らかい。きっと女神であろう。
 その想像通り、天より女性の声が聞こえてきた。

【我が愛しの子らよ。わたしはこれより異世界より勇者を召喚する儀式に入ります】

【しかし異世界は遠い。ここに勇者が召喚されるには数百年もの刻がかかるやもしれません】

【愛しき子らよ勇者を待ちなさい。それまでは研鑽を。己を磨きやがて現れる勇者の助けとなるのです】

【頼みましたよ】

 人々は天を、光の女神を仰いだ。
 我らも恥じぬ力をつけます! ですから勇者をお願いします! と。


 えーと。
 魔王に神力1と新種族の悪魔族に1、断崖が1で降臨も1っと。
 仰々しく降臨して断崖を創ったお陰で【信仰】は爆上がりしたし、試算によると+20は固いっぽい。







 女神の降臨はもう三百年も前のことだ。
 勇者なんて現れないのではないかと思い始めていたころ、大陸でもっとも大きな国の王城に光の柱が堕ちてきて、勇者が現れた。

 さて仕上げです。
 残りの1を使って依り代〝聖女ちゃん〟を準備しておきました。わたしが入れるような器は一朝一夕では創れません。三百年前から、この瞬間に大国の王女として生を受けるように仕込んでおいたのです。
 あとはわたしが聖女ちゃんに入り、勇者を監視じゃなくて、同行して気持ちよく魔王退治して頂く。のちは聖女と結婚して国王でフィニッシュです。

 完璧!

 そう思っていたのだが、光の中から現れた勇者はなんと三人だった。
 は? えっ三人!?

「おぉぉ、ついに、ついに! 勇者様が降臨なさったぞ!!」
 人の国は湧いた。


 三人ってなに?
 四姉さま、バグ処理失敗して三人も巻き込んだの? いつもの〝うかつ〟が発動したのかな?
 なにしてんすか四姉さま。ダメでしょ三人も異世界に送っちゃ……

「ただいまー、そっち送っといたわよ」
「大姉さま、三人なんて聞いてませんけど!? 何ですかあれ」

 人数を聞かなかったわたしが悪い?
 いやいや三人も巻き込んだ四姉さまに言われたくねーですよ!
 さっきも言いましたが、わたしは〝聖女ちゃん〟の仕込みをするのに三百年もかけたんですよ!?
 準備した〝聖女ちゃんおよめこうほ〟は一人きりです、他の二人の処遇はどうしたらいいんですか。

「重婚でいいっしょ」
「ひとりの女に男三人って、重婚は別に良いですけど、それ回収できる【信仰】減りますよ? わたしの所為にしないでくださいね」
「ぐっ……
 しょーが無いわね」

 あ、神力を追加で2頂ける?
 了解です。
 彼らの好みを視ておいてください。旅の仲間にそれとなく入るように、有望な女性を見繕いましょう。
 大丈夫かって?
 その手の作業は得意なのでお任せを。
 どうやるのか、ですか。
 彼らの好みの女性に神託入れて能力UPするだけですよ。だからほら、好みのタイプをさっさと視てきてください。


 ふむふむ。一人はハーレム希望ですね。
 良いですね、こういう分かりやすい子は大好きです。魔王討伐後は地位と名誉とお金を上げるので、ハーレム野郎はこれで解決ですね。

 してもう一人は?
 ハァ熟女? 無知系か慣れてない恥じらい系が良いと。
 変態さんですか!? 寿命が短い早熟な世界でそんなのいるわけないでしょう!?
 せめてロリータだったら今から仕込めたのに!

「そーお? 行かず後家みたいな貴族の娘とかいそーじゃん」
 ふむ……確かに身分の違いで雁字搦めになって、婚姻先が行方不明な行き遅れの貴族娘は居そうな気がします。
 ただ検索してみますけど、顔と性格は選べませんからね。
 神力注入って、ダメに決まってるでしょう。
 変更するのは得意じゃないのか? じゃなくて! 外見や周知されている性格なんかを改変すると高確率でバグを発生させますよ!
 四姉さま、そこでへぇ~って感心するのおかしくないですか?

 まさか……あっ逃げた!







 ノーマル君はバランスタイプでしたが、ハーレム君は魔法特化、熟女好き君は物理特化のようです。
 ぶっちゃけどうでもいいです。
 だってバランスタイプのノーマル君の攻撃でさえ、悪魔族は一撃で消し飛ぶんですから。まさにオーバーキルです。
 あーハーレム君? 調子に乗って最大威力の魔法を使わないようにお願いします。ほら地形変わっちゃったじゃないですか。
 ハァ……四姉さま、あなたどれだけの加護与えたんですか?
 他人ひとの世界だと思って適当にやり過ぎですよ!

 敵が弱いことで男どもが図に乗り始め、だんだん我儘になってきました。
 魔王を倒すには聖剣が必要ですと、仕込みの者が伝えます。しかし彼らは自分の力を過信して無視して進んでいきます。
 三度、聖剣の必要性を説きました。なんと三度目は聖女わたし自らがです。

 ……1。
 ……2。
 ……ブチッ!
 決めた。ノーマル君改め、我儘男と呼びましょう。

 最近では三人とも聖女わたしの言うことを聞かなくなりました。
 聖女ちゃん、大国の姫君ですよ? 正気ですか? そんな不遜な態度をとって本当に良いと思っているんでしょうか。

 途中、嫌がらせに潜ませておいた、魔法無効の悪魔にハーレム君がやられ、物理無効の悪魔に熟女君がやられたのはスカッとしました。
 大丈夫死んではいません。
 聖女わたしが同行しているのですから、生かさず殺さず、良い具合にへし折って差し上げただけ。
 折れて従順になった二人と我儘君で魔王へ向かいます。
 ここで最後の仕込み発動。
 四姉さまへの意趣返しで、魔王には〝聖〟属性しか効きません。なお〝聖〟属性には聖剣も含まれます。だから三度も必要だと説得したのですが、彼らはそれを持たずにここに来てしまいました。
 殴っても殴っても微動だにしない魔王に、我儘男もついに折れました。
 ついに、ついに! あっはっはーわたしはその姿が見たかったのです!
 もういいかなと、最後は聖女わたしが美味しく頂きました。わたしの依り代は聖女、もちろん〝聖〟属性です。

 魔王撃破!
 わたしはやり遂げました!


 おや勇者になりそこなった男たちが何かを言っています。
 はい、なんでしょう?
『魔王を倒したから元の世界に帰りたい』ですか?
 無理ですよ。
 こちらに来るときに会った女神様よんねえさまがそう言ってましたよね。聞いてなかったんですか?
『そこをなんとか』と言われましても、わたしと一緒に神に祈ってみますか?
 とっくに帰った四姉さまに届くと良いですね!
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