下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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10:兄貴

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 なんでここに来たの、わたし?

 悩んでいたら兄貴が説明してくれた。ポージングを取りながら。
「いまいる神で〝太陽〟は俺だけだ」(ポージングが変わった)
「そして〝月〟は『月』おまえが三人目だ」(ポージングが変わった)

 ううっ気が散る。

「〝太陽〟が発現すれば対の〝月〟と会うのが慣例だ。逆も同じだと思え」(ポージングが変わった)
「つまりそういうこと、ダー!」(最後ぐぐぐとポージングが変わった)
 わたしが〝月〟になったから対の〝太陽〟に会いに来たってことらしい。
 簡単な話で良かった、何とか理解できたよ。

「他の〝月〟には会わなくていいんでしょうか?」
「やめておけ」
 それはこっちの台詞だ。
 しかつめらしい顔でポージングは夢にみそうなのでやめて欲しい。

「二人いる〝月〟のうち一人は『座』でもう一人はそれの妹で『主』よ」
「『座』って一姉さまと同じ……」
「そうだ。〝月〟が増えたお陰で相対的にあちらの『座』の神格が落ちた。お前の姉はまんまと『座』の主格にあがったのさ」

 わたしは生まれたての〝月〟だけど、月の神性は二つから三つになったし、本来彼女らに回るはずだった依頼だって、ほんの一部だろうけれど、わたしに回ってくるようになった。
 依頼の報酬は神力。
 つまり少ないながらも神力の流れが変わったということ。
 相手は減り、わたしが増える。
 減るだけでも効果はあっただろうが、わたしが一姉さまの眷属なのが大きい。わたしが増えるということは、一姉さまが増えたと言っても過言ではない。

 利用されたとは思うまい。むしろ、
「一姉さまのお役に立てたようで良かったです」
「私も良い妹を持ったわ」


 一姉さまはわたしを置いて帰っていった。
 まさかおいて行かれるとは思わなかった。酷いよ一姉さま……
 まぁ兄貴から「『座』はもう帰っていいぞ」と直接言われてしまえば、拒否できる訳ないんですけどね。

「わたしにまだ何か?」
「依頼だ、月でなにか創ってくれ」
「お言葉ですが第九位『無』のわたしで良いんですか?」
 一人は『座』でもう一人は『主』、言い換えると、一姉さまと同格と二姉さまより上の人たちな訳で、わたしなんてゴミでしょ。
「あいつらには何度も頼んでいる。だからかな、どんなものが創られるのか判っている。それに主従関係なのもよくない。似た物しか出してこない。
 そこでお前だ。俺が驚く珍しいのを頼むぞ」

 なんという無茶ぶり。
 しかし拒否する台詞や質問を投げる先はすでになく、知らぬ間に強制転移されていたようで、わたしはわたしの部屋に立っていた。
 一姉さまの転移も凄いけど、兄貴の転移もヤベぇやつだった。



 無茶ぶり依頼を片付けないと、気になって他ごとに手がつかない。世界の監視をお手製の天使に任せて、真剣に考えることにした。

 さて月の権能は【月・闇・死・聖】を合わせ持っている。わたしは普通の月じゃないので闇は常闇だけどね。
 聖なる死、意味が解らん。闇なる聖も意味が解らん。
 ダメだ。
 月の権能を使用した経験が圧倒的に足りない。
 せめて月の先輩方が、どんな【機能】を創っていたのか判ると、とっかかりになるんだけどなー

 兄貴の依頼だけど発端は一姉さま、広く捉えればつまりこれは一姉さまの案件だ。
 いや一姉さまに聞くのは怖、じゃなくて恐れ多いでしょ。

「それでわたくしのところに来たと? 『月』って大概失礼ね」
 困ったときの三姉さま、感謝してます。
「一姉さまよりも上位の神『智』の兄貴案件です。ぜひともご助力をお願いします」
「わたくし智神なんてお会いしたことないんだけど……」
「会わないで済むならわたしもそうしたかったです」
「でもさ。智神って〝太陽〟なんでしょう。どんな方だった? やっぱり格好いいのかしら」
 うわぁ答えにくい質問きたわー

「まさしく太陽の権化のような方でした。見る人がみれば恰好いいと思いますが、恐れ多くてわたしには無理です」
 超暑苦しかったしね。
 筋肉大好きな二姉さまならワンチャン?
 それを聞き「へぇ」と頬を赤らめる三姉さま。実際に見たら、三姉さまなら100%青ざめることでしょう。


「うーんそうね。一般的な神性だと出来ることが限られているから、迷うことはないわ。複合でも少し珍しい程度ならどこかしこから情報が回ってくるわね。
 かく言うわたくしも他の〝大地〟が創った【機能】にはアンテナを張って常に把握しているわよ」
 地味な〝大地〟だけど三姉さまのは【大地・地・豊穣】の複合。全く同じ権能持ちの大地は稀だが、大地だけで見ればぼちぼち居る。そう言えば二姉さまの〝炎〟も【火・風】か【火・火】の複合だっけ。まだ発現してないけれど四姉さまの〝戦〟も複合と言えば複合だし、一姉さまの眷属って複合多いのかしら?
 もしかして戦力UPの為に集めてたりして。

「兄貴曰く月はわたしで三人目だそうです。
 お一人は一姉さまのライバルで『座』、もう一人はその方の眷属で『主』だそうですよ。今回わたしが月の神性を得たことであちらの派閥の力がぐんっと下がったとか……」
 直接会って聞けるのが一番だが、会いに行けば鴨ネギのごとく扱われるだろうし、ライバルサイドってのを差っ引いても相手は第三位と第四位。創る【機能】のレベルは遥か上で『無』のわたしが再現できるとは到底思えない。
 なんせ権能抜きで同じ【機能】を創ったならば、わたしは三姉さまにも遠く及ばないのだから。

「派閥違いで、相手は遥か上。きっとなんの参考にもならないわね。
 一応わたくしの方で少し探ってみるけど、そこまで格上となると流石に期待しないでね」
「ありがとうございます。
 もし判っても答えは後で教えてください」
「あら後でいいの?」
 相手の創っているものを知り、同じものを創っても兄貴を失望させるだけ。さらに言えば知ってしまったことで考えが凝り固まるよりも、いまのわたしのままの方がいい。

「ええ。後で良いです。
 それよりも参考までに、大地について教えてください」
「わたくしの場合は豊穣も兼ねるから、生命の権能を使った新しい品種の草木は喜ばれるわね」
 そう言えば豊穣がそもそも草と土の複合だったっけ。二段階複合って、三姉さま実はすごい人なんじゃあ?
 常闇持ちの月は忘れる方向でお願いしたい……

「鉱石は使わないんですか?」
「それは地で足りるから大地とは呼べないわ。
 大地単体だと火山に地震、変わり種だとダンジョンなんてのもあるわね」
 なるほどそう言うことか。
「なんとなく分かりました。ありがとうございました!」
「そう? 頑張ってね。上手くできたらわたくしにもお願いするわ」
 いつも三姉さまは優しいわー



 何とか【機能】を創り上げ、再び威圧感バリバリの兄貴の部屋に来ていた。
「早速見せて貰おう」

 一つ目、銀色の金属。聖なる力を持ち、闇の眷属に死を与える。
 二つ目、闇色の金属。常闇の力を持ち、昼と光と聖の眷属に死を与える。
 三つ目、月の灯りを受けている間は死なない。
 四つ目、月が降ってくる。

 四つ創ったのは、一つだけなんて言われていないしを建前にして、自信のなさが表れた結果だ。

「ふん一つ目は期待外れだが、二つ目は俺の眷属を直接狙ってくるところが悪くない。三つ目は使えなくはないが、俺の世界には相応しくないな。
 最後の四つ目だが、いったいなにがしたいんだ?」
「世界に飽きたとき問答無用で滅ぼせます。
 またはそれを逆手にとって、最後に【信仰】をがっぽり回収できます」
「ハハハ! 常闇を内封するだけのことはあるな。実に面白い! 気に入ったぞ!」

 一万も貰ったんですが……マジ?
 さらに「気に入ったから自由に出入りを許す」と言われてしまった。言外に『いいのが出来たら持ってこい』って意味だろう。
 報酬は大変良いけどしばらく遠慮したい。
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