下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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08:神性を得る

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 第六世界もついに終了した。
 心をへし折った後の彼らは大変従順で、教会に入り浸り、神に祈る敬虔な使徒になっていた。
 実に惜しい。
 何がって。
 彼らが祈りを捧げる神は、異世界に送った女神なので、その【信仰】の向き先はわたしではなく、四姉さま。惜しい以外の言葉はない。
 まあ彼らの着地点は違ったけれど、【信仰】の回収量としては試算の二割増しだったから、四姉さまに文句はないだろう。

 三姉さまに提出する終焉の報告にも、四姉さまの横やりはきっちり書いておく。
 口止めに神力貰っておいて酷いと言うなかれ。
 それはそれ、これはこれだ。

 どう書くと効果的かなぁと頭を悩ませていると、二姉さまが現れた。
 四姉さまなら来るぞと判るほどの揺らぎがあるのだが、二姉さまのは、転移後に声を掛けられるまで気づかないほど揺らぎが無いから怖い。

「やっ。久しぶり~」
「お久しぶりです二姉さま。今日はどうされましたか?」
「ちょ~っと付き合ってくれるかな?」
 疑問文だったはずなのに、わたしはまたも二姉さまの転移に巻き込まれて別の空間に立っていた。

 重い空気。圧倒的な存在感。
 はい知ってる。ここは一姉さまの部屋だ。
 その証拠に瞳を閉じた薄い金髪の乙女がこっち視てる・・・もん。

「お久しぶりです一姉さま」
「『権』に聞いたわ。『無』は闇の神性を発現しているのですって?」
 闇の対、光の神性を持つ一姉さまの言葉はやや重い気がした。
 『私の妹のくせに闇なんて恥ずかしいわ』とか、『闇だけなんて恥ずかしくないの』とか、……一姉さまが言うわけないか。

「はい……」
「気に病むことはないわ。それが『無』の味なのでしょう」
「でも邪神呼ばわりされるのは嫌です」
 光の神の、かなーり遠いけど、妹が邪神って駄目でしょう。恥ずかしすぎる。

「光なく闇を得る場合、だったかしら。光はそうね、変わらずないようだけど、聖が少々混じっているようよ。良かったわね」
 聖なんて聖女ちゃんに入って魔王を聖魔法でしばいた覚えしかない。となると四姉さまのお陰になり、素直にお礼を言いたくないヤツだ。
「へえ~聖って珍しいやつじゃんっ」
 光なく闇だけなら邪神と言われているのは、二姉さまの言う通り、聖の神性が大変珍しいから。正しくは『光もしくは聖なく闇だけならば』だ。
 そんな珍しい聖が少しでもあると言われると気分が良くなるし軽くなる。
 だって邪神じゃないもん!

「聖ですか、えへへ」
「あと私の見立てだと『無』に闇はないわ」
「えっそうなんですか?」
 あら三姉さまったらうっかりさん。わたしの神性間違えてますよ。

「『無』は闇ではなくさらに上、つまり常闇ね。
 そして現在は常闇9:その他1で、その他の内訳は金運8:水1:聖1よ」
 聖すくなっ!? いやその前に常闇ってなに?
「あっちゃ~ほぼ闇だねっ」
「闇じゃなくて常闇? ですよ……」
「珍しい神性だから知らないのも無理はないわ。常闇は闇と闇の二重掛けか、闇と夜の複合よ。
 そんな『無』にひとつ、提案があるのだけど聞く気はあるかしら」
「ぜひお願いします!」
 わたしは一姉さまに付いていくと決めている、そんなの即答だ!


 神性の中には、ある特定の条件を満たした場合にだけ発現する、複合と呼ばれるものが存在している。
 有名どころだと、女神かつ美と純潔など必要な〝処女〟とか、炎と技巧の〝鍛冶〟などだろうか。そう言えば四姉さまが発現しつつある〝戦〟も火と何かの複合だったっけ。
 かく言うわたしも〝商業〟がリーチで、話術があれば金運とセットで発現するのだけど、発現しても闇が強すぎてきっと消滅するだろう。
 お前には闇闇か闇夜の〝常闇〟があるって? そんなの知らないですー


「新たに死の神性を得なさい」
「い、一姉さま、闇と死ってまさに邪神そのものじゃあないですか」
 それとも常闇と死なら違うとでも?
「闇と死だけならそうね。でも『無』には聖があるでしょう。きっと大丈夫よ」
 ほんとですか? 信じますからね!?



 一姉さまより死の神性を得るための策を頂いたので、今回の世界はそれを踏まえて創ります。
 テーマは地獄。
 今回の世界は死んでからが本番。死んだあと死後の世界であくせく働き、輪廻転生の流れに乗る。
 ちゃんと働けば、来世は良い生活ができ、サボれば大変。
 これを聞けば誰でもちゃんと働くだろうが、その設定は死者には知らせないので、彼らは死後の世界で理不尽に働かされているだけだと思っている。

 なお続ければ続けるほど、魂が真面目な者はより裕福になり、魂が不真面目な者はどんどん貧困化していった。
 このままでは面白味が無い。
 糸を天よりたらして、魂の救済を行ってみた。
 しかし救われたのは一回きり、次に戻ってきたときにはやっぱり不真面目な魂は貧困へと進んだ。
 どうやっても面白味のない世界もやがては終焉を迎える。


 収支は過去最低。辛うじて黒字だけど聞いて欲しくないレベル。
 しかし一姉さまの目論見通り、わたしは無事、死の神性を手に入れたらしい。
 らしいと言うのは、得たはずの死の神性はすでに常闇と聖と結合されて、もう存在していなかったから。

「あら『無』の神性が固定されているわね。
 『大』より早いなんて驚きだわ」
「えっわたし、何になったんですか!?」
「安心して〝闇〟でも〝常闇〟でもないわ。『無』の神性は〝月〟よ。
 一姉さまのご助力に感謝なさい」

 闇か夜に加えて聖と死の三つを司り、さらに女神であることで月の神性を得られる。
 光になりがちで発現しにくい聖の神性が珍しく、その上で光や聖と相性が悪い闇と死を得なければならないから、珍しさでは群を抜く。
 複合の〝月〟を得た際にそれに含まれる神性はまとまって消えている。しかししっかり内封はされているそうで、わたしの月には【月・常闇・聖・死】の権能があった。
 普通は闇か夜なので、常闇を持つわたしはほかの月に比べて闇が深い……ってうるさいわ!
 さて手に入れた権能は、持ち主なら容易に理解できる。まず月の権能は月と夜の複合で、常闇の方は闇と闇のダブル複合だった……
 わたしの闇が多かったわけではなく、月に夜を喰われたのだろうと想像している。


 三姉さまに告げられた後、ゆっくりと変化が始まった。神性を得たことで不明瞭だった風体がそれに準じた姿に変わるのだ。

 闇に引っ張られて黒系統だった髪色は正式に夜闇のような黒へと変わり、青く輝く銀のインナーカラーが入った。月といえば銀髪だと記憶していたが、わたしはどうやら闇が強すぎたらしい。髪の質はサラサラのストレート。腰にぎりぎり届かない程度まで伸びてやっと落ち着いた。
 血のように深い赤の瞳は死を、日焼けなど一切ない真っ白な肌は夜を通り越してもはや死を感じさせるレベル。
 唯一夜っぽいのは煽情的な黒のナイトドレスだろうか。おおよそ神と言うより小悪魔のようであるが、月の女神だと聞けば、「ああ」と誰もが納得してくれる。はず!
 神が持つ光や白のイメージとはまさに対局、月の神。それがわたし。


「さ、三姉さま~」
「あのねぇ『月』、先触れを忘れているわよ。何度言ったら……」
「ごめんなさいすみません、でも今はそれどころじゃあありません!」
「それどころってあなたねぇ……
 それで? 一応聞いてあげるわ、言ってみなさい」
「この姿を見てください。どう思いますか!?」
「ああ安定したのね。
 全身ほぼ黒だけど髪に入った銀色のインナーカラーは綺麗よ」
「さすが三姉さまですね、まさにそこです!
 わたしの聖属性、たったこれだけなんですよ!? 月ってもっと聖なるイメージありませんか!?」
「『無』時代の行いを見るにそんなもんじゃない? むしろ多く出たと思うわよ」
 前髪のひと房だけが銀髪になるかと思ってたって酷くない!?
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